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16 赤頭狩り
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赤頭を中心とする野盗は何ヵ所かの洞を拠点に村を襲っている。森の村を含め森に近しい村を狙い、一ヵ所に留まらない。ずっと探していた夜盗を見つけたのだ。
「赤頭は、今、赤国国境付近にいます」
森の木を飛んで渡り、下を走る一陣と合流する。
「他の村の武官は?」
「すでに来て包囲しています」
しばらく走ると深い森が岩場となり、騒ぐ男達の声が聞こえてきた。赤頭と、数人の野盗が洞の前で、奪ったばかりの食糧と、泣いている女を囲んでいた。
「若、待機を」
ハトリがシンラを止めるが、シンラはそのまま一陣と一緒に他の村の武官と木の上で合流する。森の村の文官と武官は、村長のサポートにと、ジジが育てた若者で構成される。王であるシンラも文官と武官と同じことを学んだ。
「王、お久しぶりです。やっと赤頭を追い詰めましたな」
一ヶ月、遊んでいたわけではなく、村の警備を強化しつつ、赤の国付近に追い詰めたのだ。
赤頭が黒髪の女の目に指を這わせる。
『欠けたる者』にするつもりかと思い、マナの目もこうして奪われたのだと、シンラは怒りのあまり勢い高い木から赤頭に飛びかかった。
「若の馬鹿!」
フルトリの叫び声が後方から響く。
「なんだあ?」
赤頭は飛びずさり、長い剣を抜くとシンラに斬りかかる。
「若っ!弓矢一斉掃射。賊を狙え」
「若には当てるな!」
ハトリとフルトリが叫び合い、シンラの頭上から弓の矢がふりそそぐ。
間合いを取って再び赤頭の足元から胸元に切りかかりに行くが、赤頭がにやりと笑い、女の髪を掴んでシンラに投げつけてきた。
「ぐっ……あ!」
悲鳴を上げた女の体が勢いぶち当たり、シンラはその勢い転がってシンラの耳元に赤頭の刀が振り下ろされる。
「赤頭ーーーっ!」
寸でのところでかわすと、フルトリが叫んだのが聞こえた。
「若っ!近すぎて、矢が……」
「お前たちは一陣の援護に行け!」
「しかし……っ!」
「行けっ!」
シンラは狂ったように悲鳴を上げる女を赤頭とは反対側に突き飛ばし、今度は赤頭の足元を切りつける。
ガッと鈍い音がして、足に巻かれた布が切れた。
そこには木の板が見え、赤頭が笑った。
義足でシンラを蹴り上げると、赤頭は
「お前、死ねよ」
と、大ぶりの刀を振り下ろしてくる。
「はっ!」
振り下ろしてきた刀に向き合い、瞬時軌道が変わったのを見て薙ぎ払うと、そのままふた振りの中振りの刃を胸元に押し上げ差し込んだ。
シンラの右頬をチリッとした痛みが走り、赤頭の体が傾ぐ。噴き出す血を避けて後ろに飛びずさった。
「若、大丈夫かー?」
赤頭の刀の振り下ろしの軌道が変わったのは、赤頭の背後の男のお陰だった。
声もなく倒れた赤頭の右肩下がりに、短剣が刺さっており、投げた男が息を切らしたシンラに歩み寄ってくる。
「カーン、お前……」
鋼の肉体を持つ長身が、猛禽鳥の耳をへたりと下げた。
「ジジ様よりお暇をいただいて追いついた。なんでも友人と待ち合わせだと」
野盗討伐もあらかた済んだようで、残忍極まりない赤頭野盗団は数時間で壊滅していた。
「残党を追うか、若?」
「いや、一陣が追っている。カーン。俺は、俺は、クロを穢した奴等を、俺の手で全て殺したいと思っていたんだ。これは私怨だ」
しかも討ったのは、目下に倒れている隻眼の赤頭だけで、しかもカーンに手助けをしてもらってだ。
「俺は頭が悪いからよく分からん。いつも醒めた顔の若がムキになるなんて、クロはそんなに良いのか?もう野合くらいしただろ?」
「馬鹿!まだ十ばかりの子供だ」
「十でも孕みますぜ」
「男だ」
「若……言いたくないが……和合はしちゃあいかん。野合なら死んだ親父さんも文句は言うまいよ。若の子が必要だ」
「姉上の子がいる」
「若、いや、シンラ、お前は森の王だ。誰もが認める王だ。だから、子を成してくれ。お前の子に俺の子が仕える」
「俺は……」
野合は相手が定まらない交合だが、和合は唯一無二の交合だ。子どもが出来ようと出来まいと、死のみが二人を分かつ誓約である。誓ってしまえば、裏切ることは出来ない天帝からの不文律があり、破棄は肉体の融解と、魂の消滅を意味するのだ。
「若、ここは俺がまとめますんで、そのクロとやらのとこに行ってやってはどうです?また、紹介してくれ」
一日が終わろうとしていた。
