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4話「幼い邪悪[中編]~弱虫、再び~」
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「おい、ちょっと聞くけど…そいつ、何?それと、お前は何者だ?」
「ん…ぼくの事かな?ぼくはコルネリオ、コルネリオ・アクリス。ここを統べる者――うーん、君にもわかりやすく説明すると…君達、退魔士からは【夕闇の風】と呼ばれているよ」
にっこりと微笑んだ幼い少年・コルネリオは、自分にしがみついているグラハムの頭を優しくたたきながら続ける。
「で、この子はぼくの眷族の一人だけど…もしかして、君は気づいてなかったの?」
「へ?いや…何となくは?んな事より、こいつ…あの時、死んだふりをしてたのかー!?」
気づいてなかったのを悟られないよう曖昧に答えたセネトがグラハムを指差して叫ぶと、怯えたように恐る恐るグラハムは口を開いた。
「ふ、ふりじゃなくて…傷口が再生するまで、痛くて死んでたよぅ。それにあの時はルドルフがいて、僕まで吸血鬼だってバレたら大変な事になるだろうし…だから、ハミルトが大慌てで兄さんのところに運んでくれたんだよ」
「だー…お前らのせいで、おれはノルマ達成できんわ…こき使われるわ…ろくな事がなかったんだ!つーか、ハミルトは!?あいつにも、文句を言わせろー!!」
今にも掴みかかろうとしているセネトを、イアンが羽交い絞めにしておさえているのを見たグラハムは怯えながらも答える。
「ハミルトは…テセリアハイト王国のゼネス村へ『奇跡のお守り』ってのを買いに――」
「何か…怪しいネーミングのお守りだな。そして、何の疑いなく買いに行くやつもいるとは…」
不在理由を聞いたセネトは一気に怒りをおさめ、イアンから解放されるとぐったりとうなだれた。
そして、小さく息をついてコルネリオとグラハムに目を向けると訊ねる。
「お前らの事は後日に…ところで、お前は何でこの怪力女を攫ったんだ?一体、何の目的で…」
「ちょ…怪力女って、あたしの事!?あんたなんか、魔力バカじゃないの!!」
セネトに変な呼ばれ方をしたクレリアが、頬を膨らませると文句を言った。
……もはや、子供の口ゲンカ状態である。
そのやり取りを静かに聞いていたクリストフは頭をおさえつつイアンに視線を向けると、その視線に気づいたイアンがその意図を理解して預かっていた杖を投げて寄こした。
杖を受け取ったクリストフがにっこりと微笑むと、それが何を意味するのかセネトとクレリアは気づいて言い争いを止める。
その様子を、きょとんと見ていたコルネリオがくすくすと笑うと答える。
「面白い子達だね…えーっと、何だっけ?そうそう、その女の子を攫った理由だっけ…ぼくが攫ったわけじゃないから……」
「は?だって、現にクレリアがここにいたじゃねーか…お前らじゃないなら、誰だよ?お前がここを統べる主なんだろ、なら知ってるんじゃないのか?」
首をかしげたセネトがコルネリオを指差し訊ねていると、クレリアも首をかしげながら呟いた。
「そーいえば…あたしをここに連れてきたやつの姿、見てなかったわ」
そうじゃないかと思ったセネトは、呆れたようにクレリアを見つめて深く頷いた。
イアンとクリストフも、あえて口には出さないが…セネトと同じ事を考えているようだった。
3人がそう考えているという事に気づいたクレリアが、頬を膨らませるとそっぽを向く。
少し思案したコルネリオが自分にしがみついているグラハムを引き離すと、ゆっくり立ち上がると背筋を伸ばすように両腕を上げた。
「うーん…そろそろ、ぼくは君と遊ぶのも飽きてきたしなぁ。というか、このままだと…グラハムに危機が及びそうだし」
少しだけ、つまらなそうに口を尖らせたコルネリオは、さらに言葉を続ける。
