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0話「世界の舞台裏から」(プロローグ)
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――蒼き月が照らす廃墟の街。
命ある者達の姿は街中におらず、いるのは動く屍達ばかりだ。
月が昇ったばかりの為か、その様子はよく見えないが…徘徊している屍達の身体は土で汚れている上に、ところどころ衣服が破れていた。
徘徊している屍達の中には、死して時間が随分経つ者もいるのだろう…歩く度に身体から、水っぽい何かが落ちていく音がしている。
そして、道にはてん、てん、てん…と赤黒いものが落ちており、辺りに悪臭がたちこめていた。
***
不規則に歩く眠らぬ死者のいる街角に立つ、3つの影――
「うわぁ~…依頼書で大体の状況はわかっていたけど、予想以上にたくさんいるな…」
「すっごい臭い…」
「と…とりあえず、これを討伐すれば今月のノルマは終わるのだし…ちゃっちゃと始末しちゃおう」
3つの影の持ち主は腰に付けている剣に手をかけた青年と鼻を押さえている髪をふたつに結った少女、少し前向きな考えをしているポニーテールの女性の3人だ。
この3人の着ている衣服は、淡い色の生地に少し濃い色の縁取りがされている…この世界で"退魔士"と呼ばれる職業に就く者達が着ているものと同じである。
その事から、この3人は退魔士なのだろう。
――どうやら、3人の退魔士は廃墟の街に巣くう眠れぬ死者達を討伐しにやって来たようだ。
「…まず、俺が斬り込むから援護と結界を頼むな」
剣を片手に青年がふたつに結った少女とポニーテールの女性に指示すると、2人は小さく頷いて青年のそばから離れていった。
ふたつに結った少女は聞き取れるかどうかわからないほどの小さな声で、結界をはる為の術式を描きながら詠唱を始める。
その瞬間、廃墟の街一帯に淡い光の壁が現れて眠れぬ死者は閉じ込められてしまった。
「グ…ガッ?」
淡い光の壁に触れた死者は弾き飛ばされ、グズシャ…という音をたてて次々と倒れていく。
どうやら、この光の壁は不浄の者を通さない『光』属性を持つ結界のようだ。
「結界の準備OKだよ!」
ふたつに結った少女はグッと親指を立てると、青年に合図を送る。
小さく頷いて答えた青年が、剣を鞘から少し出した状態のまま眠れぬ死者達の中を走り抜けた。
「ギ…ギャ」
走り抜ける青年の近くにいた死者達は、身体を真っ二つにされ次々と倒れる。
倒れた死者の中には、まだ動けるともがく者もいた。
その死者の前に立ったポニーテールの女性は、にっこりと微笑む。
「往生際が悪いわね、あなた…焼き尽くせ!"フレア・ボール"」
ポニーテールの女性が右手を軽く上げ、小声で呟くと右手に小さな炎が生まれた。
その炎を、足元で倒れもがく死者の上に落とすとたちどころに燃え上がる。
「………!!」
声もなく燃え上がった死者は炎を振り払おうとするもそれは叶わず、やがて動かなくなった。
その炎は、少しずつ倒れている死者達の身体に燃え広がっていく。
――この廃墟の街の悪夢を終わらせる為に……
青年は残る死者達を次々に斬り倒して、ポニーテールの女性が跡形もなく燃やし…ふたつに結った少女は徐々に結界を狭めていく。
廃墟の街は数時間燃え続けた後、炎は徐々に小さく消えていくと辺りはやがて静寂に包まれていった――
***
命ある者達の姿は街中におらず、いるのは動く屍達ばかりだ。
月が昇ったばかりの為か、その様子はよく見えないが…徘徊している屍達の身体は土で汚れている上に、ところどころ衣服が破れていた。
徘徊している屍達の中には、死して時間が随分経つ者もいるのだろう…歩く度に身体から、水っぽい何かが落ちていく音がしている。
そして、道にはてん、てん、てん…と赤黒いものが落ちており、辺りに悪臭がたちこめていた。
***
不規則に歩く眠らぬ死者のいる街角に立つ、3つの影――
「うわぁ~…依頼書で大体の状況はわかっていたけど、予想以上にたくさんいるな…」
「すっごい臭い…」
「と…とりあえず、これを討伐すれば今月のノルマは終わるのだし…ちゃっちゃと始末しちゃおう」
3つの影の持ち主は腰に付けている剣に手をかけた青年と鼻を押さえている髪をふたつに結った少女、少し前向きな考えをしているポニーテールの女性の3人だ。
この3人の着ている衣服は、淡い色の生地に少し濃い色の縁取りがされている…この世界で"退魔士"と呼ばれる職業に就く者達が着ているものと同じである。
その事から、この3人は退魔士なのだろう。
――どうやら、3人の退魔士は廃墟の街に巣くう眠れぬ死者達を討伐しにやって来たようだ。
「…まず、俺が斬り込むから援護と結界を頼むな」
剣を片手に青年がふたつに結った少女とポニーテールの女性に指示すると、2人は小さく頷いて青年のそばから離れていった。
ふたつに結った少女は聞き取れるかどうかわからないほどの小さな声で、結界をはる為の術式を描きながら詠唱を始める。
その瞬間、廃墟の街一帯に淡い光の壁が現れて眠れぬ死者は閉じ込められてしまった。
「グ…ガッ?」
淡い光の壁に触れた死者は弾き飛ばされ、グズシャ…という音をたてて次々と倒れていく。
どうやら、この光の壁は不浄の者を通さない『光』属性を持つ結界のようだ。
「結界の準備OKだよ!」
ふたつに結った少女はグッと親指を立てると、青年に合図を送る。
小さく頷いて答えた青年が、剣を鞘から少し出した状態のまま眠れぬ死者達の中を走り抜けた。
「ギ…ギャ」
走り抜ける青年の近くにいた死者達は、身体を真っ二つにされ次々と倒れる。
倒れた死者の中には、まだ動けるともがく者もいた。
その死者の前に立ったポニーテールの女性は、にっこりと微笑む。
「往生際が悪いわね、あなた…焼き尽くせ!"フレア・ボール"」
ポニーテールの女性が右手を軽く上げ、小声で呟くと右手に小さな炎が生まれた。
その炎を、足元で倒れもがく死者の上に落とすとたちどころに燃え上がる。
「………!!」
声もなく燃え上がった死者は炎を振り払おうとするもそれは叶わず、やがて動かなくなった。
その炎は、少しずつ倒れている死者達の身体に燃え広がっていく。
――この廃墟の街の悪夢を終わらせる為に……
青年は残る死者達を次々に斬り倒して、ポニーテールの女性が跡形もなく燃やし…ふたつに結った少女は徐々に結界を狭めていく。
廃墟の街は数時間燃え続けた後、炎は徐々に小さく消えていくと辺りはやがて静寂に包まれていった――
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