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4章

87 ガルド神の恩寵

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 双子に着替えを手伝ってもらい、ティンが部屋に来て車椅子を引いてくれます。木の車輪を大きくしてくれたのでそれを掴もうとしましたが、ティンに窘められました。むう、タイタンの弾丸作戦は別の日ですね。

 僕は外から離宮を見上げました。大理石をふんだんに使った離宮は、ガリウスもゆったり出来る様に大きく明るい開放感に溢れた作りになっています。真ん中玄関の一階には子供たちの学び舎があり、調理室、使用人室と、ホールまであります。

 僕の部屋は一階の端でなんとお風呂から温泉直通という贅沢と、ナファが考え出した、魔法具による散湯シャワーもありました。

 魔力を動力にしているのです。謎の仕組みは魔法陣にあるみたいですが、秘密にされてしまいました。食い下がったのですが、

「お母さんにはやりたいことがありますよね?生活魔法具など些末なことは、僕に任せて下さい。まずは動けるようにならないと」

と言われてしまいました。鈴木寛一そっくりの口調のナファ。自分自身の前世ながら取り付く島もありません。

「おかーさーん、僕ね、ナファに勝ったんだよー」

 ティンに車椅子を押してもらいながら宿り木に行こうとすると、イベールが息を切らして走ってきます。

「イベール、剣術でですか?凄いですね」

 イベールは同じく息を切らせてやってくる背の高いナファを見上げて、少し自慢げにしています。ナファは剣を鞘に入れて

「素早さではイベール兄さんに勝てません。間合いにすぐに入って来られて」

 なんてため息をつきます。

「ベクル兄さんの重い刃にも勝てませんし、剣術は自分を守るため程度にした方が良さそうですね」

 ナファ、あなたは、生まれてきてまだ三月みつきです。達観しすぎですよ。

 ソニンティアム様とロキとアリスさんが準備してくれている台のところにいます。今日は非番のキレンさんがお子さんのお守りだとかで、宮宿舎にいます。元気な巨人族の赤毛の男の赤子さんで、どうやら泣き方が父上様そっくりだとか。アリスさんが夜泣きが酷くて……と育児疲れに愚痴を吐いていました。

 宿り木の側の地面に金の輪が出来、光が差してガリウスがユミル国から転移してきました。ナファの転移腕輪はすごいのです。僕が使おうと思っていた魔法石門扉なのにとぼやきましたが、ナファは笑って譲ってはくれませんでした。

「皆、揃っているのか」

 タイタンの政務の半分をベクルとバンさんがしていて、バンさんを伴いベクルが王宮から出てきます。

 ファビとギリアも離宮から出てきています。ファビはドレスに着替えていて、ギリアに飾り付けられていました。

「ターク母上も言ってくださいませ。ファビは綺麗なんだから、もっと飾らないと」

「あたしは、気楽がいいの。イブばあちゃんみたいに」

「でも、今度のサロンには絶対に来てもらうわ。褐色肌ファンデーションのお試し台になってもらうから」

 ギリアは成長するにつれ、少し肌の色が薄くなっているのです。ファビがコーヒーカラーで、ギリアはミルクコーヒーカラーなのです。

「お手伝いしてくださいね、ファビ」

「はあい、ターク母上。あ、段差。ティン、車椅子を止めて」

 段差で車椅子が止まるとティンが僕を抱っこしようとします。そこにガリウスが来て僕を両手でそっと抱き上げます。ガリウスはすっかり色も戻り褐色肌に青い瞳で僕を見下ろしました。

「おかえりなさい。ユミル国はどうでしたか?」

 後ろで警備をしていたセフェムも後ろに来ました。

「バンに言われた通り、文官をこき使って法整備をしているところだ」

 ユミル国は一見豊かに見えましたが、日々の食べる物にも困るのは貴族も一緒で、ハリボテのような国だったのです。ギガス国に勝るとも劣らない酷い状態でした。王族のみが豊かに暮らす機能不全の状態が二代続いていたのです。

 一方、ギガス国は今、大理石の販売と、オリーブや葡萄の作付けを始め、柑橘類の栽培を強化し、セリアンとの交易を準備しています。乾燥地帯ならではですね。

「ギガス国では成人したらジュストを副王として即位させ、ギリアを娶らせることになる。そうすればタイタンからの支援も更にしやすくなる」

「ギリアは知っているのですか?」

 宿り木の横で僕が尋ねますと、ギリアもソニンティアム様も頷きました。

「ターク母上、心配しないでください。わたくしも王家の人間です」

 では、王家の姫の教育をしなくてはですね。その辺りはソニンティアム様にお任せしましょう。口約束の婚約程度ですし、ガルド神様へのお伺いもまだですから。

「では、僕はユミル国で王族の誰かを副王にして、その伴侶にって感じですね」

 するとそうナファが言い出したのです。

「ナファ、お前はそれでよいのか?」

 ガリウスがナファに聞きました。

「良くも悪くも、ユミル王族の誰かを副王にしますよね、お父さんは。そうなると、副王の伴侶になるのが僕の魔法具研究に都合がいい。ユミルは魔法石がたくさん取れますからね」

