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4章
86 動き出したガルドバルド
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小人族、巨人族、妖精族、獣人族、そしてまだ見たことのない伝説になっている人魚族、竜人族。
転生前の僕からすれば人外の人々が住むのが、ガルドバルド大陸で、招れ人は異世界からユミルに降り立ち様々な叡智を授け、ガルド神と共に去って行くという記載を見つけました。僕はガルドバルド大陸に残りました。だからこそガルド神様は驚かれたのですね。
ガリウスと初めて会った時に言っていた人族ですが、ユミル国から取り寄せた書物によると、すごく離れていてマナの歪みを超えると、人間族の住むという伝説のユグドガルド大陸があり、前世の僕のような人間ではなく、やはりマナを持つ人々が住う大陸があるそうです。
唯一妖精のエルフ国にあるガルド神から頂いた宿り木の根幹の世界樹が行き来しているだけで、今までに人間族のいるユグドガルド大陸にガルドバルド大陸の人が行ったという文献はありません。文献がないだけで、もしかすると死ぬまで行ったきりみたいなことがあるのかもしれません。調べてみたい所です。
僕が書物を閉じて窓の外を見ると、イベールとナファがセフェムから剣術を習っています。
僕は三月の昏睡から覚めて、二月をかけてようやく寝台から起き上がれるようになりました。
三月前、僕は忽然といなくなり、ガリウスとセフェムが必死で探し出した時には、白亜の宮で昏睡仮死状態だったそうです。
たった数時間で見つけ出されたにも関わらず、マナと気力切れで冷たい僕のために二人はタイタンに戻る間も抱きしめ身体をさすり、ガリウスが持っていてくれた指輪を通じてマナを注ぎ流し続けてくれ、僕はかろうじて生き長らえました。
痩せていた身体がさらに痩せてしまい、ただいまフェンナの食事強化月間にあっています。
「お母さんは居なくなっていた間、ガルド神様から全ての陣を複写し受け取っていました。ガルド神様からの直接陣です」
とナファが言いました。
これを受け取るがよい、とガルド神様が言われた、お詫びの言葉のそのあとですね。
ナファは宿り実を通じて僕と意識結合をしてしていたみたいで、僕の知識全てがガリウス同様に流れ込んでいるのです。多分もう一人の子もある程度影響されているのではないかと、ナファは話してくれました。
「僕はお母さんが異世界に行ってしまった時の保険ですよ。だから実が捥げなかったのです。ガルド神様は先のユミル王の轍を踏みたくなかったのでしょうね」
「そうですか……。でも僕が異世界に戻ってしまった場合はどうなりますか?」
「多分、落実して容姿はお父さんと同じになります。でも知識は蓄積していたと思われます。あくまで仮定ですけれど」
そんな昼下がりの会話をしていたナファは、僕の三回目の僕、鈴木寛一の喋り方そっくりです。ただ違うのはイベール同様にものすごく綺麗な顔立ちをしているところでした。鈴木寛一は平凡な男性でしたからね。
イベールは九月、ベクルは八月、そしてナファはギリアとファビ同様七月です。もう子供の領域です。ナファは赤子をすっ飛ばして成長しています。なんだか申し訳なくて、思わず謝りますと、
「お母さんは僕のお母さんでいてくれるだけ嬉しいのです。僕はね、お母さんの叡智の全てを受け取り、本当に光栄です」
と切り返されてしまいました。
イベールは僕より少し小さいくらいまで急成長し、ナファに教えてもらった読み書きと算術を二月(ふたつき)で覚え、算術は特に好きらしく、乗算や除算まで行います。
僕が昏睡している三月の間に、ガリウスとナファは異世界の叡智を使い放題使っていました。
まずは暦です。グレゴリオ暦よろしくガリウス暦を作り出し、長さと重さを世界統一し、巨人族全てに公布し、必要とする種族全てに無償で譲ってみたところ、小人族、獣人族まで欲しがり、ガルドバルト大陸全土に流布したのです。
ナファは僕と違い、生まれも育ちもこの世界です。僕の前世の知識からマナによる魔法技術を考えつき、新たに設立した魔法技術省でその才能を遺憾なく発揮しています。
その一つが、
「ただいまー、ターク元気かー?」
転移腕輪を付けたロキが離宮の寝室の扉を開けて入って来ました。僕がガルド神様にねだった巨大な魔法石門扉を壊し、材料にして魔法具に錬成し直した腕輪です。
単位式転移魔法陣によるものですが、ロキはマナが少ない為、増幅用の魔法石が腕輪には嵌め込まれています。ナファの実験台になっているロキですが、一瞬でコットンフィールドからこちらに来られるので満足そうです。
「ターク、クラリの舌とちんこ治してくれてありがとう。俺、すげー嬉しい」
意識が戻りロキと会ったこの一声は、しばらく忘れられません。その後の語りの中の熊族の巨大でリアルな形状については、思い出したくもありません。
奴隷さん達は一斉に隷属陣から解放され、奴隷化へ見せしめのための身体の一部を切り取る儀式の後の肉体も戻りました。
ユミル国南の国境壁の前で訓練をしていたタイタン国近衛隊により保護され、牢に入れられている奴隷さん以外全て各国に返したそうです。
牢に入っている奴隷さん達は、ガリウスが直々に話を聞いて解放するのだとかで、今日もガリウスはユミル国へ行っています。
「ターク母上、ごきげんよう」
「ファビ……その格好は」
明るく陽気な声がして、ファビもロキと一緒に戻って来ましたが、やはり布面積が少ないのです。
「ファビ、タークの目が怖い!早く着替えに行こう」
「うん、ロキ母さん。あ、ティン、こんにちは!また、食べ歩きしようね」
逃げるように部屋を退出して行きました。ティンが廊下で仕事をしているのですね。今の僕、二人を追いかける手段は車椅子なのです。悔しいですね。車椅子を魔改造して自在に操れるようになり、『タイタンの弾丸』と言われるようなスピードを手に入れたいものです。
ファビは元気で明るい働き者の女の子で、料理をフェンナや料理長から習っているようで、ナファが話す異世界の料理を広めたいのだそうです。
そうこうしていると、ソニンティアム様とギリアが同じく魔法具を使い転移して戻りました。ギリアは妖精族の透けるような美貌を兼ね備えた姫に育っています。巨人族の四月(よつき)は四歳というより、もう少し成長速度が速く、人間世界での十歳くらいに感じます。小人族系獣人のイベールと僕だけが小さい子のようです。
「ターク母上様、ごきげんよう。お加減はいかが?」
「ありがとう。今日は少し座って書物を読みました」
ソニンティアム様同様美しいギリアは上品に挨拶をしてから、ソニンティアム様をチラッと見ました。
「お母様はターク母上様の妹の双子姫様に愛されて惚けていますの。わたくしはこれで。ファビに話があります」
と話して来ます。ソニンティアム様は頬を染めて、ソニンティアム様の左右で服の長い袖を握るテハナとマグリタの肩に手を添えています。
一番驚いたことは、テハナとマグリタがソニンティアム様の伴侶となっていたことでした。
「ターク兄様、まだ陰門は許していないから大丈夫」
とテハナ。
「ターク兄様、房中術はよい伴侶の条件」
とマグリタ。
まだ成人前なので心配していましたが……。
「ターク兄様、施術を始めます」
「ターク兄様、横になって」
テハナとマグリタがソニンティアム様に抱っこをせがみ、僕の寝台に上げてもらいます。
僕は掛布を剥がれ羽織着をはだけられました。ソニンティアム様の神癒を受けながら、双子が左右に座り動かない下半身の気脈の流れを整えてくれています。
「慢性的な気力不足ですが、ターク兄様は一時期仮死状態になり、気力巡らない時期がありました」
テハナが囁きます。
「大量の気力流し、気脈が詰まってしまった箇所を無理矢理広げていく必要があります。そこで補うのがこちらです。気力を巡らせるお薬」
ガラスのポーションケースに入った緑色の液体はなんでしょうね。
「「ターク兄様が早く良くなるように、二人で全力で作りました」」
二人の声がユニゾンして、もはや飲むのが怖いくらいです。夜寝る前に飲むように言われました。
僕は羽織着を直して座ると、神癒を終えたソニンティアム様と双子が椅子に腰かけたので、もう何度目かの質問をします。
「ソニンティアム様、この双子で大丈夫ですか?この子たちは少し変わっていて、その、僕の異世界の知識をよく知ってますので」
ドワフ国でテハナとマグリタに喋り過ぎてしまったのです。しかも二人は小人族の特徴の丸みがなく、まるで僕のように細く華奢です。
二人に聞いてみるとどうやら僕みたいになりたくて、食事制限したと言うのです。実際、小人族では育ち盛りに無理に大量の食事をすることで過食気味にし、骨太でふっくらした体型にするのです。
