18 / 37
第二章 レディ・ブリュー編
外伝 初恋指南の行方(アーサー視点)
しおりを挟む
その日の深夜。アーサーは夜警の近衛から伝言を受け取った。伝言相手はデューク国王陛下代理で、内容は大至急来ること、だ。
どうやら何か重大なことが起きたのらしい。アーサーは第一近衛隊兵舎から出て月明かりの冴え冴えとした王宮を歩いた。
王代理の執務室兼私室の扉には一人の近衛が張り付いている。
「僕が交代する」
その一言で部下は去り、アーサーは部屋へノックすることなく静かに入っていく。月明かりだけが頼りの部屋に、寝台のドレープ天蓋が珍しく降りていた。
「いったい何が」
言いかけたアーサーにデュークが自身の唇に人差し指を押し当てて、小さく囁くように行った。
「気を失って動かないのだ」
声はまるで悪性感冒でも移って為す術ない人のようで、アーサーはゾッとした。
「だから何が…」
アーサーはデュークが差した指先が寝台の中を示し、そこに月明かりが差し込むと金の髪が輝くのを見た。
「ルー…」
ふわりと香る甘い汗の香りと、特有の臭いが事後を物語る。息を呑み寝台に近寄ると、アーサーは掛布を外さずルーネの様子を見た。そして汗をかく額を手で触れる。
「まずはマーシーを呼ぶ。いいな」
一瞬、茫然としながらぐす…と鼻を啜る親友の顎を拳を握りしめて殴る。
「ぐっ…」
「目が覚めたか。覚めないなら、もう一発…」
「いや、大丈夫だ。私は…」
アーサーは踵を返し重い扉を開いて再び息を呑んだ。マーシーが蝋燭を持って立っていたのだ。
「今呼びに行こうと…」
「アーサー様のお姿を見ましたので。失礼します」
きっちりと服を着ているマーシーは眠っていないのだろう。部屋へ入ると寝台に向かって歩き、デュークに礼を取る。
「ルーネ様、失礼します」
マーシーが掛布を外して、ルーネの子どもらしい手足の長い肢体が現れた。マーシーがふと眉をしかめて、デュークを呼んだ。アーサーは少し離れたところで成り行きを見守っているしかない。
「国王陛下代理、貴方様のハンケチをお貸しください」
デュークは着崩した服からハンケチを出して渡すと、マーシーは掛布で隠した下肢に当てて、デュークに渡したのだ。夜目にも分かる赤は血の色で、マーシーは少し怒って顔をしている。
「ゆるゆるとお進み頂けなかったようですわね。無理強いをなさって…。ハンケチは破瓜の証として緊急時にお使いください。アーサー様、お屋敷から医師を連れてきてください。ルーネ様の秘密を守らなくてはなりません」
アーサーはマーシーの言葉に頷き、扉を出て行く。その背後からマーシーがデュークに声を掛けているのを聞いた。
「ルーネ様様は身体がまだ未熟です。こうした後始末は貴方様がしなくてはなりませんよ。さあ、ルーネ様をお湯に入れて差し上げて。髪は濡らしてはなりません」
マーシーの言葉に素直に頷いているデュークは、マーシーに躾けられていて、アーサーは口の中で笑いを堪えた。
発熱はショック状態から…つまり『知恵熱』みたいなものだと、ドレスシャツを着たルーネを診察した医師は笑う。傷薬と熱さましを出した医師を送って行く馬車の中で、老齢の医師がアーサーに笑いかけた。
「若、弟君に先を越されましたなあ」
「うるさいよ。それに僕の理想はまだ蕾にもなっていない」
アーサーの意中の相手はまだ三歳だ。幼女趣味でもないアーサーだが、ルーネをだしにしてアーリアの遊び相手もしていた。全てはアーリアが女王になった際の王配になるため。
「だって、女王の純潔は王配の無垢で満たされなくてはならないだろう?僕はしばらく我慢するさ」
今頃、ルーネは令嬢の寝巻きに取り替えられているだろう。この老医師はルーネが小姓としてデュークに手篭めにされたと思ったいる。
「まずは第一歩さ。ルーネには僕の野望のために、デュークを繋ぎ止めてもらう」
アーサーはにこりと笑った。
どうやら何か重大なことが起きたのらしい。アーサーは第一近衛隊兵舎から出て月明かりの冴え冴えとした王宮を歩いた。
王代理の執務室兼私室の扉には一人の近衛が張り付いている。
「僕が交代する」
その一言で部下は去り、アーサーは部屋へノックすることなく静かに入っていく。月明かりだけが頼りの部屋に、寝台のドレープ天蓋が珍しく降りていた。
「いったい何が」
言いかけたアーサーにデュークが自身の唇に人差し指を押し当てて、小さく囁くように行った。
「気を失って動かないのだ」
声はまるで悪性感冒でも移って為す術ない人のようで、アーサーはゾッとした。
「だから何が…」
アーサーはデュークが差した指先が寝台の中を示し、そこに月明かりが差し込むと金の髪が輝くのを見た。
「ルー…」
ふわりと香る甘い汗の香りと、特有の臭いが事後を物語る。息を呑み寝台に近寄ると、アーサーは掛布を外さずルーネの様子を見た。そして汗をかく額を手で触れる。
「まずはマーシーを呼ぶ。いいな」
一瞬、茫然としながらぐす…と鼻を啜る親友の顎を拳を握りしめて殴る。
「ぐっ…」
「目が覚めたか。覚めないなら、もう一発…」
「いや、大丈夫だ。私は…」
アーサーは踵を返し重い扉を開いて再び息を呑んだ。マーシーが蝋燭を持って立っていたのだ。
「今呼びに行こうと…」
