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5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」
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「これが真実の一部です…あぁ、言い忘れてましたね。ミリスは私の妹、守人の少年は私の兄なんです…だから、仇をとらせてもらいますよ」
「…確かに、こいつらのした事は赦されるものじゃない。だけど…お前は、その事を知りながら護ってきたんだろう――こいつらを」
フレネ村の人々が誰一人としてヴァリスを見ていない事に気づいたセネトであった…が、その事には触れずにヴァリスの説得を試みる。
俯いて苦笑したヴァリスが一瞬だけウィルネスに目を向けて…そして、セネトの方を見た。
「…ずっと耐えてきました。村長に命じられるまま、彼らに殺され甦った人々を再び葬ってきたのですから。耐えてきたのは、復讐の機会を待つ為です…だいたい、兄に待つよう言われなければ――もう、とっくに行動を起こしていました」
ヴァリスの言葉に耳を傾けながら、セネトはこっそりと術式を描きはじめた。
ため息をついたヴァリスがフレネ村の人々の様子を冷めた目で見つめ…そして、ゆっくりと哀しみのこもった笑みを浮かべる。
「ははは…ほら、彼らはいつもこうなんですよ。自らの罪を、絶対に認めようとしない…余所者は信じるに値しない、と。兄さん…やはり、彼らは償う気がないようです」
「おじいさま、ごめんなさい…術に干渉させてもらいますね。ミリス、ヴァリスさんをお願い!」
静かに…しかし、面白そうに見ていたユミリィがウィルネス…そして、ヴァリスに視線を向けると言った。
そして、ゆっくり手をかざすと張られた結界を解除したらしく、その反動でウィルネスが苦痛に顔を歪める。
「おじいさまっ!」
ウィルネスの苦しげな声に、クレットが慌てて駆け寄ると…大丈夫だ、と言うように彼女の肩に手をおいたウィルネスはユミリィに声をかけた。
…もしかすると、ヴァリスに気づかれているかもしれない――そう考えたセネトであったが、今にも短剣を引こうとしているヴァリスの様子を見て魔法を発動させる。
「させるか!"吹き飛ばせっ!"」
セネトの短い詠唱に呼応した術式から風が巻き起こり、ヴァリスの持つ短剣をもぎ取るように吹き飛ばした。
宙を舞う短剣をクリストフが受け取ると、それを足元の地面に突き刺す。
風の力で自らの武器を奪われたヴァリスは利き手である右手をおさえ、驚いたようにセネトやクリストフの方を見た。
…その隙に首の傷をおさえた少年や他のフレネ村の人々がヴァリスのそばから離れ、セネト達のいる方へと逃げると皆が異様なものを見るような眼をヴァリスに向ける。
ナルヴァだけがその場にとどまり…ヴァリスの後ろ姿やフレネ村の人々の様子を、微かに唇を噛みしめながら眺めていた。
「…何を考えておる、ユミリィ?わしの結界を解除したとしても…っ!?」
「ふふふ、おじいさまこそ変なの…結界って、おじいさまのものしかなかったわ。わたしも、ね…復讐をするの。わたしの生命を奪った彼らに対して…それにね、わたしがこうして留まる事ができたのはヴァリスさん達のおかげだから…そのお手伝いも兼ねてるのよ」
張っていたもうひとつの結界の異変に気づいたウィルネスに、ユミリィが満面の笑みを浮かべて自分のスカートの端を持つとくるりとひと回りする。
(何で、2重の結界がすべて解除されて――それに、ユミリィが言ってた…)
ウィルネスとユミリィのやり取りを聞いていたセネトがある事に気づいて、慌ててヴァリスの方に目を向けた。
そこには…ヴァリスのそばに茶髪でショートボブの少女…おそらく、この子がミリスなのだろう――が、いつの間にか現れていた。
彼女の手にはクリストフが地面に刺した短剣が握られており、それをヴァリスに渡しているようだ。
「ヴァリス兄さん、大丈夫…?」
「ありがとう…大丈夫ですよ、ミリス。すみません…仇を――せめて、君に酷い事をした奴らに仕返ししたかったのですが…」
短剣を受け取り、心配そうな表情を浮かべるミリスの頭を優しく撫でながらヴァリスが哀しそうに微笑んだ。
ミリスが兄の言葉に、首を横にふると手を差し出す。
「ううん…それよりも一度戻ろう。あの人達、思ってた以上に邪魔になるから…少し計画を変える、って」
「…兄さんが言ってたのですか。わかりました…ユミリィ、引きますよ」
何か思案したヴァリスはミリスの手をとると、ユミリィに声をかけた。
「はーい、それじゃ…おじいさま、クレット。また後で、ね」
元気よく返事をしたユミリィは、ウィルネスとクレットに向けて手をふると指を鳴らした。
その瞬間、強い風が吹き荒れ…辺りは真っ白な靄のようなもので、視界がさらに悪くなる。
「な、なんだよ…何も見えんっ!つーか、ヴァリス…待てって!?」
「待てはお前だ、セネト…そこを動くな!」
視界ゼロの中、動こうとしたセネトをイアンが声だけで制止した。
――この状態では、何が起こるかわからないからである。
動きを止めたセネトが周囲を窺っていると、真っ白な靄のようなものはゆっくりと晴れていき…気づくとアーヴィル村ではなく、荒廃した夜のフレネ村の中に立っていた。
***
「…確かに、こいつらのした事は赦されるものじゃない。だけど…お前は、その事を知りながら護ってきたんだろう――こいつらを」
フレネ村の人々が誰一人としてヴァリスを見ていない事に気づいたセネトであった…が、その事には触れずにヴァリスの説得を試みる。
俯いて苦笑したヴァリスが一瞬だけウィルネスに目を向けて…そして、セネトの方を見た。
「…ずっと耐えてきました。村長に命じられるまま、彼らに殺され甦った人々を再び葬ってきたのですから。耐えてきたのは、復讐の機会を待つ為です…だいたい、兄に待つよう言われなければ――もう、とっくに行動を起こしていました」
ヴァリスの言葉に耳を傾けながら、セネトはこっそりと術式を描きはじめた。
ため息をついたヴァリスがフレネ村の人々の様子を冷めた目で見つめ…そして、ゆっくりと哀しみのこもった笑みを浮かべる。
「ははは…ほら、彼らはいつもこうなんですよ。自らの罪を、絶対に認めようとしない…余所者は信じるに値しない、と。兄さん…やはり、彼らは償う気がないようです」
「おじいさま、ごめんなさい…術に干渉させてもらいますね。ミリス、ヴァリスさんをお願い!」
静かに…しかし、面白そうに見ていたユミリィがウィルネス…そして、ヴァリスに視線を向けると言った。
そして、ゆっくり手をかざすと張られた結界を解除したらしく、その反動でウィルネスが苦痛に顔を歪める。
「おじいさまっ!」
ウィルネスの苦しげな声に、クレットが慌てて駆け寄ると…大丈夫だ、と言うように彼女の肩に手をおいたウィルネスはユミリィに声をかけた。
…もしかすると、ヴァリスに気づかれているかもしれない――そう考えたセネトであったが、今にも短剣を引こうとしているヴァリスの様子を見て魔法を発動させる。
「させるか!"吹き飛ばせっ!"」
セネトの短い詠唱に呼応した術式から風が巻き起こり、ヴァリスの持つ短剣をもぎ取るように吹き飛ばした。
宙を舞う短剣をクリストフが受け取ると、それを足元の地面に突き刺す。
風の力で自らの武器を奪われたヴァリスは利き手である右手をおさえ、驚いたようにセネトやクリストフの方を見た。
…その隙に首の傷をおさえた少年や他のフレネ村の人々がヴァリスのそばから離れ、セネト達のいる方へと逃げると皆が異様なものを見るような眼をヴァリスに向ける。
ナルヴァだけがその場にとどまり…ヴァリスの後ろ姿やフレネ村の人々の様子を、微かに唇を噛みしめながら眺めていた。
「…何を考えておる、ユミリィ?わしの結界を解除したとしても…っ!?」
「ふふふ、おじいさまこそ変なの…結界って、おじいさまのものしかなかったわ。わたしも、ね…復讐をするの。わたしの生命を奪った彼らに対して…それにね、わたしがこうして留まる事ができたのはヴァリスさん達のおかげだから…そのお手伝いも兼ねてるのよ」
張っていたもうひとつの結界の異変に気づいたウィルネスに、ユミリィが満面の笑みを浮かべて自分のスカートの端を持つとくるりとひと回りする。
(何で、2重の結界がすべて解除されて――それに、ユミリィが言ってた…)
ウィルネスとユミリィのやり取りを聞いていたセネトがある事に気づいて、慌ててヴァリスの方に目を向けた。
そこには…ヴァリスのそばに茶髪でショートボブの少女…おそらく、この子がミリスなのだろう――が、いつの間にか現れていた。
彼女の手にはクリストフが地面に刺した短剣が握られており、それをヴァリスに渡しているようだ。
「ヴァリス兄さん、大丈夫…?」
「ありがとう…大丈夫ですよ、ミリス。すみません…仇を――せめて、君に酷い事をした奴らに仕返ししたかったのですが…」
短剣を受け取り、心配そうな表情を浮かべるミリスの頭を優しく撫でながらヴァリスが哀しそうに微笑んだ。
ミリスが兄の言葉に、首を横にふると手を差し出す。
「ううん…それよりも一度戻ろう。あの人達、思ってた以上に邪魔になるから…少し計画を変える、って」
「…兄さんが言ってたのですか。わかりました…ユミリィ、引きますよ」
何か思案したヴァリスはミリスの手をとると、ユミリィに声をかけた。
「はーい、それじゃ…おじいさま、クレット。また後で、ね」
元気よく返事をしたユミリィは、ウィルネスとクレットに向けて手をふると指を鳴らした。
その瞬間、強い風が吹き荒れ…辺りは真っ白な靄のようなもので、視界がさらに悪くなる。
「な、なんだよ…何も見えんっ!つーか、ヴァリス…待てって!?」
「待てはお前だ、セネト…そこを動くな!」
視界ゼロの中、動こうとしたセネトをイアンが声だけで制止した。
――この状態では、何が起こるかわからないからである。
動きを止めたセネトが周囲を窺っていると、真っ白な靄のようなものはゆっくりと晴れていき…気づくとアーヴィル村ではなく、荒廃した夜のフレネ村の中に立っていた。
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