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1話「嘆きの墓標」
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フローラント退魔士国の右隣・アルノタウム公国にある、人里離れた墓地。
――辺りはすっかり夜の帳に包まれ…複数の"眠れぬ死者"だけが、まるで何かを探し求めているかのように動き回っていた。
動き回る死者達の中に、立ち尽くしている2つの影…一人は赤灰色の髪をした青年、もう一人はこげ茶色の髪をした50代前半の男だ。
この2人が着ている服は、淡い色の生地に濃い色の縁取りがされた――この世界で"退魔士"と呼ばれる職に就く者達が着ているものと同じである事から、この2人が退魔士であるとわかる。
どうやら、この地で動き回る死者達を討伐しに来たようだ。
こげ茶色の髪をした男が剣の柄を握り"眠れぬ死者"に視線を向けている隣で、赤灰色の髪をした青年はどこか楽しげに背を伸ばした。
「さて…と。どうしてやろうかな…」
少々呆れ気味にため息をついたこげ茶色の髪をした男は、彼の頭を平手でたたく。
「これ!セネト…お前さんというやつは!今回、お前さんを連れてきたのはワシの補佐をさせる為じゃぞ。ワシがあやつらを斬っていくので、お前さんが燃やせ」
「いってーな…そんな時間のかかる方法はやめてさ。こう…サッと終わる方法にしようぜ」
自分の頭をさすると、赤灰色の髪をした青年・セネトは術式を紡ぎながら詠唱をはじめた。
すると、術式が辺り全体を包むように広がり淡い光を帯びる。
「ネーメットのじいさん、巻き込まれたくなかったら動くなよ!…消し飛べ!!フレイム・ウォール!」
こげ茶色の髪をした男・ネーメットが止める間もなく、淡い光は炎の竜巻と化すと辺りを飲み込んでいった…――
***
――数十分後…気がつけば、辺りはすっかり焼け焦げていた。
まだ小さな火が残っているのだろう、ところどころ煙がたっているようだ。
「…前々から、言おう言おうと思っておったんじゃが」
剣を下ろしたネーメットは周囲を見回して、これでもかというほどの呆れ声で言葉を続ける。
「お前さん…馬鹿じゃのぅ。何も考えていない、ただのアホとも言えるが」
「う、うるさいな…いいだろう?これで"眠れぬ死者"は消えたんだからさ」
魔力を一気に消耗して疲労したらしいセネトは地面に座り込み、小さく首を左右に動かして肩を鳴らした。
…ちなみに"眠れぬ死者"達は消えたのではなく、跡形もなく燃え尽きてしまっただけである。
その上、墓地全体が焼け焦げているので修繕費はかなりの額になるだろう。
この件で、この場にいないとある人物の呆然とする姿を想像したネーメットは深いため息をついた。
(まったく…今回も、あやつが怒るような事になってしまったわい)
…おそらくだが、その人物は怒るより前に卒倒しかねないだろう。
原因を作ったセネト本人はネーメットのそんな心配事など気にした様子もなく、立ち上がると服についた砂埃をはたき落としていた。
「…休息も十分にとった事だし、そろそろ仕事に戻りますか。な、ネーメットのじいさん」
「……そうじゃのぅ。今回の目的だけは、忘れておらんかっただけよかったと思うておくかの…」
反省の『は』の字も見せていないセネトに、ネーメットは諦めたように頷くだけだった……
***
――辺りはすっかり夜の帳に包まれ…複数の"眠れぬ死者"だけが、まるで何かを探し求めているかのように動き回っていた。
動き回る死者達の中に、立ち尽くしている2つの影…一人は赤灰色の髪をした青年、もう一人はこげ茶色の髪をした50代前半の男だ。
この2人が着ている服は、淡い色の生地に濃い色の縁取りがされた――この世界で"退魔士"と呼ばれる職に就く者達が着ているものと同じである事から、この2人が退魔士であるとわかる。
どうやら、この地で動き回る死者達を討伐しに来たようだ。
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「いってーな…そんな時間のかかる方法はやめてさ。こう…サッと終わる方法にしようぜ」
自分の頭をさすると、赤灰色の髪をした青年・セネトは術式を紡ぎながら詠唱をはじめた。
すると、術式が辺り全体を包むように広がり淡い光を帯びる。
「ネーメットのじいさん、巻き込まれたくなかったら動くなよ!…消し飛べ!!フレイム・ウォール!」
こげ茶色の髪をした男・ネーメットが止める間もなく、淡い光は炎の竜巻と化すと辺りを飲み込んでいった…――
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――数十分後…気がつけば、辺りはすっかり焼け焦げていた。
まだ小さな火が残っているのだろう、ところどころ煙がたっているようだ。
「…前々から、言おう言おうと思っておったんじゃが」
剣を下ろしたネーメットは周囲を見回して、これでもかというほどの呆れ声で言葉を続ける。
「お前さん…馬鹿じゃのぅ。何も考えていない、ただのアホとも言えるが」
「う、うるさいな…いいだろう?これで"眠れぬ死者"は消えたんだからさ」
魔力を一気に消耗して疲労したらしいセネトは地面に座り込み、小さく首を左右に動かして肩を鳴らした。
…ちなみに"眠れぬ死者"達は消えたのではなく、跡形もなく燃え尽きてしまっただけである。
その上、墓地全体が焼け焦げているので修繕費はかなりの額になるだろう。
この件で、この場にいないとある人物の呆然とする姿を想像したネーメットは深いため息をついた。
(まったく…今回も、あやつが怒るような事になってしまったわい)
…おそらくだが、その人物は怒るより前に卒倒しかねないだろう。
原因を作ったセネト本人はネーメットのそんな心配事など気にした様子もなく、立ち上がると服についた砂埃をはたき落としていた。
「…休息も十分にとった事だし、そろそろ仕事に戻りますか。な、ネーメットのじいさん」
「……そうじゃのぅ。今回の目的だけは、忘れておらんかっただけよかったと思うておくかの…」
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