「アーサー様のお姿を見ましたので。失礼します」
きっちりと服を着ているマーシーは眠っていないのだろう。部屋へ入ると寝台に向かって歩き、デュークに礼を取る。
「ルーネ様、失礼します」
マーシーが掛布を外して、ルーネの子どもらしい手足の長い肢体が現れた。マーシーがふと眉をしかめて、デュークを呼んだ。アーサーは少し離れたところで成り行きを見守っているしかない。
「国王陛下代理、貴方様のハンケチをお貸しください」
デュークは着崩した服からハンケチを出して渡すと、マーシーは掛布で隠した下肢に当てて、デュークに渡したのだ。夜目にも分かる赤は血の色で、マーシーは少し怒って顔をしている。
「ゆるゆるとお進み頂けなかったようですわね。無理強いをなさって…。ハンケチは破瓜の証として緊急時にお使いください。アーサー様、お屋敷から医師を連れてきてください。ルーネ様の秘密を守らなくてはなりません」
アーサーはマーシーの言葉に頷き、扉を出て行く。その背後からマーシーがデュークに声を掛けているのを聞いた。
「ルーネ様様は身体がまだ未熟です。こうした後始末は貴方様がしなくてはなりませんよ。さあ、ルーネ様をお湯に入れて差し上げて。髪は濡らしてはなりません」
マーシーの言葉に素直に頷いているデュークは、マーシーに躾けられていて、アーサーは口の中で笑いを堪えた。
発熱はショック状態から…つまり『知恵熱』みたいなものだと、ドレスシャツを着たルーネを診察した医師は笑う。傷薬と熱さましを出した医師を送って行く馬車の中で、老齢の医師がアーサーに笑いかけた。
「若、弟君に先を越されましたなあ」
「うるさいよ。それに僕の理想はまだ蕾にもなっていない」
アーサーの意中の相手はまだ三歳だ。幼女趣味でもないアーサーだが、ルーネをだしにしてアーリアの遊び相手もしていた。全てはアーリアが女王になった際の王配になるため。
「だって、女王の純潔は王配の無垢で満たされなくてはならないだろう?僕はしばらく我慢するさ」
今頃、ルーネは令嬢の寝巻きに取り替えられているだろう。この老医師はルーネが小姓としてデュークに手篭めにされたと思ったいる。
「まずは第一歩さ。ルーネには僕の野望のために、デュークを繋ぎ止めてもらう」
アーサーはにこりと笑った。
4
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
人生に脇役はいないと言うけれど。
月芝
BL
剣? そんなのただの街娘に必要なし。
魔法? 天性の才能に恵まれたごく一部の人だけしか使えないよ、こんちくしょー。
モンスター? 王都生まれの王都育ちの塀の中だから見たことない。
冒険者? あんなの気力体力精神力がズバ抜けた奇人変人マゾ超人のやる職業だ!
女神さま? 愛さえあれば同性異性なんでもござれ。おかげで世界に愛はいっぱいさ。
なのにこれっぽっちも回ってこないとは、これいかに?
剣と魔法のファンタジーなのに、それらに縁遠い宿屋の小娘が、姉が結婚したので
実家を半ば強制的に放出され、住み込みにて王城勤めになっちゃった。
でも煌びやかなイメージとは裏腹に色々あるある城の中。
わりとブラックな職場、わりと過激な上司、わりとしたたかな同僚らに囲まれて、
モミモミ揉まれまくって、さあ、たいへん!
やたらとイケメン揃いの騎士たち相手の食堂でお仕事に精を出していると、聞えてくるのは
あんなことやこんなこと……、おかげで微妙に仕事に集中できやしねえ。
ここにはヒロインもヒーローもいやしない。
それでもどっこい生きている。
噂話にまみれつつ毎日をエンジョイする女の子の伝聞恋愛ファンタジー。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで
橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。
婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、
不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。
---
記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘!
次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。
---
記憶は戻りますが、パッピーエンドです!
⚠︎固定カプです
【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います
ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。
それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。
王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。
いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる