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終章〜日常〜

97 魔法模擬戦

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 魔法剣を手に入れたイベールが、レームとセリアン国のじいやさんのところに行くと、じいやさんが驚き嬉しそうに手ほどきをしてくれたそうです。

「レームが持った方が良かったのかなあ」

 レームはセリアン国の王になるのですから、魔法剣を返した方がいいかとイベールがレームに話しますと、

「俺では短いから、イベール兄上が持っていてくれ。使わなくなったらセリアンに返してくれないか?」

「んーー。僕の子供が僕みたいだったらまた剣がいるかも。だから、もうちょっと待っていてよ」

 珍しくレームとイベールが獣体で庭で遊んでいました。小さな銀狼イベールと大きな金獅子レームの遊びは、まるで子犬を嬲るライオンです。まあ、ライオンとオオカミなんですけど。

「あ、おかーさん!レームと温泉に入ってもいい?」

 どぼんと音がします。僕は良いとも悪いとも言っていませんが、身体中に葉っぱをつけた二人が入る温泉は自然豊かになってしまいました。

「あとで湯船の葉を片付けて下さい」

「はーい」

 獣体のままでお湯の中で泳ぎ回る二人は茹だってしまうまで遊び、湯あたりをして僕とフェンナに怒られました。身体は大きいのですが、レームはまだまだ子供ですね。それにしてもイベールが元気になって安心しました。

 さて、イベールが魔法剣を持ち帰ったあと、ナファはそのシステムに興味を持ち、コボルトのお爺様のところにすぐさま転移して、散々聞き出すと、

「ターク坊が魔法陣を見せてくれとせがんだ時と同じだ」

と言われたようです。僕はそんなにわがままな孫ではなかったですよ、多分。

 ナファは下級生に出ている、『マナは多いけれどうまくまとめられない』子たちのために、魔法槍や魔法剣を作るつもりなのです。

「防御系なら杖などでもいいのでは?」

 僕の意見にナファが飛びつきます。上背や知識はありますが、まだまだこんなところは子供です。応用は大切ですよ。




 さて、上級生の学科は既に終わり、実技の最終試験が始まりました。これをクリアすればあとは卒業です。今回は魔法模擬戦で、アリーナの周りには下級生も特別に集まっています。

「王族の戦い方は遠方からの陣操作だが、接近戦で戦うこともある。そこで剣技と陣操作を駆使しての模擬戦を行う。是非勝ち抜いて、王立魔法学舎マスターを目指して欲しい」

 王立魔法学舎マスターってなんですか?滅茶苦茶歓声が巻き起こりますが、なんなんでしょうか。あと、下級生のギガス国のラフミさんの息子さん、うるさいですよ。ボルテ様がドン引きしています。

 勝ち抜き戦ですのでくじ引きをして当たったギリアとイエットとの戦いは、イエットが錬成陣を繰り出し、ギリアを土壁で囲んで土壁に飛び上がったイエットがギリアの首に剣を傾けて終了でした。ギリアも防御陣を展開しましたが、陣形成が遅く、防御が薄くなり耐えられませんでした。

 ナファはイビリム様の繰り出す陣の多さに戸惑い、上に飛び上がった途端、剣を投げられて負けました。

 ボルテ様はジュスト様の幻影により、ジュスト様を見失い剣を突きつけられ負けて、イベールは獣人族の女の子たちを陣なしであしらいました。

 ベクルとレームに至ってはアリーナに立つと同時に、迫力負けして小人族の子供たちは逃げていき、小人たちはセフェムのお説教にあってしまいました。

 ジュスト様とレームでは、意外にもレームが精神系の陣に弱く、尻餅をついてしまいジュスト様に剣を突きつけられました。これはレームがまだ幼いからかもしれません。かなり強力な術師ですが、冷静なジュスト様なら大丈夫でしょう。

 レームは経験を繰り返すしかないのです。クラスで一番幼い子で、今年五歳です。一番年齢の高いイビリム様とは五歳も違いますから。この世界の五年はかなりの差です。

 イベールとイビリム様が準決勝で当たり、イベールはまたもや剣技のみで勝ってしまったのです。イビリム様が陣を展開する前にイビリム様の間合いに入り、下から剣を突き付けます。加速陣を使っていないのに素早いのです。

