9 / 94
1話「嘆きの墓標」
4
しおりを挟む
「先ほどの…上にいた死者達を倒したのだから、これも簡単かな?」
テーブルの上に座ったハミルトはそう言うと、ただひとつ術をかけなかったらしいセネト達の背後にある培養槽を悲しそうに見つめていた。
(こいつ…次は何をする気だ?)
自由を得た死者達から身を護るために結界をはりながら、セネトは警戒するようにハミルトの様子を窺う。
しかし、ハミルトは座ったまま…ただ静かに、恋人が眠る培養槽を見つめているだけのようだ。
「あやつは、今は何もしてこんじゃろう…とりあえず5体ずつ片づけるぞ、セネト」
剣を鞘から抜いたネーメットは、セネトに声をかけた。
「とりあえず、ワシの邪魔をするでないぞ…」
「へいへい…邪魔しようものなら、おれも一緒に斬り捨てるんだろ?それよりも、おれは武器がないんだけど?」
何も持っていないというように手を振ったセネトに、ネーメットは呆れながら言う。
「護身用にナイフを持っておるだろうに…まったく。ならば、お前さんは好きに術を使えば良いじゃろう」
抜き身のままセネトへ向けたネーメットは、右側から襲いくる死者を素早く斬った。
その様子を見ていたセネトは、術式を描きながら感心したように呟く。
「了解、好きにさせてもらいますよ――って、うへぇー…さすがは『神速剣の使い手』と謳われてるだけの事はあるな」
術式に魔力を込めたセネトは、自分のそばまで近づいてきた死者に向けて術を放った。
セネトの描いた術式から生みだされたのは、不可視の風の刃だ。
その風の刃は死者の身体を真っ二つに裂いていった、がセネトはある事に気づく。
斬られ、身体を裂かれた死者達の傷口の肉が盛り上がると傷口同士が結びついて瞬時に再生していたのだから――
「げっ…まじかよ…」
嫌そうな表情を浮かべたセネトが思わず呟いていると、何かを思い出したように手を打ったハミルトは口を開いた。
「あぁ…そうそう、ひとつ言い忘れていたよ。それ、再生能力が最大まで高められているそうだよ」
「そ、そういう事は…早く言え!」
どこか他人事のようなハミルトに、セネトはうなだれながらため息をついて再び襲いくる死者を蹴り飛ばす。
「ったく、面倒くさいタイプだと最初に気づいてればな…あー、一気にぶっ飛ばす事ができればなー。すごく楽なのに…」
「ぶっ飛ばす…って、上でやったようにかい?」
地上の方を指差したハミルトが、苦笑混じりに言葉を続けた。
「あれには少し驚かされたよ、墓地を荒らす退魔士がいるんだな…と」
「だから言ったじゃろ…地道にやった方が良いと」
再生した死者達を再び斬ったネーメットは、呆れ果てた表情でセネトを見る。
ネーメットの視線に気づいたセネトであったが、それを無視して再び襲いくる死者に回し蹴りを入れた。
そして、ハミルトを指差したセネトは怒りの矛先を向ける。
「一番荒らしているヤツに言われたくないぞ!」
(…どう考えても、セネトのやつが一番荒らしておったよのぅ)
まったく説得力のないセネトを、ネーメットは半ば呆れながら見やった。
…そして、おそらくはハミルトも同じ事を思ったに違いないだろう。
***
テーブルの上に座ったハミルトはそう言うと、ただひとつ術をかけなかったらしいセネト達の背後にある培養槽を悲しそうに見つめていた。
(こいつ…次は何をする気だ?)
自由を得た死者達から身を護るために結界をはりながら、セネトは警戒するようにハミルトの様子を窺う。
しかし、ハミルトは座ったまま…ただ静かに、恋人が眠る培養槽を見つめているだけのようだ。
「あやつは、今は何もしてこんじゃろう…とりあえず5体ずつ片づけるぞ、セネト」
剣を鞘から抜いたネーメットは、セネトに声をかけた。
「とりあえず、ワシの邪魔をするでないぞ…」
「へいへい…邪魔しようものなら、おれも一緒に斬り捨てるんだろ?それよりも、おれは武器がないんだけど?」
何も持っていないというように手を振ったセネトに、ネーメットは呆れながら言う。
「護身用にナイフを持っておるだろうに…まったく。ならば、お前さんは好きに術を使えば良いじゃろう」
抜き身のままセネトへ向けたネーメットは、右側から襲いくる死者を素早く斬った。
その様子を見ていたセネトは、術式を描きながら感心したように呟く。
「了解、好きにさせてもらいますよ――って、うへぇー…さすがは『神速剣の使い手』と謳われてるだけの事はあるな」
術式に魔力を込めたセネトは、自分のそばまで近づいてきた死者に向けて術を放った。
セネトの描いた術式から生みだされたのは、不可視の風の刃だ。
その風の刃は死者の身体を真っ二つに裂いていった、がセネトはある事に気づく。
斬られ、身体を裂かれた死者達の傷口の肉が盛り上がると傷口同士が結びついて瞬時に再生していたのだから――
「げっ…まじかよ…」
嫌そうな表情を浮かべたセネトが思わず呟いていると、何かを思い出したように手を打ったハミルトは口を開いた。
「あぁ…そうそう、ひとつ言い忘れていたよ。それ、再生能力が最大まで高められているそうだよ」
「そ、そういう事は…早く言え!」
どこか他人事のようなハミルトに、セネトはうなだれながらため息をついて再び襲いくる死者を蹴り飛ばす。
「ったく、面倒くさいタイプだと最初に気づいてればな…あー、一気にぶっ飛ばす事ができればなー。すごく楽なのに…」
「ぶっ飛ばす…って、上でやったようにかい?」
地上の方を指差したハミルトが、苦笑混じりに言葉を続けた。
「あれには少し驚かされたよ、墓地を荒らす退魔士がいるんだな…と」
「だから言ったじゃろ…地道にやった方が良いと」
再生した死者達を再び斬ったネーメットは、呆れ果てた表情でセネトを見る。
ネーメットの視線に気づいたセネトであったが、それを無視して再び襲いくる死者に回し蹴りを入れた。
そして、ハミルトを指差したセネトは怒りの矛先を向ける。
「一番荒らしているヤツに言われたくないぞ!」
(…どう考えても、セネトのやつが一番荒らしておったよのぅ)
まったく説得力のないセネトを、ネーメットは半ば呆れながら見やった。
…そして、おそらくはハミルトも同じ事を思ったに違いないだろう。
***
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
惑う霧氷の彼方
雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。
ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。
山間の小さな集落…
…だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。
――死者は霧と共に現れる…
小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは?
そして、少女が失った大切なものとは一体…?
小さな集落に死者たちの霧が包み込み…
今、悲しみの鎮魂歌が流れる…
それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる