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35 薔薇園
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茫然自失の直樹を抱えて裏口から出ると、そのまま裏手の奥まで走り込み茂みに向かう。
「離してっ……僕はっ……シンラっ!」
シンラは垂直に生える木に大きな実がなり木の葉が膨らむ木の更に奥に入ると、木に直樹を縫い止めた。
「今は、駄目だ。黄王を助けには行けない」
直樹の王気の乱れにクロが心配そうに空から戻り、直樹とシンラと黄宮の間に分け入り影を作る。
「でもっ……あんな酷い!アルバートが死んじゃうよ!」
シンラは直樹を落ち着かせるため、唇を深く割り舌を探し出すと甘く噛んで、咥内を愛撫する。歯列をなぞり口蓋をざらりと舐めあげると、直樹が鼻に掛かる吐息を漏らした。
抵抗していた直樹の手が突っ張るようにしていたが、シンラの袖を掴み次第に緩んでいく。
「ん、ん、ふっ……」
二人が唾液を絡めあい混ざる唾液を嚥下しそこなった唾液が、直樹の唇を伝い可愛らしい顎に伝わるのを、シンラは見てからぬぐってやる。
「落ち着いたか、直樹。情報収集と、現状把握をしないと」
直樹を抱き寄せたまま、シンラは腰の荷物入れから眠る伝書鳥を出して、嘴をとんとと叩いてから、黄王の現状を鳥に向かって話す。
それから、
「赤王を探せ」
と、指示を出し伝書鳥を放してやる。
「さて、黄王は『裏の森、薔薇園』と言ったが」
直樹を片手で抱き上げて、見慣れない森の奥に入ると甘い香りがし、シンラは歩みを止めた。
同行するクロがなにも行動も起こさないので、直樹の生命に危険が及ぶものではないと理解する。
「シンラ、いい匂いがする。これは薔薇かな?この香りは」
宮から死角になり森がひらけ窪地になった場所には、たくさんの香りの高い花があり、鼻のよいシンラは匂いに酔いそうになる。
一面の花、花、花……。
これが『裏の森、薔薇園』なのかと、シンラがいぶかしんでいると、
「ここは…アルバート様の大切な薔薇園なのですよ……黒王様」
と、弱々しい気配がして低い声が呟く。
「誰ですか?」
直樹が聞くと上背のある淡い黄色の髪の男は、
「お久しぶりです。黄国文官長のテアンです。過去にこちらには一日ほどのご滞在ですから、覚えておいでではないかと」
そう言いながら肩を押さえ膝を着こうとするのを、シンラが止める。
「怪我をしている者には不敬が許される」
「覚えています。アルバートの文官長」
直樹が震える声で呟くと、
「あなたは……森のお方ですか……つっ!」
とテアンはシンラを見て息を詰める。左肩から腹まで巻い布には血が滲み出し、テアンが倒れそうになるのを片手で受け止め、シンラの腕の中でテアンが気を失った。
「テアンさん、大丈夫ですか?」
直樹がシンラの腕から飛び降り、テアンを揺らす。
「直樹、揺らすな。刀傷だな……かなり酷い。近くに治療出来る場所があるはずだ。連れていく」
「う、うん」
シンラはテアンを肩に担ぐと、直樹に尻尾を握らせ、万が一のための剣を構え更に歩き出した。
直樹は今は気付いてないが、シンラは別のことを恐れていた。
直樹は赤頭のザトを含む夜盗と野合していたことを知った。今は黄王アルバートのことを気にしているが、意識が自分にいった時、どうなるか。高潔な魂を持つ直樹が自身を責めるのではないだろうか。それによりシンラすら拒絶するようになるのかも知れない。
「俺は……自分のことばかりだ」
テアンに肩を貸しながらシンラは、思わず呟いたがそれは直樹の耳には入らず、自蔑して薔薇園の奥に歩みを進めた。
しばらく歩くと広間に出て、宮とは違う平家の館が現れた。胸布と腰巻きをした女達が、シンラと直樹、そしてテアンの様子に悲鳴を上げる。
「きゃあああ、誰かー」
「テアン様!」
「テアン様が!」
「どうして……」
「あんたが斬ったのか!」
刀を持つシンラの腰回りを見て叫び、再び悲鳴と喧騒だけで、近寄りもしない女達にシンラは困ってしまう。
「いいか、俺ではない、夜盗だ。治療出来る者はいないか?」
