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4話「幼い邪悪[中編]~弱虫、再び~」
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敵意むきだしな死者達が襲いくる中、イアンが銃で相手の動きを封じて動きの鈍ったところをクレリアがモーニングスターで殴っていく。
「さ、さすがに…疲れてきたわ。何度も何度も動くから…」
再び起き上がろうとする死者を殴りつけるクレリアは、疲労からかため息をついた。
――その間も、自らの死を受け入れている者達は浄化されていく。
「まぁ…でも、何とか襲ってくる奴らは全員ぶっ飛ばせたかしら?」
「ぶっ飛ばした…というか、叩きのめした…という感じだがな」
苦笑混じりに呟いたイアンは、足元に倒れている死者達へ目を向けた。
そこには、何人もの死者達がベコベコな状態で倒れているのだが…それらをひと通り見たクレリアは手に持っていたモーニングスターを地面に置くと腕を組んだ。
「ふっ…そんな細かい事、いいじゃない。とりあえず、動かなくなったんだから…ミカサ、こっちの浄化もお願い!」
鼻で笑ったクレリアに、ミカサが頷いてからゆっくりと歌い終えて手を一回たたいた。
すると、展開していた法術式が大きく輝くと倒れている死者達と共に霧散していった。
ゆっくりと目を開いたミカサは、静かに祈りを捧げる。
「――ここで亡くなられた人々が、4人の神子の導きにより…迷わず、神の元へ戻れますように」
「大丈夫でしょ、あたし達がきちんと手伝ってあげたんだから…」
モーニングスターの持ち手をたたいたクレリアに、苦笑しながらミカサは頷く。
「うん…そうだね。生命ある者を、襲う存在を倒すのが退魔士の役目だし…私達、聖職者はその後の事をするのが役目だもの」
「そういう事…さーて、これからどうするかね。イアン、次は何をすればいい?」
何度も頷いたクレリアは、銃をズボンの後ろポケットに入れているイアンに訊ねた。
しばらく周囲を警戒していたイアンが、顎に手をあてると口を開く。
「そうだな…とりあえず、生き残っている村人達をここに集めるとするか。ミカサ、念の為に結界を頼む。クレリアは――」
「あたしは林に近い方の家々を訪ねてみるわ、イアンは反対方面をよろしく!」
そう答えたクレリアは小走りに林近くの家々へ向かって行った、のだが…イアンとミカサの返事は聞かずじまいである。
しばらく、クレリアの行った方向を見ていたイアンとミカサは苦笑するとため息をついた。
「まったく…もしかしたら、まだ死者が隠れている可能性もあるというのにな」
「はい…私もそう思ったんですけど――」
2人が見ている方向――何軒かある家の一軒から、クレリアの「ほら、邪魔しないで!」という声と共に打撲音が聞こえてきた。
……どうやら、一軒目から浄化を逃れた"眠れぬ死者"と出会ったようだ。
「クレリア…退魔士になってから、さらに腕を上げたようで――先日なんか、一人で吸血鬼一体を撲さ…倒したそうですから」
途中で言葉を言い換えたミカサに、イアンは一瞬何か言いかけたが言葉を飲み込んで話題を変えるように口を開く。
「…そういえばだが、ミカサ。気をつけろ…この村には、死者の他に何かいるようだ」
「はい…私の浄化の力に抵抗というか、拒絶するような力を感じました。それに――」
ミカサの言葉に頷いたイアンは、村全体を見渡しながらポケットから煙草を一本出してくわえた。
「あぁ、死者達を片付けたおかげか…気配が濃くなったからな。村長とナルヴァ、それにヴァリス――奴らは何か隠しているな」
舌打ちをしたイアンは上着の胸ポケットから小さく折りたたんだ一枚の紙を取り出すと、それを広げてミカサに手渡す。
――その紙は、村長達が協会に出した依頼書の写しだ。
「…クリストフ達が戻っていたら、それを持ってヴァリス達を問い詰めるぞ」
「はい、イアンさま…」
イアンの提案に深く頷いたミカサは、法術式を描きだすと広場周辺に結界を張りめぐらせた。
それを確認したイアンがミカサに少し待っているように指示すると、クレリアが向かった方向とは反対方面にある家々を訪問する為に向かう。
…夜は、まだ更けたばかりだ。
何事も、これ以上起こらなければいい…とミカサは祈るしかなかった――
***
…少しして、イアンはとある民家から幼い子供達を連れてミカサの元に戻ってきた。
「とりあえず、子供だけ残されている家があってな。連れてきたんだが…ミカサ、診てやってくれるか?」
「まぁ…さぁ、こちらに」
イアンの連れてきた子供達が顔を真っ青にさせて怪我を負っていると気づいたミカサは、ゆっくりと子供達に向けて手を差し伸べる。
子供達は不安げにミカサを見ていたが、彼女が優しげに微笑むと安心したのか…泣きながらミカサの元へ駆け寄った。
「もう大丈夫…私達があなた達を守りますよ。だから、朝になるまで一緒に待ちましょうね」
優しく子供達を抱きしめながらミカサが囁くように声をかけると、子供達は震えながら小さく頷く。
その様子を見守っていたイアンは、子供達はミカサに任せて大丈夫だろう…と判断して再び家々を訪ねて回ろうとして気がついた。
「…ん?そういえば、クレリアは一度ここに戻ってきたのか?」
あまり多くの人を連れて移動しては、何かあった時に大対処しきれなくなる可能性が高くなる。
現に、クレリアが行った方向には"眠れぬ死者"が残っていたのだから。
となれば、できるだけ少人数で移動した方が対処しやすいのだが…クレリアは、まだ一度もミカサのところに戻ってきていなかった。
「いいえ…まだ一度も。クレリア…遅いな、何かあったのかしら?」
首をゆっくり横にふったミカサは、クレリアの向かった場所に目を向ける……しかし、ただ静かな夜の風が吹いているだけだ。
さすがに心配になったミカサがイアンの方を見ると、同じ意見だったイアンはゆっくりと頷いた。
「…何かあったのかもしれないな。ミカサ、少し待って――」
「はぁー…疲れたって、イアンにミカサ。どうしたんだ?」
イアンの言葉を遮るように声をかけてきたのは、クレリア――ではなく、なりそこないの吸血鬼を倒して戻ってきたセネトだった。
その隣には、クリストフが不思議そうな表情で立っている事に気づいたイアンは手短に状況の説明をする。
「――というわけで、俺はクレリアの向かったところへ行く。ここを頼むぞ!」
「ぁ、僕も行きます…セネト、あとは頼みます!」
クレリアの向かったところへイアンが走りだすと、クリストフも慌てて――セネトの返事を待たずに、イアンの後を追って走りだした。
残されたのは子供達を抱きしめたままのミカサと、何かを言いたげなまま固まるセネトだけだ。
***
「さ、さすがに…疲れてきたわ。何度も何度も動くから…」
再び起き上がろうとする死者を殴りつけるクレリアは、疲労からかため息をついた。
――その間も、自らの死を受け入れている者達は浄化されていく。
「まぁ…でも、何とか襲ってくる奴らは全員ぶっ飛ばせたかしら?」
「ぶっ飛ばした…というか、叩きのめした…という感じだがな」
苦笑混じりに呟いたイアンは、足元に倒れている死者達へ目を向けた。
そこには、何人もの死者達がベコベコな状態で倒れているのだが…それらをひと通り見たクレリアは手に持っていたモーニングスターを地面に置くと腕を組んだ。
「ふっ…そんな細かい事、いいじゃない。とりあえず、動かなくなったんだから…ミカサ、こっちの浄化もお願い!」
鼻で笑ったクレリアに、ミカサが頷いてからゆっくりと歌い終えて手を一回たたいた。
すると、展開していた法術式が大きく輝くと倒れている死者達と共に霧散していった。
ゆっくりと目を開いたミカサは、静かに祈りを捧げる。
「――ここで亡くなられた人々が、4人の神子の導きにより…迷わず、神の元へ戻れますように」
「大丈夫でしょ、あたし達がきちんと手伝ってあげたんだから…」
モーニングスターの持ち手をたたいたクレリアに、苦笑しながらミカサは頷く。
「うん…そうだね。生命ある者を、襲う存在を倒すのが退魔士の役目だし…私達、聖職者はその後の事をするのが役目だもの」
「そういう事…さーて、これからどうするかね。イアン、次は何をすればいい?」
何度も頷いたクレリアは、銃をズボンの後ろポケットに入れているイアンに訊ねた。
しばらく周囲を警戒していたイアンが、顎に手をあてると口を開く。
「そうだな…とりあえず、生き残っている村人達をここに集めるとするか。ミカサ、念の為に結界を頼む。クレリアは――」
「あたしは林に近い方の家々を訪ねてみるわ、イアンは反対方面をよろしく!」
そう答えたクレリアは小走りに林近くの家々へ向かって行った、のだが…イアンとミカサの返事は聞かずじまいである。
しばらく、クレリアの行った方向を見ていたイアンとミカサは苦笑するとため息をついた。
「まったく…もしかしたら、まだ死者が隠れている可能性もあるというのにな」
「はい…私もそう思ったんですけど――」
2人が見ている方向――何軒かある家の一軒から、クレリアの「ほら、邪魔しないで!」という声と共に打撲音が聞こえてきた。
……どうやら、一軒目から浄化を逃れた"眠れぬ死者"と出会ったようだ。
「クレリア…退魔士になってから、さらに腕を上げたようで――先日なんか、一人で吸血鬼一体を撲さ…倒したそうですから」
途中で言葉を言い換えたミカサに、イアンは一瞬何か言いかけたが言葉を飲み込んで話題を変えるように口を開く。
「…そういえばだが、ミカサ。気をつけろ…この村には、死者の他に何かいるようだ」
「はい…私の浄化の力に抵抗というか、拒絶するような力を感じました。それに――」
ミカサの言葉に頷いたイアンは、村全体を見渡しながらポケットから煙草を一本出してくわえた。
「あぁ、死者達を片付けたおかげか…気配が濃くなったからな。村長とナルヴァ、それにヴァリス――奴らは何か隠しているな」
舌打ちをしたイアンは上着の胸ポケットから小さく折りたたんだ一枚の紙を取り出すと、それを広げてミカサに手渡す。
――その紙は、村長達が協会に出した依頼書の写しだ。
「…クリストフ達が戻っていたら、それを持ってヴァリス達を問い詰めるぞ」
「はい、イアンさま…」
イアンの提案に深く頷いたミカサは、法術式を描きだすと広場周辺に結界を張りめぐらせた。
それを確認したイアンがミカサに少し待っているように指示すると、クレリアが向かった方向とは反対方面にある家々を訪問する為に向かう。
…夜は、まだ更けたばかりだ。
何事も、これ以上起こらなければいい…とミカサは祈るしかなかった――
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…少しして、イアンはとある民家から幼い子供達を連れてミカサの元に戻ってきた。
「とりあえず、子供だけ残されている家があってな。連れてきたんだが…ミカサ、診てやってくれるか?」
「まぁ…さぁ、こちらに」
イアンの連れてきた子供達が顔を真っ青にさせて怪我を負っていると気づいたミカサは、ゆっくりと子供達に向けて手を差し伸べる。
子供達は不安げにミカサを見ていたが、彼女が優しげに微笑むと安心したのか…泣きながらミカサの元へ駆け寄った。
「もう大丈夫…私達があなた達を守りますよ。だから、朝になるまで一緒に待ちましょうね」
優しく子供達を抱きしめながらミカサが囁くように声をかけると、子供達は震えながら小さく頷く。
その様子を見守っていたイアンは、子供達はミカサに任せて大丈夫だろう…と判断して再び家々を訪ねて回ろうとして気がついた。
「…ん?そういえば、クレリアは一度ここに戻ってきたのか?」
あまり多くの人を連れて移動しては、何かあった時に大対処しきれなくなる可能性が高くなる。
現に、クレリアが行った方向には"眠れぬ死者"が残っていたのだから。
となれば、できるだけ少人数で移動した方が対処しやすいのだが…クレリアは、まだ一度もミカサのところに戻ってきていなかった。
「いいえ…まだ一度も。クレリア…遅いな、何かあったのかしら?」
首をゆっくり横にふったミカサは、クレリアの向かった場所に目を向ける……しかし、ただ静かな夜の風が吹いているだけだ。
さすがに心配になったミカサがイアンの方を見ると、同じ意見だったイアンはゆっくりと頷いた。
「…何かあったのかもしれないな。ミカサ、少し待って――」
「はぁー…疲れたって、イアンにミカサ。どうしたんだ?」
イアンの言葉を遮るように声をかけてきたのは、クレリア――ではなく、なりそこないの吸血鬼を倒して戻ってきたセネトだった。
その隣には、クリストフが不思議そうな表情で立っている事に気づいたイアンは手短に状況の説明をする。
「――というわけで、俺はクレリアの向かったところへ行く。ここを頼むぞ!」
「ぁ、僕も行きます…セネト、あとは頼みます!」
クレリアの向かったところへイアンが走りだすと、クリストフも慌てて――セネトの返事を待たずに、イアンの後を追って走りだした。
残されたのは子供達を抱きしめたままのミカサと、何かを言いたげなまま固まるセネトだけだ。
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