「ターク様によく似た髪色のお二人に慰められ励まされて、お二人とターク様のお話をするのが楽しくて」
ソニンティアム様はタイタン国についた僕に泣きながら神癒をかけ続け、ユミル国から一緒についていてくれた双子が励まし、気脈治癒施術をし続けてくれたのです。そこで僕という共通点を挟んで親愛が育まれたと美談が物語るのですが……。
「ソニンティアム様……あの、騙されていませんか?」
「ターク兄様、マグリタに失礼です」
「ターク兄様、テハナを穿ち過ぎです」
だって、お前たち……。
華奢な双子姫は小人族での縁談を何回も断られ、成人間近なのに神降しに国から駆り出されたそうなのです。自分で婿取りでもしてこいと言われたと二人は言いますが、王家の姫ですし、これは双子の方便かと。
「わたしが……わたくしでいることも理解してくださる二人を愛していますの。わたし『男』とわたくし『女』も満たしてくれ……ああ、恥ずかしい……でも」
「「でも、嬉しいでしょう?」」
恥ずかしそうに頷くソニンティアム様、いえ、ソニン様もMですね。でも、何をしたのですか、双子姫。
「テハナ、マグリタ。何度も聞きますが、二人はソニンティアム様の伴侶としてタイタンで暮らしていくのですよ」
寝台に座るテハナが僕にぎゅっと抱きつきました。
「ターク兄様のお役に立ちたいのです」
同じくマグリタが僕の手をぎゅっと握りしめました。
「ターク兄様に焦がれるソニンティアム様は、素敵なお方」
治癒師でもある双子姫と神癒魔法陣を得意とするソニン様、僕の知識を得ているナファがいれば衛生治療など飛躍的に改善されていくでしょう。
「タイタン王がドワフ国に了承を得ましたから大丈夫、ターク兄様」
テハナなんと言いました?
「ターク兄様の伴侶は物わかりがいい、ぐっじょぶ」
ぐっじょぶ……意味分かって使っていますか、マグリタ。
そんな小人双子姫に囲まれているソニンティアム様は本当に、嬉しそうに二人を抱き上げ膝に乗せて、テハナとマグリタの茶銀の髪を撫でています。しかも、二人とも僕と同じ長さに切っているのです。遠目にすれば、まるで三つ子みたいです。
「さあ、ターク様、服を着替えて、実を捥ぎに参りましょう。ガリウス様ももうお戻りですよ」
思い出したようにソニンティアム様が言いました。そうです、今日は最後の実を捥ぐのです。
転生前の僕からすれば人外の人々が住むのが、ガルドバルド大陸で、招れ人は異世界からユミルに降り立ち様々な叡智を授け、ガルド神と共に去って行くという記載を見つけました。僕はガルドバルド大陸に残りました。だからこそガルド神様は驚かれたのですね。
ガリウスと初めて会った時に言っていた人族ですが、ユミル国から取り寄せた書物によると、すごく離れていてマナの歪みを超えると、人間族の住むという伝説のユグドガルド大陸があり、前世の僕のような人間ではなく、やはりマナを持つ人々が住う大陸があるそうです。
唯一妖精のエルフ国にあるガルド神から頂いた宿り木の根幹の世界樹が行き来しているだけで、今までに人間族のいるユグドガルド大陸にガルドバルド大陸の人が行ったという文献はありません。文献がないだけで、もしかすると死ぬまで行ったきりみたいなことがあるのかもしれません。調べてみたい所です。
僕が書物を閉じて窓の外を見ると、イベールとナファがセフェムから剣術を習っています。
僕は三月の昏睡から覚めて、二月をかけてようやく寝台から起き上がれるようになりました。
三月前、僕は忽然といなくなり、ガリウスとセフェムが必死で探し出した時には、白亜の宮で昏睡仮死状態だったそうです。
たった数時間で見つけ出されたにも関わらず、マナと気力切れで冷たい僕のために二人はタイタンに戻る間も抱きしめ身体をさすり、ガリウスが持っていてくれた指輪を通じてマナを注ぎ流し続けてくれ、僕はかろうじて生き長らえました。
痩せていた身体がさらに痩せてしまい、ただいまフェンナの食事強化月間にあっています。
「お母さんは居なくなっていた間、ガルド神様から全ての陣を複写し受け取っていました。ガルド神様からの直接陣です」
とナファが言いました。
これを受け取るがよい、とガルド神様が言われた、お詫びの言葉のそのあとですね。
ナファは宿り実を通じて僕と意識結合をしてしていたみたいで、僕の知識全てがガリウス同様に流れ込んでいるのです。多分もう一人の子もある程度影響されているのではないかと、ナファは話してくれました。
「僕はお母さんが異世界に行ってしまった時の保険ですよ。だから実が捥げなかったのです。ガルド神様は先のユミル王の轍を踏みたくなかったのでしょうね」
「そうですか……。でも僕が異世界に戻ってしまった場合はどうなりますか?」
「多分、落実して容姿はお父さんと同じになります。でも知識は蓄積していたと思われます。あくまで仮定ですけれど」
そんな昼下がりの会話をしていたナファは、僕の三回目の僕、鈴木寛一の喋り方そっくりです。ただ違うのはイベール同様にものすごく綺麗な顔立ちをしているところでした。鈴木寛一は平凡な男性でしたからね。
イベールは九月、ベクルは八月、そしてナファはギリアとファビ同様七月です。もう子供の領域です。ナファは赤子をすっ飛ばして成長しています。なんだか申し訳なくて、思わず謝りますと、
「お母さんは僕のお母さんでいてくれるだけ嬉しいのです。僕はね、お母さんの叡智の全てを受け取り、本当に光栄です」
と切り返されてしまいました。
イベールは僕より少し小さいくらいまで急成長し、ナファに教えてもらった読み書きと算術を二月(ふたつき)で覚え、算術は特に好きらしく、乗算や除算まで行います。
僕が昏睡している三月の間に、ガリウスとナファは異世界の叡智を使い放題使っていました。
まずは暦です。グレゴリオ暦よろしくガリウス暦を作り出し、長さと重さを世界統一し、巨人族全てに公布し、必要とする種族全てに無償で譲ってみたところ、小人族、獣人族まで欲しがり、ガルドバルト大陸全土に流布したのです。
ナファは僕と違い、生まれも育ちもこの世界です。僕の前世の知識からマナによる魔法技術を考えつき、新たに設立した魔法技術省でその才能を遺憾なく発揮しています。
その一つが、
「ただいまー、ターク元気かー?」
転移腕輪を付けたロキが離宮の寝室の扉を開けて入って来ました。僕がガルド神様にねだった巨大な魔法石門扉を壊し、材料にして魔法具に錬成し直した腕輪です。
単位式転移魔法陣によるものですが、ロキはマナが少ない為、増幅用の魔法石が腕輪には嵌め込まれています。ナファの実験台になっているロキですが、一瞬でコットンフィールドからこちらに来られるので満足そうです。
「ターク、クラリの舌とちんこ治してくれてありがとう。俺、すげー嬉しい」
意識が戻りロキと会ったこの一声は、しばらく忘れられません。その後の語りの中の熊族の巨大でリアルな形状については、思い出したくもありません。
奴隷さん達は一斉に隷属陣から解放され、奴隷化へ見せしめのための身体の一部を切り取る儀式の後の肉体も戻りました。
ユミル国南の国境壁の前で訓練をしていたタイタン国近衛隊により保護され、牢に入れられている奴隷さん以外全て各国に返したそうです。
牢に入っている奴隷さん達は、ガリウスが直々に話を聞いて解放するのだとかで、今日もガリウスはユミル国へ行っています。
「ターク母上、ごきげんよう」
「ファビ……その格好は」
明るく陽気な声がして、ファビもロキと一緒に戻って来ましたが、やはり布面積が少ないのです。
「ファビ、タークの目が怖い!早く着替えに行こう」
「うん、ロキ母さん。あ、ティン、こんにちは!また、食べ歩きしようね」
逃げるように部屋を退出して行きました。ティンが廊下で仕事をしているのですね。今の僕、二人を追いかける手段は車椅子なのです。悔しいですね。車椅子を魔改造して自在に操れるようになり、『タイタンの弾丸』と言われるようなスピードを手に入れたいものです。
ファビは元気で明るい働き者の女の子で、料理をフェンナや料理長から習っているようで、ナファが話す異世界の料理を広めたいのだそうです。
そうこうしていると、ソニンティアム様とギリアが同じく魔法具を使い転移して戻りました。ギリアは妖精族の透けるような美貌を兼ね備えた姫に育っています。巨人族の四月(よつき)は四歳というより、もう少し成長速度が速く、人間世界での十歳くらいに感じます。小人族系獣人のイベールと僕だけが小さい子のようです。
「ターク母上様、ごきげんよう。お加減はいかが?」
「ありがとう。今日は少し座って書物を読みました」
ソニンティアム様同様美しいギリアは上品に挨拶をしてから、ソニンティアム様をチラッと見ました。
