うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
上 下
36 / 94
3話「幼い邪悪[前編]~2人のトラブルメーカー~」

しおりを挟む
「――これでか…あの村の人間に、夜間は特に警戒するよう通達した上で常駐する退魔士に任せていただろう?確か……」

依頼書を読んだ右目に眼帯をした男は、首をかしげると呟いた。
彼の持つ依頼書は協会の受付で貰ってきたもので、そこには現場の状況などが書かれているのだ。

「…半月は何事も起こらなかったので、油断していたらしいのです。さすがに、危機感を――って、少し遅い気もしますが…感じたらしく、村長が依頼書それをだしたようですよ」

眼帯の男の問いに答えたのは、傍らにいる銀髪の青年だ。
この2人が今いるのは協会にいくつかある会議室のひとつで、室内にある長テーブルの上に座っているのが眼帯の男で銀髪の青年はきちんと椅子に座っていた。

「遅すぎるだろう、それは…まぁ、あの村は昔から余所者を入れたがらないからな」

呆れを含みながら言った眼帯の男は、持っていた依頼書を自ら座っている長テーブルの上に投げ置く。
そして、その依頼書を横目に言葉を続けた。

「ふん…必要人数が法術が使えるものを含めて5~6人、か。まったく…面倒事になってから助けを求めてくるとは――」
「一応、応援を他のチームに頼んでみたんですが…やはり断られてしまいましたよ」

銀髪の青年がそう言うと、大きくため息をつく。
――実は、今回の依頼…この銀髪の青年と部下3人、他のチーム合同での仕事になるはずだったのだ。

「…結局、すべてに断られたか」

眼帯の男が自分の灰黒髪をかきながら訊ねると、銀髪の青年はゆっくりと頷いた。
やはりな…と、小さくため息をついた眼帯の男は長テーブルから降りて言葉を続ける。

「一応、俺も出られるよう…予定を空けているが?」
「…ありがたい申し出ですが、いいんですか?その…大変ですよ?」

申し訳なさそうに俯いた銀髪の青年の顔を覗き込んで、眼帯の男は優しく安心させるように声をかけた。

「ああ…今回、お前一人でではないだろう?それに、お前一人で全て背負い込まなくてもいいのだから。何かあったら俺を頼れ、クリストフ」
「…そ、そうですね。すみません、イアン…相棒であるあなたに、初めに相談すべきでしたね。ありがとう…」

俯いていた顔をあげた銀髪の青年・クリストフは、眼帯の男・イアンに頭を下げると微笑んだ。

「そういう事だ…少しは、自分の相棒を頼っても罰は当たらないぞ?」

意地の悪い笑みを浮かべたイアンがポケットから煙草を一本取りだして口にくわえると、それに気づいたクリストフは苦笑しながら小さな術式を描きだすと魔力を込めて発動させる。
術式から現れた小さな火をイアンの煙草に点けると、煙草をひと吸いしたイアンは優しくクリストフの頭を撫でた。


***
しおりを挟む
拍手ボタン】【マシュマロ】【質問箱
(コメントしていただけると励みになります)

○個人サイトでも公開中。
(※現在、次話を執筆中ですので公開までしばらくお待ちください)

・本作は『妖煌吸血鬼シリーズ』の1作目になります。
感想 0

あなたにおすすめの小説

惑う霧氷の彼方

雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。 ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。 山間の小さな集落… …だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。 ――死者は霧と共に現れる… 小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは? そして、少女が失った大切なものとは一体…? 小さな集落に死者たちの霧が包み込み… 今、悲しみの鎮魂歌が流れる… それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語―― *** 自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。 ※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。 ⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。 本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...