「宮に……」
「宮は夜盗に占拠されている。ーー知らないのか?」
すると奥から女武官が現れて急いでやってくる。
「ーー森の方か。薔薇園の者には伝えていないのだ。すまない、こちらへ」
やっと話の出来る者が現れ、シンラは安堵してテアンを連れて行く。直樹がシンラの尾を掴みついてくるのを確認しつつ、館のテラスにたどり着いた。
「離してっ……僕はっ……シンラっ!」
シンラは垂直に生える木に大きな実がなり木の葉が膨らむ木の更に奥に入ると、木に直樹を縫い止めた。
「今は、駄目だ。黄王を助けには行けない」
直樹の王気の乱れにクロが心配そうに空から戻り、直樹とシンラと黄宮の間に分け入り影を作る。
「でもっ……あんな酷い!アルバートが死んじゃうよ!」
シンラは直樹を落ち着かせるため、唇を深く割り舌を探し出すと甘く噛んで、咥内を愛撫する。歯列をなぞり口蓋をざらりと舐めあげると、直樹が鼻に掛かる吐息を漏らした。
抵抗していた直樹の手が突っ張るようにしていたが、シンラの袖を掴み次第に緩んでいく。
「ん、ん、ふっ……」
二人が唾液を絡めあい混ざる唾液を嚥下しそこなった唾液が、直樹の唇を伝い可愛らしい顎に伝わるのを、シンラは見てからぬぐってやる。
「落ち着いたか、直樹。情報収集と、現状把握をしないと」
直樹を抱き寄せたまま、シンラは腰の荷物入れから眠る伝書鳥を出して、嘴をとんとと叩いてから、黄王の現状を鳥に向かって話す。
それから、
「赤王を探せ」
と、指示を出し伝書鳥を放してやる。
「さて、黄王は『裏の森、薔薇園』と言ったが」
直樹を片手で抱き上げて、見慣れない森の奥に入ると甘い香りがし、シンラは歩みを止めた。
同行するクロがなにも行動も起こさないので、直樹の生命に危険が及ぶものではないと理解する。
「シンラ、いい匂いがする。これは薔薇かな?この香りは」
宮から死角になり森がひらけ窪地になった場所には、たくさんの香りの高い花があり、鼻のよいシンラは匂いに酔いそうになる。
一面の花、花、花……。
これが『裏の森、薔薇園』なのかと、シンラがいぶかしんでいると、
「ここは…アルバート様の大切な薔薇園なのですよ……黒王様」
と、弱々しい気配がして低い声が呟く。
「誰ですか?」
直樹が聞くと上背のある淡い黄色の髪の男は、
「お久しぶりです。黄国文官長のテアンです。過去にこちらには一日ほどのご滞在ですから、覚えておいでではないかと」
そう言いながら肩を押さえ膝を着こうとするのを、シンラが止める。
「怪我をしている者には不敬が許される」
「覚えています。アルバートの文官長」
直樹が震える声で呟くと、
「あなたは……森のお方ですか……つっ!」
とテアンはシンラを見て息を詰める。左肩から腹まで巻い布には血が滲み出し、テアンが倒れそうになるのを片手で受け止め、シンラの腕の中でテアンが気を失った。
「テアンさん、大丈夫ですか?」
直樹がシンラの腕から飛び降り、テアンを揺らす。
「直樹、揺らすな。刀傷だな……かなり酷い。近くに治療出来る場所があるはずだ。連れていく」
「う、うん」
シンラはテアンを肩に担ぐと、直樹に尻尾を握らせ、万が一のための剣を構え更に歩き出した。
直樹は今は気付いてないが、シンラは別のことを恐れていた。
直樹は赤頭のザトを含む夜盗と野合していたことを知った。今は黄王アルバートのことを気にしているが、意識が自分にいった時、どうなるか。高潔な魂を持つ直樹が自身を責めるのではないだろうか。それによりシンラすら拒絶するようになるのかも知れない。
「俺は……自分のことばかりだ」
テアンに肩を貸しながらシンラは、思わず呟いたがそれは直樹の耳には入らず、自蔑して薔薇園の奥に歩みを進めた。
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やっと話の出来る者が現れ、シンラは安堵してテアンを連れて行く。直樹がシンラの尾を掴みついてくるのを確認しつつ、館のテラスにたどり着いた。
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