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1話「嘆きの墓標」
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フローラントにある退魔士協会の本部の、とある一室――
今回の件についての報告書を受け取った銀髪の青年は、ソファーに腰掛けると口を開く。
「結局…"眠れぬ死者"の討伐のみ、になりましたか……」
「すまんかったのぅ…あやつの暴走を止めきらんかったわ」
報告書を青年に手渡したのは、セネトと行動を共にしたネーメットだ。
ネーメットは青年が座るソファーの向かいに腰掛け、ローテーブルに置かれたお茶を飲む。
その言葉に青年は首をかしげていると報告書の他に、もう一枚貼付された紙の存在に気づいた。
…どうやら、それは"オラトリオ教団"からの請求書であるようで――
「うわぁ…墓地の修繕費と、破壊された地下施設の補修費…ですか。これだけでも、恐ろしい額です…」
思わず二度見してしまった青年は、大きくため息をついて頭を抱えてしまう。
申し訳なさそうに頭を下げたネーメットに、首を横にふると声をかけた。
「頭を上げてください…ネーメット殿。誰のせいでもないのですから…」
青年の言葉に、もう一度頭を下げるネーメットは何か思い出したらしく体勢はそのままに顔を少し上げて声を潜める。
「今回も…やつらの痕跡があったぞ。その証拠に…【赤き大地】もおった」
「そうですか…数年前に封じられていた彼が、ですか」
何かを考え込んでいる青年は立ち上がると、自分のデスクの引き出しから一枚の書類を取り出した。
そして、それをネーメットに手渡して言葉を続ける。
「数日前にも…彼の姿が目撃されているんです。それと――彼の主も」
再びソファーに座った青年は、ローテーブルに置かれている自分のお茶を口に含んだ。
受け取った書類に目を通したネーメットが、書類をローテーブルに置いて安堵したように息をつく。
「なるほど…怪我人がでなかったのは幸いだ。おぉ、そうじゃった――ひとつ頼みがあるのじゃが」
「はい?何ですか?」
何か頼み事のあるらしいネーメットに、青年は首をかしげて訊ねた。
少し言い難そうに、ネーメットが内容を口にする。
「あやつの――セネトのノルマの件じゃが、何とかならぬか?今回は――まぁ、あの魔術士の保護はできんかったが…一応は頑張っておったし」
「保護できなかったのは、まぁ…仕方ない事が重なってしまったからなのでいいのですが――」
青年は困惑しながら、苦笑混じりに言葉を続けた。
「何とかしたくても、ユースミルス卿から言われているのですよ…ダメだ、と」
「なるほどのぅ――あやつに先手を打たれてしまったか。さすがよ…」
良く知る友の行動の早さに、ネーメットは思わず笑ってしまう。
そして、立ち上がったネーメットは扉の前に移動してドアノブに手をかけた。
「セネトには、諦めるよう言っておくわい…次に、あやつに付く者にも気をつけるよう言うのじゃぞ」
「わかっていますよ、ネーメット殿…今回はお疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいね」
微笑んだ青年に、ネーメットは頷き答えてから部屋を後にする。
ネーメットを見送った青年は報告書を自分のデスクの上に放り投げ、備え置かれている電話に手を伸ばした。
そして、受話器を手にし――ダイヤルを押して、数秒間待ち相手がでたのを確認すると声をかける。
「あぁ…僕です。少し頼みたい事があるのですが――」
今回の件についての報告書を受け取った銀髪の青年は、ソファーに腰掛けると口を開く。
「結局…"眠れぬ死者"の討伐のみ、になりましたか……」
「すまんかったのぅ…あやつの暴走を止めきらんかったわ」
報告書を青年に手渡したのは、セネトと行動を共にしたネーメットだ。
ネーメットは青年が座るソファーの向かいに腰掛け、ローテーブルに置かれたお茶を飲む。
その言葉に青年は首をかしげていると報告書の他に、もう一枚貼付された紙の存在に気づいた。
…どうやら、それは"オラトリオ教団"からの請求書であるようで――
「うわぁ…墓地の修繕費と、破壊された地下施設の補修費…ですか。これだけでも、恐ろしい額です…」
思わず二度見してしまった青年は、大きくため息をついて頭を抱えてしまう。
申し訳なさそうに頭を下げたネーメットに、首を横にふると声をかけた。
「頭を上げてください…ネーメット殿。誰のせいでもないのですから…」
青年の言葉に、もう一度頭を下げるネーメットは何か思い出したらしく体勢はそのままに顔を少し上げて声を潜める。
「今回も…やつらの痕跡があったぞ。その証拠に…【赤き大地】もおった」
「そうですか…数年前に封じられていた彼が、ですか」
何かを考え込んでいる青年は立ち上がると、自分のデスクの引き出しから一枚の書類を取り出した。
そして、それをネーメットに手渡して言葉を続ける。
「数日前にも…彼の姿が目撃されているんです。それと――彼の主も」
再びソファーに座った青年は、ローテーブルに置かれている自分のお茶を口に含んだ。
受け取った書類に目を通したネーメットが、書類をローテーブルに置いて安堵したように息をつく。
「なるほど…怪我人がでなかったのは幸いだ。おぉ、そうじゃった――ひとつ頼みがあるのじゃが」
「はい?何ですか?」
何か頼み事のあるらしいネーメットに、青年は首をかしげて訊ねた。
少し言い難そうに、ネーメットが内容を口にする。
「あやつの――セネトのノルマの件じゃが、何とかならぬか?今回は――まぁ、あの魔術士の保護はできんかったが…一応は頑張っておったし」
「保護できなかったのは、まぁ…仕方ない事が重なってしまったからなのでいいのですが――」
青年は困惑しながら、苦笑混じりに言葉を続けた。
「何とかしたくても、ユースミルス卿から言われているのですよ…ダメだ、と」
「なるほどのぅ――あやつに先手を打たれてしまったか。さすがよ…」
良く知る友の行動の早さに、ネーメットは思わず笑ってしまう。
そして、立ち上がったネーメットは扉の前に移動してドアノブに手をかけた。
「セネトには、諦めるよう言っておくわい…次に、あやつに付く者にも気をつけるよう言うのじゃぞ」
「わかっていますよ、ネーメット殿…今回はお疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいね」
微笑んだ青年に、ネーメットは頷き答えてから部屋を後にする。
ネーメットを見送った青年は報告書を自分のデスクの上に放り投げ、備え置かれている電話に手を伸ばした。
そして、受話器を手にし――ダイヤルを押して、数秒間待ち相手がでたのを確認すると声をかける。
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