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1話「嘆きの墓標」
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「先ほどの…上にいた死者達を倒したのだから、これも簡単かな?」
テーブルの上に座ったハミルトはそう言うと、ただひとつ術をかけなかったらしいセネト達の背後にある培養槽を悲しそうに見つめていた。
(こいつ…次は何をする気だ?)
自由を得た死者達から身を護るために結界をはりながら、セネトは警戒するようにハミルトの様子を窺う。
しかし、ハミルトは座ったまま…ただ静かに、恋人が眠る培養槽を見つめているだけのようだ。
「あやつは、今は何もしてこんじゃろう…とりあえず5体ずつ片づけるぞ、セネト」
剣を鞘から抜いたネーメットは、セネトに声をかけた。
「とりあえず、ワシの邪魔をするでないぞ…」
「へいへい…邪魔しようものなら、おれも一緒に斬り捨てるんだろ?それよりも、おれは武器がないんだけど?」
何も持っていないというように手を振ったセネトに、ネーメットは呆れながら言う。
「護身用にナイフを持っておるだろうに…まったく。ならば、お前さんは好きに術を使えば良いじゃろう」
抜き身のままセネトへ向けたネーメットは、右側から襲いくる死者を素早く斬った。
その様子を見ていたセネトは、術式を描きながら感心したように呟く。
「了解、好きにさせてもらいますよ――って、うへぇー…さすがは『神速剣の使い手』と謳われてるだけの事はあるな」
術式に魔力を込めたセネトは、自分のそばまで近づいてきた死者に向けて術を放った。
セネトの描いた術式から生みだされたのは、不可視の風の刃だ。
その風の刃は死者の身体を真っ二つに裂いていった、がセネトはある事に気づく。
斬られ、身体を裂かれた死者達の傷口の肉が盛り上がると傷口同士が結びついて瞬時に再生していたのだから――
「げっ…まじかよ…」
嫌そうな表情を浮かべたセネトが思わず呟いていると、何かを思い出したように手を打ったハミルトは口を開いた。
「あぁ…そうそう、ひとつ言い忘れていたよ。それ、再生能力が最大まで高められているそうだよ」
「そ、そういう事は…早く言え!」
どこか他人事のようなハミルトに、セネトはうなだれながらため息をついて再び襲いくる死者を蹴り飛ばす。
「ったく、面倒くさいタイプだと最初に気づいてればな…あー、一気にぶっ飛ばす事ができればなー。すごく楽なのに…」
「ぶっ飛ばす…って、上でやったようにかい?」
地上の方を指差したハミルトが、苦笑混じりに言葉を続けた。
「あれには少し驚かされたよ、墓地を荒らす退魔士がいるんだな…と」
「だから言ったじゃろ…地道にやった方が良いと」
再生した死者達を再び斬ったネーメットは、呆れ果てた表情でセネトを見る。
ネーメットの視線に気づいたセネトであったが、それを無視して再び襲いくる死者に回し蹴りを入れた。
そして、ハミルトを指差したセネトは怒りの矛先を向ける。
「一番荒らしているヤツに言われたくないぞ!」
(…どう考えても、セネトのやつが一番荒らしておったよのぅ)
まったく説得力のないセネトを、ネーメットは半ば呆れながら見やった。
…そして、おそらくはハミルトも同じ事を思ったに違いないだろう。
***
テーブルの上に座ったハミルトはそう言うと、ただひとつ術をかけなかったらしいセネト達の背後にある培養槽を悲しそうに見つめていた。
(こいつ…次は何をする気だ?)
自由を得た死者達から身を護るために結界をはりながら、セネトは警戒するようにハミルトの様子を窺う。
しかし、ハミルトは座ったまま…ただ静かに、恋人が眠る培養槽を見つめているだけのようだ。
「あやつは、今は何もしてこんじゃろう…とりあえず5体ずつ片づけるぞ、セネト」
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「とりあえず、ワシの邪魔をするでないぞ…」
「へいへい…邪魔しようものなら、おれも一緒に斬り捨てるんだろ?それよりも、おれは武器がないんだけど?」
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「護身用にナイフを持っておるだろうに…まったく。ならば、お前さんは好きに術を使えば良いじゃろう」
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「了解、好きにさせてもらいますよ――って、うへぇー…さすがは『神速剣の使い手』と謳われてるだけの事はあるな」
術式に魔力を込めたセネトは、自分のそばまで近づいてきた死者に向けて術を放った。
セネトの描いた術式から生みだされたのは、不可視の風の刃だ。
その風の刃は死者の身体を真っ二つに裂いていった、がセネトはある事に気づく。
斬られ、身体を裂かれた死者達の傷口の肉が盛り上がると傷口同士が結びついて瞬時に再生していたのだから――
「げっ…まじかよ…」
嫌そうな表情を浮かべたセネトが思わず呟いていると、何かを思い出したように手を打ったハミルトは口を開いた。
「あぁ…そうそう、ひとつ言い忘れていたよ。それ、再生能力が最大まで高められているそうだよ」
「そ、そういう事は…早く言え!」
どこか他人事のようなハミルトに、セネトはうなだれながらため息をついて再び襲いくる死者を蹴り飛ばす。
「ったく、面倒くさいタイプだと最初に気づいてればな…あー、一気にぶっ飛ばす事ができればなー。すごく楽なのに…」
「ぶっ飛ばす…って、上でやったようにかい?」
地上の方を指差したハミルトが、苦笑混じりに言葉を続けた。
「あれには少し驚かされたよ、墓地を荒らす退魔士がいるんだな…と」
「だから言ったじゃろ…地道にやった方が良いと」
再生した死者達を再び斬ったネーメットは、呆れ果てた表情でセネトを見る。
ネーメットの視線に気づいたセネトであったが、それを無視して再び襲いくる死者に回し蹴りを入れた。
そして、ハミルトを指差したセネトは怒りの矛先を向ける。
「一番荒らしているヤツに言われたくないぞ!」
(…どう考えても、セネトのやつが一番荒らしておったよのぅ)
まったく説得力のないセネトを、ネーメットは半ば呆れながら見やった。
…そして、おそらくはハミルトも同じ事を思ったに違いないだろう。
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