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4話「幼い邪悪[中編]~弱虫、再び~」
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歩きはじめて一時間半近く…途中、何度か休憩をはさみながら進んだが何とかアーヴィル村に辿り着いたセネト達。
村の入口には少し斜めになっている看板があり、そこには『アーヴィル村』と書かれていた。
「ふーん…何か、見た感じがフレネ村に似ているのな。願わくば、余所者大嫌いだ…殺してやる、っていう連中じゃなければいいけど」
どこかフレネ村と似た雰囲気を感じたセネトは、斜めになっている看板を蹴りつける。
「セネト…看板は、蹴るものではないです。壊れでもした日には――」
少し棒読み風で言ったクリストフがわざとらしく息をついていると、セネトは周囲の様子をうかがいながらそっと看板を直そうとした。
そんなセネトの様子を見たイアンは、笑いを堪えながら言う。
「…さすがに、申し訳ないという気持ちはあるんだな。お前にも…」
むっとしたセネトが「うるさい」と言い返していると、村の方から誰かがこちらの方へとやって来ている事に気づいた。
その人物は、杖をつきながらゆっくりと右足をかばうように歩いているようだ……
「なんだ…こんな朝早くに、誰の許しを得てこの村に来た?」
威圧的に声をかけてきたのは、年の頃は60代の白髪混じりの栗色の髪をした男で――村の入り口に、立ちはだかるように立った。
「そこにいるのは、呪われ村の連中だろう…?ここへは来ぬ約束ではなかったのか!?大体それを貴様らが一方的に言ってきておいて、それを自ら破るつもりか!」
怒りを隠しもせず男が言うと、フレネ村の者達は下を向き…幼い子供達は目に涙を溜めて怯えているようだった。
そんなフレネ村の者達を見た男は小さく息をついてから、ふとセネト達の方へ視線を向ける。
「…なんだ、貴様らは退魔士か。こやつ等の為に、ご苦労な事だ」
「それはどうも…ところで、見たらわかるだろ?こいつらは怪我人だ…一時的でもいいから村に入れてやってくれないか?」
立ちはだかる男に不信感を抱きながら、セネトはフレネ村の者達を指した。
しかし、男は杖でフレネ村の者達を指すと苛立ったように答える。
「ふん、何勝手な事を…こいつらは数多の人々の生命を奪って――」
「何があったのかは、だいたい想像できますが…どうか、怒りを抑えてもらえますか?ウィルネス殿…」
制止する声に杖を持つ男・ウィルネスはそちらを向いて、それが見知っている人物であると気づくと表情を少し和らげた。
「…ん?貴様は、イアン…イアン・メルセルト、か。久しいな…しかし、何故この者共の味方をする?」
「久しぶりだというのに、まったく……相変わらず、嫌味節ですか。まぁ…元気な証だという事にしましょうか」
ため息をついたイアンがウィルネス近づき耳元で何かを囁くと、ウィルネスは驚いたようにセネトの方に目を向ける。
そして、少し考え込んだウィルネスは顎で村の方を指した。
「いいだろう…村の宿屋に身を寄せる事を許可する。入れ…後で、医師を向かわせよう」
宿屋の方を視線で指したウィルネスは、そのまま立ち去っていった。
それを見送っていたセネトは、小さく舌打ちする。
「何だよ…エラソーに!しかし…イアンの知り合いだったんだな、あのじいさんは」
「…ウィルネス殿は、俺の先輩――もう引退したが、退魔士だった方だ。今は…どこかの村で村長をしている、と聞いてはいたが…この村だったんだな」
顎に手をあてたイアンが納得したように何度も頷いた後、クリストフやミカサに目で宿屋を指すと歩きはじめた。
その指示に従って、クリストフとミカサもフレネ村の者達を連れて宿屋へ向かう。
(…あれ?そういえば――)
セネトは、ふと何かが気になって足を止めると首をかしげた。
