103 / 105
終章〜日常〜
98 マナの剥奪
しおりを挟む
残り少ない授業で、上級生のクラスでは特別授業が行われています。
今日はソニンティアム様による王宮作法です。姫として育ったソニンティアム様にはうってつけですが、またまたイビリム様が問題を起こしたのです。
ソニンティアム様が王座に見立てた椅子に座るイビリム様が身体を傾けているのを嗜めました。
「余に指図するな、無礼者」
ソニンティアム様を罵倒し、椅子を蹴り上げて庇ったギリアに当たったのです。これにジュスト様が怒り、ベクルとレームがジュスト様とイビリム様を離しました。ジュスト様が精神系魔法陣を使おうとしたからです。
「ジュスト、ダメだ。王族のマナは民を守るためにある!」
ベクルがジュスト様を止めました。
「しかし!ギリア様を傷つけておいてっ!」
ジュスト様の腕をギリアが掴み、
「母上が神癒で治してくださいましたわ。大丈夫です」
と鎮めるように話します。
「あなた様は副王です。ギガスを正しく導く者です。冷静になりなさい」
そしてソニンティアム様がジュスト様に、ぴしりと言い放ちました。それでこの件は終わりましたが、少し心配です。卒業間近でこのような問題が起こるなんて。
次の日の特別授業は、テハナ・マグリタによるマナの気脈と薬草についての講義でしたが、途中から房中術の話になり、話を少し聞いていた僕は頭を痛めました。しかし生徒の特に女の子たちからは好評で、次の日の特別授業もテハナ・マグリタのトークが炸裂します。
「相手のことを考えていない交合は野合にも劣ります」
テハナの言葉の後に、
「いや良いやよも好きのうち、本当はいいんだろう、なんてのは思い上がり」
マグリタが厳しく言い放ちます。
「「しかし、そんなのが好きな人もいるのもお忘れなく」」
一緒に聞いていたソニンティアム様が顔を赤らめるのを、僕はしっかり見てしまいました。
卒業式の日は午前中は、ガリウスから厳かに生徒全員に羊皮紙の卒業証書入りの額が渡されました。これでベクルはタイタン国国王に、ジュスト様はギガス国副王として、ギリアを娶ります。そしてイビリム様が正式にユミル国副王になることになりました。
午後の卒業パーティーは食堂で下級生も混じって行われて、イビリム様は妃候補の皆さんに囲まれて嬉しそうです。
僕は担任として白衣を着ずに、部屋な端で監視をしています。セフェムとガリウスは王城へ向かい、こちらは僕とソニンティアム様、テハナ・マグリタで問題行動を止めなくてはなりません。
イベールはボルテ様と立食パーティーを楽しんでいて、ナファがイベールとボルテ様にグラスを渡しています。
「余がユミル国王になったあかつきには、最優秀上級生のイベールを側仕え騎士兼愛妾にする」
なんて話をしています。
「余は小人と交合をしたことがないのだ。すぐに壊れてしまうかもしれん」
取り囲んだ下級生からはバツの悪い、少し控えたような笑い声が聞こえます。
「イビリムくん、僕はイビリムくんの側仕え騎士にはならないよ」
イベールがフルーツや野菜サラダを食べていましたが、イビリム様の笑い声を聞いてテーブルにお皿を置き、イビリム様に告げました。
「ましてや、イビリムくんと交合もしない。野合だって無理だよ」
イビリム様が椅子から立ち上がります。
「この……っ!巨人の祖ユミル直系の余が側仕え騎士にしてやろうと言うのだ。名誉であろう」
イベールは小首を傾げ、
「僕はタイタンの小獣人だよ。ユミルになんて行かないよ。ねえ、ベクル」
と、ベクルに振り返ります。ベクルがぎこちなく頷き、
「兄上はタイタンのものです。諦めて下さい、イビリム殿」
とイビリム様に礼を取ります。片膝をついてもいず、右手を胸にも当てていない貴人の礼に、イビリム様がいきり立ちます。
「余はユミル国国王だ!」
しかしベクルが静かに話します。
「イビリム殿、ユミル国は私の国タイタンから補助を受ける従属国、あなたは副王で、私が国王です」
イビリム様に話した内容は間違いがなく、ベクルは毅然とした態度です。僕は手を出しません。この子たちは学舎を出て周りに援助こそされますが、国王になるのです。
「きーさーまー!タイタンの分際で!」
イビリム様が手を広げて魔法陣を描き始めます。
「消え去れーーーっ!下僕がぁ!爆炎陣」
「ベクル、伏せて!」
伏せるベクルの頭にイベールが覆いかぶさり、ジュスト様とボルテ様が前に立ちはだかりました。ナファとレームがイビリム様の背後から止めようと回り込みます。しかし陣は発動しませんでした。
