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18 ターク先生の使命

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「色々と驚かれたと思いますが、全て真実であると申し上げます」

 離宮の居間に転移した僕に告げたのはクロルで、僕はぎこちなく頷いた。

「メーテル殿も知り得ていますが、『見て』はいません。ご不安ならば王太子殿下にご相談を」

「いや、いいよ。僕も情報が多くて混乱しているが、冷静であるつもりだよ」

「明日はお一人でとなります。今日はお早めに御就寝ください」

 クロルが慇懃に頭を下げて退出をすると、メーテルがテレサを伴って入って来る。

「お疲れのようですが、お召し替えを」

 テレサが服を用意してくれたのだけれど、走ったり吐いたりもうなんだか洗い流してすっきりしたかった。

「メーテル、先にお風呂に入りたいよ」

「ええ、ご用意は致しております。王太子殿下は初日担がれての御帰城でしたのに。さすが殿下です」

「半分獣だからかな?」

 僕の自嘲とも取れる言葉を流してメーテルはテレサに準備をさせる。薔薇の花びらを浮かべた湯に入ると、僕は身体を伸ばした。少し身体が軋む。

「お髪(ぐし)を流します」

 テレサの手が猫足の置き型浴槽の縁に頭を出した僕の髪に掛かり、散湯が耳に入らないように丁寧に湯を掛けて行った。

「魔法学舎はいかがでしたか?」

 珍しくメーテルまで浴室にいて、湯の中の僕の身体を薔薇の蕾をスクラブにした石鹸袋で洗ってくれる。

「午後からの運動で吐いてしまってね」

 散湯していたテレサの手が一瞬止まったが、再びこちらも泡だてた石鹸で髪を洗ってくれる。

「ジェスが助けてくれて、一緒に最後まで歩いて行けたんだ」

「ジェス……ですか」

 メーテルがジェスの名前に頭を巡らせていたが、僕は少し笑った。

「僕より小さな金の髪と瞳の男の子だ。多分八歳くらいではないかな?学舎で一番小さいんだ。でも魔力は誰よりも凄くって」

「あら、殿下がそんなにご執心なさるなんて」

 メーテルとテレサがくすくす笑うから僕は真っ赤になってしまった。

 食事の時も今回は特別にメーテルと話しながら食べて、メーテルは簡易式時間停止魔法陣を施された笹箱の中のから揚げをカトラリーで切り分け驚いている。ターク先生のレシピが知りたいみたいだったけれど、自分で考えると言い妙ににこやかに微笑んだので少し怖かった。

「では、後ほどまた参ります」

 夕食が終わると寝室に行きテレサを見送ると、僕は今日のターク先生の見せてくれた世界を思い出していた。

 桃色の扉の向こうの世界。扉は二メートルくらいだろう。クロルの背丈ほどの中に見える景色は、王城の中で褐色の巨人の手がターク先生を掴むと、中へ連れて行ってしまう。

「まだ僕は仕事中ですよ、ガリウス」

 小さな手で巨人の顔を叩いて顎に接吻をするのを扉から見上げていると、

「この扉を開けたとなると、レムリカントの王族か」

 と低い声が響く。僕は王族として名乗りをあげて良いか分からず、クロルを見た。

「誇りを持ってお伝えください」

 クロルの言葉に頷き、

「僕はレムリカント王国王息サリオンです」

 と告げた。すると三メートルはあろうかと思う体躯のよい巨人は床に胡座をかき、ターク先生を左腕に座らせると、

「余はタイタン国王、ガリウスである。ラムダの二人目の子か。ラムダは息災か、クロルよ」

 そう告げる。

「は。しかし、反対派の影響で自由には動けず、目下、開花は遅れ気味かと」

 ターク先生の背後に見える世界は巨人族の世界だが、こちらではまだ、数少ない魔法具が沢山あり、魔法灯があちこちについて明るくなっている。

「僕はターク・タイタン。二十年前にガルド神を身に降した知恵の実であり、ユグドガルドにて同じく遣わされた知恵の実を探しています」

 ターク先生がガリウス王の腕から飛び降りると、ガリウス王の指先に接吻をして戻ってくる。そして扉を締めた。ガリウス王が小さく手を振ってくれたので、僕は頭を下げて礼を取った。

「この門扉(ゲート)は僕と僕の伴侶、僕の子孫と伴侶しか通ることが出来ません。ガリウスもなんとか潜れますが、あの巨躯でしょう。ユグドガルド大陸では悪目立ちします」

 ターク先生の言葉を受けてクロルが頷く。

「そこで私に白羽の矢が立った訳です。ガルド神より恩赦を得ましたがまだ目が二つの私が、ユグドガルド大陸とガルドバルド大陸の架け橋になるべくこちらに渡り、いち貴族でしたラムダをレムリカント王国の王にのし上げました。レムリカント王国では王位が確立していない言わば烏合状態です。王太子殿下が王位を継ぐために、王息である殿下に支えて頂きたいのです」

 でも僕には分からなかった。どうして別の大陸のターク先生たちがレムリカント王国の王領にいて父様を支えているのか。

「サリオン殿下、ガルド神から僕が依頼されたのは、ユグドガルド大陸の進化。文明開化です。ガルドバルドを少し見たでしょう?ユグドガルドとガルドバルドは今バランスの悪い状態になっています。ガルドバルドに知恵の実が降りたのと同様に、ユグドガルドにも知恵の実が降りたはずが、一向に進化の歯車は動き出していない。世界がバランスを崩したからこそ、マナが歪み僕たちは行き来出来なくなっています」

 ターク先生はターク先生にだけ許される門扉(ゲート)を利用し、知恵の実と呼ばれる『異世界人』を王になった父様に探させた結果、レムリカント王国にはいないことは分かった。パールバルト王国は田舎の小国で、母様の故郷でもあることから調べてもらったらしいのだけれどいなかったらしい。

 となるとあとは大国レガリア王国になる。レガリア王国はアーロンのお祖父様が留学をしていたらしいけれど閉鎖的で、父様が送った親書にも返答がないらしいのだ。

 ターク先生はレガリア王国に『異世界人』がいると思っていて、その人の知恵が外に漏れないようにされているのではないか考えている。

「ターク先生は『異世界人』なのですか?」

「ええ。でも『異世界転生人』なのですよ」

 そう言われて、僕は思わずこめかみを押さえてしまった。違いがいまいち分からない……。



 ※※※※※※※※※※※※※※



「『異世界人』と『異世界転成人』の違いに混乱していましたね、ターク先生。サリオン可愛い」

 僕の背後に来ていたのは、セシル王太子。学舎転移用の指輪がなくても、セシルは転移陣を使えるのです。精神系を得意とする彼の中で、唯一の武器となる陣ですね。

「どうしてあなたが初日から覗き見しているのです?」

「初日だからですよ、ターク先生」

 この子が王になったら、国は多分一気に進んでいくだろう風格を持っています。ただ、精神系の魔法陣が得意だと知れると、国が歪みかねないのですが。まあ、クロルも国を守っていたのですし、ハンロックがいれば大丈夫でしょう。

「ところで、宿り実はまだですか?実を捥げば、王位継承権が移動して、動きやすいのですが」

 セシルが青い瞳を壁に向けています。まだなんですね。

「王太子とあろうものが情けない」

 僕がソファに沈み込むと、セシルは言い訳がましく話し始めます。

「だ、だってハンロックのモノはまるでーー」

「聖剣クレイモアですか?それならばガリウスの陰茎はバズーカ砲かロケットランチャーですね」

「クレイモアだか、ロンギヌスの槍だか分かりませんが、とっとと観念して身に受けなさい」

 僕はセシルにポーションを渡しました。双子印の曰く付きですが。

「さあさあ、とっととお家に帰りなさい。体質改善をして子作りに励みなさい」

 最悪最低を想像して、最善を選びとるセシルの考えはいささか浅すぎると僕は思うのですよ、セシル。


ーーー
このポーションを使ったか使わなかったかは、後日。。
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