五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉

クリム

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2 かしずく人々※

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 死後の世界、多分地獄に落ちて、両親より先に死んだのだ。

 死にたくてたまらなくなった中学の頃調べた『地獄絵図』。それによれば、親が死ぬまで、賽の河原で石を積まなくてはならない。

 なるべく平たい石を探さなくては…と、ぼんやりと考えていて、目が覚めた。
 
「地獄……?」

 ……の床にしては柔らかな布に横たえられていた。

「おお、お目が覚められましたか!」

 直樹が左右に目を向けると、回りを取り囲んでいた人々が両膝をつき、深々とひれ伏したのだ。

「ええっ。ま、待ってください」

 直樹は飛び起きると、自分の腕に絡み付く髪の長さに驚く。自分の髪が…漆黒の髪がふわりとなびき長いのだ。

地獄の亡者になると、髪が伸びるのか。

 本が一番の友達だった直樹には、知識は多少ある。

「あの、鏡とか……ありますか?」

 何だか声変わりしたように高く、別人のようだ。

 周囲にいる中で一番年寄りの男が、部屋の奥から小さな煤けた丸い鏡を持ってきて、恭しく直に渡してきた。

「ありがとうございます」

 声をかけるとまるで催眠にでも掛かったように、うっとりと直を見つめる。
 
 今までの疎まれ人生の中、冗談のような状態で直は鏡を見た。

 亡者を通りすぎて、鬼にでもなったのか?

 死者にはなんでもありだと、笑い飛ばす気だったが鏡を落とし、再び鏡を見る。

 真っ白できめ細かい肌に、前髪は左右にふわりと分かれて眉にかかり、まるで平安絵巻の女性のようだった。真っ黒な髪は持ち豊かに伸びて敷布にかかり、柔和な眉と睫毛に縁取られた真っ黒な大きな瞳に小さな鼻と慎ましい唇は形が良い。
 
