巨人族の1/3の花嫁〜王様を一妃様と二妃様と転生小人族の僕の三妃で幸せにします〜〈完結〉

クリム

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終章〜日常〜

92 王立魔法学舎の日常

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 月、火、水の九時から三時までが、王立魔法学舎の授業です。午前中が座学、午後は大抵実技となります。

 教壇に立つ僕の足元には踏み台があり、踏み台を移動陣で動かしながら、チョークで板書を始めます。

「帝王学では、王令遵守が、基準となります。王もそれを守ります」

 先生は白衣を着るものだとナファのよく分からないゴリ押しにあい、僕はチュニックの上にお医者さんのような白衣を着ています。

 確かに僕は未成熟体ですから、他者と違う格好の方が分かりやすいですからね。

「あのう、ターク先生。それはなんと書いてあるのですか?」

 え?

 一人の生徒が僕に尋ねます。僕が作った植物紙の教科書と同じ文字が書いてあるのですが……まさか。

「文字の読み書きが出来ない人は手を挙げてください」

 二十一人いる教室の中で半分ほどが手を挙げました。もちろん僕の子供達は文字の読み書きどころか、マナ文字、算術も出来ます。あ、イエットも出来ますよ。

「王族たるものが文字を読むなど。文官の仕事を減らしてしまうではないか」

 クラスで一番前を陣取るのはユミル王族です。ユミル王城のお庭で静かに遊んでいる、幼児退行してしまったニボルマ様のお子様は四人。そのうちの第一王子のイビリム様は神降し前のニボルマ様のミニチュア版みたいで、ちょっと態度が横柄です。

「イビリムくん、良かったら教えてあげようか?午後の授業の後、教室でどうかなあ?」

 イベリム様はイベールを鼻であしらいます。それにベクルが鼻息荒くしていますが、さすがに教室で暴れることはありません。ガリウスの子である証の巨躯に、イビリム様は少し動揺したようで黙りました。

「今はおかー……先生の話しをしっかり聞いておこうよ。授業後、待ってるからね」

 イベールは手を挙げた半分に対して、声を掛けてから椅子に座ります。イベールやイエットを含む小人族はステップチェアで、巨人族同様の机と高さを合わせています。

 授業が終わると僕は食堂に行きました。そこにはフェンナとファビがいます。ファビは学舎で学ぶより、料理に向きあいたいとの言葉を受けて授業は受けず、学舎の昼食を任せています。サポートにフェンナが付いています。

「ファビ、大丈夫ですか?」

 ファビはロキに似たしなやかな細身の巨人族で、癖のある髪をしっかり縛り、コックコートを着てフライパンを振っています。

「大丈夫、ここの火加減に慣れて来たわ。ターク母上、今日のおすすめはトマト煮込みよ」

「楽しみにしています。僕のは少なめでお願いしますね」

 ナファとレームのリクエストをレシピに変えて、ファビはリストランテを開こうと頑張っています。

「主様、お疲れ様です」

 フェンナがお茶を出してくれ、僕は問題児くんの様子を見るため、白衣を脱いで食堂の端に座りました。

 子供達が元気に食堂に降りてきます。食べ盛りの子供達の食事は無料ですが、もちろん王族はお抱え料理人が厨房で料理をしたものを食してもいいのです。

 それにしてもイベールは人気者ですね。とても綺麗な子ではありますが、それならナファも同じです。でも面倒見がいいのか、長男気質なのか、はたまた可愛くて小さいからか、今日も囲まれています。

 その後ろでベクルがむうっとしているのです。その目はイベールの左手の薬指に向けられていて、僕は小さくため息を付きました。

「ファビちゃん、今日のおすすめは?」

 イベールが食堂でファビに声を掛けます。僕の子供達の背後にはティンがいます。もちろん王族の子供達には側付きがいます。

 ファビがティンを見つけると、小さく手を振ります。赤ちゃんの頃からティンが大好きなファビは、ティンにどう想いを告げるのでしょうね。

「トマト煮込みよ。イベール兄様や獣人さんちのはソイミート入り」

「あ、美味しそう……だけど……」

 ニボルマ様の第二王子のボルテ様と第三王女のイーマ様がイビリム様を気にして、イビリム様が既に座るテーブルに向かいます。丸テーブルが二十ばかりの広い食堂は、教師も側付きも使用します。

