74 / 94
5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」
10
しおりを挟む
何かが壊れて崩れ、割れるような音と共に眩しい光に包まれ…セネト達は無意識に目を閉じた。
気がつくと元々いたアーヴィル村の集会所前におり、空はすっかり夕焼け空になっていた。
…おそらく夢の世界にいた為、時間経過の感覚がわからなくなっていたのだろう。
(うへぇ…もう夕方か。なんとか現実に戻れた…村は異変なし、全員いるな)
周囲を見回したセネトは納得したように頷くと、そばで倒れているルフェリスに目を向けた。
大怪我…というか、普通の人間ならば死んでいるような怪我を負うルフェリスは苦しげに肩で息をしている。
ルフェリスを心配したヴァリスやミリス、ユミリィは駆け寄ると、彼の身体に刺さる氷の刃やナイフを抜いて傷が癒えるのを見守っていた。
ひと息ついたセネトが額を拭うと、そばにやって来たクリストフは声をかける。
「どうやら…止める事は、できたようですね。少々、こちらもやり過ぎた感は否めませんが…」
「そうは言うけどな…おれもギリギリだったし、変な薬を使われて少しだけ身体の動きが鈍り始めてるし」
頬を膨らませて文句を言うセネトに、クリストフはため息をついた。
「油断してるからですよ…聞いた話では、アードレアの薬術は最低でも数日は影響するそうですから…」
「え゛っ…まじで?治す薬とか魔法は…?」
動きを止めて聞き返すセネトに、クリストフが静かに首を横にふった。
――つまり、大人しく効果が消えるまで待つしかないようだ。
大きくため息をついたセネトは「なら、仕事にならないし…休み?」と前向きに考えたらしく、心の中でガッツポーズをする。
反対に、クリストフはセネトの分もやらねばならないかもしれない…と、少しだけ乾いた笑みを浮かべた。
フレネ村の人々や、今なお眠っているアーヴィル村の人々を診ていたイアンがセネトとクリストフを呼ぶと怪我人の治療の手伝いを頼む。
まだ完全に安全が確保されていないので、集会所にいるミカサを呼べないのだ。
それを理解しているクリストフはセネトにルフェリス達の事を頼んで、イアンの手伝いに向かう。
他をイアンとクリストフに任せたセネトは、座り込んで俯いているルフェリス達に声をかけた。
「…大丈夫か?だけど、もういいだろう?」
「時間切れ、か。結局…僕達の復讐は、完遂できなかったわけか…」
セネトの気配に気づいたルフェリスが顔を上げて答える、本当に残念そうな表情で。
「そうかもな…でも、十分だろう?後は、世間的に奴らが罰せられる番だ」
フレネ村の凶行は、おそらく公表される…つまり、その身をもって裁かれるという事だ。
ルフェリス達の目的の一部は叶うだろう、とセネトは続けた。
哀しそうな笑みを浮かべたヴァリスは、セネトの方へ顔を向けて囁くように言う。
「そうかもしれませんね…それを、この目で見る事ができぬのは残念ですが。それでも、生命をかけて事を起こしたかいがありましたかね…?」
「まぁ、お前らも捕まるわけだからな…でも、まぁ――やり過ぎたけど、あったんじゃないか?少なくとも…うっ!?」
やり過ぎた自分を棚の奥に置いたセネトがヴァリスに手を差しだそうとした瞬間、腹に強い衝撃を受けて数歩後ろに飛ばされてしまった。
なんとか受け身をとったセネトはすぐに起き上がると、何が起こったのか確認する。
先ほどまで自分がいた場所に見知らぬ人物――黒髪の青年が立っており、横目でルフェリス達を冷たく見下ろしていた。
この黒髪の青年の行動に腹を立てたセネトは、指差しながら声を荒げる。
「ってーな!誰だ、お前は…何でいきなり――」
「セネト、気をつけなさい…もう一人いるっ!」
首に傷を負っているリグゼノの少年を、治癒魔法で癒していたクリストフが慌てたように叫んだ。
その声にセネトは我に返り、慌てたように術式を描きながらルフェリス達のそばに駆け寄った。
(あぁ、くそっ…思いっきり腹を蹴りやがって。おかげで、あばらが痛いだろうが!というか、もう一人って…どこだ?)
