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1話「嘆きの墓標」
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ルドルフの隙をついてセネトは2つの異なる術式を描きだし、それぞれに魔力を込めると術を発動させる。
2つの術式から現れた『火』と『風』の刃が合わさって火をまとった風の刃となり、それをセネトはルドルフに向けて飛ばした。
それに気づいたルドルフは大きくため息をつくと、右手を前に掲げる。
「ったく…お前と遊んでるヒマは、ねーつってんだろーが」
素早く術式を描いたルドルフが魔力を込めて術を発動させ、現れた渦巻く風の壁が飛んでくる火をまとった風の刃を防いだ。
「さすがに…これ以上、ここで遊んでる時間はねーか。引き裂きな!」
何かを気にしながら呟いたルドルフは再び術式を描いて魔力を込めると複数の風の刃が現れ、セネトに向けて放った。
瞬時に防御魔法の術式を描きだしたセネトが、すぐに術を発動させてルドルフの放った風の刃すべて防ぐ。
「大体…これは、遊びじゃないんだぞ!!」
自分を睨んでそんな事を言うセネトに、ルドルフがうんざりしたような表情を浮かべた。
「…お前にだけは、言われたくねーよ!じゃあな!!」
それだけを言うと、ルドルフの姿が徐々に消えて見えなくなっていく……
また不意をつくような攻撃をしてくるのでは…と警戒するセネトだったが、辺りからルドルフの気配がまったく感じられないので安堵したように息をついた。
「…ちっ、逃げられたか。せっかくの、おれのノルマが…」
「せめて本音は隠しておかぬか、セネト。また『退魔士としての心得が足りない』と言うて、お前さんの父親に叱られるぞ?」
ため息をついたネーメットは剣を鞘におさめて、呆れた口調で言う。
しかし、意に介していないセネトは首をかしげてネーメットに訊ねた。
「…ネーメットのじいさんが黙ってくれりゃいいだろ?それよりも…あいつ、ルドルフだっけ?それなりに高位の吸血鬼のようだけど――協会のデータの中にあるのかな?」
「ある…というか、あやつは【赤き大地】じゃよ。セネト…お前さん、まったく資料を見ておらんな」
鞘にしまった剣でセネトの頭をつつきながら、ネーメットは言葉を続ける。
「あやつは【灰白の影】の眷族…しかし、本当に封印が解けておったとはのぅ…」
「へぇー…あいつ、封じられてたのかよ。しっかし…何が目的なのか、まったくわかんないな」
腕の傷口をおさえて呟いたセネトは、倒れたグラハムを抱きかかえたままのハミルトに視線を向けた。
グラハムの頭を優しく撫でているハミルトに、セネトは申し訳なさそうに声をかける。
「…守ってやれなくて、すまなかったな――こいつの事」
「いや、私が気づかなかったのが原因なんだ…気にしなくていいよ。ただ…グラハムには、痛い思いをさせてしまったな」
苦笑混じりに言うハミルトに、セネトは俯いて静かに眠るグラハムに触れようと手を伸ばした。
「…っ、触るな!」
ものすごい勢いで手を払いのけたハミルトの剣幕に、セネトは何が起こったのかわからず驚いたように彼を見つめる。
「な、何をするんだ!」
「…まぁ、お前さんの気持ちもわからぬわけではないがのぅ…」
セネトとハミルトの様子を見たネーメットは、呆れたように声をかけた。
そして、ネーメットが続けて何か言おうと口を開きかける…が、それよりも先に屈み込んだセネトがハミルトを説得するように話しはじめる。
「そいつ…ここで命を落としただろ――だから、浄化してやらないと"動く死者"になる。儀式だったら教団のやつを呼ぶし、ネーメットのじいさんとかに任せておけば大丈夫だって…だから――」
この言葉に、ハミルトは目を丸くさせ…ネーメットは眉を少し動かして、不思議そうにセネトを見ていた。
2人共に何か引っかかりを感じているようだが、セネト本人は何も気にならなかったようだ。
ため息をついたハミルトは、セネトを真っ直ぐ見ると静かに口を開く。
「きみは――いや、いいか。悪いけど、グラハムの事は私にまかせてほしい。別に、きみ達の事を信用していないわけではないんだ…ただ、今は私にまかせてくれると嬉しい…」
「それは…一体どういう――」
セネトの言葉を最後まで聞かず、ハミルトは略式で移送魔法の術式を描きだすと魔力を込めた。
それから、グラハムの身体を強く抱きしめる。
「今回の事は…本当に、申し訳ない事をしたと思っている。この罪を償いたいと思っている――でも、今は時間がほしいんだ…」
「じ…時間を?」
セネトが驚きながら訊き返すが、ハミルトは何も答えず移送魔法を発動させた。
止める間もなく、ハミルトとグラハムの姿は移送魔法の光に包まれ消えていく――
この場に残されたセネトとネーメットは、先ほどまでハミルト達のいたところをただ静かに見つめる事しかできなかった。
セネトは唖然としたまま、ネーメットに訊ねる。
「なぁ、この場合…ノルマって、どうなる…?」
「そうじゃのぅ…多くて半分、くらいか。おそらくは…」
ため息をついたネーメットは、うなだれているセネトの肩に手を置いた。
その言葉に、セネトは深いため息をついて力なく呟く。
「…予定では、これで今月あがりだったんだけどな…多くて、半分…」
もう一度だけ、セネトはため息をつくのだった……
***
2つの術式から現れた『火』と『風』の刃が合わさって火をまとった風の刃となり、それをセネトはルドルフに向けて飛ばした。
それに気づいたルドルフは大きくため息をつくと、右手を前に掲げる。
「ったく…お前と遊んでるヒマは、ねーつってんだろーが」
素早く術式を描いたルドルフが魔力を込めて術を発動させ、現れた渦巻く風の壁が飛んでくる火をまとった風の刃を防いだ。
「さすがに…これ以上、ここで遊んでる時間はねーか。引き裂きな!」
何かを気にしながら呟いたルドルフは再び術式を描いて魔力を込めると複数の風の刃が現れ、セネトに向けて放った。
瞬時に防御魔法の術式を描きだしたセネトが、すぐに術を発動させてルドルフの放った風の刃すべて防ぐ。
「大体…これは、遊びじゃないんだぞ!!」
自分を睨んでそんな事を言うセネトに、ルドルフがうんざりしたような表情を浮かべた。
「…お前にだけは、言われたくねーよ!じゃあな!!」
それだけを言うと、ルドルフの姿が徐々に消えて見えなくなっていく……
また不意をつくような攻撃をしてくるのでは…と警戒するセネトだったが、辺りからルドルフの気配がまったく感じられないので安堵したように息をついた。
「…ちっ、逃げられたか。せっかくの、おれのノルマが…」
「せめて本音は隠しておかぬか、セネト。また『退魔士としての心得が足りない』と言うて、お前さんの父親に叱られるぞ?」
ため息をついたネーメットは剣を鞘におさめて、呆れた口調で言う。
しかし、意に介していないセネトは首をかしげてネーメットに訊ねた。
「…ネーメットのじいさんが黙ってくれりゃいいだろ?それよりも…あいつ、ルドルフだっけ?それなりに高位の吸血鬼のようだけど――協会のデータの中にあるのかな?」
「ある…というか、あやつは【赤き大地】じゃよ。セネト…お前さん、まったく資料を見ておらんな」
鞘にしまった剣でセネトの頭をつつきながら、ネーメットは言葉を続ける。
「あやつは【灰白の影】の眷族…しかし、本当に封印が解けておったとはのぅ…」
「へぇー…あいつ、封じられてたのかよ。しっかし…何が目的なのか、まったくわかんないな」
腕の傷口をおさえて呟いたセネトは、倒れたグラハムを抱きかかえたままのハミルトに視線を向けた。
グラハムの頭を優しく撫でているハミルトに、セネトは申し訳なさそうに声をかける。
「…守ってやれなくて、すまなかったな――こいつの事」
「いや、私が気づかなかったのが原因なんだ…気にしなくていいよ。ただ…グラハムには、痛い思いをさせてしまったな」
苦笑混じりに言うハミルトに、セネトは俯いて静かに眠るグラハムに触れようと手を伸ばした。
「…っ、触るな!」
ものすごい勢いで手を払いのけたハミルトの剣幕に、セネトは何が起こったのかわからず驚いたように彼を見つめる。
「な、何をするんだ!」
「…まぁ、お前さんの気持ちもわからぬわけではないがのぅ…」
セネトとハミルトの様子を見たネーメットは、呆れたように声をかけた。
そして、ネーメットが続けて何か言おうと口を開きかける…が、それよりも先に屈み込んだセネトがハミルトを説得するように話しはじめる。
「そいつ…ここで命を落としただろ――だから、浄化してやらないと"動く死者"になる。儀式だったら教団のやつを呼ぶし、ネーメットのじいさんとかに任せておけば大丈夫だって…だから――」
この言葉に、ハミルトは目を丸くさせ…ネーメットは眉を少し動かして、不思議そうにセネトを見ていた。
2人共に何か引っかかりを感じているようだが、セネト本人は何も気にならなかったようだ。
ため息をついたハミルトは、セネトを真っ直ぐ見ると静かに口を開く。
「きみは――いや、いいか。悪いけど、グラハムの事は私にまかせてほしい。別に、きみ達の事を信用していないわけではないんだ…ただ、今は私にまかせてくれると嬉しい…」
「それは…一体どういう――」
セネトの言葉を最後まで聞かず、ハミルトは略式で移送魔法の術式を描きだすと魔力を込めた。
それから、グラハムの身体を強く抱きしめる。
「今回の事は…本当に、申し訳ない事をしたと思っている。この罪を償いたいと思っている――でも、今は時間がほしいんだ…」
「じ…時間を?」
セネトが驚きながら訊き返すが、ハミルトは何も答えず移送魔法を発動させた。
止める間もなく、ハミルトとグラハムの姿は移送魔法の光に包まれ消えていく――
この場に残されたセネトとネーメットは、先ほどまでハミルト達のいたところをただ静かに見つめる事しかできなかった。
セネトは唖然としたまま、ネーメットに訊ねる。
「なぁ、この場合…ノルマって、どうなる…?」
「そうじゃのぅ…多くて半分、くらいか。おそらくは…」
ため息をついたネーメットは、うなだれているセネトの肩に手を置いた。
その言葉に、セネトは深いため息をついて力なく呟く。
「…予定では、これで今月あがりだったんだけどな…多くて、半分…」
もう一度だけ、セネトはため息をつくのだった……
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