学舎の規約にある文言、最初に書かれた言葉。
『許可なくして陣の発動をしてはならない』
そして腕輪を渡した二年前のガリウスの言葉を、イビリム様は忘れてしまったようです。
『学舎の規約に沿わぬ行動を成した場合は、腕輪にマナを吸われ学舎から放逐される。それを心に留めよ』
イビリム様のマナは全て魔法石の腕輪に吸われて、ガルド神へ還ってしまったのです。イビリム様の腕輪がカチカチと音を立ててひび割れ、床に砕け散ります。
そこにまるで見ていたようにガリウスがセフェムと入ってきました。セフェム、遠見を使いましたね。
「イビリム、お前のマナは全て剥奪された。マナを持たないお前は唯人に過ぎない。これより卒業証明書剥奪の上、学舎より放逐する」
イビリム様は高笑いをしました。
「タイタン王、余の母上と余を新王と思う貴族が王城をせん……」
「王城の残党は俺とガリィで排除した」
セフェムが言い放ちます。
「お前の母はタイタンとユミルの国境の城に幽閉だ。お前もそこだ、イビリム」
セフェムの言葉にイビリム様がガリウスを見上げます。ガリウスが頷き、ボルテ様に視線を合わせます。
「イビリムはマナを失った。次期副王はそなただ、ボルテ。父ニボルマを慈しみ、ナファを伴侶とし、ユミルを治めよ」
「はい、謹んで拝命をお受けいたします」
とボルテ様は臣下の礼をとりました。食堂から逃げようとするイビリム様は衛士に取り押さえられ、罵声を吐きながら消えていきます。
僕はガルド神様にお願いをしました。ガリウスを全き姿にしてほしいと。
「王族貴族諸君に告げる。マナは私欲のために使うことなかれ!よいか、弱き者のために民のために使うのだ」
すると生徒が息を呑みます。ガリウスの青い瞳が金に輝いたからです。セフェムが僕に向かってマズルを回します。僕は舌を少し出しました。
「はい!」
真のユミルの祖の巨人が誰なのか、次期王や貴族の跡取り子弟に知らしめたのでした。
今日はソニンティアム様による王宮作法です。姫として育ったソニンティアム様にはうってつけですが、またまたイビリム様が問題を起こしたのです。
ソニンティアム様が王座に見立てた椅子に座るイビリム様が身体を傾けているのを嗜めました。
「余に指図するな、無礼者」
ソニンティアム様を罵倒し、椅子を蹴り上げて庇ったギリアに当たったのです。これにジュスト様が怒り、ベクルとレームがジュスト様とイビリム様を離しました。ジュスト様が精神系魔法陣を使おうとしたからです。
「ジュスト、ダメだ。王族のマナは民を守るためにある!」
ベクルがジュスト様を止めました。
「しかし!ギリア様を傷つけておいてっ!」
ジュスト様の腕をギリアが掴み、
「母上が神癒で治してくださいましたわ。大丈夫です」
と鎮めるように話します。
「あなた様は副王です。ギガスを正しく導く者です。冷静になりなさい」
そしてソニンティアム様がジュスト様に、ぴしりと言い放ちました。それでこの件は終わりましたが、少し心配です。卒業間近でこのような問題が起こるなんて。
次の日の特別授業は、テハナ・マグリタによるマナの気脈と薬草についての講義でしたが、途中から房中術の話になり、話を少し聞いていた僕は頭を痛めました。しかし生徒の特に女の子たちからは好評で、次の日の特別授業もテハナ・マグリタのトークが炸裂します。
「相手のことを考えていない交合は野合にも劣ります」
テハナの言葉の後に、
「いや良いやよも好きのうち、本当はいいんだろう、なんてのは思い上がり」
マグリタが厳しく言い放ちます。
「「しかし、そんなのが好きな人もいるのもお忘れなく」」
一緒に聞いていたソニンティアム様が顔を赤らめるのを、僕はしっかり見てしまいました。
卒業式の日は午前中は、ガリウスから厳かに生徒全員に羊皮紙の卒業証書入りの額が渡されました。これでベクルはタイタン国国王に、ジュスト様はギガス国副王として、ギリアを娶ります。そしてイビリム様が正式にユミル国副王になることになりました。
午後の卒業パーティーは食堂で下級生も混じって行われて、イビリム様は妃候補の皆さんに囲まれて嬉しそうです。
僕は担任として白衣を着ずに、部屋な端で監視をしています。セフェムとガリウスは王城へ向かい、こちらは僕とソニンティアム様、テハナ・マグリタで問題行動を止めなくてはなりません。
イベールはボルテ様と立食パーティーを楽しんでいて、ナファがイベールとボルテ様にグラスを渡しています。
