うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
上 下
20 / 94
1話「嘆きの墓標」

15

しおりを挟む
フローラントにある退魔士協会の本部の、とある一室――
今回の件についての報告書を受け取った銀髪の青年は、ソファーに腰掛けると口を開く。

「結局…"眠れぬ死者"の討伐のみ、になりましたか……」
「すまんかったのぅ…あやつの暴走を止めきらんかったわ」

報告書を青年に手渡したのは、セネトと行動を共にしたネーメットだ。
ネーメットは青年が座るソファーの向かいに腰掛け、ローテーブルに置かれたお茶を飲む。
その言葉に青年は首をかしげていると報告書の他に、もう一枚貼付された紙の存在に気づいた。

…どうやら、それは"オラトリオ教団"からの請求書であるようで――

「うわぁ…墓地の修繕費と、破壊された地下施設の補修費…ですか。これだけでも、恐ろしい額です…」

思わず二度見してしまった青年は、大きくため息をついて頭を抱えてしまう。
申し訳なさそうに頭を下げたネーメットに、首を横にふると声をかけた。

「頭を上げてください…ネーメット殿。誰のせいでもないのですから…」

青年の言葉に、もう一度頭を下げるネーメットは何か思い出したらしく体勢はそのままに顔を少し上げて声を潜める。

「今回も…の痕跡があったぞ。その証拠に…【赤き大地】もおった」
「そうですか…数年前に封じられていた彼が、ですか」

何かを考え込んでいる青年は立ち上がると、自分のデスクの引き出しから一枚の書類を取り出した。
そして、それをネーメットに手渡して言葉を続ける。

「数日前にも…彼の姿が目撃されているんです。それと――彼の主も」

再びソファーに座った青年は、ローテーブルに置かれている自分のお茶を口に含んだ。
受け取った書類に目を通したネーメットが、書類それをローテーブルに置いて安堵したように息をつく。

「なるほど…怪我人がでなかったのは幸いだ。おぉ、そうじゃった――ひとつ頼みがあるのじゃが」
「はい?何ですか?」

何か頼み事のあるらしいネーメットに、青年は首をかしげて訊ねた。
少し言い難そうに、ネーメットが内容を口にする。

「あやつの――セネトのノルマの件じゃが、何とかならぬか?今回は――まぁ、あの魔術士のはできんかったが…一応は頑張っておったし」
できなかったのは、まぁ…仕方ない事が重なってしまったからなのでいいのですが――」

青年は困惑しながら、苦笑混じりに言葉を続けた。

「何とかしたくても、ユースミルス卿から言われているのですよ…ダメだ、と」
「なるほどのぅ――あやつに先手を打たれてしまったか。さすがよ…」

良く知る友の行動の早さに、ネーメットは思わず笑ってしまう。
そして、立ち上がったネーメットは扉の前に移動してドアノブに手をかけた。

「セネトには、諦めるよう言っておくわい…次に、あやつに付く者にも気をつけるよう言うのじゃぞ」
「わかっていますよ、ネーメット殿…今回はお疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいね」

微笑んだ青年に、ネーメットは頷き答えてから部屋を後にする。


ネーメットを見送った青年は報告書を自分のデスクの上に放り投げ、備え置かれている電話に手を伸ばした。
そして、受話器を手にし――ダイヤルを押して、数秒間待ち相手がでたのを確認すると声をかける。

「あぁ…僕です。少し頼みたい事があるのですが――」
しおりを挟む
拍手ボタン】【マシュマロ】【質問箱
(コメントしていただけると励みになります)

○個人サイトでも公開中。
(※現在、次話を執筆中ですので公開までしばらくお待ちください)

・本作は『妖煌吸血鬼シリーズ』の1作目になります。
感想 0

あなたにおすすめの小説

惑う霧氷の彼方

雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。 ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。 山間の小さな集落… …だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。 ――死者は霧と共に現れる… 小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは? そして、少女が失った大切なものとは一体…? 小さな集落に死者たちの霧が包み込み… 今、悲しみの鎮魂歌が流れる… それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語―― *** 自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。 ※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。 ⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。 本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...