――一体、イアンは何を言って…あのウィルネスを納得させたのだろうか、と。
アーヴィル村にある宿屋は思っていたより大きく、部屋も何部屋か空いていた。
その空いている部屋をすべて借りてフレネ村の人々を休ませ、ウィルネスが手配したらしい医師に彼らの状態を説明する。
話を聞いた医師とミカサが人々の治療に回っている間、セネトやイアン、クリストフとヴァリス、ナルヴァの5人は宿屋の…誰もいない広間にて話し合っていた。
「とりあえず…これで、ひと段落だな。で、次はクレリア探し兼救助だな…しっかし、どこだろうな?確か、フレネとアーヴィルの間…って言ってたけど、ここに来るまでの間にそれらしい建物はなかったよな?」
広間にあるソファーに座りながら、セネトは大きな欠伸をする。
「どっかに…道があったのかな?」
「それについてはわかっているので、いいんですが…その前に、イアン――」
何か思案していたクリストフが、イアンに目を向けて訊ねた。
「ウィルネス殿に、何と言って…この村に入れるようにしたんですか?」
「ん?いや…その――」
珍しく狼狽えた様子のイアンが、何かを決意したように息をつくと答える。
「ここにいるのは、ユースミルス家随一と自称している問題児である。このままでは、どうなるかわからない――と、言っただけだ」
「うおーい!!それは、おれの事か!?どう考えても、この中でユースミルスを名乗れるのはおれだけだもんな!」
ソファーから飛び上がったセネトは、とんでもない事を言ってくれたイアンの襟元を掴むと叫んだ。
セネトの頭をおさえながらイアンは笑みを浮かべて、襟首を掴む手を払いのけた。
「まぁ、いいじゃないか…おかげでアーヴィル村に入れたんだから、な」
まだ怒り足りない様子のセネトの襟首を掴んで制止したクリストフが、ため息をついて口を開く。
「まぁ、ウィルネス殿は…正しい選択をされたんでしょうね」
引っぱられているセネトは身動きがほとんどできないなりに暴れる、が背後にいるクリストフから不穏な気配を感じて動きを止めた。
それに気づいたクリストフはにっこりと微笑んで、反省したらしいセネトを解放する。
村の入口には少し斜めになっている看板があり、そこには『アーヴィル村』と書かれていた。
「ふーん…何か、見た感じがフレネ村に似ているのな。願わくば、余所者大嫌いだ…殺してやる、っていう連中じゃなければいいけど」
どこかフレネ村と似た雰囲気を感じたセネトは、斜めになっている看板を蹴りつける。
「セネト…看板は、蹴るものではないです。壊れでもした日には――」
少し棒読み風で言ったクリストフがわざとらしく息をついていると、セネトは周囲の様子をうかがいながらそっと看板を直そうとした。
そんなセネトの様子を見たイアンは、笑いを堪えながら言う。
「…さすがに、申し訳ないという気持ちはあるんだな。お前にも…」
むっとしたセネトが「うるさい」と言い返していると、村の方から誰かがこちらの方へとやって来ている事に気づいた。
その人物は、杖をつきながらゆっくりと右足をかばうように歩いているようだ……
「なんだ…こんな朝早くに、誰の許しを得てこの村に来た?」
威圧的に声をかけてきたのは、年の頃は60代の白髪混じりの栗色の髪をした男で――村の入り口に、立ちはだかるように立った。
「そこにいるのは、呪われ村の連中だろう…?ここへは来ぬ約束ではなかったのか!?大体それを貴様らが一方的に言ってきておいて、それを自ら破るつもりか!」
怒りを隠しもせず男が言うと、フレネ村の者達は下を向き…幼い子供達は目に涙を溜めて怯えているようだった。
そんなフレネ村の者達を見た男は小さく息をついてから、ふとセネト達の方へ視線を向ける。
「…なんだ、貴様らは退魔士か。こやつ等の為に、ご苦労な事だ」
「それはどうも…ところで、見たらわかるだろ?こいつらは怪我人だ…一時的でもいいから村に入れてやってくれないか?」
立ちはだかる男に不信感を抱きながら、セネトはフレネ村の者達を指した。
