五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉

クリム

文字の大きさ
上 下
15 / 59

16 赤頭狩り

しおりを挟む
 赤頭を中心とする野盗は何ヵ所かの洞を拠点に村を襲っている。森の村を含め森に近しい村を狙い、一ヵ所に留まらない。ずっと探していた夜盗を見つけたのだ。

「赤頭は、今、赤国国境付近にいます」

 森の木を飛んで渡り、下を走る一陣と合流する。

「他の村の武官は?」

「すでに来て包囲しています」

 しばらく走ると深い森が岩場となり、騒ぐ男達の声が聞こえてきた。赤頭と、数人の野盗が洞の前で、奪ったばかりの食糧と、泣いている女を囲んでいた。

「若、待機を」

 ハトリがシンラを止めるが、シンラはそのまま一陣と一緒に他の村の武官と木の上で合流する。森の村の文官と武官は、村長のサポートにと、ジジが育てた若者で構成される。王であるシンラも文官と武官と同じことを学んだ。

「王、お久しぶりです。やっと赤頭を追い詰めましたな」

 一ヶ月、遊んでいたわけではなく、村の警備を強化しつつ、赤の国付近に追い詰めたのだ。

 赤頭が黒髪の女の目に指を這わせる。

 『欠けたる者』にするつもりかと思い、マナの目もこうして奪われたのだと、シンラは怒りのあまり勢い高い木から赤頭に飛びかかった。

「若の馬鹿!」

 フルトリの叫び声が後方から響く。

「なんだあ?」

 赤頭は飛びずさり、長い剣を抜くとシンラに斬りかかる。

「若っ!弓矢一斉掃射。賊を狙え」

「若には当てるな!」

 ハトリとフルトリが叫び合い、シンラの頭上から弓の矢がふりそそぐ。

 間合いを取って再び赤頭の足元から胸元に切りかかりに行くが、赤頭がにやりと笑い、女の髪を掴んでシンラに投げつけてきた。

「ぐっ……あ!」

 悲鳴を上げた女の体が勢いぶち当たり、シンラはその勢い転がってシンラの耳元に赤頭の刀が振り下ろされる。

「赤頭ーーーっ!」

 寸でのところでかわすと、フルトリが叫んだのが聞こえた。

「若っ!近すぎて、矢が……」  

「お前たちは一陣の援護に行け!」

「しかし……っ!」

「行けっ!」

 シンラは狂ったように悲鳴を上げる女を赤頭とは反対側に突き飛ばし、今度は赤頭の足元を切りつける。

 ガッと鈍い音がして、足に巻かれた布が切れた。

 そこには木の板が見え、赤頭が笑った。

 義足でシンラを蹴り上げると、赤頭は

「お前、死ねよ」

と、大ぶりの刀を振り下ろしてくる。

「はっ!」

 振り下ろしてきた刀に向き合い、瞬時軌道が変わったのを見て薙ぎ払うと、そのままふた振りの中振りの刃を胸元に押し上げ差し込んだ。

 シンラの右頬をチリッとした痛みが走り、赤頭の体が傾ぐ。噴き出す血を避けて後ろに飛びずさった。

「若、大丈夫かー?」

 赤頭の刀の振り下ろしの軌道が変わったのは、赤頭の背後の男のお陰だった。

 声もなく倒れた赤頭の右肩下がりに、短剣が刺さっており、投げた男が息を切らしたシンラに歩み寄ってくる。

「カーン、お前……」

 鋼の肉体を持つ長身が、猛禽鳥の耳をへたりと下げた。

「ジジ様よりお暇をいただいて追いついた。なんでも友人と待ち合わせだと」

 野盗討伐もあらかた済んだようで、残忍極まりない赤頭野盗団は数時間で壊滅していた。

「残党を追うか、若?」

「いや、一陣が追っている。カーン。俺は、俺は、クロを穢した奴等を、俺の手で全て殺したいと思っていたんだ。これは私怨だ」

 しかも討ったのは、目下に倒れている隻眼の赤頭だけで、しかもカーンに手助けをしてもらってだ。

「俺は頭が悪いからよく分からん。いつも醒めた顔の若がムキになるなんて、クロはそんなに良いのか?もう野合くらいしただろ?」

「馬鹿!まだとおばかりの子供だ」

おとでも孕みますぜ」

「男だ」

「若……言いたくないが……和合はしちゃあいかん。野合なら死んだ親父さんも文句は言うまいよ。若の子が必要だ」

「姉上の子がいる」

「若、いや、シンラ、お前は森の王だ。誰もが認める王だ。だから、子を成してくれ。お前の子に俺の子が仕える」

「俺は……」

 野合は相手が定まらない交合だが、和合は唯一無二の交合だ。子どもが出来ようと出来まいと、死のみが二人を分かつ誓約である。誓ってしまえば、裏切ることは出来ない天帝からの不文律があり、破棄は肉体の融解と、魂の消滅を意味するのだ。

「若、ここは俺がまとめますんで、そのクロとやらのとこに行ってやってはどうです?また、紹介してくれ」

 一日が終わろうとしていた。

 夜を怖がるクロを宥め頭を撫でて寝かせる安らぎ。それを今日もまた得られるのだと、血で染めた顔で天を仰ぐ。

「カーン、後を頼む」

 シンラは走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...