婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム

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12 魔法学舎の同期生

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 クロルが離宮に来たのは午前十時を迎える少し前で、手には一揃いの服を持っていた。

「おはようございます、殿下。取り急ぎ、魔法学舎の制服にお着替えください」

「制服、ですか」

 クロルの手には水色の幅広襟に二本ラインの入った長袖上着と、同色のキュロットパンツをテレサに寄越した。

「薄手ではありますが、防護陣と気候調節陣がかけられています。寒くも暑くもないはずです。下着の上からそのままどうぞ」

 クロルが窓の外を見ながらお茶を飲んでいる間に、テレサに手伝ってもらい制服に着替えた。

 テレサにストッキングをセシル兄様のような膝丈のものにしたいと話すと、

「ストッキングは太腿までのままがよろしいかと」

 と譲らないから諦めた。

「クロル様、お支度が出来ました」

 クロルが目を細めて、

「これはお可愛らしい。お似合いですよ」

と告げてくれた。青はセシル兄様の王族色だ。王位継承権を持つ十人は、王から色を賜る。もちろん僕は持っていない。だから自由に服の色を選べるのだけれど、青系だけは避けていた。

「これから週三日の学舎にはこちらを着て参ります。脱いで掛けておけば新品同様になる修復陣もかけられていますから、洗濯など必要がありません」

 いくつもの陣が組み込まれている。そんな服……僕には不相応だ。

「ちなみに魔法学舎には平民しかおりません。殿下は唯一の貴族です。出身は王太子殿下同様にレイダース村だと話しておくとよいですよ。では門扉ゲートを開きましょう。殿下、指輪にマナを送って転移陣と声を上げてください」

 クロルが僕の横に立つ。僕は頷いて

「転移陣、展開」

と声を出した。転移陣は膨大なマナを使用する陣だと書物に書いてあったが、吸い取られる程ではない魔力マナに身体が軽くなる。

「こちらの陣はあまり術者に、負担が掛からないようになっています」

 足元に金の魔法陣が展開される。不思議な文字が足元に浮かび発光を繰り返す。金はガルド神の色だ。まさかガルド神の転移陣ーー。

「……っ!」

 離宮の乾いた空気とは違い、森の匂いが感じさせられる門扉の前に出た。樹木の垣根で覆われて中を窺い知ることができない。

「指輪を持つものにしか開けられません。どうぞ」

 クロルに促されて石造りの門扉に触れるとたやすく門扉は左右内側に分かれて開き、芝を刈り込んだなだらかな庭園の奥、オープンテラスの一画から子供の声が聞こえて来た。

「先生、絶対三つ編みが可愛いって」

「お姉ちゃん、先生に失礼だよ」

「スターったら、真面目ぶって!」

「あーあ、こんな奴が委員長かよ、ミーメ。俺、冒険者になってもこいつとだけは組めねえ」

「もー、うるさいよ、ザック。ほーら、先生、かわい~」

 気後れして門扉のところで動けなくなっていると、背後の門扉が開き同じ制服の僕より長身の子供が入って来た。前に立たれて、

「おはよう。同じ制服の君は転入生だよね」

そう話しかけてくる。どうしたらいいのだろう。困っていると、クロルが肩をとんと押してくれる。

「先生のところへ案内をしてくれないか。クロルが転入生を連れてきたと告げて」

 クロルの言葉に長身の子供がクロルを見上げて、口を開けてから頷いた。

「あ、クロルさん、お久しぶりです。分かりました」

 踵を返して小走りする子供を見るクロルの目が、優しいと思った。

「ここにいる子供たちは、全私が集めたのです」

 どうしてそんなことをと思う前に、クロルに促されて賑やかなテラスに歩かされる。長身の彼は役目を果たしたらしく、輪の中心にいた人物が椅子から降りて立った。

 やけに小さな子供だった。一メートル位だろうか、チュニックから出た手足はすごく華奢で、茶銀の腰まである巻き毛に、同じ茶銀の瞳は大きくて、口も鼻も小さくて可愛らしいという形容がぴったりだ。

「クロル、久しぶりです」

 声も高くでも伸びのある心地よい声、何より安心感がある不思議な雰囲気に僕はまるで普通の子供みたいに頭を下げていた。

「はじめまして、僕、サリオンです」

 すごい子供もいるのだなと、先生を探して目線を泳がせていると、

「礼儀正しくてなによりです。僕はタークです。ようこそ、王領魔法学舎へ。僕はこの王領魔法学舎の校長をしています」

と僕よりはるかに視線が低い子供が僕に告げてきた。驚いて二の句が告げられない僕に、他の子供たちが大笑いしながら、

「大丈夫、大丈夫、あたしたちも初め分からなかったから。だってターク先生、誰よりも小さいから」

元気な声で僕に絡んできたのは、先程ターク先生に三つ編みを強要していたミーメという女の子だ。

「あたしはミーメ。ねえ、サリオン、だっけ。あなたはいくつ」

「あ、十歳です。ミーメさん」

「じゃあ、同じ年だね。サリオン、硬いなあ、同期生は敬語抜きだよ。十四になるドニーにも『タメ口』なんだ」

 ドニーと呼ばれたのは、先程僕に声を掛けてくれた背の高い子供だ。もう成人前だから大きいのだろう。

「ここでは身分は関係ありませんよ、サリオン。さてと、クロルは今日は一日見学ですか?」

 ターク先生がクロルの前に立ち両手を軽く上げると、クロルがターク先生を抱き上げたのには驚いた。すごく親しげだ。

「あなたの許しがあれば」

 ターク先生がくすくす笑うと、いつも表情を崩さないクロルが微笑む。僕は数回目の驚きに、心臓が煽ってしまい視線を彷徨わせた。

「もちろん。久しぶりに僕の手料理を食べてくださいね。あ、教室に行きますよ、皆さん」

 なんて先頭を歩いて行ってしまい、僕は取り残されそうになるのを、最年長らしいドニーと呼ばれた年長者が手を差し伸べてくれる。

「僕はドナムンド。長いからドニーと呼ばれているけれど、できたらドナムンドと呼んで欲しい」

 僕は手を握りそれから、

「ああ、名前にもマナが宿るからだね。ドナムンド、門扉では失礼な態度で申し訳ない。気後れしてしまって」

と言うと、ドナムンドは僕の手をそのまま握り歩き出す。僕は躊躇ったが、振り解くのは目上に失礼かと思いそのままにしていた。

「入り組んでいるから、手を離さないでね。同期生は王都商家のミーメとスターの双子と、バルバイト公爵領のストック村の十二歳の農民ザック。没落子爵の僕と、あと魔の森のジェスがまだいないかな」

「うるせえな、ドナムンド」

 ふわりと香る薄荷の香りがして、門扉からドナムンド目掛けて走ってきた金髪の小さな子供が、肩で息をつく。

「遅刻したっ!まだ、授業は……」

「大丈夫だよ。サリオン、この子がジェス、確か……」

「うるさいっ!勝手に俺のこと喋るな」

 それにしても小さい。年下だろうか、思わず頭をなでてしまいそうなくらいだ。

「ジェス、彼はサリオン。ええと……」

「十歳です。レイダース村から来ました」

 すると金の瞳が僕をひどく睨み付け、地団駄を踏むジェスが、

「レイダース村の奴は敵だ」

そう吐き捨てた。


ーーー
校長先生はあのタークさん!!
では、クロルって、ガルド神から罰を受けていた人?ってなりますよね、なりますとも。
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