「ぼくは今回、君達と争う気はない…そもそも、準備もできていないしね。だから…ぼく個人としては、その狂暴な娘を連れて帰ってほしいんだよね。大体、預かっていたようなものだし…さ」
「こちらも事を荒げるつもりはないですから…それは別にかまいませんけど。でも…ただで帰るのは割に合わない気がするのですが、ね?」
コルネリオの言葉に同意するように頷いたクリストフは、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。
一瞬驚いたように目を見開いたコルネリオが、「まいったな~」というように頭をかいて窓の外へ視線を向ける。
「うーん、そう言うかな~と思っていたけど…困ったね。まぁ、時間は稼げたからいいかな…実はぼくの友人がね――」
コルネリオの話によると――クレリアを攫ったのは自分の友人達であり、その友人がとある村に対して復讐しようと…そして、その復讐を遂げる為の準備の間だけセネト達の目を他に向けさせようと彼女を攫ったのだという。
「とある村って、まさか…フレネ村か!?」
復讐されるほどの恨みを買っているのはフレネ村しかない…と、すぐに思い当ったセネトは声をあげた。
同じ考えに至ったイアンも、納得したように何度も頷いている。
「だろうな…あの村の人々は、それだけの事をしてきたんだ。あぁ…そうか、その為にあの情報屋がうろついていたのか」
「ん~…よくわかんないけど、それよりも問題は――その、復讐しようとしているやつよ!何者かしら…?」
クレリアが顎に手をあてて呟くと、コルネリオは小さく笑いながら言い聞かせるように答える。
「君は何も知らないのだろうけど、ね。ここに、この子達をおびき寄せる為のエサになってもらったんだよ…彼らの望みで」
「エサぁ~!?突然、半透明の女の子に襲われて…気づいたら、ここにいたのよ!何もわかるわけないじゃないっ!!」
イライラしたように首を横にふったクレリアに、イアンとクリストフが困ったような表情を浮かべ…セネトは「油断し過ぎだろ」と、密かに思っていた。
「ん…ぼくの事かな?ぼくはコルネリオ、コルネリオ・アクリス。ここを統べる者――うーん、君にもわかりやすく説明すると…君達、退魔士からは【夕闇の風】と呼ばれているよ」
にっこりと微笑んだ幼い少年・コルネリオは、自分にしがみついているグラハムの頭を優しくたたきながら続ける。
「で、この子はぼくの眷族の一人だけど…もしかして、君は気づいてなかったの?」
「へ?いや…何となくは?んな事より、こいつ…あの時、死んだふりをしてたのかー!?」
気づいてなかったのを悟られないよう曖昧に答えたセネトがグラハムを指差して叫ぶと、怯えたように恐る恐るグラハムは口を開いた。
「ふ、ふりじゃなくて…傷口が再生するまで、痛くて死んでたよぅ。それにあの時はルドルフがいて、僕まで吸血鬼だってバレたら大変な事になるだろうし…だから、ハミルトが大慌てで兄さんのところに運んでくれたんだよ」
「だー…お前らのせいで、おれはノルマ達成できんわ…こき使われるわ…ろくな事がなかったんだ!つーか、ハミルトは!?あいつにも、文句を言わせろー!!」
今にも掴みかかろうとしているセネトを、イアンが羽交い絞めにしておさえているのを見たグラハムは怯えながらも答える。
「ハミルトは…テセリアハイト王国のゼネス村へ『奇跡のお守り』ってのを買いに――」
「何か…怪しいネーミングのお守りだな。そして、何の疑いなく買いに行くやつもいるとは…」
不在理由を聞いたセネトは一気に怒りをおさめ、イアンから解放されるとぐったりとうなだれた。
そして、小さく息をついてコルネリオとグラハムに目を向けると訊ねる。
「お前らの事は後日に…ところで、お前は何でこの怪力女を攫ったんだ?一体、何の目的で…」
「ちょ…怪力女って、あたしの事!?あんたなんか、魔力バカじゃないの!!」