しかし、男は杖でフレネ村の者達を指すと苛立ったように答える。
「ふん、何勝手な事を…こいつらは数多の人々の生命を奪って――」
「何があったのかは、だいたい想像できますが…どうか、怒りを抑えてもらえますか?ウィルネス殿…」
制止する声に杖を持つ男・ウィルネスはそちらを向いて、それが見知っている人物であると気づくと表情を少し和らげた。
「…ん?貴様は、イアン…イアン・メルセルト、か。久しいな…しかし、何故この者共の味方をする?」
「久しぶりだというのに、まったく……相変わらず、嫌味節ですか。まぁ…元気な証だという事にしましょうか」
ため息をついたイアンがウィルネス近づき耳元で何かを囁くと、ウィルネスは驚いたようにセネトの方に目を向ける。
そして、少し考え込んだウィルネスは顎で村の方を指した。
「いいだろう…村の宿屋に身を寄せる事を許可する。入れ…後で、医師を向かわせよう」
宿屋の方を視線で指したウィルネスは、そのまま立ち去っていった。
それを見送っていたセネトは、小さく舌打ちする。
「何だよ…エラソーに!しかし…イアンの知り合いだったんだな、あのじいさんは」
「…ウィルネス殿は、俺の先輩――もう引退したが、退魔士だった方だ。今は…どこかの村で村長をしている、と聞いてはいたが…この村だったんだな」
顎に手をあてたイアンが納得したように何度も頷いた後、クリストフやミカサに目で宿屋を指すと歩きはじめた。
その指示に従って、クリストフとミカサもフレネ村の者達を連れて宿屋へ向かう。
(…あれ?そういえば――)
セネトは、ふと何かが気になって足を止めると首をかしげた。
――一体、イアンは何を言って…あのウィルネスを納得させたのだろうか、と。
アーヴィル村にある宿屋は思っていたより大きく、部屋も何部屋か空いていた。
その空いている部屋をすべて借りてフレネ村の人々を休ませ、ウィルネスが手配したらしい医師に彼らの状態を説明する。
話を聞いた医師とミカサが人々の治療に回っている間、セネトやイアン、クリストフとヴァリス、ナルヴァの5人は宿屋の…誰もいない広間にて話し合っていた。
「とりあえず…これで、ひと段落だな。で、次はクレリア探し兼救助だな…しっかし、どこだろうな?確か、フレネとアーヴィルの間…って言ってたけど、ここに来るまでの間にそれらしい建物はなかったよな?」
広間にあるソファーに座りながら、セネトは大きな欠伸をする。
「どっかに…道があったのかな?」
「それについてはわかっているので、いいんですが…その前に、イアン――」
何か思案していたクリストフが、イアンに目を向けて訊ねた。
「ウィルネス殿に、何と言って…この村に入れるようにしたんですか?」
「ん?いや…その――」
珍しく狼狽えた様子のイアンが、何かを決意したように息をつくと答える。
「ここにいるのは、ユースミルス家随一と自称している問題児である。このままでは、どうなるかわからない――と、言っただけだ」
「うおーい!!それは、おれの事か!?どう考えても、この中でユースミルスを名乗れるのはおれだけだもんな!」
ソファーから飛び上がったセネトは、とんでもない事を言ってくれたイアンの襟元を掴むと叫んだ。
セネトの頭をおさえながらイアンは笑みを浮かべて、襟首を掴む手を払いのけた。
「まぁ、いいじゃないか…おかげでアーヴィル村に入れたんだから、な」
まだ怒り足りない様子のセネトの襟首を掴んで制止したクリストフが、ため息をついて口を開く。
「まぁ、ウィルネス殿は…正しい選択をされたんでしょうね」
引っぱられているセネトは身動きがほとんどできないなりに暴れる、が背後にいるクリストフから不穏な気配を感じて動きを止めた。
それに気づいたクリストフはにっこりと微笑んで、反省したらしいセネトを解放する。
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