夜を怖がるクロを宥め頭を撫でて寝かせる安らぎ。それを今日もまた得られるのだと、血で染めた顔で天を仰ぐ。
「カーン、後を頼む」
シンラは走り出した。
「赤頭は、今、赤国国境付近にいます」
森の木を飛んで渡り、下を走る一陣と合流する。
「他の村の武官は?」
「すでに来て包囲しています」
しばらく走ると深い森が岩場となり、騒ぐ男達の声が聞こえてきた。赤頭と、数人の野盗が洞の前で、奪ったばかりの食糧と、泣いている女を囲んでいた。
「若、待機を」
ハトリがシンラを止めるが、シンラはそのまま一陣と一緒に他の村の武官と木の上で合流する。森の村の文官と武官は、村長のサポートにと、ジジが育てた若者で構成される。王であるシンラも文官と武官と同じことを学んだ。
「王、お久しぶりです。やっと赤頭を追い詰めましたな」
一ヶ月、遊んでいたわけではなく、村の警備を強化しつつ、赤の国付近に追い詰めたのだ。
赤頭が黒髪の女の目に指を這わせる。
『欠けたる者』にするつもりかと思い、マナの目もこうして奪われたのだと、シンラは怒りのあまり勢い高い木から赤頭に飛びかかった。
「若の馬鹿!」
フルトリの叫び声が後方から響く。
「なんだあ?」
赤頭は飛びずさり、長い剣を抜くとシンラに斬りかかる。
「若っ!弓矢一斉掃射。賊を狙え」
「若には当てるな!」
ハトリとフルトリが叫び合い、シンラの頭上から弓の矢がふりそそぐ。
間合いを取って再び赤頭の足元から胸元に切りかかりに行くが、赤頭がにやりと笑い、女の髪を掴んでシンラに投げつけてきた。
「ぐっ……あ!」
悲鳴を上げた女の体が勢いぶち当たり、シンラはその勢い転がってシンラの耳元に赤頭の刀が振り下ろされる。
「赤頭ーーーっ!」
寸でのところでかわすと、フルトリが叫んだのが聞こえた。
「若っ!近すぎて、矢が……」
「お前たちは一陣の援護に行け!」
「しかし……っ!」
「行けっ!」
シンラは狂ったように悲鳴を上げる女を赤頭とは反対側に突き飛ばし、今度は赤頭の足元を切りつける。
ガッと鈍い音がして、足に巻かれた布が切れた。
そこには木の板が見え、赤頭が笑った。
義足でシンラを蹴り上げると、赤頭は
「お前、死ねよ」
と、大ぶりの刀を振り下ろしてくる。
「はっ!」
振り下ろしてきた刀に向き合い、瞬時軌道が変わったのを見て薙ぎ払うと、そのままふた振りの中振りの刃を胸元に押し上げ差し込んだ。
シンラの右頬をチリッとした痛みが走り、赤頭の体が傾ぐ。噴き出す血を避けて後ろに飛びずさった。
「若、大丈夫かー?」
赤頭の刀の振り下ろしの軌道が変わったのは、赤頭の背後の男のお陰だった。
声もなく倒れた赤頭の右肩下がりに、短剣が刺さっており、投げた男が息を切らしたシンラに歩み寄ってくる。
「カーン、お前……」
鋼の肉体を持つ長身が、猛禽鳥の耳をへたりと下げた。
「ジジ様よりお暇をいただいて追いついた。なんでも友人と待ち合わせだと」
野盗討伐もあらかた済んだようで、残忍極まりない赤頭野盗団は数時間で壊滅していた。
「残党を追うか、若?」
「いや、一陣が追っている。カーン。俺は、俺は、クロを穢した奴等を、俺の手で全て殺したいと思っていたんだ。これは私怨だ」
しかも討ったのは、目下に倒れている隻眼の赤頭だけで、しかもカーンに手助けをしてもらってだ。
「俺は頭が悪いからよく分からん。いつも醒めた顔の若がムキになるなんて、クロはそんなに良いのか?もう野合くらいしただろ?」
「馬鹿!まだ十ばかりの子供だ」
「十でも孕みますぜ」
「男だ」
「若……言いたくないが……和合はしちゃあいかん。野合なら死んだ親父さんも文句は言うまいよ。若の子が必要だ」
「姉上の子がいる」
「若、いや、シンラ、お前は森の王だ。誰もが認める王だ。だから、子を成してくれ。お前の子に俺の子が仕える」
「俺は……」
野合は相手が定まらない交合だが、和合は唯一無二の交合だ。子どもが出来ようと出来まいと、死のみが二人を分かつ誓約である。誓ってしまえば、裏切ることは出来ない天帝からの不文律があり、破棄は肉体の融解と、魂の消滅を意味するのだ。
「若、ここは俺がまとめますんで、そのクロとやらのとこに行ってやってはどうです?また、紹介してくれ」
一日が終わろうとしていた。
夜を怖がるクロを宥め頭を撫でて寝かせる安らぎ。それを今日もまた得られるのだと、血で染めた顔で天を仰ぐ。
「カーン、後を頼む」
シンラは走り出した。
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