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7 村名は村長のラストネームって村=村長なのだろうか
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離宮から王城を抜けて一番近い貴族門から馬車二台で一時間で森の村に差し掛かろうとするのには驚いた。
僕は離宮から出たことがない。一番近いところがセシル兄様の治める森とその中にある森の村で、村人は狩りと放牧により糧を得ていると、セシル兄様は話してくれる。
「この森は魔の森とも言われていてね、従属獣の狩場でもあるんだよ。森に入るにはかなりの税金を納めなければならない。それも彼らの糧になる」
「セシル兄様のハーピィアもそうなのですか?」
「そうだよ。ねえ、パーピー」
普段は黄色の小鳥の姿をしているハーピィアは、ハーピーと言う名を貰い従属陣で従属している。
『そうですサリオン殿下。知性のある魔獣や魔樹を従わせるには、相当の魔力を必要とします』
知性が高く話すことが出来るハーピィアを従属させたセシル兄様はすごい。
「貴族学舎では護衛がいないからね、大抵は従属獣を連れて行くんだよ」
「僕は貴族学舎には行けない」
「アーロンに嫁すなら、行く必要があるよ。貴族学舎はいわば社交界なんだ。不安かい?まだ、五年後だけれど」
アーロンの横にいるのは不安がある。あんな輝かしい子の横にいる落実の僕は、どんな風に見られてしまうのか。アーロンに相応しい人は沢山いる。アーロンは大公家の後継で王位継承権を持つ一人だから、本来は女の子が嫁すべきだから。アーロンが好きとか嫌いとかの前に、僕はこの容姿と秘密が露呈してしまわないか、不安で仕方ない。
「行きたくないです」
「そうかい?ではその話しはおいおいだね。今日は森の屋敷でたっぷり自由を満喫しよう」
荷物用の馬車は森の村への贈り物なんかで一杯で、メーテルが御者として馬を繰り出している。僕とセシル兄様の馬車はハンロックが御者席にいた。僕は背後の空気取りの窓から、
「ねえ、ハンロック。ハンロックの魔獣は?」
と聞いてみた。ハンロックの魔獣を見たことがないからだ。
「俺のも鳥型のガルーダだ。名前はそのまま。セシルはガルって呼んでいるな。基本はセシルの部屋の隅で寝ている。結界の役割を持つから」
部屋で寝ているなんて……面白い魔獣。僕は森で魔獣を見てみたいと思い始めた。
「森の入り口に到着だけど、右を見て。なだらかな丘があるだろう。麦畑が広がる地域がアーロンが治める村だよ」
明るくのどかで大きな風車がゆっくりと回っている。確か麦を突いて粉にしているのだった。小川が流れ村人が何人か出歩いている。
「村に所属する者は人頭税や地税、施設税、神殿税、収穫税を払い、村長は取りまとめて、貴族に半分から八割を納める。結婚税や死亡税もあるのは知っているね」
僕は頷いた。そして村を維持するための賦役や有事には兵役義務がある。そんな領民をまとめ上げるのが貴族である領主。
「大公領では領主が五人いて、領主の下には概ね八つの村があります」
アーロンの領地になる大公領は、レムリカントでは辺境に当たるけれど、パールバルト王国やレガリア王国の一端に面していて、より中央部に近いところにある防衛戦の場所だ。
「そうだね。よく勉強しているね。二つの大きな商業都市を持ち、通行税と市場税なんかで豊かだ。ある意味大公領民を治めるアーロンは、レムリカント王国では要になるんだ」
僕はそんなアーロンを支える伴侶になる。僕の役目なんだけれど、不安だった。
緑の深い森は整備されていて、馬車が揺れないくらい整っている。森の整備も賦役で行われていて、収穫木の植え付けなどもされているみたい。
「湖!うわあ、綺麗……」
湖の前に大きな屋敷があって、その横に川が流れている。村はその川にそって展開していた。湖から少し離れて、屋敷は幽居的で僕は安心できる。
「村の名前はレイダース。村長の家名をつけている。村人は皆、レイダース村の誰それになる。約三十戸、二百人程度が僕の治める森の村だよ」
収穫と狩猟、森林管理が税収になる村は素朴だけれど豊かに見える。この村々が王都レムリアを支えていて、レムリカント王国の一端なんだと思うと、なんだか胸が高鳴っていた。
屋敷にはご老体一人と村人が数人いて、馬車に頭を下げている。
「やあ、ギブン。久しぶり」
「これはこれは、王太子殿下。こちらは?」
白い髭の長い村長さんは、メーテルの手を借りて馬車から降りた僕に視線を送る。どうしよう、ちゃんと挨拶をしないと。王族からの挨拶……。
「弟のサリオンだよ。可愛いだろう」
セシル兄様が僕の両肩をぽんぽんと背後から叩いて、
「ここでは畏まらなくていいよ、サリオン」
と耳元で囁いてくれた。だから僕より年配者にするように、
「は、はじめまして。サリオンです」
と胸に手を当てて礼を取った。
「良い子じゃのう。殿下、ゆっくりされなされ。屋敷は整えてあります。明日は村を案内いたしますぞ」
そう言って少し離れた家へ戻っていく。屋敷は石造りだけれど、村の家は石は土台だけで木を組み上げてある。
「石は高いものだから、平民はふんだんには使えないんだぜ」
荷物を下ろしながら、ハンロックが教えてくれる。村人はメーテルの指示で荷物を屋敷の厨房に運び込んでいて、僕とセシル兄様は居間に座っているように言われてしまう。
「あらかた片付きましたね。馬車の荷台の荷物は両殿下からの村への贈り物です。村でお分けください。馬車の調整と管理をお願いします」
村人が頭を下げて馬車が二台ともいってしまうと、メーテルがお茶のおかわりを持って来てくれる。
まだ夕方には早いのだけれど、メーテルは食事の準備のために厨房に入り、ハンロックが火をつけるためについて行った。
「セシル兄様、いつもはハンロックと二人ですか?」
セシル兄様はハンロックの背中を見送ってから、僕に視線を戻して頷く。では邪魔をしてしまったのかなと思いを巡らせていると、
「また、考え込む。駄目だよ、サリオン。今回は僕は楽しみにしているんだ。気兼ねなくサリオンと添い寝して、メーテルの美味しい料理を食べられるのだからね」
と僕の頭を撫でてくれた。
「そうなのですか」
セシル兄様の気遣いだと思うけれど、ホッとしてしまう。僕は甘えているのだろうなと思う。
ーーー
二泊三日の初めてのお泊まり。サリオンの呪いが明らかになるのは夜です。明日をお待ちください!
僕は離宮から出たことがない。一番近いところがセシル兄様の治める森とその中にある森の村で、村人は狩りと放牧により糧を得ていると、セシル兄様は話してくれる。
「この森は魔の森とも言われていてね、従属獣の狩場でもあるんだよ。森に入るにはかなりの税金を納めなければならない。それも彼らの糧になる」
「セシル兄様のハーピィアもそうなのですか?」
「そうだよ。ねえ、パーピー」
普段は黄色の小鳥の姿をしているハーピィアは、ハーピーと言う名を貰い従属陣で従属している。
『そうですサリオン殿下。知性のある魔獣や魔樹を従わせるには、相当の魔力を必要とします』
知性が高く話すことが出来るハーピィアを従属させたセシル兄様はすごい。
「貴族学舎では護衛がいないからね、大抵は従属獣を連れて行くんだよ」
「僕は貴族学舎には行けない」
「アーロンに嫁すなら、行く必要があるよ。貴族学舎はいわば社交界なんだ。不安かい?まだ、五年後だけれど」
アーロンの横にいるのは不安がある。あんな輝かしい子の横にいる落実の僕は、どんな風に見られてしまうのか。アーロンに相応しい人は沢山いる。アーロンは大公家の後継で王位継承権を持つ一人だから、本来は女の子が嫁すべきだから。アーロンが好きとか嫌いとかの前に、僕はこの容姿と秘密が露呈してしまわないか、不安で仕方ない。
「行きたくないです」
「そうかい?ではその話しはおいおいだね。今日は森の屋敷でたっぷり自由を満喫しよう」
荷物用の馬車は森の村への贈り物なんかで一杯で、メーテルが御者として馬を繰り出している。僕とセシル兄様の馬車はハンロックが御者席にいた。僕は背後の空気取りの窓から、
「ねえ、ハンロック。ハンロックの魔獣は?」
と聞いてみた。ハンロックの魔獣を見たことがないからだ。
「俺のも鳥型のガルーダだ。名前はそのまま。セシルはガルって呼んでいるな。基本はセシルの部屋の隅で寝ている。結界の役割を持つから」
部屋で寝ているなんて……面白い魔獣。僕は森で魔獣を見てみたいと思い始めた。
「森の入り口に到着だけど、右を見て。なだらかな丘があるだろう。麦畑が広がる地域がアーロンが治める村だよ」
明るくのどかで大きな風車がゆっくりと回っている。確か麦を突いて粉にしているのだった。小川が流れ村人が何人か出歩いている。
「村に所属する者は人頭税や地税、施設税、神殿税、収穫税を払い、村長は取りまとめて、貴族に半分から八割を納める。結婚税や死亡税もあるのは知っているね」
僕は頷いた。そして村を維持するための賦役や有事には兵役義務がある。そんな領民をまとめ上げるのが貴族である領主。
「大公領では領主が五人いて、領主の下には概ね八つの村があります」
アーロンの領地になる大公領は、レムリカントでは辺境に当たるけれど、パールバルト王国やレガリア王国の一端に面していて、より中央部に近いところにある防衛戦の場所だ。
「そうだね。よく勉強しているね。二つの大きな商業都市を持ち、通行税と市場税なんかで豊かだ。ある意味大公領民を治めるアーロンは、レムリカント王国では要になるんだ」
僕はそんなアーロンを支える伴侶になる。僕の役目なんだけれど、不安だった。
緑の深い森は整備されていて、馬車が揺れないくらい整っている。森の整備も賦役で行われていて、収穫木の植え付けなどもされているみたい。
「湖!うわあ、綺麗……」
湖の前に大きな屋敷があって、その横に川が流れている。村はその川にそって展開していた。湖から少し離れて、屋敷は幽居的で僕は安心できる。
「村の名前はレイダース。村長の家名をつけている。村人は皆、レイダース村の誰それになる。約三十戸、二百人程度が僕の治める森の村だよ」
収穫と狩猟、森林管理が税収になる村は素朴だけれど豊かに見える。この村々が王都レムリアを支えていて、レムリカント王国の一端なんだと思うと、なんだか胸が高鳴っていた。
屋敷にはご老体一人と村人が数人いて、馬車に頭を下げている。
「やあ、ギブン。久しぶり」
「これはこれは、王太子殿下。こちらは?」
白い髭の長い村長さんは、メーテルの手を借りて馬車から降りた僕に視線を送る。どうしよう、ちゃんと挨拶をしないと。王族からの挨拶……。
「弟のサリオンだよ。可愛いだろう」
セシル兄様が僕の両肩をぽんぽんと背後から叩いて、
「ここでは畏まらなくていいよ、サリオン」
と耳元で囁いてくれた。だから僕より年配者にするように、
「は、はじめまして。サリオンです」
と胸に手を当てて礼を取った。
「良い子じゃのう。殿下、ゆっくりされなされ。屋敷は整えてあります。明日は村を案内いたしますぞ」
そう言って少し離れた家へ戻っていく。屋敷は石造りだけれど、村の家は石は土台だけで木を組み上げてある。
「石は高いものだから、平民はふんだんには使えないんだぜ」
荷物を下ろしながら、ハンロックが教えてくれる。村人はメーテルの指示で荷物を屋敷の厨房に運び込んでいて、僕とセシル兄様は居間に座っているように言われてしまう。
「あらかた片付きましたね。馬車の荷台の荷物は両殿下からの村への贈り物です。村でお分けください。馬車の調整と管理をお願いします」
村人が頭を下げて馬車が二台ともいってしまうと、メーテルがお茶のおかわりを持って来てくれる。
まだ夕方には早いのだけれど、メーテルは食事の準備のために厨房に入り、ハンロックが火をつけるためについて行った。
「セシル兄様、いつもはハンロックと二人ですか?」
セシル兄様はハンロックの背中を見送ってから、僕に視線を戻して頷く。では邪魔をしてしまったのかなと思いを巡らせていると、
「また、考え込む。駄目だよ、サリオン。今回は僕は楽しみにしているんだ。気兼ねなくサリオンと添い寝して、メーテルの美味しい料理を食べられるのだからね」
と僕の頭を撫でてくれた。
「そうなのですか」
セシル兄様の気遣いだと思うけれど、ホッとしてしまう。僕は甘えているのだろうなと思う。
ーーー
二泊三日の初めてのお泊まり。サリオンの呪いが明らかになるのは夜です。明日をお待ちください!
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