 見苦しい、気持ち悪いと、言われ続けた直の容貌とは違い、直樹が見ても可愛らしいのだ。

 とりあえず、もう一度見る。

 手足も細く小さく可愛らしい感じになり、鏡を手にして小首を傾げると、かしずく人々から感嘆の声が次々に上がった。

「黒王様、この村からお選びください」

「この村にお召し頂ける者をより抜きました」

「わたしを!」

「いえ、わたくしめを!」

「わたくしは、ずっとお待ちしておりました」

「独り身です、お求めを!」

「え、あ、ちょっと、あの、何を」

「村長、黒王は出現して間もない」

 部屋の隅で立っていた真っ赤を髪を後ろで結わえた細面の男が、村の若い男たちを割って直樹の前に立つ。

「赤王、これは黒国の問題ですぞ」

「村長、黒王が出現したからには、国も安寧に向かい国も定まる。まずは黒王が落ち着き、国を思い創る所からだろうに」

 赤髪の男は直樹から見ると、美しいが剣士のような研ぎ澄まされた美貌だった。

 しかし、その細面の美しい美男子を完全に無視して、一同が直を『黒王様』と崇めにじりよる。

「やめい!村長、見苦しいぞ。一旦去ね」

 その真っ赤な瞳を細めると、やや慇懃無礼な態度で、村長と村の衆を追い出した。

「ひっ…」

 観音開きの扉を開けると、部屋の外にも男たちが大量にわいていて、それが粗末な家々に引きこもるまで直樹は体を縮めた。 





「さて、黒王、ここはどこだと思う?」

 赤王が村長の座っていた椅子に座ると、足を組んだ。
 カシャンと音がして、腰の左側の剣が見え、なんだか泣きたくなっていた直樹は、腰を浮かし素っ裸のまま正座をする。

「し、死後の世界だと思います」

 赤王は真っ赤な長い髪をがしがしと掻き、真っ赤な瞳を優美に細めた。

「死後の世界か。ふむ……言えて妙だな」

「違うのですか、では、地獄」

「どちらにしても、死んでいるわけか。聡いな。俺は異世界転生、やったぜ!だったからな」

 赤王は少し褐色な肌をしていて、長い直毛が美しく、まるで血を吸った一振りの刃のように見える。

「なるほど、俺とは違う認識だな。お前は認識能力が高いとお見受けする」

「は……あ」

「では、さらに質問する。お前の『黒』に対するイメージは?」

「黒…ですか?」

 直樹に優しくはなかったが無視はしなかった、戦災日本人中国孤児の祖父の畑の土の色。

 食べるものがあれば人間は幸せになると、繰り返していた祖父の畑は、祖父の死後すぐに売却されてしまった。

 あの豊かな畑を思い出した。

 地面が揺れ酩酊するような感覚に、直樹は目を閉じる。

「ほう……心象が定着したな。さあ、ここから逃げ……っ」

 直樹がそんなこんなを思い起こした瞬間、頭上から轟音が響き、屋根が落ちてきた。

「明、逃がすか!」

「ちっ!レキっ!」

 赤王が剣を掴む。

 赤王の服装はまるで漆黒の軍長コートのようなのに、持っている剣が日本刀みたいで、それをやはり居抜きで構えた。

 村人が騒ぎ始める前どうにかするためにか、姿勢を下げると、いきなり下から上に切っ先を上げる。

 しかし、レキと言われた屈強な兵士は身を交わし、赤王の背後に回り剣を持つ手を背中にひねりあげた。

「あのっ、喧嘩しないで……」

 とりあえずの、仲裁……は、無意味だった。

「嫌だって言っているだろう!嫌だ、止めろ!黒王が見ているっ」

「逃がさない、明。次はいつになるか」

「これは、嫌なんだっ……」

 ゲーム世界の剣士ような巨躯の男は、革の胸当てを押しつけ、白い布の下履きをくつろげると、腕を絞り上げた赤王のコートを捲り上げた。

「手間をかけさせるな、明」

「手を離せっ!くそっ」

 金属製の小瓶を赤王の尻の狭間に押し込み、内容物を垂らす。

 そして、いきなりレキと呼ばれた屈強な男の持ち物として似合う、赤黒くそびえる剛直を押し込んだのだ。

「ひっ…ああああっ……あっ」

 レキが粘着質な音を響かせ、腰を打ち付け回すように揺らしていると、赤王は悶えるように柱に掴まり背を反らせる。

 赤王が歯を食い縛り、何かを堪えようとしていて、直樹は怖くなりレキを止めようと声をかけようとした。
 
「申し訳ない、黒王。しかし、俺の事はしばらく目をつぶってもらえぬか」

「で、でも、苦しそうで…」

「いや……気持ちいいのだ、我が王は」

 レキがふっと柔らかな微笑みを浮かべて、赤王の染まる首筋を撫でた。
 
 レキの両目の辺りには鉤裂きされた深い傷が横に入り、失明はしていない薄い鬼灯のような赤瞳が綺麗で、その瞳を細めレキが腰を打ち付けた。
 
「あ…ダメだ…出る…!あああっ…レキ…レキっ!手をっ…」

 レキが手袋を外すと、赤王の下肢をまさぐり手を差し入れるのと同時に、赤王は何度か痙攣するような仕草を見せる。

「ぐぅっ……」

 レキが片手で抱き締めながら赤王の尻に深々と楔を押し込み、それが赤王の体内に吐飛させた。 

「レキの、くそっ……たれぇがあっ」

 それが合図のようだった。

 赤王が粗い息を吐きながら、柱伝いにずるずると脱力したと思ったら、背後の男を蹴り倒し、下履きを手繰り上る。

「逃げるぞ、黒王」

 赤王はベッドから敷き布を剥がすと、裸の直樹の体にぐるぐると巻いて、ひょいと肩に担ぎ上げた。

「くっそお、腰がだるい……」

「なっ、離して下さい」

「お前がこの村で足をおっ開くのなら構わないが、まずは王宮に行くのが筋だろ?俺も逃げないといかん」

 急に言葉遣いが雑になった赤王に、直樹は抱えられ、外に出される。

 外には先程より多くの男たちが集まり、直を見るなりざわ…とどよめいた。

「赤王、これは!黒王様をどちらに?」

 年嵩の村長が慌てて膝を着く。

「家を破壊したのは赤国近衛のレキだ。そこにのびている。たたき起こして、直してもらうがいい!」

 だが、直樹は目の前の村の様子に、声もなく驚く。

 先程までの荒野は、荒れ果てたような村は、どこへいったのか。

 肥沃で豊かな土地が広がり、朽ちたような家は中国風とも日本風ともとれる造りとなっている。

 村人も奈良時代と中国唐時代などのあたりを、錯誤させる雰囲気となっている。

「お前たちはよい国を貰い、肥沃な大地は餓えを満たすだろう。黒王は王宮に一度赴かなくてはならない」

 落胆の声が一斉に広がり、直樹は赤王に

「なんか、言え」

と言われ抱えられたまま、

「助けてくれてありがとうございます。必ず連絡をします」

と告げる。

 今度は咽ぶような感嘆のどよめきが広がった。

「はっ!」

 赤王はどう見ても、西欧の伝説のサラマンダードラゴンに直樹を乗せると、口輪から伸びる紐を引き空へドラコンを舞い上がらせた。

 目の下に広がる大地はまさに、黒。

「これはお前の心象が作り出した、お前の国だ」

「僕の……国……ですか?」

「ああ、この黒国を真ん中に、北に赤国、東に緑国、南に青国、西に黄国がある。それぞれに王がいて、王の心象が作り出した国がある。お前は黒国の王だ。お前は天帝により転生し、今、お前の国を作り出した。俺は赤王。赤土に彩られる国の王だ」
 
 赤王は赤国の王だと言うことになるわけだが、何故かレキという男に追われているらしく、やたらと慌ただしいのだ。
 
 直樹はただ、地上の豊かな黒い土地を眺めていた、
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