 ティンが給仕をしタイタンの子供達が食事をしますと、少し遅れてユミルの子供達が食事を始めます。給仕が遅いとイビリム様が側付きに声を荒げていました。

 成人には少し早いのですがギガス国副王になられたジュスト様の横には婚約者のギリアがいまして、ジュスト様の妹のアンテナート様と一緒で、三人の給仕を妖精の宮のギリアの側付きが行っています。

 小人族からはドワフ国のイエット、ノーム国からは僕の姉上の子のラファイエ、コボルト国からもやはり姉上の子ロアとキュテインが来ていて、側付きの給仕を受けています。小人の側付きだけでは大変なので、ティンがサポートしています。ティンはもうじき成人です。ぼちぼち宿り木に触れて欲しいものです。

 セリアン国からは現国王様、セフェムの兄上のお子様四人の獣面人さんが来ていて、エルフ国からはソニン様の兄上様のお子様が二人来ています。

 今回の入学は全て王族でした。貴族級の子供のマナ値がまだ低く、腕輪が反応しなかったためです。

 僕は端のテーブルで食事を済ませて、ティンが忙しそうなのでお皿を下げにと歩きました。すると、

「メシが不味い!余を愚弄するな」

とイビリム様が飛び出して僕はぶつかってしまいました。僕は床に倒れ、お皿が飛び派手に割れてしまいます。

「邪魔だ、小人!」

 白衣を着ていない僕は生徒だと思われたのでしょうか。イビリム様は僕を殴ろうと拳を振るいます。

「ダメだよっ!ーーーーギャンッ!」

 バランスを崩している僕の顔に入るはずの拳は、止めに入ったイベールのお腹にめり込んでいて、イベールはお腹を押さえたまま床に転がります。子供達の悲鳴が上がり、僕は魔法陣を展開しイベールの治癒をしました。

 ティンが「失礼します」とタイタンのテーブルから動き、ユミル国の側付きの頬を叩きました。あのティンが叩いたのです。

「側付きは奴隷でも下僕でもありません。主の愚行を止めるのもまた側付きの役目です。あなたは何をしているのですか!」

 ティン、素晴らしいです。

「イビリムくん、おかー……ターク先生に謝って」

 イベールが立ち上がり、イビリム様をきっと見上げます。我が子ながら惚れ惚れしますね。

「王族が軽々しく頭を下げるものではない」

「そんなことないよ!おとーさんもちちうえも王族だけど、おかーさんに謝ってばっかりだよ!」

 イベール、今、ここで言うことではないですよ。睨み返すイビリム様はイベールの剣幕に押されて、食堂を出て行きましたので、レームに目配せをして後を追わせました。

 この学舎を卒業することが副王の条件なのに、イビールリム様のこの頑な態度が不自然です。

「あ、あの、ターク先生、イベール様」

 ボルテ様が席を立ち、イベールに片膝をつき右手を胸に当て、臣下の礼を取ります。

「兄が大変酷いことをし、申し訳ありませんでした。ユミル国はタイタン国の支援で生きながらえておりますのに……」

 イベールがボルテ様を立たせて、

「ちょっと痛かったけど、ボルテくんが謝ってくれたから治っちゃったよ。ベクル、その拳は開いてねー。ベクルが殴ったら風圧でお部屋が壊れちゃうよ」

 振り向くとベクルが半立ちで拳を握っていました。あの短気は……僕の気質ですね、多分。

「それに、タイタン国の側付きの方、我が国の若い側付きへの御教育感謝します。お見受けするに、ユミルの『金の血脈』を継いでいませんか?」

 ティンは笑いながら、

「ガルド神の戯れに過ぎません」

とやんわり話を打ち切りました。この言葉は王族の中での『詮なし』と同意語で、ティンが王族に列を成しているが詮索は無用の意味を表しています。ボルテ様は長いふんわりした金髪を下げ、まるでイベールのように頭を下げました。

「本当に兄がすみません。僕は次期神官長として神殿にずっといましたので、王族としての学びは初めてで……マナ文字は読み書きが出来るのですが、日常の文字は読み書き出来なくて。イベール様、授業後、教えてもらってもよいですか?」

「いいよ、ボルテくん。イーマちゃんもどうかなあ」

 小首を傾げるボルテ様はなんとも可愛らしく、イベールは嬉しそうに両手を差し出して握手をします。

「可愛いなあ。奥神殿の花を手折るのも悪くないです。ねえ、お母さん、お母さんもそうでしたし」

 な、なんというひっそり発言を!ナファが僕を抱き上げて、戻ってきたレームに渡します。

「もうじき午後の授業ですよ。セフェム先生の剣術に遅れないようにしませんと」

 僕はレームに拉致されてナファとレームに連れて行かれながら、生徒達に声を掛けました。




 学長室にはガリウスが戻っていて、レームからガリウスに僕は手渡されます。どうして歩かせてくれないのですかね。ナファはガリウスより少し細く小さめです。ここはいませんが、ベクルはかなり大きく、もしかすると成人するとガリウスの上背を超えるかもしれません。

 レームはまだ二メートルくらいですが、獅子顔の精悍さがありますし、獣人族ですが巨人でもありますから筋肉のつき方が違います。骨太でガッチリしています。

「父上、イビリム派が動き出していますね。イビリム派と言うよりも旧ニボルマ派ですが。学舎に入り込んでいます」

 レームが告げますと、ガリウスは頷きます。

「やはりか……王城は近衛で包囲しているが……」

「僕の見立てではボルテの方が副王には向いています。いや、僕がその方がいいのです」

 いえ、好みの問題ではなくてですね、ナファ。

「今日、イベール兄さんがお腹にイビリムの拳を受けましたし」

 ナファのその言葉にはガリウスがいきり立ち、

「その前には母上にぶつかり謝りもしない。俺の妹を作る予定の大切な身体を!」

 だーかーら、まだ、子供は……。

 レームのぼやきに、ガリウスが立ち上がるのを感じ、僕は慌てます。

「だめ、だめですって。イベリム様を野放しにする方が危険です。このまま学舎にて泳がせておいた方がいいです」

 ガリウスが深い息を吐いて椅子に座りました。

「ナファの見立てではボルテなのだな。俺は問題がない。ただイビリムをどうするかだ。卒業すれば副王になるだろう?」

 僕は教師ですから学舎にいる限り、イビリム様を擁護する立場です。

「まあ、一年持つかな?ですよ、お母さん」

 なんて、ナファとレームが意地悪く笑いました。何をするのです、二人とも。




 午後の授業後、クラスにはボルテ様とイーマ様、そして獣人族の子達がイベールとナファとレームに文字を教わっています。ナファ、ボルテ様に顔、近いですよ。

 庭ではジュスト様とギリアが花を見ながら談笑しています。僕は明日の授業の支度をしてタイタンに戻ります。明日の午後は魔法陣実技です。わくわくしますね。魔法書も新たに作りました。隷属陣と洗脳陣のないものです。

「タク、帰るぞ」

 セフェムが僕を教室まで迎えにきました。

「セフェムはこれから王宮での夜警ですよね。ガリウスはまだユミルですし」

「どうした?」

「レームがまた言ってきたのです。妹、妹、うるさいのです」

 ずっと妹を欲しがっていましたが、僕らもなんだか忙しくて交合もあまりでして。あ、でも、三日おきの精はもらうのですが……。

「んじゃあ、今度の俺の発情期に作るか?」

「えー、嫌ですよ。だってセフェム長くてしつこいですから」

 なんて二人で笑いながら陣を展開して帰宅します。

 帰宅すれば先に帰っていたフェンナが出迎えてくれました。王立魔法学舎ではガリウスが帰宅すると、子供達は同時に強制自宅転移されます。安全安心が大切ですね。

 まだまだ勉強をしなくてはなりませんが、僕は僕の生徒達が立派な王様になれるように、粉骨邁進していきますよ。
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