ルフェリス達を結界で守りつつ、セネトは黒髪の青年と対峙する。
相手の動きがわからないので、いつでも魔法が使えるよう術式に魔力を込めながら……
黒髪の青年の正体と…そして、目的を知るルフェリスとヴァリスはお互いに頷き合うとユミリィとミリスに向かって囁いた。
「…ごめん、仕返ししきらなかったよ。だから、君達2人は先にいっていて…」
「大丈夫ですよ、すぐに、私達もいくので…2人で少しだけ待っていてくださいね」
ルフェリスとヴァリスの言葉に、何かを察したミリスとユミリィは頷くと微笑んだ。
微笑み返したルフェリスとヴァリスは2人にかけていた魔法を解除したらしく、その姿がゆっくりと薄らいで…やがて見えなくなった。
彼らが何をしたのか…気にはなったセネトだったが、それは後で訊ねるとして黒髪の青年に声をかける。
「さっきから、だんまりだけど…誰なのか、こっちは聞いてんだよ!だいたい、何でいきなりけっ!?」
言葉を途中で切らざるを得なかったセネトは、苦しげに胸をおさえた。
何が起こったのか、セネトにはすぐわかった…それが何者かによって術を干渉、解除された反動の痛みである事に――
気がつくと元々いたアーヴィル村の集会所前におり、空はすっかり夕焼け空になっていた。
…おそらく夢の世界にいた為、時間経過の感覚がわからなくなっていたのだろう。
(うへぇ…もう夕方か。なんとか現実に戻れた…村は異変なし、全員いるな)
周囲を見回したセネトは納得したように頷くと、そばで倒れているルフェリスに目を向けた。
大怪我…というか、普通の人間ならば死んでいるような怪我を負うルフェリスは苦しげに肩で息をしている。
ルフェリスを心配したヴァリスやミリス、ユミリィは駆け寄ると、彼の身体に刺さる氷の刃やナイフを抜いて傷が癒えるのを見守っていた。
ひと息ついたセネトが額を拭うと、そばにやって来たクリストフは声をかける。
「どうやら…止める事は、できたようですね。少々、こちらもやり過ぎた感は否めませんが…」
「そうは言うけどな…おれもギリギリだったし、変な薬を使われて少しだけ身体の動きが鈍り始めてるし」
頬を膨らませて文句を言うセネトに、クリストフはため息をついた。
「油断してるからですよ…聞いた話では、アードレアの薬術は最低でも数日は影響するそうですから…」
「え゛っ…まじで?治す薬とか魔法は…?」
動きを止めて聞き返すセネトに、クリストフが静かに首を横にふった。
――つまり、大人しく効果が消えるまで待つしかないようだ。
大きくため息をついたセネトは「なら、仕事にならないし…休み?」と前向きに考えたらしく、心の中でガッツポーズをする。
反対に、クリストフはセネトの分もやらねばならないかもしれない…と、少しだけ乾いた笑みを浮かべた。
フレネ村の人々や、今なお眠っているアーヴィル村の人々を診ていたイアンがセネトとクリストフを呼ぶと怪我人の治療の手伝いを頼む。
まだ完全に安全が確保されていないので、集会所にいるミカサを呼べないのだ。
それを理解しているクリストフはセネトにルフェリス達の事を頼んで、イアンの手伝いに向かう。
他をイアンとクリストフに任せたセネトは、座り込んで俯いているルフェリス達に声をかけた。
「…大丈夫か?だけど、もういいだろう?」
「時間切れ、か。結局…僕達の復讐は、完遂できなかったわけか…」
セネトの気配に気づいたルフェリスが顔を上げて答える、本当に残念そうな表情で。
「そうかもな…でも、十分だろう?後は、世間的に奴らが罰せられる番だ」
フレネ村の凶行は、おそらく公表される…つまり、その身をもって裁かれるという事だ。
ルフェリス達の目的の一部は叶うだろう、とセネトは続けた。
哀しそうな笑みを浮かべたヴァリスは、セネトの方へ顔を向けて囁くように言う。
「そうかもしれませんね…それを、この目で見る事ができぬのは残念ですが。それでも、生命をかけて事を起こしたかいがありましたかね…?」
「まぁ、お前らも捕まるわけだからな…でも、まぁ――やり過ぎたけど、あったんじゃないか?少なくとも…うっ!?」
やり過ぎた自分を棚の奥に置いたセネトがヴァリスに手を差しだそうとした瞬間、腹に強い衝撃を受けて数歩後ろに飛ばされてしまった。
なんとか受け身をとったセネトはすぐに起き上がると、何が起こったのか確認する。
先ほどまで自分がいた場所に見知らぬ人物――黒髪の青年が立っており、横目でルフェリス達を冷たく見下ろしていた。
この黒髪の青年の行動に腹を立てたセネトは、指差しながら声を荒げる。
「ってーな!誰だ、お前は…何でいきなり――」
「セネト、気をつけなさい…もう一人いるっ!」
首に傷を負っているリグゼノの少年を、治癒魔法で癒していたクリストフが慌てたように叫んだ。
その声にセネトは我に返り、慌てたように術式を描きながらルフェリス達のそばに駆け寄った。
(あぁ、くそっ…思いっきり腹を蹴りやがって。おかげで、あばらが痛いだろうが!というか、もう一人って…どこだ?)
ルフェリス達を結界で守りつつ、セネトは黒髪の青年と対峙する。
相手の動きがわからないので、いつでも魔法が使えるよう術式に魔力を込めながら……
黒髪の青年の正体と…そして、目的を知るルフェリスとヴァリスはお互いに頷き合うとユミリィとミリスに向かって囁いた。
「…ごめん、仕返ししきらなかったよ。だから、君達2人は先にいっていて…」
「大丈夫ですよ、すぐに、私達もいくので…2人で少しだけ待っていてくださいね」
ルフェリスとヴァリスの言葉に、何かを察したミリスとユミリィは頷くと微笑んだ。
微笑み返したルフェリスとヴァリスは2人にかけていた魔法を解除したらしく、その姿がゆっくりと薄らいで…やがて見えなくなった。
彼らが何をしたのか…気にはなったセネトだったが、それは後で訊ねるとして黒髪の青年に声をかける。
「さっきから、だんまりだけど…誰なのか、こっちは聞いてんだよ!だいたい、何でいきなりけっ!?」
言葉を途中で切らざるを得なかったセネトは、苦しげに胸をおさえた。
何が起こったのか、セネトにはすぐわかった…それが何者かによって術を干渉、解除された反動の痛みである事に――
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
惑う霧氷の彼方
雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。
ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。
山間の小さな集落…
…だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。
――死者は霧と共に現れる…
小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは?
そして、少女が失った大切なものとは一体…?
小さな集落に死者たちの霧が包み込み…
今、悲しみの鎮魂歌が流れる…
それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
少年少女たちの日々
原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。
世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。
しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。
世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。
戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。
大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。
その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる