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1話「嘆きの墓標」
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何も映さぬ瞳をセネト達に向けていたカトリが優しげに微笑み、ゆっくりと両手を前へと掲げた。
そして、ひとつの術式を描きだす…――
「…一体、何をする気だ?」
先ほどまでと違うカトリの雰囲気に警戒したセネトは、いつ何が起こっても対処できるように構えた。
ネーメット、グラハム、ハミルトの3人も、まったく行動の読めないカトリの様子を警戒している。
カトリは微笑みながら声をださず、ひとつの言葉を紡ぎだした。
「えーっと…『き・え・ろ・わ・れ・ら・の・じゃ・ま・を・す・る・も・の・た・ち・よ』?」
唇の動きだけで何を言っているのか理解したセネトは、それをゆっくりと言葉にする。
ハミルトはカトリが何をしようとしているのか、その意図に気づいて術式を描きながら声を荒げた。
「まずい…最大出力で私達ごと、ここを吹っ飛ばすつもりだ!」
「ちっ…そういう事をやるのは、セネト一人で十分じゃぞ!」
舌打ちしながらセネトをちらりと見たネーメットは、ハミルトが描いている術式と同じものを描きはじめる。
そして、2人はほぼ同時に術式に魔力を込めると――異口同音で詠唱した。
「リフレクト!」
「――爆ぜろ!フレア・ボルト」
カトリも、ハミルトとネーメットが術を発動すると同時に詠唱を終えていたらしく…彼女の描きだした術式から雷炎が出現し、セネト達に襲いかかる。
それがセネト達の周囲を渦巻くと大爆発が起こり、爆音と爆風で周囲はすべてから隔離されたかのように無音となった。
ハミルトとネーメットの作った防御魔法のおかげでセネト達は無傷であったが、爆発した影響の為か…室内は原型をほとんどとどめていないようだ。
…それでも地下が崩れ落ちないという事は、ここの造りが頑丈だという事なのだろう。
「ごほっ…これでおれのせいじゃなくなったな、やったー。ネーメットのじいさん…あいつに言わないよな?」
咳き込んだセネトは、砂埃のあがる室内を見回しながら訊いた。
剣を持ち直してカトリの、次の行動を警戒するネーメットは呆れながらセネトに目を向ける。
「…いや、事の成り行きなどは報告するつもりじゃ。あやつにも…そう頼まれておるからのぅ。あと、報告書は必ずお前さんが書くようにともな」
「ちっ…面倒だな」
舌打ちするセネトの頭を、ネーメットがため息をついて思いっきりはたいた。
そんなセネトとネーメットに視線を向けたハミルトは、頭を抱えて座り込んでいるグラハムにこっそりと囁く。
「グラハム…このまま長引けば、きみの身が危ない。だから、前に一緒に考えた術を使おう…ね?」
「うん…でも、本当にいいの?僕は…別に大丈夫だよ?」
顔を上げたグラハムが複雑そうな表情を浮かべると、ハミルトはさらに声を潜めるように言った。
「あぁ、私達はカトリに本当に申し訳ない事をしてしまった。それは償わなければいけない…けど、このままだと話がややこしくなるというか――とにかく、穏便に終わらせなければ本当にきみが危ないんだよ?今の状況をわかっているだろう…それに、カトリも同じ事を考えると思うよ」
何度か、セネトとネーメットの様子をうかがいながら諭すように言ったハミルトはグラハムの頭を撫でる。
ハミルトの言葉に、グラハムは再び俯くと、何かを決心したように頷いた。
「…優しかったカトリの為だもん。僕、できるだけ頑張るよ」
ゆっくりと頷いたハミルトが右手を掲げると、グラハムはそっと左手を重ねる。
「…悠久なる地にありし、氷河の一滴よ――」
そして、2人は術式を描きだすと魔力を込めながら小声で詠唱をはじめたのだった。
***
そして、ひとつの術式を描きだす…――
「…一体、何をする気だ?」
先ほどまでと違うカトリの雰囲気に警戒したセネトは、いつ何が起こっても対処できるように構えた。
ネーメット、グラハム、ハミルトの3人も、まったく行動の読めないカトリの様子を警戒している。
カトリは微笑みながら声をださず、ひとつの言葉を紡ぎだした。
「えーっと…『き・え・ろ・わ・れ・ら・の・じゃ・ま・を・す・る・も・の・た・ち・よ』?」
唇の動きだけで何を言っているのか理解したセネトは、それをゆっくりと言葉にする。
ハミルトはカトリが何をしようとしているのか、その意図に気づいて術式を描きながら声を荒げた。
「まずい…最大出力で私達ごと、ここを吹っ飛ばすつもりだ!」
「ちっ…そういう事をやるのは、セネト一人で十分じゃぞ!」
舌打ちしながらセネトをちらりと見たネーメットは、ハミルトが描いている術式と同じものを描きはじめる。
そして、2人はほぼ同時に術式に魔力を込めると――異口同音で詠唱した。
「リフレクト!」
「――爆ぜろ!フレア・ボルト」
カトリも、ハミルトとネーメットが術を発動すると同時に詠唱を終えていたらしく…彼女の描きだした術式から雷炎が出現し、セネト達に襲いかかる。
それがセネト達の周囲を渦巻くと大爆発が起こり、爆音と爆風で周囲はすべてから隔離されたかのように無音となった。
ハミルトとネーメットの作った防御魔法のおかげでセネト達は無傷であったが、爆発した影響の為か…室内は原型をほとんどとどめていないようだ。
…それでも地下が崩れ落ちないという事は、ここの造りが頑丈だという事なのだろう。
「ごほっ…これでおれのせいじゃなくなったな、やったー。ネーメットのじいさん…あいつに言わないよな?」
咳き込んだセネトは、砂埃のあがる室内を見回しながら訊いた。
剣を持ち直してカトリの、次の行動を警戒するネーメットは呆れながらセネトに目を向ける。
「…いや、事の成り行きなどは報告するつもりじゃ。あやつにも…そう頼まれておるからのぅ。あと、報告書は必ずお前さんが書くようにともな」
「ちっ…面倒だな」
舌打ちするセネトの頭を、ネーメットがため息をついて思いっきりはたいた。
そんなセネトとネーメットに視線を向けたハミルトは、頭を抱えて座り込んでいるグラハムにこっそりと囁く。
「グラハム…このまま長引けば、きみの身が危ない。だから、前に一緒に考えた術を使おう…ね?」
「うん…でも、本当にいいの?僕は…別に大丈夫だよ?」
顔を上げたグラハムが複雑そうな表情を浮かべると、ハミルトはさらに声を潜めるように言った。
「あぁ、私達はカトリに本当に申し訳ない事をしてしまった。それは償わなければいけない…けど、このままだと話がややこしくなるというか――とにかく、穏便に終わらせなければ本当にきみが危ないんだよ?今の状況をわかっているだろう…それに、カトリも同じ事を考えると思うよ」
何度か、セネトとネーメットの様子をうかがいながら諭すように言ったハミルトはグラハムの頭を撫でる。
ハミルトの言葉に、グラハムは再び俯くと、何かを決心したように頷いた。
「…優しかったカトリの為だもん。僕、できるだけ頑張るよ」
ゆっくりと頷いたハミルトが右手を掲げると、グラハムはそっと左手を重ねる。
「…悠久なる地にありし、氷河の一滴よ――」
そして、2人は術式を描きだすと魔力を込めながら小声で詠唱をはじめたのだった。
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