うたかた夢曲

雪原るい

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5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」

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何かが壊れて崩れ、割れるような音と共に眩しい光に包まれ…セネト達は無意識に目を閉じた。
気がつくと元々いたアーヴィル村の集会所前におり、空はすっかり夕焼け空になっていた。
…おそらく夢の世界にいた為、時間経過の感覚がわからなくなっていたのだろう。

(うへぇ…もう夕方か。なんとか現実に戻れた…村は異変なし、全員いるな)

周囲を見回したセネトは納得したように頷くと、そばで倒れているルフェリスに目を向けた。
大怪我…というか、普通の人間ならば死んでいるような怪我を負うルフェリスは苦しげに肩で息をしている。
ルフェリスを心配したヴァリスやミリス、ユミリィは駆け寄ると、彼の身体に刺さる氷の刃やナイフを抜いて傷が癒えるのを見守っていた。

ひと息ついたセネトが額を拭うと、そばにやって来たクリストフは声をかける。

「どうやら…止める事は、できたようですね。少々、こちらもやり過ぎた感は否めませんが…」
「そうは言うけどな…おれもギリギリだったし、変な薬を使われて少しだけ身体の動きが鈍り始めてるし」

頬を膨らませて文句を言うセネトに、クリストフはため息をついた。

「油断してるからですよ…聞いた話では、アードレアの薬術は最低でも数日は影響するそうですから…」
「え゛っ…まじで?治す薬とか魔法は…?」

動きを止めて聞き返すセネトに、クリストフが静かに首を横にふった。
――つまり、大人しく効果が消えるまで待つしかないようだ。

大きくため息をついたセネトは「なら、仕事にならないし…休み?」と前向きに考えたらしく、心の中でガッツポーズをする。
反対に、クリストフはセネトの分もやらねばならないかもしれない…と、少しだけ乾いた笑みを浮かべた。




フレネ村の人々や、今なお眠っているアーヴィル村の人々を診ていたイアンがセネトとクリストフを呼ぶと怪我人の治療の手伝いを頼む。
まだ完全に安全が確保されていないので、集会所にいるミカサを呼べないのだ。
それを理解しているクリストフはセネトにルフェリス達の事を頼んで、イアンの手伝いに向かう。
他をイアンとクリストフに任せたセネトは、座り込んで俯いているルフェリス達に声をかけた。

「…大丈夫か?だけど、もういいだろう?」
「時間切れ、か。結局…僕達の復讐は、完遂できなかったわけか…」

セネトの気配に気づいたルフェリスが顔を上げて答える、本当に残念そうな表情で。

「そうかもな…でも、十分だろう?後は、世間的に奴らが罰せられる番だ」

フレネ村の凶行は、おそらく公表される…つまり、その身をもって裁かれるという事だ。
ルフェリス達の目的の一部は叶うだろう、とセネトは続けた。

哀しそうな笑みを浮かべたヴァリスは、セネトの方へ顔を向けて囁くように言う。

「そうかもしれませんね…それを、この目で見る事ができぬのは残念ですが。それでも、生命をかけて事を起こしたかいがありましたかね…?」
「まぁ、お前らも捕まるわけだからな…でも、まぁ――やり過ぎたけど、あったんじゃないか?少なくとも…うっ!?」

やり過ぎた自分を棚の奥に置いたセネトがヴァリスに手を差しだそうとした瞬間、腹に強い衝撃を受けて数歩後ろに飛ばされてしまった。
なんとか受け身をとったセネトはすぐに起き上がると、何が起こったのか確認する。

先ほどまで自分がいた場所に見知らぬ人物――黒髪の青年が立っており、横目でルフェリス達を冷たく見下ろしていた。
この黒髪の青年の行動に腹を立てたセネトは、指差しながら声を荒げる。

「ってーな!誰だ、お前は…何でいきなり――」
「セネト、気をつけなさい…もう一人いるっ!」

首に傷を負っているリグゼノの少年を、治癒魔法で癒していたクリストフが慌てたように叫んだ。
その声にセネトは我に返り、慌てたように術式を描きながらルフェリス達のそばに駆け寄った。

(あぁ、くそっ…思いっきり腹を蹴りやがって。おかげで、あばらが痛いだろうが!というか、もう一人って…どこだ?)

ルフェリス達を結界で守りつつ、セネトは黒髪の青年と対峙する。
相手の動きがわからないので、いつでも魔法が使えるよう術式に魔力を込めながら……

黒髪の青年の正体と…そして、目的を知るルフェリスとヴァリスはお互いに頷き合うとユミリィとミリスに向かって囁いた。

「…ごめん、仕返ししきらなかったよ。だから、君達2人は先にいて…」
「大丈夫ですよ、すぐに、私達もので…2人で少しだけ待っていてくださいね」

ルフェリスとヴァリスの言葉に、何かを察したミリスとユミリィは頷くと微笑んだ。
微笑み返したルフェリスとヴァリスは2人にかけていた魔法を解除したらしく、その姿がゆっくりと薄らいで…やがて見えなくなった。
彼らが何をしたのか…気にはなったセネトだったが、それは後で訊ねるとして黒髪の青年に声をかける。

「さっきから、だんまりだけど…誰なのか、こっちは聞いてんだよ!だいたい、何でいきなりけっ!?」

言葉を途中で切らざるを得なかったセネトは、苦しげに胸をおさえた。
何が起こったのか、セネトにはすぐわかった…それが何者かによって術を干渉、解除された反動の痛みである事に――
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