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50 紡ぐ未来へ

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 叔父上からの手紙では、アーロンはラメタル国で見たことを覚えておらず、何か問題を起こしたのではないかと詫びるような内容が書いてあった。

 ガリウス様やセフェム様のことを覚えていないのはありがたい。彼が留学?しているレガリア王国に知られるのは、まだ早いと思ったからだ。僕からの手紙には、アーロンから求婚され、きちんとお断りをしたことを書いた。それ以上それ以外何もない。さよならだ、アーロン。

 ラメタル国にはラメタル人以外にも、多くの人が国民になりたいと入国した。それによってラメタル国にも宿り木が出来た。また、ターク先生が選抜したガルドバルド大陸の人々もやってきて、さらに活気が出ている。巨人であれ獣人であれ小人であれ、腹実で見せ物扱いをされていたラメタル人には些細なことのようだ。

 そんな中、ターク先生が腹実になって倒れ込んだ。ガルドバルド大陸の小人族のターク先生が何故?と思ったが、そんなことを考えていられない状況だった。

 ターク先生はオドがほぼないらしく、今までも二人の伴侶から貰い受けて元気だったのだが、全てを腹実に持って行かれて寝台から起き上がれない状態になった。

「いた、痛い、痛っ!あーーーっ!」

 マナ酔いで吐き気の治らないターク先生は腹実を出すのも難航し、小さな身体から出される腹実に苦しんでいた。

「主様、息をしてくださいっ!」

「ターク、息をしろ!」

「タク、タク、死ぬな!」

 マナの巡りが止まりターク先生が息をしなくなってしまった瞬間踵を返したのはフェンナで、外で控えていたジェスを入れて、ターク先生の心臓に直接マナを流させた。

「婆様、死ぬなよ!」

 ターク先生の左右でマナを与え続けたガリウス様とセフェム様が更にマナを増幅させるのが分かる。

 フェンナが部屋に戻ってきて、手の中の小瓶の中身をターク先生の口の中に入れた。

「主様様、飲んでくださいましっ!」

 フェンナが胸を押すと、意識を失ったターク先生が生理的に嚥下し息をし始める。

「ターク!」

「タク!!」

「はっ、はあっ、はっ……ぐっ……うーーーーっ!」

 それでもマナが全く足りなくて、僕はガリウス様とセフェム様の第二の心臓に直接マナを流し込み続けて、腹実は二日かかって出された。

 見事な金髪と金の瞳の男の赤子は、疲労困憊のターク先生の初乳を飲むと、ガリウス様やセフェム様の乳を飲んだ。理由はターク先生のオドが本当に尽き掛けていたからだ。

「ターク、ガルド神に願うのはこれまでだ!肝が冷えたっ!」

 ガリウス様の怒声は王城内に響き渡り、メーテルに任せたアストラが泣いた声が聞こえる。セフェム様が泣きながら、

「タクが死んだら俺も死ぬーーっ!」

と叫びながら、ターク先生が寝ている寝台に突っ伏してしまった。

「主様様が用意していた万能薬(エリクサー)が役に立つとは……」

 フェンナもぐったりとしていて、僕も二日振りにジェスと手を繋いでソファに座る。

「……すみません。でも、大満足です。サリオンの子や僕の子がレムリカント大陸にヒトとして存在することが、マナの歪みを解します。じきに門扉(ゲート)は僕由来でない者も通すはずです。それにガルド神はこの地に魔石を下さいました。魔法石以上の物です。僕らの次の世代がきっと役立てるでしょう」

 ターク先生が命を懸けて生み出した赤子が、ガリウス様の手の中で金の瞳を開き、じっと天井を見つめている。

「この子は何を見ているのだ?」

「さあ……未来かもしれませんね」

 ターク先生も天井を見ながら笑っていた。





「サリオンちちうえ、こくおーのおしごと、おわったですか?」

 一番末の僕の子が政務室に入って来る。まだ三歳の男の子は鈍色の巻き毛でジェス譲りの金の瞳が大きくて可愛い。

「覚え書きだけだから、大丈夫。どうしたんだい?」

「ジェスとうさまが、えほんよんでくださるから、サリオンちちうえもごいっしょにと、おもって」

 ターク先生……いや、お婆様っ子のジェスは、ガリウス様やセフェム様がいない時はターク先生の寝室にいることが多い。

 ターク先生は出産でマナとオドを使いすぎて、数年経っても寝台から少ししか出られないからだ。それだけマナとオドを吸って生まれた彼は元気に育ち、時折天空を眺めている。

 そんな彼もまた溢れる生命力を与えようとしてか、ターク先生の寝室にいることが多い。ターク先生の血脈が部屋にいるだけで、ターク先生の枯渇しがちなオドは少しばかり満たされるのだ。もちろん直接オドを与えられるガリウス様やセフェム様ほどではないけれど。

「そうか。では、僕も行こうかな。ジェスの声は大好きなんだ」

 末の子が僕のズボンの端を掴んで抱っこをせがむから、僕は屈んで抱き上げる。

 王城から見下ろす街並みは、ターク先生いうところの急速復興をしている。魔石燃料による魔法供給が出来るため、ラメタル全土の地下に生活基盤線を這わせた。光りがともり上下水道を整備していくと共に、ガルドバルド大陸の科学者ナファさんを招いて、ラメタル国とレムリア国共同で技術会議を開く。ターク先生がすごく嫌な顔をしていたのが気になるところではあった。

「ちちうえ?」

「うん、行こうか」

 僕はゆっくりと歩き出した。

~本編おわり~


次回からサイドストーリーとなります。
ぽちぽち書いてます。
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