うたかた夢曲

雪原るい

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5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」

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その言葉を聞いたナルヴァ、ヴァリス以外のフレネ村の者達が小さく息を飲んだ。

「っ…知らん!オレは何もして…それに、それはリグゼノの――」

怯えている男は、そこまで言うと口をつぐんでしまう…そんな男の代わりに口を開いたのは、俯いているナルヴァである。

「…リグゼノ家はアルノタウム公国の没落貴族で、フレネ村で祭事を執り仕切っているのはその分家筋なんだ。で、多分この人は命令されてやったんだと……」
「そんじゃ、そのリグゼノのやつは?」

セネトの問いに、ナルヴァが静かに指したのは怯えている男…の前にいる60代くらいの男と、セネトと同じ歳くらいの少年だ。
60代くらいの男が視線で何かを指示すると、隣にいた少年は小さく頷いて口を開いた。

「――我々は村を護る為に、その祭事を執り行っていたんだ。こうなってしまったからには、すべてわかって…つぅ!?」
「…えーっと、じいさんの方は何か弁明しないのか?」

偉そうに答えた少年の頭を殴ったセネトは、60代くらいの男を指しながら訊ねる…と、頭をおさえた少年がセネトを睨みつける。

「この方は声を失っておられる、ぼくはその代わりに言葉を伝えているんだぞ!」
「そっか…それは知らなかった、ごめん。それじゃ…お前でいいか、その方が話も早いし――先に言うけど、じいさんの言葉を待つなよ?茶髪でショートボブの少女は何者で、お前らが殺したのか?」

少年の胸倉を掴んだセネトは、睨みつけながら訊ねた。
セネトの行動に、初めは止めようとしたイアンとクリストフであったが…何か聞きだせるかもしれないので、とりあえず静観する事にしたらしい。
止められないのをいい事に、セネトは少年の胸倉を掴んだまま前後に揺さぶりはじめた。

何度も揺さぶられたせいで少年は目を回したらしく、弱々しく語りはじめた。

「わ…わかったから、言うから…その、おまえの言う子ならば――」


茶髪でショートボブの少女は幼い頃にフレネ村付近で拾われ、話し合いでリグゼノ家に引き取られたそうだ。
……初めから、生け贄にする為に。

その事は引き取ったリグゼノはもちろん、フレネ村のほとんどの村人達が知っていたらしい。
――生き残った者達の中で、幼い子供達や村長の三男坊であるナルヴァとヴァリスは知らなかったのだという……

そして、リグゼノの屋敷の地下室で軟禁して育て…16歳になった日に"祈りの場"にて殺害したそうだ。


少し落ち着きを取り戻したらしい少年が、小さく息をついて言葉を続ける。

「その時に…邪魔が入ったんだ」


儀式を止めようと少年の従兄であり、守人である青年が邪魔をしてきたので一緒に贄にしたそうだ。
その2~3年前にも、守人の少年がアーヴィル村の少女・ユミリィを助けようとして生命を落とした事があったらしい。

だから、邪魔をする――フレネ村のしきたりを破る者は、たとえ守人だろうと贄にする事を暗黙の了解としていたようだ。


それを聞いたセネトは、フレデリックが言っていた守人の少年の話はそういう事か…と納得しかけて気づいた。
この少年の従兄である青年…つまり、フレネ村の罪無き身内も邪魔をしたという理由だけで生け贄にしている事に――

少年の胸倉から手を放したセネトが、軽蔑するように少年やフレネ村の人々に視線を向けて訊ねた。

「お前ら…村を護る為に、身内すら殺してたのか。で、ショートボブの少女の名前は!?」
「――ミリス、ですよ。まだ全て…ではありませんが、何が原因で復讐されているのかわかりましたよね?」

答えたのはセネトの目の前にいる少年、ではなく…何背後から聞こえてきた低い声の人物だ。
声のした方向に視線を向けようとしたセネトの身体が、クリストフとイアンのいる方へ蹴り飛ばされた。

一瞬何が起こったのかわからず倒れたセネトは、クリストフに起こされて自分が先ほどまでいた場所に目を向ける。
…そこには60代くらいの男を斬り捨て…そして、哀しさの中に狂気をはらんだ表情をさせたヴァリスの姿があり…彼は少年の髪を掴んで、露わになった首元に短剣の刃をあてた。

抵抗もできぬ少年に、ヴァリスは口元だけに笑みを浮かべると訊ねる。

「確か、あなたがリグゼノ家の次期当主になる――という話でしたよね?だいたいの事は今話しましたが
、まだ告白していない罪がありますよね?フレネ村は、あなた方の祖先…つまり、何代も前のリグゼノが作ったものでしたよね…それで、ミリスを殺した報酬はもらえましたか?」

ヴァリスの言葉を聞いて、セネト達は驚いたようにフレネ村の人々や少年を見た……ただ生け贄として殺しただけでなく、誰かの依頼で一人の少女を殺したというのか。

少年はゆっくりと息を飲んで…地面に倒れている60代くらいの男にちらりと目を向けた後、背後に立つヴァリスを見た。
ヴァリスは口元に笑みを浮かべているが、その目はまったく笑っておらず…冷たく少年を見ていた。
この状態では、助けは期待できないだろう…と理解した少年の様子を、ユミリィが面白いものを見ているように笑っている。

…やがて、何かを諦めた様子の少年がゆっくりと口を開いた。

「そ、それは…その時、もいたそうだから」
「…そうですか、やはり――あぁ、ミリスを殺す2、3年前に殺害した守人の少年…彼を殺した理由も、ミリスを殺した理由と同じですよね?」

短剣をあてられている少年の首筋から血が流れ、刃を伝って地面に落ちる…それを見た少年は、青ざめるとゆっくり頷いた。
セネト達はその光景を見ている事しかできず、ただただヴァリスの口から紡がれる言葉を聞いているしかなかった。
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