うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
上 下
1 / 94
0話「世界の舞台裏から」(プロローグ)

しおりを挟む
――蒼き月が照らす廃墟の街。
命ある者達の姿は街中におらず、いるのは動く屍達ばかりだ。

月が昇ったばかりの為か、その様子はよく見えないが…徘徊している屍達の身体は土で汚れている上に、ところどころ衣服が破れていた。
徘徊している屍達の中には、死して時間が随分経つ者もいるのだろう…歩く度に身体から、水っぽい何かが落ちていく音がしている。
そして、道にはてん、てん、てん…と赤黒いものが落ちており、辺りに悪臭がたちこめていた。


***


不規則に歩く眠らぬ死者のいる街角に立つ、3つの影――

「うわぁ~…依頼書で大体の状況はわかっていたけど、予想以上にたくさんいるな…」
「すっごい臭い…」
「と…とりあえず、これを討伐すれば今月のノルマは終わるのだし…ちゃっちゃと始末しちゃおう」

3つの影の持ち主は腰に付けている剣に手をかけた青年と鼻を押さえている髪をふたつに結った少女、少し前向きな考えをしているポニーテールの女性の3人だ。
この3人の着ている衣服は、淡い色の生地に少し濃い色の縁取りがされている…この世界で"退魔士"と呼ばれる職業に就く者達が着ているものと同じである。
その事から、この3人は退魔士なのだろう。

――どうやら、3人の退魔士彼らは廃墟の街に巣くう眠れぬ死者達を討伐しにやって来たようだ。

「…まず、俺が斬り込むから援護と結界を頼むな」

剣を片手に青年がふたつに結った少女とポニーテールの女性に指示すると、2人は小さく頷いて青年のそばから離れていった。

ふたつに結った少女は聞き取れるかどうかわからないほどの小さな声で、結界をはる為の術式を描きながら詠唱を始める。
その瞬間、廃墟の街一帯に淡い光の壁が現れて眠れぬ死者は閉じ込められてしまった。

「グ…ガッ?」

淡い光の壁に触れた死者は弾き飛ばされ、グズシャ…という音をたてて次々と倒れていく。
どうやら、この光の壁は不浄の者を通さない『光』属性を持つ結界のようだ。

「結界の準備OKだよ!」

ふたつに結った少女はグッと親指を立てると、青年に合図を送る。
小さく頷いて答えた青年が、剣を鞘から少し出した状態のまま眠れぬ死者達の中を走り抜けた。

「ギ…ギャ」

走り抜ける青年の近くにいた死者達は、身体を真っ二つにされ次々と倒れる。
倒れた死者の中には、まだ動けるともがく者もいた。
その死者の前に立ったポニーテールの女性は、にっこりと微笑む。

「往生際が悪いわね、あなた…焼き尽くせ!"フレア・ボール"」

ポニーテールの女性が右手を軽く上げ、小声で呟くと右手に小さな炎が生まれた。
その炎を、足元で倒れもがく死者の上に落とすとたちどころに燃え上がる。

「………!!」

声もなく燃え上がった死者は炎を振り払おうとするもそれは叶わず、やがて動かなくなった。

その炎は、少しずつ倒れている死者達の身体に燃え広がっていく。
――この廃墟の街の悪夢を終わらせる為に……

青年は残る死者達を次々に斬り倒して、ポニーテールの女性が跡形もなく燃やし…ふたつに結った少女は徐々に結界を狭めていく。

廃墟の街は数時間燃え続けた後、炎は徐々に小さく消えていくと辺りはやがて静寂に包まれていった――


***
しおりを挟む
拍手ボタン】【マシュマロ】【質問箱
(コメントしていただけると励みになります)

○個人サイトでも公開中。
(※現在、次話を執筆中ですので公開までしばらくお待ちください)

・本作は『妖煌吸血鬼シリーズ』の1作目になります。
感想 0

あなたにおすすめの小説

惑う霧氷の彼方

雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。 ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。 山間の小さな集落… …だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。 ――死者は霧と共に現れる… 小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは? そして、少女が失った大切なものとは一体…? 小さな集落に死者たちの霧が包み込み… 今、悲しみの鎮魂歌が流れる… それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語―― *** 自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。 ※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。 ⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。 本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...