「王族のくせに、陣を使え!使えない奴は小賢しい動きをする」

 イビリム様が吠えても、イベールはなんだか真剣な顔をしています。

「うん。手の内は晒したくないんだ。ごめんね、イビリムくん」

 イベールは剣をしまうと歩いてアリーナを降ります。

 ジュスト様とベクルではジュスト様が陣を出しましたが物ともせず、ベクルが瓦解陣を展開してアリーナを破壊し、ジュスト様がバランスを崩した瞬間に、剣を叩き落としました。

「ふわあああ……迫力がある……」

 剣をはたき落とされたジュスト様は腕が痺れるのか、右手を押さえてふらふらしていまして、そこにレームがアリーナに上がりジュスト様を抱き上げます。

 アリーナの下にはギリアがいて治癒陣を展開し治療して、アリーナはイエットが錬成して直していました。

「決勝戦がイベールとベクルですか……」

 イベールはボルテ様と話していて、ベクルはジュスト様と話をしています。イベールは下級生からも声援が飛び人気者ですね。

 意外な組み合わせに、僕はセフェムの顔を見ました。

「大丈夫だ。では決勝戦を始める。ベクル、イベール、アリーナへ」

 イベールがベクルに剣を向けます。

「僕が勝ったら言うことを聞いてもらうからね、ベクル!」

「……兄上」

「ベクル。もう、もう、やめよう。僕は嫌なんだ」

 僕はあんな厳しい顔のイベールは見たことがありません。そして戸惑った顔のベクルもです。

 セフェムの声が響きます。

「はじめ!」

 イベールが叫びます。

「術式展開、抜剣」

 剣がマナを帯びて金色に光り、イベールの身体の周りに陣が浮かび上がりました。周囲が驚きます。

 既に複数の陣が展開しているようです。

 ベクルが剣を抜いて

「魔法陣展開、加速」

とアリーナの中を駆け抜けると、イベールがその場に留まり剣を構えます。その瞬間、陣の一つがイベールを包み込み、イベールはベクルの剣を受けとめて跳ね返します。

「ぐっ!」

「大振りすぎるよ、ベクル。いつもおとーさんに怒られてるよね!」

 イベールが地面を跳ねるとベクルの頭の高さまで飛び上がり、ベクルの剣を凪ぎ、魔法陣が次々と目が眩む速さで展開して、ベクルの首を峰打ちし倒します。

 ベクルが倒れた後、イベールはベクルの首筋に剣を置き、

「勝者、イベール」

とセフェムが叫ぶと、

「解除」

とイベールが息を深く吐き、鞘に剣を戻します。

 これがイベル式魔法剣術です。じいやさんに教えてもらったスペルを起こすものではなく、頭の中で正確に起こした陣が、抜剣と共に空に展開して常に術者と一緒に動きます。

 陣を見られているデメリットはありますが、何を使うかは術者次第ですから予測も出来ません。

「学長からマスターピンを」

 イベールが、マナを扱うことが苦手なイベールが、優勝したのです。

「おめでとう、イベール」

 ガリウスが抱き上げてイベールのチュニックに学舎マスターのピンをつけました。最優秀上級生として卒業するのです。

「ありがとう、ちちうえ。マナはベクルのものなんだけどね」

 イベールが笑っています。ベクルがアリーナの外でギリアから治癒を受けていました。あれだけ大量のマナを連続で使われてはと思いベクルの元に行きますと、

「マナは大丈夫です。むしろ身体が軽いくらいです」

そんなふうにベクルは話します。しかし顔は厳しいままで、

「では何故、そんな苦しそうな顔をしているのですか?」

と聞き返しました。ベクルは自分の眉がひそまっているのを感じて眉に手をやります。

「今は……言えません。失礼します、母上」

そう言うと、僕を持ち上げて少し抱きしめてから、ガリウスに手渡しました。

「悔しいか?」

ガリウスに聞かれたベクルは、ここでやっと破顔します。照れたような笑顔で、

「兄上には敵いません。やっぱり小さい頃から凄いです」

と答えました。
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