五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉

クリム

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6 太った白い豚人間

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 直樹が目を覚ました時、蜂蜜色の金の光が溢れていた。

「おはよ」 

 まるで鈴を転がしたような綺麗な声だ。

「おはようございます……え?」

 美しい少年の全裸の肢体が横倒しになって、直樹の髪を撫でていた。

「は、裸!」

「そ、お前もね」

 シーツを剥ぐ白桃の腕が直樹の体に巻き付いてきて、直樹はその温かさに自分も全裸であることを知り、短い悲鳴を上げた。

「わあ、元気ないい声。神王様同士じゃーん、気にしない、気にしない。僕はアルバート。二十歳で乾いたフランスパンを喉煮詰まらせて死んだ、可哀想なヤンキーさ。お前は?」

 黄王は黄色と言うよりも、金に近い髪と瞳を持っていて、直よりも少しだけ背が高い。直樹と同じように白いのに、桃色が差している色香を漂わせて、官能的で淫らな花のようだと直はぼんやりと思う。

 そんな直樹をみて黄王は艶めいた雰囲気を漂わせつつ、寝台の上で腰をくねらせ直樹の腹に馬乗りになってくる。

「な、直樹です。ちょっ……やめて下さいっ。いたっ……」 

 同じ年頃だからかあの文官のような怖さはなかったが、桜色の爪で直の乳首を引っ掻いてきて、びくりと腰をひいた。 

「痛いのかあ……ここは?」

 腰をひいた瞬間、指が小さな尻の狭間の襞をくすぐり、直樹は悲鳴を噛み殺す。

「ひっ……やぁ……やめてっ……」

 そのまま指が襞をぐるりと何度も撫でて、軽く押してくる。直樹はシーツを握りしめて、泣きそうになった。

「あ……あ……んっ…」

 なんなのかわからない震えが足先からやって来る。もどかしい感覚だ。指が少し潜り込むとびくりと体が跳ね、息を噛んだ。

「へぇ……お前、すっごく感度いいくせに、まだ、交合してないんだ」

「え……なに……?」

 金の緩く巻いた長い髪をばさりと掻き上げた黄王は、金の瞳を細め妖艶に見下ろし笑った。

「ふふ……交合……セックスだよ。僕は大好きだ。お前はどう?」

「は、離して下さい。僕は嫌です。知らない人とあんな……」


 先日まで高校生だった直樹は男女の仲すら知らず、人間が怖かったのだ。

「直樹、お前は……」

 アルバートは押し黙り、直樹に笑いかけた。





 歩く度に金の飾りが揺れ、直樹は真っ赤になる。結っていない髪で前を隠したら、黄王に手を払いのけられた。

「なっ、なっ、なんで、こんな格好……っ」

 胸飾りが乳首を隠す程度の金で覆われ、首飾りで留まっている。下着は履いていないも同然で、金の透かし螺鈿の前当てに、薄絹が手足首まで垂れていて、手足の優美な金細工で押さえていた。

「は…裸…みたい」

「ここは暑いし、よく似合うからだよ、お前も、僕も。うちの女官たちはセンスがいい」

「だけど、黄王様っ」

「アルバートだ、黒王『様』って呼んじゃうよ」

 大きな耳飾りを揺らして黄王……アルバートが、パティオの噴水のところに直樹を連れてくる。

 色とりどりの花は、あちこちの南国を思い出し、アルバートの心象が作り出した国は、原色で明るく美しい。

「さあ、僕に聞きたいことがあるんだろ?」

 直樹は大理石の椅子に座ると、気になることを小さな声で言った。

「あ…あんなにたくさんの人と……セッ……クスしなきゃ、いけませんか……」

 アルバートが金の目を真ん丸にして、それから手足を丸めて笑い転げる。金の前当てが揺れて、桃色の性器とふっくらと柘榴色した尻孔が見え、直樹は動揺した。

「ふふふ……僕はね、セックスが好きなんだ。気持ちよくて、みんなに求められて。でもね、神番いの相手とのセックスは、誰とも比べようもないくらいイイらしいよ」

 以前本で見た絵画の天使のように微笑むアルバートに、直樹は戸惑う。

「はじめは、テアンが用意したのと、セックスした。みんな僕を崇め、優しくしてくれ、僕の為に尽くすと言ってくれるんだ。だったら国中の未婚の男とセックスをすればいい。みんなが僕の味方になるじゃないかってね」

 アルバートも多分、生前、辛い思いをしたのだろう。

 味方が欲しい。

 優しくしてほしい。

「お綺麗で、心が優しくて、感じやすいお前には、少し無理かもね。だから、僕の真似をしないほうがいい。文官が選んできても、違うと思うなら白珠だけ与えろよ。手淫くらいなら大丈夫だろ?王の仕事なんてそんなもんさ。直樹、おいで」

 直樹の手を繋ぐと、アルバートが歩きだす。しゃらしゃらと金飾りが鳴り、通りすぎると女たちが

「お二人ともなんて可愛らしい」

とひざまづいて囁きあい、直樹は恥ずかしくなった。

 浴場ではなくて王室へ案内され、王の寝室の奥の部屋へ入った。部屋の真ん中に、つるりとした幹の黄色の木が生えている。さるすべりのような幹に柿の木のような枝振りのそれは、葉をつけていず枯れているようにも見えた。

「神木だよ、直樹。『神番い』と和合すると、この木に実がつくらしい。それが国が永遠に繁栄する証…和木になる」

 このためのセックス、交合、和合。王の役目はわかった。アルバートは、アルバートなりの神王の在り方を示している。では、明はどうなのだろうか。直樹はどうしたらいいのか。

 直樹はうつむいた。




 黒国とは違う、豊かで鮮やかな黄国。直樹は黒国の服を着て、白い大理石の表庭に立つ。

「悪いな、直樹。本当は緑国と青国にも案内したかったんだが、国から帰るように言われてしまってな。お前を送りがてら、二つの国の話をしよう」 

「ありがとうございます」

 アルバートは昼から「王の努めだ」と、湯に漬かり、香油を塗られていた。
尻襞に練り香油を塗り込まれ、上気する頬は艶かしく、今から訪れるだろう官能に思いを馳せているのか。

 襞皺が無くなるほどふっくらとして、縦に割れた赤みがさす隘路。アルバートは痛くないのだろうかと心配したが、

「お前、こっちで排泄したかい?してないだろう。ここは、僕らの感覚器官なんだよ。軽く触られるだけで気持ちいいんだから、快楽を知ってしまえば、欲しくて欲しくて堪らなくなる。激しく深く擦られて、気が狂うくらいのアクメの中で、気持ちを、王気を解放するんだよ。お前もそうなるさ」

と、アルバートは泣きそうな顔の直樹の頬にキスをしてきた。

「じゃあな、お前の即位式に会おう」

 お付きの女官が一人減っているのに気づくと、テアンが昨日来ていた男と連れだったのだと教えてくれた。

 王宮はただでさえ少なくなっている男との、出会いの場でもあるのだと直樹は気付く。アルバートは、アルバートの王の矜持があるのだ。

「赤竜、黒国まで頼むぞ」

 騎乗しようとすると、見送りに来ていたテアンが、ふと思い出したように直樹に聞いてきた。

「『太った白い豚人間』とは、どういう意味ですか?黄王様が時折寝言で言われる言葉のひとつです」

「白い豚のように太った人と言うことです……か?アルバート様はこちらに来る前に割腹のよい人だったのかもしれません」

「なるほど…ありがとうございます。黒王様、道中お気を付けて」

 直樹は頭を下げようとしたが明に止められ、うなずくだけにした。
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