五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉

クリム

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28 明の希望

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「おいっ!直樹が横にいるんだぞ……やめっ……」 

 寝台が軋んで直樹は目を覚ました。直樹が葡萄酒を少し入れた甘いお茶に喜ぶと、明は何杯も煮出してくれて、早めに深い眠りに入っていた直樹は、急に意識が覚醒する。

「わかっている。手早く済ます」

 明の和合相手のレキの声がしてくちゅと濡れた音がする。

「だから、これは……嫌だと、あ……っ」

「お前は挿入したが早い……ほら、ここだ」

「人を早漏扱い……ぐっ!」

 薄目を開けるとレキが背後から明の腰を掴み浅く揺らしていて、白い寝間着の割れた裾からレキが擦る明の屹立が、月明かりに濡れているのが見えた。

「あ……あっ……ぅあ……レキ……」 

 明が息を止めて下肢を何度か震わせ、レキが手の中の小さな瓶に明の精を垂らす。

「も……もう、いいだろ……退け」

 明は月明かりにも分かるほど目元を赤くしていて、とても美しく感じた。

「少し足りない。土竜が暴れて、いくつかの家が崩れたのだ。怪我人が多い」

「竜が……くっ……ぁっ……」

 ぐちゅぐちゅ……と濡れた挿入出の音が月明かりが差し込むだけの暗い部屋に響き、再び肉のぶつかる微かな音と明の荒い息づかいが聞こえ、

「レキ……手を……ぁああっ……」

寝台が軋み明の悲鳴のような小さな喘ぎの中で、再び小瓶に精を垂らすと衣連れの音がして、直樹は慌てて目を閉じる。

「レキ、お前はいいのか?」

 甘く吐息を吐く明の横で、レキが身支度をしているようだ。

「まあ、我慢するさ。それよりも白珠を届けてくる。本格的な冬の前に、外れの村で竜を狩るぞ」

「わかった」

 レキが明から離れていく気配がした。レキが出入りして冷たい風が窓から入り、直樹は小さなくしゃみをしてしまった。

「起きているよな、直樹」

「は、はい」

 明が乱れた寝間着のまま座り込んで、窓から外を見ている。

 寝巻きがはだけ肌が紅潮し、下ろした髪をかきあげる仕草がとても流麗で、直樹は明を見つめた。

「お前にはいっつも恥ずかしいところを見られる」

「明さんは、和合が嫌いなんですか?」

 直樹にとって和合者であるシンラとの和合は腰が溶けそうな位気持ちよくて、体も気持ちも嬉しくて堪らないものだ。だから、明もそうだと思ったのだ。 

「俺は義務的に白珠を出すのが嫌なんだ。あれを傷に塗る?あれは俺の出したモンだぞ?全くレキの奴、後生大事に持っていきやがって、俺は義務じゃなくてだなあ、ムードとか……前戯とかこう色めきのある……なんだ、直樹」 

 直樹はふと思い起き上がると、明に向かいそれを口にした。

「クロは……僕は記憶のない二十年間クロと呼ばれて森にいたのですが、クロはどのように生きたのですか?」

 直樹の意外な言葉に

「直樹?」

と、明が聞き直す。
 
 直樹は真摯に頷くと、自分の寝巻きの胸元に両手を当てた。

「僕は今、シンラといてとても幸せです。でも、クロと呼ばれた僕がとても辛い思いをしたのなら、僕はクロにどう報いれはいいか……変ですか?」 

 直樹は直樹なりに真剣なのが分かったのが、明が首を横に振った。

「無理に思い出す必要はないし、知らない方がいい。お前は眼球と共に記憶を失っていた。俺にも分からない。森は不可侵だからな」

 明は口に出すことは出来ない。記憶を失う前の直樹は、見ず知らずの男に肌を合わせることが義務であれ嫌がっていた。文官長に犯され、森で野合の中心にいたなど知ったら直樹は再び心が壊れ、無になった不老不死の王が出来上がる。それだけは避けたかった。

「そうですか。明さんくらい立派な王様も嫌ですよね。その替わりの……あ、ジジ様の油薬は?」

 明が肩を竦める。

「ありゃあ、王の白珠を少しずつ混ぜたもんだ。まあ、寝ろ。抱っこしてやる」

「明さんまで子供扱いです」

「見た目が可愛いからなあ。諦めろ」

 シンラの尻尾はなかったが、明が直樹を抱き締めて来て、その高めの体温に直樹はうとうとした。直樹も明も採取されるのが苦手な白珠を、何かに変えられれば、きっといいと思うのだ。




 朝起きると再び露天風呂に入り、雪が降っている中で温かい温泉を満喫してから、明が用意してくれたお茶を飲む。

「こんなに大きな宮なのに、明さん一人なんですか?」

 赤の焼き煉瓦の赤宮は黒宮よりも広々としているのに、誰とも出会わないのが直樹には不思議だったのだ。

「あ、いや……。一日皆には暇を出したんだ。直樹は宮の者が怖いだろうと思ってなあ」

 直樹は明の気遣いに、やはり白珠を何とかしたいと強く思う。

「んーー、タイムリミットだなあ。よし、帰るか、森に」

 クロは赤竜になついてずっとテラスで遊んでおり、摘ままれるまでもなく今度は赤竜に飛び乗った。

「明さんは僕に優しいです。どうしてこんなに優しいのですか?」

 雪がちらつく中明のコートを羽織る直樹は、騎竜している明に訪ねる。

「俺はな、死ぬ時四十五だった。岩みたいな顔つきのくせに、結婚願望が強くて。父親…お父さんになりたかったんだ。子どもと一緒に雪合戦や魚釣りをしたかったんだ」

 直樹は明の手を掴んで竜に乗る。やはりよろめいた。 

「森で拾ったちっこいレキは、息子として育てたのにでっかくなったら和合者となり俺を抱きやがる。だからな直樹、大きくならないお前は永遠に俺の息子だ。たまには俺と遊んでくれ。春には魚釣りをしよう」

 明はきっと寂しいのだろう。だから同郷の仲間として、神王同士として直樹を認めてくれる明の気持ちが嬉しかった。

「はい、教えてください」

 赤竜が昼の空に飛び上がった。
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