「お母様はターク母上様の妹の双子姫様に愛されて惚けていますの。わたくしはこれで。ファビに話があります」
と話して来ます。ソニンティアム様は頬を染めて、ソニンティアム様の左右で服の長い袖を握るテハナとマグリタの肩に手を添えています。
一番驚いたことは、テハナとマグリタがソニンティアム様の伴侶となっていたことでした。
「ターク兄様、まだ陰門は許していないから大丈夫」
とテハナ。
「ターク兄様、房中術はよい伴侶の条件」
とマグリタ。
まだ成人前なので心配していましたが……。
「ターク兄様、施術を始めます」
「ターク兄様、横になって」
テハナとマグリタがソニンティアム様に抱っこをせがみ、僕の寝台に上げてもらいます。
僕は掛布を剥がれ羽織着をはだけられました。ソニンティアム様の神癒を受けながら、双子が左右に座り動かない下半身の気脈の流れを整えてくれています。
「慢性的な気力不足ですが、ターク兄様は一時期仮死状態になり、気力巡らない時期がありました」
テハナが囁きます。
「大量の気力流し、気脈が詰まってしまった箇所を無理矢理広げていく必要があります。そこで補うのがこちらです。気力を巡らせるお薬」
ガラスのポーションケースに入った緑色の液体はなんでしょうね。
「「ターク兄様が早く良くなるように、二人で全力で作りました」」
二人の声がユニゾンして、もはや飲むのが怖いくらいです。夜寝る前に飲むように言われました。
僕は羽織着を直して座ると、神癒を終えたソニンティアム様と双子が椅子に腰かけたので、もう何度目かの質問をします。
「ソニンティアム様、この双子で大丈夫ですか?この子たちは少し変わっていて、その、僕の異世界の知識をよく知ってますので」
ドワフ国でテハナとマグリタに喋り過ぎてしまったのです。しかも二人は小人族の特徴の丸みがなく、まるで僕のように細く華奢です。
二人に聞いてみるとどうやら僕みたいになりたくて、食事制限したと言うのです。実際、小人族では育ち盛りに無理に大量の食事をすることで過食気味にし、骨太でふっくらした体型にするのです。
「ターク様によく似た髪色のお二人に慰められ励まされて、お二人とターク様のお話をするのが楽しくて」
ソニンティアム様はタイタン国についた僕に泣きながら神癒をかけ続け、ユミル国から一緒についていてくれた双子が励まし、気脈治癒施術をし続けてくれたのです。そこで僕という共通点を挟んで親愛が育まれたと美談が物語るのですが……。
「ソニンティアム様……あの、騙されていませんか?」
「ターク兄様、マグリタに失礼です」
「ターク兄様、テハナを穿ち過ぎです」
だって、お前たち……。
華奢な双子姫は小人族での縁談を何回も断られ、成人間近なのに神降しに国から駆り出されたそうなのです。自分で婿取りでもしてこいと言われたと二人は言いますが、王家の姫ですし、これは双子の方便かと。
「わたしが……わたくしでいることも理解してくださる二人を愛していますの。わたし『男』とわたくし『女』も満たしてくれ……ああ、恥ずかしい……でも」
「「でも、嬉しいでしょう?」」
恥ずかしそうに頷くソニンティアム様、いえ、ソニン様もMですね。でも、何をしたのですか、双子姫。
「テハナ、マグリタ。何度も聞きますが、二人はソニンティアム様の伴侶としてタイタンで暮らしていくのですよ」
寝台に座るテハナが僕にぎゅっと抱きつきました。
「ターク兄様のお役に立ちたいのです」
同じくマグリタが僕の手をぎゅっと握りしめました。
「ターク兄様に焦がれるソニンティアム様は、素敵なお方」
治癒師でもある双子姫と神癒魔法陣を得意とするソニン様、僕の知識を得ているナファがいれば衛生治療など飛躍的に改善されていくでしょう。
「タイタン王がドワフ国に了承を得ましたから大丈夫、ターク兄様」
テハナなんと言いました?
「ターク兄様の伴侶は物わかりがいい、ぐっじょぶ」
ぐっじょぶ……意味分かって使っていますか、マグリタ。
そんな小人双子姫に囲まれているソニンティアム様は本当に、嬉しそうに二人を抱き上げ膝に乗せて、テハナとマグリタの茶銀の髪を撫でています。しかも、二人とも僕と同じ長さに切っているのです。遠目にすれば、まるで三つ子みたいです。
「さあ、ターク様、服を着替えて、実を捥ぎに参りましょう。ガリウス様ももうお戻りですよ」
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