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16 マナの同調と制御
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皆から大幅に遅れて学舎の庭に歩いていくと、庭では三人がマナを制御する訓練をしていた。僕とジェスが遅いからか、クロルが門扉の前で待っている。
「殿……サリオン、顔が青いですよ」
そんなに顔色が悪いのかな。僕はジェスと手を握ったまま、
「少し吐いただけだ。心配はいらない」
と答えた。するとクロルはターク先生に振り向いて動揺した声を上げる。
「ターク殿、サリオンには無理だと私は話しました」
ターク先生は笑いながら、
「過保護ですよ、クロル。セシルもやり通しました。繰り返せばこなせるようになります。体力不足では万が一マナが尽きた時、体内気力のオドから賄うことが出来ません」
クロルを指差した。
「それに、セシルはハンロックにおぶられて帰りましたから、歩いて戻ったサリオンはかなり見込みがあります」
ターク先生は僕とジェスを招き入れ、テラスに座らせる。それから僕とジェスの頭を撫でてから、お茶を出してくれた。
「薄荷茶です。口がすっきりしますよ」
冷たいのは氷が入っているからで僕はお茶を飲みながら、ミーメたちの様子を見ていた。
「俺も訓練に入るから、サリオンは落ち着いたら来いよ」
ジェスが薄荷茶を煽るように飲んでから、魔法制御のために庭に出て行く。一度爆発的に魔力を解放して、身に戻すのを繰り返すのだ。
ミーメとスターは二人で両手を合わせて難なくこなしていている。
「双子はマナの質が近いので、同調し互いに調整し合うことができます」
ターク先生がそう話してくれた。ドナムンドとザックは一人で制御をしている。うまくやっている中で、ジェスの小さな舌打ちが聞こえてジェスを見ると、可視化の陣の中で膨大な魔力を持て余しているようだった。
「ジェス」
僕は薄荷茶を少し残して陣に入り、ジェスの前に両手を出した。
「サリオン?」
僕はジェスの手を取り魔力を放出して、ジェスと同じだけ広げる。ジェスのマナと同じだけ出してみるとなかなかすっきりして、そのあとゆっくりとジェスが僕の手に手を合わせた。ジェスが不安そうな声を上げる。
「大丈夫だよ、同調しよう」
「待ちなさい、双子のマナとは違いーーえっ?」
ターク先生の声が聞こえたが、僕はジェスのマナ量まで上げて、ジェスのマナを感じながらゆっくりと身に収めていく。するとジェスのマナも徐々に小さくなり、僕らはマナを制御しながら完全に身に収めることが出来た。
「ね、簡単だろ」
「え、うわ、うわーー、すげーー。婆様、俺、制御できた。サリオン、もっとマナを出していいか!」
ジェスが僕の両手を握り締めながら、マナを一気に出し始める。僕はそのマナに引きづられてマナを放出し、可視化の陣が揺らいだ。
「防御陣展開!」
ターク先生の声と共に金の魔法陣が展開される。僕とジェスのマナに煽られて、ミーメとスターが飛ばされそうになり、ドナムンドとザックは風圧で転がってターク先生の陣に包まれた。怪我はしていないみたいだ。
「ジェス、落ち着いて!」
ジェスは半泣きで僕を見上げる。マナが暴走しているのか、どんどん膨れ上がっていた。僕もそれを感じる。同調連鎖だ。
「お、俺……っ!」
「大丈夫っ……だよ!」
手だけではだめだ。僕はジェスの小さな身体を抱きしめて、僕のマナを一気に放出して、ジェスのマナを包み込むと、
「僕がマナで押すから!」
少しずつマナで圧をかけて行く。
「わ、分かった」
ジェスは僕の肩口に額をつけて何度もしゃくり上げながら、体内へマナを戻して行く。ふと、ハンロックに言われたことを思い出した。
「ジェス、ジェス。マナを折りたたむようにして戻すんだ」
洋服もたためば小さくなる。それを繰り返してマナを溜める第二の心臓に定着させる。すると爆発的にマナが必要になった時には数倍も膨れ上がる。
「う、うんっ!俺、やってみる」
膨らんでいた紙袋が折りたたまれて行くように次第に抵抗がなくなって行くジェスのマナは、ふわりと消えた。僕らは抱き合いながら地面にへたり込む。僕はこんなに全力でマナを放出したことはなかったから、すごく疲れて一歩も歩けないでいた。
ターク先生がにこにことしながら、
「治癒魔法陣、展開」
と僕とジェスに癒しを掛けてくれ、僕は駆け寄ってきたドナムンドが手を貸してくれて立ち上がった。
「ありがとう、ドナムンド」
「どういたしまして、サリオン。それにしても二人ともすごい魔力量だね。王族に匹敵するんじゃない?」
僕は言葉を濁しながら、
「ジェスに引っ張られただけだよ。ね、ジェス」
そう言うとジェスはまだ泣いていたから、僕は両手でジェスを抱き上げた。すごく軽いジェスの体重に驚きつつ、
「ジェス、立てる?」
そう聞くと、ジェスが僕の首にしがみついたまま、
「腰が抜けた。立てない」
と首を横に振ったから抱き上げたままターク先生のもとに集まる。ジェスは可愛い。可愛くて、胸が締め付けられる。そんな僕の後ろからドナムンドが、
「ジェスかぁ、強敵だなあ」