 確かに悪くない案です。それに白肌の巨人はこちらではまだ奇異に見られてしまいますが、ユミルでは王族は肌が白いと周知していますから、ナファが王族の伴侶になるのはなんの問題もありません。

「お母さんの足が治ったら、好きなことをしてください。そこであのユミル国のボンクラの血筋を鍛え直さないと」

 そうでした。だから僕は早く動けるようになりたいのです。

「タク、三人で捥ぐぞ」

 護衛として後ろにいたセフェムが、ガリウスに抱っこされている僕の腰に手で触れて、そして点滅している実に三人で触れました。外皮が霧散して、薄い皮膜の中で金の瞳が僕を見て少し弓形になりました。わ、笑いました?

 台の上で包膜を破ると、金の鬣と金の瞳を持つ金獅子の赤子が

「うにゃあ」

と一声を上げて液体の中から出てきました。既に四つ足で立っています。そしてふんふんとあちこちの匂いを嗅いでいます。獣体ですのでおむつをつけるのをやめて、僕はアリスさんにタオルで拭いてもらった赤子を抱き上げました。

「……セフェム、あなた狼でしたよね?どーして獅子の子がいるんです?」

 僕は明らかに獅子の子である、獣の赤子さんを見下ろします。

「そりゃあ、獣人族の祖が金獅子だったから、少しくらい血を引いて……金獅子は獣体で生まれたなら獣面になる。つまりセリアン国の真の王が生まれたんだ?あ、あれ?」

 え?あ!!そうでした!セリアン国が持ち回り性で王様をしているのは、真の王がいないからです。金獅子は王家復活の階になるのです。

 周りもざわついていてバンさんは

「えらいことだ。まさかタイタン国に金獅子様がお出ましになるとは!セリアン国に親書を送らねば」

と走って行ってしまいました。

 えーっと、ここにはガルド神様認定巨人の祖のガリウスもいますが……。

「ガリウスの子供たちはガルドバルドをよい大陸にしてくれますよ」

 僕が呟きますと、

「お母さんとお父さんとセフェム父さんの子、がですよ。勿論、ソニンティアム様、ロキ様のお子様の協力も不可欠です。その前にお母さんがちゃんと夢を叶えないとだめですよ。僕はね、馬鹿な子は嫌いです」

 ナファがそう話して来ました。うう、僕デジャブ感がしてすごく嫌です。

 神殿に行くとトラムさんが待っていて、儀式を執り行います。金獅子さんはレームと名付けられました。ナファ同様マナ量が莫大で、銀杯にはしっかりマナ文字で名前が刻まれました。

 イベールが獣化して銀狼になり、ふわふわの金の巻き髪のレームと戯れあって遊んでいます。レームは巨獣人のようで、捥いだ時から既に身体が大きいのです。イベールはお兄さんのつもりでしょうが、レームは生まれた状態で既にイベールよりも大きい獅子なのです。

 ベクルがイベールの服を拾い上げて、戯れ合う二人の間でうろうろしています。相変わらず、ベクルはお兄さん子ですね。

 僕はイベール、ベクル、ナファ、レームのお母さんになりました。この世界は宿り木という不思議な木があり、子供はその木に宿ります。

 妊娠や出産による生活変化もないので、男女平等に社会生活を送り、宿り木から赤子の入る実を捥ぐと同時に乳の実を捥ぎ、それを与えながら三か月程度の赤子期間を伴侶が二人で養育します。

 そんな不思議な異世界で、小人として生きることを僕は選択しました。

「おかーさん、レーム格好いいね!」

 はあはあ息を切らして、銀狼さんのイベールが車椅子の膝にとびこみ、レームもイベールに習って飛び上がりました。

「やんちゃだなあ、レムは」

 セフェムがレームを抱き上げて抱きしめます。レームがセフェムの獣面のマズルを舐めています。

「あとはタークの身体が元にもどるだけだ」

 ガリウスに抱き上げられました。本当にそう思います。そう、僕にはやりたいことがあるのです。
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