「余がユミル国王になったあかつきには、最優秀上級生のイベールを側仕え騎士兼愛妾にする」
なんて話をしています。
「余は小人と交合をしたことがないのだ。すぐに壊れてしまうかもしれん」
取り囲んだ下級生からはバツの悪い、少し控えたような笑い声が聞こえます。
「イビリムくん、僕はイビリムくんの側仕え騎士にはならないよ」
イベールがフルーツや野菜サラダを食べていましたが、イビリム様の笑い声を聞いてテーブルにお皿を置き、イビリム様に告げました。
「ましてや、イビリムくんと交合もしない。野合だって無理だよ」
イビリム様が椅子から立ち上がります。
「この……っ!巨人の祖ユミル直系の余が側仕え騎士にしてやろうと言うのだ。名誉であろう」
イベールは小首を傾げ、
「僕はタイタンの小獣人だよ。ユミルになんて行かないよ。ねえ、ベクル」
と、ベクルに振り返ります。ベクルがぎこちなく頷き、
「兄上はタイタンのものです。諦めて下さい、イビリム殿」
とイビリム様に礼を取ります。片膝をついてもいず、右手を胸にも当てていない貴人の礼に、イビリム様がいきり立ちます。
「余はユミル国国王だ!」
しかしベクルが静かに話します。
「イビリム殿、ユミル国は私の国タイタンから補助を受ける従属国、あなたは副王で、私が国王です」
イビリム様に話した内容は間違いがなく、ベクルは毅然とした態度です。僕は手を出しません。この子たちは学舎を出て周りに援助こそされますが、国王になるのです。
「きーさーまー!タイタンの分際で!」
イビリム様が手を広げて魔法陣を描き始めます。
「消え去れーーーっ!下僕がぁ!爆炎陣」
「ベクル、伏せて!」
伏せるベクルの頭にイベールが覆いかぶさり、ジュスト様とボルテ様が前に立ちはだかりました。ナファとレームがイビリム様の背後から止めようと回り込みます。しかし陣は発動しませんでした。
学舎の規約にある文言、最初に書かれた言葉。
『許可なくして陣の発動をしてはならない』
そして腕輪を渡した二年前のガリウスの言葉を、イビリム様は忘れてしまったようです。
『学舎の規約に沿わぬ行動を成した場合は、腕輪にマナを吸われ学舎から放逐される。それを心に留めよ』
イビリム様のマナは全て魔法石の腕輪に吸われて、ガルド神へ還ってしまったのです。イビリム様の腕輪がカチカチと音を立ててひび割れ、床に砕け散ります。
そこにまるで見ていたようにガリウスがセフェムと入ってきました。セフェム、遠見を使いましたね。
「イビリム、お前のマナは全て剥奪された。マナを持たないお前は唯人に過ぎない。これより卒業証明書剥奪の上、学舎より放逐する」
イビリム様は高笑いをしました。
「タイタン王、余の母上と余を新王と思う貴族が王城をせん……」
「王城の残党は俺とガリィで排除した」
セフェムが言い放ちます。
「お前の母はタイタンとユミルの国境の城に幽閉だ。お前もそこだ、イビリム」
セフェムの言葉にイビリム様がガリウスを見上げます。ガリウスが頷き、ボルテ様に視線を合わせます。
「イビリムはマナを失った。次期副王はそなただ、ボルテ。父ニボルマを慈しみ、ナファを伴侶とし、ユミルを治めよ」
「はい、謹んで拝命をお受けいたします」
とボルテ様は臣下の礼をとりました。食堂から逃げようとするイビリム様は衛士に取り押さえられ、罵声を吐きながら消えていきます。
僕はガルド神様にお願いをしました。ガリウスを全き姿にしてほしいと。
「王族貴族諸君に告げる。マナは私欲のために使うことなかれ!よいか、弱き者のために民のために使うのだ」
すると生徒が息を呑みます。ガリウスの青い瞳が金に輝いたからです。セフェムが僕に向かってマズルを回します。僕は舌を少し出しました。
「はい!」
真のユミルの祖の巨人が誰なのか、次期王や貴族の跡取り子弟に知らしめたのでした。
20
お気に入りに追加
1,182
あなたにおすすめの小説
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑)
本編完結しました!
舞踏会編はじまりましたー!
登場人物一覧はおまけのお話の最初にあります。忘れたときはどうぞです!
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。
心から、ありがとうございます!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる