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6 サリオン殿下派ですが何か?

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 サリオン殿下が少しだけ得意そうにあたしに見せてくれたのは、初めてご自身で着られた衣装。

「ストッキングベルトはセシル兄様につけてもらったけれど」

 王族ともあろう方がお一人で着替えるなんてとハンロック様に食い下がったけど、こうしてサリオン殿下が嬉しそうにされているなら良かったわ。

「ねえ、ちゃんと服を着られているかな」

 今日もサリオン殿下はまじ、天使エンジェル。一番に聞いたのがあたし、最高サイコー

「はい、大丈夫ですよ。女官長が食堂でお待ちです」

 育て親兼女官長のメーテルさんが首を長くして待ってるから、私は少し早足になる。サリオン殿下は困った顔をして早足でついて来た。また美愛ラブリー

「テレサとアルベルトを森の村に連れて行けなくてごめんね」

 サリオン殿下はいつでもあたしたちの心配をしてくれる。あたしなんて身寄りのない平民よ。アルベルトさんは違うけれど。確か商家の次男さんだっけ、字も読めるし計算もできる。

「離宮でお待ちしています。お土産話を沢山してください」

 あたしは山出しで身寄りがないから離宮の侍女にって、下働きの水仕事の場所からメーテル様に抜擢されたんだ。

 落実してから三歳までメーテル様とアルベルトさん二人で育ててたんだけど、親代わりが全て行うのでは成長を損なうからと、新しい侍女としてサリオン殿下の身の回りのお世話をさせていただいてる。それから七年が経ち、サリオン殿下も十歳だわ。

 サリオン殿下の前では品良く丁寧な言葉を使うようにと、メーテル様は離宮に来てからあたしに仕草まで鬼躾けをしてくれたっけ。なんせあたしは平民で山出しだから、苦労したと思うわ。

 それと大事なのは、秘密を話さない誓約陣があたしの心臓の上にある。話したら誓約陣が心臓を刺すそうだ。どこかの国の元王族であるメーテル様から施されたもの。ええ、後悔はしていないわ。その秘密を共有した時には、震えが走った。なんて、なんて、なんてーーーかわ……。

「テレサ?」

 い、いけない!あたし、完全に、陶酔トリップ。扉を開けて一礼をすると、中にはメーテル様がサリオン殿下に一礼をする。

「お待たせ、メーテル。初めて自分で服を着たのだけれど、どうかな?」

 メーテル様は優しく微笑んで、サリオン殿下の椅子を引いた。

「着崩れもなくちゃんと着れています。殿下、王太子殿下は?」

「ハンロックと少し話すんだって」

「では、先に少しずつ召し上がりましょう」

 サリオン殿下はゆっくり食べるもんね。さすがメーテル様、サリオン殿下のことを考えてるわ。

 あたしは厨房に行き、メーテル様が作り、アルベルトさんが盛り付けをしているお皿をワゴンに載せて運んでいく。ここには料理人はいない。メーテル様がなんでも用意している。毒殺を防ぐ為らしい。

 前菜はサラダと同じお皿に鴨のパテ、そして白いパン。サリオン殿下のは少なめ。

 サリオン殿下の前に出すのが、あたしは大好き。サリオン殿下の長い鈍銀の睫毛を間近に見られて、至福ブリィス

 本当に綺麗に食べられるのよね。カトラリーマナーが完璧。それを教えたのはメーテル様なのよね。もちろん、メーテル様も綺麗な食べ方。

 少し遅れて王太子殿下も食堂に来られて、三人で食事をする。セシル王太子殿下ってなんでカトラリーからパテとか零すんだろう。カトラリー扱いが下手なのかしら。

 次にスープを運ぶ。今回は空豆のクリームスープ。サリオン殿下は胡椒なし。

 サリオン殿下の綺麗な食べ方に比べて、王太子殿下……どぉーしてスプーンからぼたぼた垂れるのよ。

 お次はメインのお肉料理です。仔牛の香草グリルは、柔らかい部位を使い食べやすく。さすが、メーテル様です。サリオン殿下が音を立てずにナイフとフォークを使って口に運ぶのに、王太子殿下……メーテルさんに一言。

「ハロがいないからね、切ってくれないかな?」

 メーテル様は無言であたしに視線を遣すから、あたしは王太子殿下のお皿をメーテル様の前に置いた。メーテル様は王太子殿下が口に運びやすい大きさに切り分けて、あたしはセシル王太子殿下の前に出す。

「王宮ではフィレの炙りみたいに切らなくても食べられるものが多いからねえ」

 そう言いながらフォークでお肉を食べ始めた王太子殿下はまた、ぺちゃりと落とす。多分相当な不器用だと思うわ。残念な美形ね。

 デザートの桃のコンポートとお茶を出してから、あたしは王宮の厨房に向かう。メーテル様から森の屋敷で使う食料調達を頼まれたからよ。あたしとアルベルトさんの食事は、余った分になるんだけど、ハンロック様はどうするのかしら。あ、アルベルトさんと食べたんだっけ。じゃああたしだけね。

 外から厨房の食糧倉庫に入ると、メーテルさんに頼まれたものを集めていく。肉類は厨房に入り、日持ちする塩漬けなんかを選んだ。

「あら、テレサ。どうしたの?」

 同じ頃に王城に入ったルシアナがあたしの前に来る。ルシアナは没落した貴族の娘さんで、あたしより早く下働きから侍女になっていた。

「頼まれ事よ」

 あたしの手元を見て、

「離宮では下働きの仕事までしているの?私は王太子殿下の部屋の侍女になったのよ。王太子殿下のお顔すごく綺麗なの」

 なんて言いながら顔を赤らめて高笑いをする。ああ、とっても喧騒ウルセー。あんたなんかお呼びじゃないのよ、王太子殿下にはハンロック様がいるもの。ああ、これも秘密だわ。

 それにね。サリオン殿下の鈍銀の巻き髪は、昼の光にきらきら輝くし、茶色の澄んだ瞳は知的よ。色の違いを気にしているようだけど、あたしたち平民にとっては問題ない。平民のあたしにも優しいし、なにより秘密をあたしは共有している。

「王息殿下はいずれ嫁しされるでしょ。テレサは貧乏くじを引いたのではなくて?王宮にはあなたの居場所なんてもうないもの」

 ルシアナ、あたしは決めているの。

「あたしはサリオン殿下派なの」

「サリオン殿下……派?」

「ええ。殿下が嫁されるなら、下働きでもいいからついていくわ」

 アーロン様か、はたまた別の人か。あたしはサリオン殿下の下で働くって決めてるの。誓約陣がなくっても、絶対に。

「じゃあね、ルシアナ」

 あたしはサリオン殿下のいる場所に帰っていった。

 今日のサリオン殿下の服のポイントは、ストッキングベルトが水色で、真っ白なストッキングとよく似合うようにしたこと。キュロットから出る肌色が十センチで、少年の絶対領域。

 あたし、完璧パーフェクト


ーーー
メーテルもテレサも語源は『母』です。捥ぎ母は亡くなっていますが、庇護者が二人いるサリオンです。テレサは未成年で、ちゃきちゃき下町生まれです。
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