婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム

文字の大きさ
上 下
35 / 54

34 情報量が多すぎて混乱しています

しおりを挟む
 メーテルを寝台に寝かせると、開け放したまま居間でターク先生がお茶を出してくれた。薄荷茶に気持ち悪さが軽減する。

 服はメーテルが倒れてしまったため、僕もジェスも長いバスローブのままだった。そもそも、魔の森の屋敷には子供の服はない。

「情報過多でしたね。少し落ち着きましょうか」

 ターク先生とイベールさん、そしてジェスが並んで座っている。僕はジェスの横に座っていて、セシル兄様とハンロックは少し離れたソファに座っていた。

「ハーピー、結界を」

 セシル兄様がハーピーに結界を作らせる。ハーピーは夜寝る子なのに、すごく頑張っている。

『再び結界を張ります』

 それを見てターク先生は頷いた。僕は気持ち悪くて、薄荷茶をおかわりしていた。

「では、ジェスがオーロで、サリオンがリオンなのは、理解できましたか?」

 僕は頷いた。オーロが番いってことは、ジェスと番いってことだ。嬉しくて嬉しくてもうどうかなりそうだった。でもジェスときたら、

「まさか、まさか、成人前かよ……」

と繰り返している。なんのことなんだろう。

「ジェス、どうしたの?」

「あ、いや、あの……」

「はーい、そこの二人、お喋りはやめて下さい。さて、獣化した二人が番いなのは理解できますが、ヒトの姿である二人はどうなのです?」

 ターク先生の言葉にイベールさんが、

「無粋だなあ、おかーさんは。だからおとーさんとちちうえが困るんだよ」

と言う。ターク先生はムッとして、

「僕はガリウスもセフェムも大好きですよ」

と言い返す。

「そーじゃなくてねー、おかーさん」

 イベールさんは急に気配を変えた。そしてゆったりとした口調から一変、

「君たちは番いだよね。番いは本能的にマナもオドもひっくるめて求め合う。気持ちを確かめ合う前に交合することだってある。抗えないんだ、僕の両親のように」

ときつい口調になる。僕は……

「俺は番いだからってだけでサリオンと一緒になりたいわけじゃない。俺はサリオンが好きだ!」

 ジェスに言われて胸が疼く。どうしよう、嬉しい。すごく、嬉しい。胸がどくどくしている。

「どーだか、ジェス。君はセリアン国王になりたくないだけじゃないのー?そーやって、レームから国からずっと逃げていたでしょー」

 僕はターク先生とジェスを見た。

「ジェスが、国王?」

 ターク先生は頭を掻きながら、

「再び情報過多ですが、ジェスはジェス・セリアン。僕の孫にしてセリアン王国の現王レームの第一王子です」

そう話す。驚きだ。だってセシル兄様と同じ立場だから。セシル兄様もハンロックも知っていたらしく、驚いているのは僕だけだった。

「ジェス、ジェス、お父様と喧嘩してるって、国王様と喧嘩してたの?」

とジェスに聞くと、

「ああ。だって成人前から寝所に伴侶候補を次々と送り込んで来るんだぜ?安眠妨害もいいとこだろ?それにさ、金獅子の弟妹(やつら)は優秀でよぉ。小獣人の俺なんかお呼びじゃねえし。だから婆様の仕事を手伝う名目でこっちにいたんだ。そうしたらすげえ婆様色のかっこいい獅子獣人を見つけるし、番いだし、マナも制御出来る様になるし。サリオンとはマナ供給も出来るんだぜ」

とすごく可愛い顔で僕の顔を見上げて来る。

「ふーん。でぇ、番ってしっかり匂いつけてー、お腹の中に宿み木ってどういうことかなー?」

 お腹の中に宿り木?

 僕のお腹の中に宿り木は生えているとでもいうのだろうか。

「ちょっと待ってください……うっ……」

 気持ち悪くて薄荷茶を吐きそうになる。ジェスが背中をさすってくれて少し楽になる。

「自分とは違うマナがお腹にあるからー、マナ酔いしているんだよー」

 イベールさんが僕のお腹の下の方を指差している。ターク先生がすごく神妙な顔をして、ジェスを見た。

「ジェス、あなたはサリオンと番ったのですか?」

「急に発情期が来て、耐えられなくて、獣化したサリオンと離宮の庭で……」

 ターク先生は天を仰ぎ、それから僕を見た。

「嫌ではなかったのですね?」

 そう言われて僕は何度も頷く。ターク先生は深い溜息をついた。

「サリオン、あなたはジェスと交合したのですよ、セシルより先に。あなたはジェスと身の深い部分で繋がったのです。獣化していてもあなたの身体は一つです。発情期の獣人は必ず実を成します。しかも番いならなおさら、相手の発情期に合わせてあなたも発情したのですよ」

 交合……僕は獣化したジェスと交合をしてしまっていた、それも何度も!

 僕は真っ赤になってジェスを見下ろした。セシル兄様がソファからずり落ち、ハンロックが驚いたように口を開いている。

 セシル兄様、ごめんなさい。順番抜かしをしてしまいました。でも、どうして僕のお腹の中に宿り木?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています

倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。 今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。 そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。 ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。 エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...