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2話「夢魔の刻印」
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テセリアハイト王国にあるゼネス村へ向かう為、乗り合いの馬車に乗ったセネトとキールはお互い無言で隣同士に座っていた。
何か納得のいかない様子のセネトは馬車の窓から空を見上げた後、ふと隣に座るキールへ視線を向ける。
キールは無表情のまま本を読んでいるのだが、その本のタイトルに気づいたセネトは頬をひきつらせた。
本のタイトルには――『暴走に巻き込まれぬ為に』と書かれていた……
「…キール、それって何かの嫌味かよ。つーか、どんな内容の本なんだ…?」
「…内容、か?それはだな…『魔王を倒す為に現れた勇者だったが、その勇者がやり過ぎて世界を破壊。仕方なく、魔王が他の誰かに助けを求める』というものだ」
読んでいた本を閉じたキールが裏表紙に書かれているあらすじ部分を読むと、呆れたセネトは彼の持つ本に目を向ける。
「それって…ファンタジーものだったのか。というか、本当の魔王は勇者か――お前って、ファンタジー小説も読むんだな。おれはてっきり…難しい専門書を中心としたものを読んでいるんだと思った」
「これは、たまたまだ…出かける前に、本部の蔵書庫で見つけたものだ。テセリアハイトのゼネス村まで、だいぶ時間がかかるからな…時間潰しには、丁度いいだろう」
そこまで言うと、キールは本をセネトの膝の上に置くとさして興味なさげに続けた。
「ついでにお前が暴走した時の対処法が載っていないか、と思ったが載ってなかった」
「…だろうと思った。しかも、これ2巻だし…じゃなくて、キール!はじめから、おれが暴走するって決めつけてんじゃねーよ!ったく…」
本をまじまじと見ているセネトだったが、理由を聞いて怒りを抑えながらキールの白衣を掴んだ。
大きくため息をついたキールはセネトの手をはらうと、乱れた白衣を直した。
「――本当に、大丈夫ならばいいんだが。まぁ…ジスカさんも、きっと同じ事を言うと思うな…」
「前回は、たまたま術式の組み方を間違えただけだってーの!その、たった一回の事をいつまでもだなー…」
腹をたてているセネトが、腕を組んで頬を膨らませて文句を言っている。
呆れた表情を浮かべるキールは、セネトの頭から足先までを流し見ると口を開いた。
「たった一回の失敗…?お前は何を言っているんだ…私の知る限り、今まで2900回以上は術を故意に暴走させている。その内、1500回くらいは建造物を破壊している…よな?」
「う゛っ…何で具体的な回数を――」
小さく唸ったセネトは、嫌な汗を大量に流しながら視線を泳がせる。
しかし、キールがそんなセネトの様子をお構いなしに言葉を続けた。
「その度に、父親であるクロストさんと師であるディトラウトさんが関係各所へ謝罪に行き…クリストフが胃を痛めながら責任を負ってペナルティー分の仕事をこなし、幹部全員集められて説教だ。わかるか、セネト?」
流れるように言われたセネトは自分の髪をかきむしり…そして、俯き加減に言う。
「わかるけどな、おれだって偉大な先祖を持ってるってだけで色々言われて大変なんだぞ…」
「…忘れているのかもしれないが、私も偉大な先祖を持っているぞ?それと、総帥も…なんだがな」
セネトの言葉に、割り込むように言ったキールは小さく息をついた。
ユースミルス家、メイリーク家、セイドロード家――この家名を持つ者達は、世界を救ったと言われる退魔士の末裔である。
この血筋に連なる者が退魔士になると、先祖のように立派な退魔士となるように期待されるのだ。
それがプレッシャーとなって失敗するのだと、セネトは言っているのだが、彼は退魔士になってもう2年になる。
気をつけていれば、同じ失敗を繰り返すはずはない……
説教まがいな事を言うキールに、セネトは頬を膨らませた。
「ちっ…そういや、キールもだったな。この言い訳、クリストフやエトレカのばあさん達には効いたんだけどな…」
「クリストフやエトレカさん達には、もうバレバレだからな…それ。大体、はじめの一回しか効かないだろう?」
呆れたような視線をセネトへ向けるキールが、やれやれと首を横にふっている。
しかし、セネトは根拠のない自信に満ちた表情を浮かべた。
「いや、まだ使えるかもしれないだろ…?初見の人とかさ…」
「どこからでてきた…その自信は。ところで、お前…ディトラウトさんのところへ行ったか?」
何の事かわからないセネトは、きょとんとしながら首をかしげる。
「…何で?ディトラウト師匠のところへ行かないといけないんだ…?」
「やはり、行っていないか…お前、ネーメットさんに言われていただろう?『術式の基礎を、もう一度学ぶように』…まぁ、学んでも結果は同じか」
ネーメットに言われた事を忘れてしまっている様子のセネトに、キールは呆れたようにため息をつくしかなかった。
さらりとキツい事を言うキールに、むっとしたセネトは文句を言う。
「何気にひどいっ!それって、おれに学習能力がないって言ってるもんだろ?」
「…わかっているではないか。あぁ、そうだ…知っているか、セネト?ネーメットさん…お前がやらかした事で、しばらく謹慎になったぞ」
まじめな表情のキールは、頬を膨らませているセネトを真っ直ぐに見ながら言葉を続けた。
「どうするんだ…幹部が一人欠けると、その分残りのメンバーの負担が増える。本当にどうしてくれるんだ…?」
「げっ…ネーメットのじいさん、謹慎になったのか。うーん…結構、威力は抑えたんだがなー」
ネーメットが謹慎処分になった事実を初めて知り、驚きに目を見開いたセネトに深く頷いたキールはため息をつく。
「反省するところはそこか…そして、威力を抑えての結果がアレか。お前、威力を抑えるという意味を理解しているのか…?」
「ん?もちろん、わかっているけど…」
不思議そうに首をかしげながら、真顔のキールをセネトは見た。
そんなセネトの様子に、キールは心の中である覚悟をする……
(…これは、今回も何かやらかすな。そうなったら、私にこれを押しつけてきた2人にも責任を――)
***
何か納得のいかない様子のセネトは馬車の窓から空を見上げた後、ふと隣に座るキールへ視線を向ける。
キールは無表情のまま本を読んでいるのだが、その本のタイトルに気づいたセネトは頬をひきつらせた。
本のタイトルには――『暴走に巻き込まれぬ為に』と書かれていた……
「…キール、それって何かの嫌味かよ。つーか、どんな内容の本なんだ…?」
「…内容、か?それはだな…『魔王を倒す為に現れた勇者だったが、その勇者がやり過ぎて世界を破壊。仕方なく、魔王が他の誰かに助けを求める』というものだ」
読んでいた本を閉じたキールが裏表紙に書かれているあらすじ部分を読むと、呆れたセネトは彼の持つ本に目を向ける。
「それって…ファンタジーものだったのか。というか、本当の魔王は勇者か――お前って、ファンタジー小説も読むんだな。おれはてっきり…難しい専門書を中心としたものを読んでいるんだと思った」
「これは、たまたまだ…出かける前に、本部の蔵書庫で見つけたものだ。テセリアハイトのゼネス村まで、だいぶ時間がかかるからな…時間潰しには、丁度いいだろう」
そこまで言うと、キールは本をセネトの膝の上に置くとさして興味なさげに続けた。
「ついでにお前が暴走した時の対処法が載っていないか、と思ったが載ってなかった」
「…だろうと思った。しかも、これ2巻だし…じゃなくて、キール!はじめから、おれが暴走するって決めつけてんじゃねーよ!ったく…」
本をまじまじと見ているセネトだったが、理由を聞いて怒りを抑えながらキールの白衣を掴んだ。
大きくため息をついたキールはセネトの手をはらうと、乱れた白衣を直した。
「――本当に、大丈夫ならばいいんだが。まぁ…ジスカさんも、きっと同じ事を言うと思うな…」
「前回は、たまたま術式の組み方を間違えただけだってーの!その、たった一回の事をいつまでもだなー…」
