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2話「夢魔の刻印」
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――数日後。
ジスカより送られてきたあるリストと報告書を手に、ソファーに腰掛けた銀髪の青年が深くため息をついた。
半分破壊されている彼の部屋の天井と壁にはブルーシートと板で応急処置されているのだが、隙間風が吹き込んできている。
「…まぁ、今回はジスカ殿が気にしなくとも良いと言ってくださったんですが――」
「そうか…それよりも、ここは寒いな。何故こうなった…?」
銀髪の青年のデスクにもたれかかる淡い青色の髪に白衣の男は、温かい飲み物の入ったカップを手に暖をとっていた。
今は黒月の下旬――〈フェロスの秋節〉の終わり頃、だんだんと気温も低くなってきているのだ。
その冷えた風が隙間風となって室内へ入ってきているので、室内温度は外と同じかそれ以下だろう……
白衣の男の問いに答えたのは銀髪の青年でなく、彼の向かいのソファーに腰掛ける黒髪の少女だった。
「…キール、知らないの?クリストフが、あの子を吹き飛ばした勢いで部屋を壊したの。修理には、少し時間がかかるらしいの…」
「なるほど…とりあえず、イオンさんに言ってしばらくの間は部屋を変えてもらったらどうだ?」
温かい飲み物を一口飲んだ白衣の男・キールが、天井の代わりとなっているブルーシートを眺める。
ソファーから立った銀髪の青年・クリストフは自分のデスクの上に、報告書とリストを静かに置くと首を横にふった。
「…大丈夫です、自分でやった事なので断ったんですよ。それよりも、思ったより被害がなくて安心しました」
「まぁ、私が聖堂全体に結界をはったからな。感謝しろよ…」
口元に笑みを浮かべたキールに、何度も頷いている黒髪の少女が頬を膨らませながら口を開く。
「してるのしてるの。だって、おかげで大説教会に呼ばれないから……もう、あんな思いは嫌なの」
「今後、そのような事にならないように僕が教育しておきますよ。まぁ、その機会が来たわけですし…」
何か諦めたような、暗い表情のクリストフはため息をついた。
苦笑混じりに、ブルーシートと壁の隙間から見える空に目を向けているキールが呟く。
「やはり、次は…誰もやりたがらなかったか」
「ごめんなの…クリストフ、わたしはあの双子ちゃんの再教育があるからダメなの。二人の上司だから、って怒られちゃって…」
黒髪の少女が、自分の顔の前で両手を合わせてクリストフに謝罪した。
申し訳なさそうにしている黒髪の少女を慰めるように、キールは優しく声をかける。
「ソーシアン兄妹の件は不幸な事故、セネトと違って彼らは反省しているのですから。あまり厳しくしなくて大丈夫ですよ、エトレカさん」
「わかっているの…ところで、クリストフは何で暗いの?トラブ…セネトひとりなら、そんなに落ち込まなくて大丈夫じゃないの?」
大きなため息をついているクリストフに、黒髪の少女・エトレカは首をかしげて訊ねた。
だが、クリストフは俯いたまま…視線だけを壁とブルーシートの境目に向けて何か諦めたような様子で言う。
「…一人ならば、僕だって落ち込まないです。本当に大変なんですよ、今度は2人同時ですからね…おかげで誰もやりたがりませんでした…」
キールとエトレカは何となく誰もつきたがらなかった理由を察し、ゆっくりとクリストフから視線を外した。
――とりあえず聞かなかった事にしよう、とキールとエトレカは密かに思ったようだ。
ジスカより送られてきたあるリストと報告書を手に、ソファーに腰掛けた銀髪の青年が深くため息をついた。
半分破壊されている彼の部屋の天井と壁にはブルーシートと板で応急処置されているのだが、隙間風が吹き込んできている。
「…まぁ、今回はジスカ殿が気にしなくとも良いと言ってくださったんですが――」
「そうか…それよりも、ここは寒いな。何故こうなった…?」
銀髪の青年のデスクにもたれかかる淡い青色の髪に白衣の男は、温かい飲み物の入ったカップを手に暖をとっていた。
今は黒月の下旬――〈フェロスの秋節〉の終わり頃、だんだんと気温も低くなってきているのだ。
その冷えた風が隙間風となって室内へ入ってきているので、室内温度は外と同じかそれ以下だろう……
白衣の男の問いに答えたのは銀髪の青年でなく、彼の向かいのソファーに腰掛ける黒髪の少女だった。
「…キール、知らないの?クリストフが、あの子を吹き飛ばした勢いで部屋を壊したの。修理には、少し時間がかかるらしいの…」
「なるほど…とりあえず、イオンさんに言ってしばらくの間は部屋を変えてもらったらどうだ?」
温かい飲み物を一口飲んだ白衣の男・キールが、天井の代わりとなっているブルーシートを眺める。
ソファーから立った銀髪の青年・クリストフは自分のデスクの上に、報告書とリストを静かに置くと首を横にふった。
「…大丈夫です、自分でやった事なので断ったんですよ。それよりも、思ったより被害がなくて安心しました」
「まぁ、私が聖堂全体に結界をはったからな。感謝しろよ…」
口元に笑みを浮かべたキールに、何度も頷いている黒髪の少女が頬を膨らませながら口を開く。
「してるのしてるの。だって、おかげで大説教会に呼ばれないから……もう、あんな思いは嫌なの」
「今後、そのような事にならないように僕が教育しておきますよ。まぁ、その機会が来たわけですし…」
何か諦めたような、暗い表情のクリストフはため息をついた。
苦笑混じりに、ブルーシートと壁の隙間から見える空に目を向けているキールが呟く。
「やはり、次は…誰もやりたがらなかったか」
「ごめんなの…クリストフ、わたしはあの双子ちゃんの再教育があるからダメなの。二人の上司だから、って怒られちゃって…」
黒髪の少女が、自分の顔の前で両手を合わせてクリストフに謝罪した。
申し訳なさそうにしている黒髪の少女を慰めるように、キールは優しく声をかける。
「ソーシアン兄妹の件は不幸な事故、セネトと違って彼らは反省しているのですから。あまり厳しくしなくて大丈夫ですよ、エトレカさん」
「わかっているの…ところで、クリストフは何で暗いの?トラブ…セネトひとりなら、そんなに落ち込まなくて大丈夫じゃないの?」
大きなため息をついているクリストフに、黒髪の少女・エトレカは首をかしげて訊ねた。
だが、クリストフは俯いたまま…視線だけを壁とブルーシートの境目に向けて何か諦めたような様子で言う。
「…一人ならば、僕だって落ち込まないです。本当に大変なんですよ、今度は2人同時ですからね…おかげで誰もやりたがりませんでした…」
キールとエトレカは何となく誰もつきたがらなかった理由を察し、ゆっくりとクリストフから視線を外した。
――とりあえず聞かなかった事にしよう、とキールとエトレカは密かに思ったようだ。
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