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5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」
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アーヴィル村に着いたセネト達は、驚いたように村の様子を窺っていた。
その理由は、村で生活している人々や犬、猫…家畜までもが、ぐっすりと眠っていたからだ。
「おいおい、これは一体…」
呆然としながら、そんな状況を見たセネトは思わず呟いた。
何故こんな事になっているのか、戻っていたばかりのセネト達には理解できなかったのだ。
――その時、村のどこからか…鈴の音の聞こえてきたかと思うと一人の少女がこちらへ近づいてきた。
この少女は年の頃10代後半くらいの、栗色の長い髪で鈴のついた杖を手にしている。
彼女の両瞼は閉ざされているので、おそらく盲目なのだろう……
セネト達の前で立ち止まった少女が、ゆっくりと頭を下げた。
「えっと…あなた方が、外からいらっしゃった退魔士さま方ですよね?はじめまして…私はウィルネスの孫で、クレットと申します。おじいさまの言いつけで、みなさまをお待ちしておりました」
「今何が起こっているのか、わからないけど…大丈夫か?」
周囲を見回したセネトがクレットの身を案じて訊ねると、彼女は微笑んで答えた。
「はい、ご心配ありがとうございます。私は生まれつき目が見えませんけど、村の事はわかるし…何不自由なく動けます。それに、魔法の類は使えませんけど…その代わり、影響も受けにくい体質なんですよ」
「そうなのですね。一体何が起こっているのか、ウィルネス殿から何か聞いていますか?」
様々な場所で倒れている人々を目にしたクリストフが訊ねると、クレットは申し訳なさそうに首を横にふる。
「すみません…突然、この村を何か魔法のようなものに包まれてしまったので。そういえば、おじいさまが『夢術を、一体誰が…』と言っておられましたけど――」
クレットの話を聞いたイアンは、顎に手をあてて言った。
「ミカサもいるので、ある程度は抗えるだろうが…それも、長くはもたん。狙いは間違いなく、フレネ村の人間だろうがな…すまないが、ウィルネス殿のいるところまで連れていってもらえるか?」
「はい、もちろんです…おじいさま達は、集会所の前にいらっしゃいます。よろしければ、この紐に捕まってください…」
そう言うと、クレットは自らの腕に巻かれたピンクのリボンの先を4人に差し出した。
代表としてセネトがリボンを掴むと、クレリアは困惑した表情のままクレットを見ている。
セネトが首をかしげつつクレリアを窺っていると、首をかしげて呟くようにクレリアは言った。
「あれ…似てる気がしたんだけど、何というか…気配とかが違う、というか?」
「…何がだよ?」
地獄耳のセネトは訊ねるが、クレリア本人にはセネトの言葉など聞こえていないようだ。
もう一度セネトが訊ねようとした時、クレットがセネトにひと声かけて歩きはじめた。
クレットに続いて、セネト…後ろのイアンとクリストフ、クレリアがついて出発する。
道中、気持ち良さげに眠っているアーヴィルの人々を見かけたセネトが内心羨ましく思っていると…後ろから、クリストフの咳払いが聞こえてきた。
(何故、心の中で思った事がバレて…あいつ、心が読めるとか!?いやいや…まさか――)
実は、ただ単に行動と表情でバレていたのをセネトがまったく気づいていないだけである……
まったく、お気楽なものだ…と考えたイアンは、もう何度目になるのかわからないため息をついた。
***
その理由は、村で生活している人々や犬、猫…家畜までもが、ぐっすりと眠っていたからだ。
「おいおい、これは一体…」
呆然としながら、そんな状況を見たセネトは思わず呟いた。
何故こんな事になっているのか、戻っていたばかりのセネト達には理解できなかったのだ。
――その時、村のどこからか…鈴の音の聞こえてきたかと思うと一人の少女がこちらへ近づいてきた。
この少女は年の頃10代後半くらいの、栗色の長い髪で鈴のついた杖を手にしている。
彼女の両瞼は閉ざされているので、おそらく盲目なのだろう……
セネト達の前で立ち止まった少女が、ゆっくりと頭を下げた。
「えっと…あなた方が、外からいらっしゃった退魔士さま方ですよね?はじめまして…私はウィルネスの孫で、クレットと申します。おじいさまの言いつけで、みなさまをお待ちしておりました」
「今何が起こっているのか、わからないけど…大丈夫か?」
周囲を見回したセネトがクレットの身を案じて訊ねると、彼女は微笑んで答えた。
「はい、ご心配ありがとうございます。私は生まれつき目が見えませんけど、村の事はわかるし…何不自由なく動けます。それに、魔法の類は使えませんけど…その代わり、影響も受けにくい体質なんですよ」
「そうなのですね。一体何が起こっているのか、ウィルネス殿から何か聞いていますか?」
様々な場所で倒れている人々を目にしたクリストフが訊ねると、クレットは申し訳なさそうに首を横にふる。
「すみません…突然、この村を何か魔法のようなものに包まれてしまったので。そういえば、おじいさまが『夢術を、一体誰が…』と言っておられましたけど――」
クレットの話を聞いたイアンは、顎に手をあてて言った。
「ミカサもいるので、ある程度は抗えるだろうが…それも、長くはもたん。狙いは間違いなく、フレネ村の人間だろうがな…すまないが、ウィルネス殿のいるところまで連れていってもらえるか?」
「はい、もちろんです…おじいさま達は、集会所の前にいらっしゃいます。よろしければ、この紐に捕まってください…」
そう言うと、クレットは自らの腕に巻かれたピンクのリボンの先を4人に差し出した。
代表としてセネトがリボンを掴むと、クレリアは困惑した表情のままクレットを見ている。
セネトが首をかしげつつクレリアを窺っていると、首をかしげて呟くようにクレリアは言った。
「あれ…似てる気がしたんだけど、何というか…気配とかが違う、というか?」
「…何がだよ?」
地獄耳のセネトは訊ねるが、クレリア本人にはセネトの言葉など聞こえていないようだ。
もう一度セネトが訊ねようとした時、クレットがセネトにひと声かけて歩きはじめた。
クレットに続いて、セネト…後ろのイアンとクリストフ、クレリアがついて出発する。
道中、気持ち良さげに眠っているアーヴィルの人々を見かけたセネトが内心羨ましく思っていると…後ろから、クリストフの咳払いが聞こえてきた。
(何故、心の中で思った事がバレて…あいつ、心が読めるとか!?いやいや…まさか――)
実は、ただ単に行動と表情でバレていたのをセネトがまったく気づいていないだけである……
まったく、お気楽なものだ…と考えたイアンは、もう何度目になるのかわからないため息をついた。
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