うたかた夢曲

雪原るい

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5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」

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クレットの案内でウィルネスやミカサ達がいるという集会所に辿り着くと、そこには機嫌の悪そうなウィルネスと…その後ろに、フレネ村の人々が座り込んでいた。
ヴァリスとナルヴァの姿も集会所の前にあり、何やら立ち話をしているようだ。

クレットに連れられたセネト達に気づいたウィルネスは優しくクレットを労った後、セネト達の方を向いて怒りを含んだ声で言う。

「まったく…遅かったな。お前達が呑気にしている間に、村はこの通りだ!!」
「ウィルネス殿、申し訳ない…とりあえず、何が起こったのかを話してもらえますか?」

怒っている相手を刺激しないようイアンはできるだけ穏便に訊ねると、ウィルネスの怒りは治まらなかったが、さらに怒らせる事もなかった。
孫娘の名を呼んで結界の中に入るよう言い、ついでといった感じでセネト達も招き入れたウィルネスは口を開く。

「ふん…あの村の連中を狙って、が夢術を紡ぎだしておるんだ!この村には、現役の退魔士はおらん。何もできず、村人達は眠らされたんだ」
「なるほどねー…って、あれ?ミカサは!?」

この場に友であるミカサの姿がない事に気づいたクレリアが訊ねると、ウィルネスは顎で集会所の方を指した。

「ヴァリスの報告によると、幼子達と共におるわ。心配ならば、見に行ってくればいいだろう」

ウィルネスの言葉に、慌てたようにクレリアが集会所へ向かう。
そんなクレリアの後ろ姿を見送ったセネトは周辺を覆う結界を観察し、ウィルネスの方をまじまじと見た。

「二重の結界…か。じいさん、あんた…魔法が使えたんだな」
「当り前だろうが!貴様、わしを何だと思っておる…イアン、こやつにどういう教育をしておるんだっ!」

見るからに武器や体術と気合いで戦ったんだろうな…と、考えていたセネトにウィルネスは抗議する。
教育も何も…自分はあまり関わっていないのだがな、と思いながらイアンはウィルネスに頭を下げた。

「申し訳ありません、ウィルネス殿…彼は貴方が引退した後に入ったので、知らなかったようです」

イアンが言い終えるのを待ってからクリストフはセネトの頭を軽くたたくと、囁くように説明する。

「ウィルネス殿は2年くらい前まで退魔士をしていた方で、魔法の腕も確かでした。それが、ある任務の際…足を悪くしてしまい、引退されたんだそうです。ちなみに、ですが…あなたのお父上と顔見知りらしいですよ」
「げっ…まじかよ。それならそう、って……そうか、初めて会った時におれを見ていたのは……」

あの時、イアンがウィルネスに話した内容について気づいたセネトは口元をひきつらせるしかできなかった。

「あら…ちょっと目を離している間に、何人か増えちゃってるわね。ねぇ…おじいさま、この人達は誰?」

突然かけられた声は幼さを残しているが、少し大人びていて…どことなくクレットの声音に似ていた。
……だが、クレットはウィルネスの隣にいてひと言も発していない。

声のした方向にセネトが目を向けると、結界の外にピンク色の長い髪をなびかせた――どことなく、顔立ちがクレットに似ている少女が不思議そうに見ていた。
もしかして、この少女がクレリアを襲った夢魔なのだろうか…とセネトやイアン、クリストフが考えていると、ウィルネスとクレットは囁くようにこの少女の名を口にする。

「ユミリィ…どうして――」
「ユミリィって…この子?」

少女を指したセネトはウィルネスとクレットに訊ねるが…ウィルネスは眉間にしわを寄せたまま、クレットは悲しそうな表情を浮かべて答えない。
そんな2人に代わって、少女・ユミリィはにっこりと笑みを浮かべると答えた。

「はじめまして、こんにちは。わたしはユミリィ…そこにいるウィルネスがおじいさま、クレットとは従姉妹同士よ。何も知らずフレネ村に近づいちゃって、運悪く殺されてしまった哀れな者の一人…ねぇ、わたしを捕まえた人?」

ユミリィの言葉と視線に、フレネ村の人々の中にいる一人の中年男性は何も答えず…ゆっくりと目線を外す。
その様子を見たウィルネスが忌々しげに、その男や他のフレネ村の人々に向けて口を開いた。

「だから言ったんだ…あの子を――ユミリィを殺害した下手人を出せ、と。それを、貴様らは知らぬ存ぜぬと…」

(そうか、そういう事か…だから、この村の連中がフレネ村の人々を嫌って……)

情報屋・フレデリックが言っていた『薬草探しをしていて殺害された少女』――それが、おそらくユミリィの事なのだろう。

フレネ村とアーヴィル村の確執に、セネトは何も言う事ができず…ただ咎人とされる男に視線を向けるしかなかった。
セネト達の視線に耐えられなくなったらしい男は、小刻みに震えながら叫んだ。

「知らない…知らなかったんだ、その娘がアーヴィルの人間だったとは――だいたい、殺したのはオレじゃない…オレじゃ…」
「どちらにしろ、あなたも同罪でしょう。もしかすると、ですが…」

怯える男を冷淡な目つきで見たクリストフが呆れを含んだように訊ねる…15歳前後の、茶髪でショートボブの少女の事を――
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