腹をたてているセネトが、腕を組んで頬を膨らませて文句を言っている。
呆れた表情を浮かべるキールは、セネトの頭から足先までを流し見ると口を開いた。
「たった一回の失敗…?お前は何を言っているんだ…私の知る限り、今まで2900回以上は術を故意に暴走させている。その内、1500回くらいは建造物を破壊している…よな?」
「う゛っ…何で具体的な回数を――」
小さく唸ったセネトは、嫌な汗を大量に流しながら視線を泳がせる。
しかし、キールがそんなセネトの様子をお構いなしに言葉を続けた。
「その度に、父親であるクロストさんと師であるディトラウトさんが関係各所へ謝罪に行き…クリストフが胃を痛めながら責任を負ってペナルティー分の仕事をこなし、幹部全員集められて説教だ。わかるか、セネト?」
流れるように言われたセネトは自分の髪をかきむしり…そして、俯き加減に言う。
「わかるけどな、おれだって偉大な先祖を持ってるってだけで色々言われて大変なんだぞ…」
「…忘れているのかもしれないが、私も偉大な先祖を持っているぞ?それと、総帥も…なんだがな」
セネトの言葉に、割り込むように言ったキールは小さく息をついた。
ユースミルス家、メイリーク家、セイドロード家――この家名を持つ者達は、世界を救ったと言われる退魔士の末裔である。
この血筋に連なる者が退魔士になると、先祖のように立派な退魔士となるように期待されるのだ。
それがプレッシャーとなって失敗するのだと、セネトは言っているのだが、彼は退魔士になってもう2年になる。
気をつけていれば、同じ失敗を繰り返すはずはない……
説教まがいな事を言うキールに、セネトは頬を膨らませた。
「ちっ…そういや、キールもだったな。この言い訳、クリストフやエトレカのばあさん達には効いたんだけどな…」
「クリストフやエトレカさん達には、もうバレバレだからな…それ。大体、はじめの一回しか効かないだろう?」
呆れたような視線をセネトへ向けるキールが、やれやれと首を横にふっている。
しかし、セネトは根拠のない自信に満ちた表情を浮かべた。
「いや、まだ使えるかもしれないだろ…?初見の人とかさ…」
「どこからでてきた…その自信は。ところで、お前…ディトラウトさんのところへ行ったか?」
何の事かわからないセネトは、きょとんとしながら首をかしげる。
「…何で?ディトラウト師匠のところへ行かないといけないんだ…?」
「やはり、行っていないか…お前、ネーメットさんに言われていただろう?『術式の基礎を、もう一度学ぶように』…まぁ、学んでも結果は同じか」
ネーメットに言われた事を忘れてしまっている様子のセネトに、キールは呆れたようにため息をつくしかなかった。
さらりとキツい事を言うキールに、むっとしたセネトは文句を言う。
「何気にひどいっ!それって、おれに学習能力がないって言ってるもんだろ?」
「…わかっているではないか。あぁ、そうだ…知っているか、セネト?ネーメットさん…お前がやらかした事で、しばらく謹慎になったぞ」
まじめな表情のキールは、頬を膨らませているセネトを真っ直ぐに見ながら言葉を続けた。
「どうするんだ…幹部が一人欠けると、その分残りのメンバーの負担が増える。本当にどうしてくれるんだ…?」
「げっ…ネーメットのじいさん、謹慎になったのか。うーん…結構、威力は抑えたんだがなー」
ネーメットが謹慎処分になった事実を初めて知り、驚きに目を見開いたセネトに深く頷いたキールはため息をつく。
「反省するところはそこか…そして、威力を抑えての結果がアレか。お前、威力を抑えるという意味を理解しているのか…?」
「ん?もちろん、わかっているけど…」
不思議そうに首をかしげながら、真顔のキールをセネトは見た。
そんなセネトの様子に、キールは心の中である覚悟をする……
(…これは、今回も何かやらかすな。そうなったら、私にこれを押しつけてきた2人にも責任を――)
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