婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム

文字の大きさ
上 下
5 / 54

4 セシル兄様の指は気持ちがいい

しおりを挟む
「サリオンはアーロンの領地にはいきたくないのか?」

 食事を終えた父様が聞いてきた。僕が頷くとセシル兄様が、

「サリオン、アーロンが嫌いなんだ?」

と食後のお茶を飲みながら尋ねてくる。嫌いか好きかと言われても困ってしまう。だから無難に話してみた。

「嫌いではありません。でも、オーベント大公領は遠過ぎます」

僕は少しだけ本心を言わずに告げた。一番問題なのは、移動距離だ。すると父様とセシル兄様が顔を見合わせた。それから僕の方を向き、

「ああ、サリオンはアーロンの領地を知らなかったから心配していたんだね。アーロンは王領地の一部を統治しているんだよ。成人前の王位継承権者の務めなんだ」

セシル兄様が笑顔で話すと、宰相のクロルが仕組みを話してくれた。

「王都の周りの作物地帯は王領になります。その一部を王位継承権を持つ者に貸し出し、統治を学ぶためにまたお小遣い稼ぎ、資産運用をするのです」

「王領地での真似事ではあるが、王としての資質を試されていると言っても過言ではない。宰相や元老院の目が光るからな」

クロルが父様の言葉に、口端で笑った。

「あなたは村民運用は上手でしだが、浪費もなかなかでしたね、ラムダ王」

「そうだな。森の村統治時代よく『あの方』にも怒られていた。『あなたは無能と有能の振れ幅が大きいのです。そもそも統治者と言いますのはーー』」

父様の高い作り声にセシル兄様が吹き出した。

「言い方は似ていますが、声色は似ていません。父上、気持ち悪い作り声です。僕も森の村をちゃんと統治しないと、『あの方』に本気で怒られてしまいそうですね」

初めて聞く人『あの方』、誰だろう。僕は少し置いていかれた気持ちになり、セシル兄様と父様を見上げた。クロルもセシル兄様の隣に座るハンロックも知っているみたいだった。

「今度の休み、森の村に遊びに行こうか。泊まることもできる屋敷もあるよ」

「え、でも……」

離宮を離れるのは初めてで怖かった。

「アーロンの領地の横にあるのが、森の領地だよ。予習にもなる。メーテルを連れて行こう。屋敷には僕とハロとメーテルだけだよ。夜の森をお散歩しようよ」

夜の散歩!僕は心を躍らせた。

「ハンロックも一緒?また剣を教えてくれる?」

「ああ、いいとも。時間が作れればな」

ハンロックが男らしい表情で笑って快諾してくれた。王息である僕には王位継承者が受ける学びは得られないけれど、クロルが持って来てくれる本で知ることが出来る。だから知識は少しばかりある。

剣にマナを載せる剣術は本当に特別で僕には高望みだけれど、王位継承者でもあるハンロックはセシル兄様よしみで付き合ってくれるのだ。

父様がクロルと王宮に帰り、セシル兄様は離宮に泊まるとメーテルに話している。

「ハロ、今日は、サリオンの部屋に泊まるね。メーテル、二人だけにしてくれないか」

「分かりました。湯当たりや水滴の拭き漏らして、サリオン殿下がお風邪などめされませんように。それから……」

メーテルの説明は長々と続いて、

「では、サリオン、明日な」

とハンロックが一礼をして扉を閉める。

「おやすみなさい、ハンロック」

セシル兄様は僕の部屋にお泊まりで、離宮内ではその対応にメーテルとテレサが忙しい。外の警備は家令のアルベルトに任せている。今日はハンロックも手伝うようだったけど、離宮は僕のために三人の使用人しかいないんだ。

僕とセシル兄様は二人で湯に浸かり散湯で頭を洗い合って、タオルで拭き合った。セシル兄上は背が高くて背中を拭くのにしゃがんでもらう。

「ハロとは違うね。ハロはごしごし拭くんだよ。たまに痛い時もあるんだ」

「え、テレサが肌が痛むから、タオルを押し当てるようにして吸わせますって。では、僕がハンロックに教えてさしあげましょう」

シャツドレスに着替えると寝台に入ろうとする。

「サリオン、寝巻きを脱いでおいで」

「でも」

「兄様命令だよ」

膝丈までのドレスシャツを脱ぐと裸体になり、セシル兄様の脇の下に潜り込む。

「ん、いい子、いい子。アーロンには何を感じたの?」

気づかれていた……僕の不安を。

ゆっくり頭を撫でられて指は背骨を伝い、僕は丸くなる。その撫で方は反則です、セシル兄様。

「ん……アーロンといると、僕は不幸な子に感じるのです」

「不幸な?どうして?」

「アーロンは髪色も瞳の色も完璧だと思います」

その撫で方は反則……気持ち良くて……身体が開いてしまう。

「優しいし……ふあっ……男の子らしくて……でも……」

僕はもう降参してお腹を出した。もう駄目だった。喋るより指に感じてしまいたい。

「セシル兄様……もっと……」

セシル兄様は肘をついて寝そべり、僕のお腹を撫でてくれた。ああ、気持ちいい……気持ち良くて、身体が伸びてしまいそう。

「サリオンの生真面目な四角四面さを解き放ってくれる子だと良いんだけれどねえ。サリオンはいい子すぎる」

そうでもないんだけれど……何も考えられないくらい指が気持ち良くて、下肢を撫でられて気持ち良くて意識が無くなっていく僕に、

「ゆっくりお休み、サリオン。起きたらまた撫でてあげようね」

とセシル兄様の呟きが聞こえて来た。


ーーー
セシルはサリオンを撫でているだけで、ふしだらなことはしていませんから※マークはありません💦
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています

倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。 今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。 そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。 ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。 エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

処理中です...