そんな風に呟いたが、どんな意味だろう。
ーーー
ターク先生とクロルですがいわゆる白い結婚で、しかもクロルはターク先生に全く頭が上がらない状態です。
「殿……サリオン、顔が青いですよ」
そんなに顔色が悪いのかな。僕はジェスと手を握ったまま、
「少し吐いただけだ。心配はいらない」
と答えた。するとクロルはターク先生に振り向いて動揺した声を上げる。
「ターク殿、サリオンには無理だと私は話しました」
ターク先生は笑いながら、
「過保護ですよ、クロル。セシルもやり通しました。繰り返せばこなせるようになります。体力不足では万が一マナが尽きた時、体内気力のオドから賄うことが出来ません」
クロルを指差した。
「それに、セシルはハンロックにおぶられて帰りましたから、歩いて戻ったサリオンはかなり見込みがあります」
ターク先生は僕とジェスを招き入れ、テラスに座らせる。それから僕とジェスの頭を撫でてから、お茶を出してくれた。
「薄荷茶です。口がすっきりしますよ」
冷たいのは氷が入っているからで僕はお茶を飲みながら、ミーメたちの様子を見ていた。
「俺も訓練に入るから、サリオンは落ち着いたら来いよ」
ジェスが薄荷茶を煽るように飲んでから、魔法制御のために庭に出て行く。一度爆発的に魔力を解放して、身に戻すのを繰り返すのだ。
ミーメとスターは二人で両手を合わせて難なくこなしていている。
「双子はマナの質が近いので、同調し互いに調整し合うことができます」
ターク先生がそう話してくれた。ドナムンドとザックは一人で制御をしている。うまくやっている中で、ジェスの小さな舌打ちが聞こえてジェスを見ると、可視化の陣の中で膨大な魔力を持て余しているようだった。
「ジェス」
僕は薄荷茶を少し残して陣に入り、ジェスの前に両手を出した。
「サリオン?」
僕はジェスの手を取り魔力を放出して、ジェスと同じだけ広げる。ジェスのマナと同じだけ出してみるとなかなかすっきりして、そのあとゆっくりとジェスが僕の手に手を合わせた。ジェスが不安そうな声を上げる。
「大丈夫だよ、同調しよう」
「待ちなさい、双子のマナとは違いーーえっ?」
ターク先生の声が聞こえたが、僕はジェスのマナ量まで上げて、ジェスのマナを感じながらゆっくりと身に収めていく。するとジェスのマナも徐々に小さくなり、僕らはマナを制御しながら完全に身に収めることが出来た。
「ね、簡単だろ」
「え、うわ、うわーー、すげーー。婆様、俺、制御できた。サリオン、もっとマナを出していいか!」
ジェスが僕の両手を握り締めながら、マナを一気に出し始める。僕はそのマナに引きづられてマナを放出し、可視化の陣が揺らいだ。
「防御陣展開!」
ターク先生の声と共に金の魔法陣が展開される。僕とジェスのマナに煽られて、ミーメとスターが飛ばされそうになり、ドナムンドとザックは風圧で転がってターク先生の陣に包まれた。怪我はしていないみたいだ。
「ジェス、落ち着いて!」
ジェスは半泣きで僕を見上げる。マナが暴走しているのか、どんどん膨れ上がっていた。僕もそれを感じる。同調連鎖だ。
「お、俺……っ!」
「大丈夫っ……だよ!」
手だけではだめだ。僕はジェスの小さな身体を抱きしめて、僕のマナを一気に放出して、ジェスのマナを包み込むと、
「僕がマナで押すから!」
少しずつマナで圧をかけて行く。
「わ、分かった」
ジェスは僕の肩口に額をつけて何度もしゃくり上げながら、体内へマナを戻して行く。ふと、ハンロックに言われたことを思い出した。
「ジェス、ジェス。マナを折りたたむようにして戻すんだ」
洋服もたためば小さくなる。それを繰り返してマナを溜める第二の心臓に定着させる。すると爆発的にマナが必要になった時には数倍も膨れ上がる。
「う、うんっ!俺、やってみる」
膨らんでいた紙袋が折りたたまれて行くように次第に抵抗がなくなって行くジェスのマナは、ふわりと消えた。僕らは抱き合いながら地面にへたり込む。僕はこんなに全力でマナを放出したことはなかったから、すごく疲れて一歩も歩けないでいた。
ターク先生がにこにことしながら、
「治癒魔法陣、展開」
と僕とジェスに癒しを掛けてくれ、僕は駆け寄ってきたドナムンドが手を貸してくれて立ち上がった。
「ありがとう、ドナムンド」
「どういたしまして、サリオン。それにしても二人ともすごい魔力量だね。王族に匹敵するんじゃない?」
僕は言葉を濁しながら、
「ジェスに引っ張られただけだよ。ね、ジェス」
そう言うとジェスはまだ泣いていたから、僕は両手でジェスを抱き上げた。すごく軽いジェスの体重に驚きつつ、
「ジェス、立てる?」
そう聞くと、ジェスが僕の首にしがみついたまま、
「腰が抜けた。立てない」
と首を横に振ったから抱き上げたままターク先生のもとに集まる。ジェスは可愛い。可愛くて、胸が締め付けられる。そんな僕の後ろからドナムンドが、
「ジェスかぁ、強敵だなあ」
そんな風に呟いたが、どんな意味だろう。
ーーー
ターク先生とクロルですがいわゆる白い結婚で、しかもクロルはターク先生に全く頭が上がらない状態です。
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