セネトに変な呼ばれ方をしたクレリアが、頬を膨らませると文句を言った。
……もはや、子供の口ゲンカ状態である。
そのやり取りを静かに聞いていたクリストフは頭をおさえつつイアンに視線を向けると、その視線に気づいたイアンがその意図を理解して預かっていた杖を投げて寄こした。
杖を受け取ったクリストフがにっこりと微笑むと、それが何を意味するのかセネトとクレリアは気づいて言い争いを止める。
その様子を、きょとんと見ていたコルネリオがくすくすと笑うと答える。
「面白い子達だね…えーっと、何だっけ?そうそう、その女の子を攫った理由だっけ…ぼくが攫ったわけじゃないから……」
「は?だって、現にクレリアがここにいたじゃねーか…お前らじゃないなら、誰だよ?お前がここを統べる主なんだろ、なら知ってるんじゃないのか?」
首をかしげたセネトがコルネリオを指差し訊ねていると、クレリアも首をかしげながら呟いた。
「そーいえば…あたしをここに連れてきたやつの姿、見てなかったわ」
そうじゃないかと思ったセネトは、呆れたようにクレリアを見つめて深く頷いた。
イアンとクリストフも、あえて口には出さないが…セネトと同じ事を考えているようだった。
3人がそう考えているという事に気づいたクレリアが、頬を膨らませるとそっぽを向く。
少し思案したコルネリオが自分にしがみついているグラハムを引き離すと、ゆっくり立ち上がると背筋を伸ばすように両腕を上げた。
「うーん…そろそろ、ぼくは君と遊ぶのも飽きてきたしなぁ。というか、このままだと…グラハムに危機が及びそうだし」
少しだけ、つまらなそうに口を尖らせたコルネリオは、さらに言葉を続ける。
「ぼくは今回、君達と争う気はない…そもそも、準備もできていないしね。だから…ぼく個人としては、その狂暴な娘を連れて帰ってほしいんだよね。大体、預かっていたようなものだし…さ」
「こちらも事を荒げるつもりはないですから…それは別にかまいませんけど。でも…ただで帰るのは割に合わない気がするのですが、ね?」
コルネリオの言葉に同意するように頷いたクリストフは、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。
一瞬驚いたように目を見開いたコルネリオが、「まいったな~」というように頭をかいて窓の外へ視線を向ける。
「うーん、そう言うかな~と思っていたけど…困ったね。まぁ、時間は稼げたからいいかな…実はぼくの友人がね――」
コルネリオの話によると――クレリアを攫ったのは自分の友人達であり、その友人がとある村に対して復讐しようと…そして、その復讐を遂げる為の準備の間だけセネト達の目を他に向けさせようと彼女を攫ったのだという。
「とある村って、まさか…フレネ村か!?」
復讐されるほどの恨みを買っているのはフレネ村しかない…と、すぐに思い当ったセネトは声をあげた。
同じ考えに至ったイアンも、納得したように何度も頷いている。
「だろうな…あの村の人々は、それだけの事をしてきたんだ。あぁ…そうか、その為にあの情報屋がうろついていたのか」
「ん~…よくわかんないけど、それよりも問題は――その、復讐しようとしているやつよ!何者かしら…?」
クレリアが顎に手をあてて呟くと、コルネリオは小さく笑いながら言い聞かせるように答える。
「君は何も知らないのだろうけど、ね。ここに、この子達をおびき寄せる為のエサになってもらったんだよ…彼らの望みで」
「エサぁ~!?突然、半透明の女の子に襲われて…気づいたら、ここにいたのよ!何もわかるわけないじゃないっ!!」
イライラしたように首を横にふったクレリアに、イアンとクリストフが困ったような表情を浮かべ…セネトは「油断し過ぎだろ」と、密かに思っていた。
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