25 / 94
2話「夢魔の刻印」
5
しおりを挟む
ジスカからの依頼――夢魔に憑かれた幼い少女を救う為、エトレカの部下である双子の兄妹がゼネス村へ向かったのだそうだ。
本来ならば…夢魔を追い払うなり、倒すなりすればいいだけなのだが……
どういうわけか、双子の兄妹まで夢魔に捕らわれ…よりにもよって、ゼネス村に他の夢魔をたくさん呼び集めるという事態を引き起こした。
「――というわけで、見事に失敗した上にぐっすりと現在も眠っている。ジスカの手配で、ソーシアン兄妹はこの医院に運び込まれたが」
クリストフの説明が終わったところで、クロストが苦笑混じりに言う。
「ジスカから手紙で知らされたが、セリーヌから夢魔を引きずり出せたところまではよかったらしい。その後、仲良く夢魔の術に取り込まれたそうだが」
「そりゃ…エトレカのばあさんは怒るよな。しかし、何でおれが尻拭いをしないといけないんだよ…」
怒り心頭であろうエトレカの姿を思い浮かべたセネトは呆れながら呟いた。
丸椅子に腰かけていたキールが、とても嫌そうに囁く。
「お前はソーシアンの尻拭いが嫌なのかもしれないが、私はお前と組むのが嫌だな。今回、私は我慢するんだ…お前もしたらどうだ?」
「わかってるって…ところでさ、キール。何で、そんなにおれと組むのが嫌なんだよ?」
渋々頷いたセネトが、ずっと気になってた疑問を訊ねた。
腕を組んだキールはセネトをじと目で見ながら、口早にまくしたてはじめる。
「何が…第一に、お前が術を暴発させて被害を無駄に倍増させるだろう?だが、お前は絶対に反省をしない!そうなると色々と責任を取らされる上に、総帥と御三家の各当主による説教だ…お前に関わると、ろくな事にならない」
そもそも、キールはセネトが退魔士見習いをしていた時、試験監督官を努めていた事があった。
その時までは、何とも思っていなかったのだが――
とある平野での"眠れぬ死者"討伐で、現場周辺をセネトが魔法で吹っ飛ばしたのだ。
平野に大きな穴を開けた事で、関係各所に迷惑をかけてしまい…キールは責任を取らされてしまったわけである。
それがトラウマのようになった為、医院立てこもりという手段にでたらしい。
そんな2人のやり取りを聞いていたクリストフは、笑いをこらえるように肩を揺らしている。
「だそうですよ…でも、これが原因なのかあなたと組みたがる者が出てこない」
「…それ、ネーメットのじいさんにも言われた。おれは、普通にやってるだけだって!」
むっとしたように、クリストフを見たセネトが反論した。
反省の『は』の字を見せていないセネトの様子に、クロストは咳払いをしつつキールに声をかける。
「セネトの感覚で普通だというのならば、皆が普通でない事になるだろう。まぁ…今回は大丈夫だと思うが、心配ならばクリストフを連れて行くか?キール…」
「はぁ?ちょ…ちょっと待ってください、ユースミルス卿――僕は無理ですよ!?」
クロストの突然の提案に、クリストフは素っ頓狂な声をだし慌てたように言った。
だが、当のクロストは笑いながらキールからクリストフの方へ視線を向ける。
「大丈夫だぞ?お前の仕事は他の者に任せればいいのだから、セネトはお前の部下だ。責任を取るのも、上司の務めだろう?」
「…息子の不始末は親であるあなたが、というのもありかと…?」
ひきつった笑みを浮かべたクリストフがクロストを恨みがましく見遣ると、クロストはさっと笑みを消して、セネトへ視線を戻した。
……どうやら、父親の方も説教コースは避けたかったようだ。
「こほん…まぁ、大丈夫だろうから――話を戻そう。ソーシアンの失敗によって夢魔が力をつけてしまったようで、な。それでセネト、お前に白羽の矢がたったんだ」
「白羽の矢がたった…というか、エトレカのばあさんが勝手に指名してきただけだろうが」
少々気分を害しているセネトは背を伸ばしてから、座っていた診察台から降りる。
そして、キールやクリストフ、クロストの順で指差すと怒鳴りつけた。
「嫌々だけど、あの双子の尻拭いをしてやるよ。エトレカのばあさんに借りを作っておくのもありだしな…そんでもって、お前ら幹部のおれへの評価を変えてやるからな!!」
「…それは、お前の頑張り次第だな。まぁ、意地になり過ぎて二次被害を起こさないようにしろよ」
意地の悪い笑みを浮かべたクロストは、意地になっている息子を見ながら優しく諭した。
***
本来ならば…夢魔を追い払うなり、倒すなりすればいいだけなのだが……
どういうわけか、双子の兄妹まで夢魔に捕らわれ…よりにもよって、ゼネス村に他の夢魔をたくさん呼び集めるという事態を引き起こした。
「――というわけで、見事に失敗した上にぐっすりと現在も眠っている。ジスカの手配で、ソーシアン兄妹はこの医院に運び込まれたが」
クリストフの説明が終わったところで、クロストが苦笑混じりに言う。
「ジスカから手紙で知らされたが、セリーヌから夢魔を引きずり出せたところまではよかったらしい。その後、仲良く夢魔の術に取り込まれたそうだが」
「そりゃ…エトレカのばあさんは怒るよな。しかし、何でおれが尻拭いをしないといけないんだよ…」
怒り心頭であろうエトレカの姿を思い浮かべたセネトは呆れながら呟いた。
丸椅子に腰かけていたキールが、とても嫌そうに囁く。
「お前はソーシアンの尻拭いが嫌なのかもしれないが、私はお前と組むのが嫌だな。今回、私は我慢するんだ…お前もしたらどうだ?」
「わかってるって…ところでさ、キール。何で、そんなにおれと組むのが嫌なんだよ?」
渋々頷いたセネトが、ずっと気になってた疑問を訊ねた。
腕を組んだキールはセネトをじと目で見ながら、口早にまくしたてはじめる。
「何が…第一に、お前が術を暴発させて被害を無駄に倍増させるだろう?だが、お前は絶対に反省をしない!そうなると色々と責任を取らされる上に、総帥と御三家の各当主による説教だ…お前に関わると、ろくな事にならない」
そもそも、キールはセネトが退魔士見習いをしていた時、試験監督官を努めていた事があった。
その時までは、何とも思っていなかったのだが――
とある平野での"眠れぬ死者"討伐で、現場周辺をセネトが魔法で吹っ飛ばしたのだ。
平野に大きな穴を開けた事で、関係各所に迷惑をかけてしまい…キールは責任を取らされてしまったわけである。
それがトラウマのようになった為、医院立てこもりという手段にでたらしい。
そんな2人のやり取りを聞いていたクリストフは、笑いをこらえるように肩を揺らしている。
「だそうですよ…でも、これが原因なのかあなたと組みたがる者が出てこない」
「…それ、ネーメットのじいさんにも言われた。おれは、普通にやってるだけだって!」
むっとしたように、クリストフを見たセネトが反論した。
反省の『は』の字を見せていないセネトの様子に、クロストは咳払いをしつつキールに声をかける。
「セネトの感覚で普通だというのならば、皆が普通でない事になるだろう。まぁ…今回は大丈夫だと思うが、心配ならばクリストフを連れて行くか?キール…」
「はぁ?ちょ…ちょっと待ってください、ユースミルス卿――僕は無理ですよ!?」
クロストの突然の提案に、クリストフは素っ頓狂な声をだし慌てたように言った。
だが、当のクロストは笑いながらキールからクリストフの方へ視線を向ける。
「大丈夫だぞ?お前の仕事は他の者に任せればいいのだから、セネトはお前の部下だ。責任を取るのも、上司の務めだろう?」
「…息子の不始末は親であるあなたが、というのもありかと…?」
ひきつった笑みを浮かべたクリストフがクロストを恨みがましく見遣ると、クロストはさっと笑みを消して、セネトへ視線を戻した。
……どうやら、父親の方も説教コースは避けたかったようだ。
「こほん…まぁ、大丈夫だろうから――話を戻そう。ソーシアンの失敗によって夢魔が力をつけてしまったようで、な。それでセネト、お前に白羽の矢がたったんだ」
「白羽の矢がたった…というか、エトレカのばあさんが勝手に指名してきただけだろうが」
少々気分を害しているセネトは背を伸ばしてから、座っていた診察台から降りる。
そして、キールやクリストフ、クロストの順で指差すと怒鳴りつけた。
「嫌々だけど、あの双子の尻拭いをしてやるよ。エトレカのばあさんに借りを作っておくのもありだしな…そんでもって、お前ら幹部のおれへの評価を変えてやるからな!!」
「…それは、お前の頑張り次第だな。まぁ、意地になり過ぎて二次被害を起こさないようにしろよ」
意地の悪い笑みを浮かべたクロストは、意地になっている息子を見ながら優しく諭した。
***
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
惑う霧氷の彼方
雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。
ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。
山間の小さな集落…
…だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。
――死者は霧と共に現れる…
小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは?
そして、少女が失った大切なものとは一体…?
小さな集落に死者たちの霧が包み込み…
今、悲しみの鎮魂歌が流れる…
それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる