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4章

80 ユミル国からの招待状

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 ユミル国からの国王宛の招待状は、神降しをするので見に来るといいとの内容です。

 奴隷さんが連れて行かれた理由が神降しであるのですから、

「僕、行きたいです!」

とガリウスに言いました。ガリウスは困った顔をして僕を見下ろします。

「日時は二日間、しかも側付きすら連れていけぬ。危険だ」

「ガリウス、行きたいです。だって奴隷さんたちを連れ帰らないと。停戦協定で兵士を送れないなら、僕の魔法陣コレクションを駆使して……」

「その陣とマナの背後の人々を忘れてはいないか?」

 う……!そうでした。コボルトのお爺様はご高齢です。小転移陣駆使したらマナ不足になるかもなのです。僕の陣は全て今生きている王族からコピーしたものですから。

「アリスさん、他に言伝ことづてはありませんか?」

 意外にもフェンナがアリスさんに聞きます。

「神降しの儀式では全ての小人族の成人前の女子が舞姫となるはずです。王族預かりの女子も含まれるはずですので」

 フェンナの言葉に、アリスさんが使者さんに聞きに行きました。入れ替わりでバンさんが入って来て、

「おお、ベクル様、イベール様ご健在かの?」

と顔を綻ばせます。

「あ、じいじー!抱っこ」

 じ、じいじ?イベールがバンさんに抱っこをせがみます。ベクルは

「こんにちは、じい」

と胸に手を当てて礼をしました。うむむ、懐かせていますね、バンさん。

「セフェム殿、セリアン国よりの使者だ。元王にユミル国の神降しの儀式への招待を受けるようにとのことだ」

 セフェムに招待状が渡されます。

「え、俺?」

 バンさんがイベールを抱いたまま椅子に座り、フェンナが出したお茶を飲みます。

「お、おお、フェンナ殿。茶が美味いな。セフェム殿、セリアン国はユミル国に関わりたくないということだろう。ギガス国は早々に断りを入れさせておる。戦争による国力低下を理由にした。今、王を国外に出せるのは、タイタン国とエルフ国くらいだ」

 セリアン国もギガス国との戦いにより、疲弊しています。

「ガリウス王とセフェム殿を一緒に出すくらい造作もない」

「バンさん、僕も行きたいです!」

 バンさんが僕を見下ろしました。禿頭をぺちぺち叩きながら、

「小人妃は招かねておらんだろうが」

と言いますが僕は諦めません。

「戻りました。小人族の成人前の女子は神降ろしの舞い手として連れて行けるとのことです。しかし……小人妃様は成人男性ですし」

 アリスさんが申し訳なそうに言いいながら入って来ました。むう!確かに僕は成人をとっくに過ぎました男性です。

「あのう……主様」

 フェンナがおずおずと切り出します。ベクルが眠くなっていて、ティンがベビーベッドに寝かせています。

「本日の礼服ですが、実は先に受け取ったものとは違うのです。先に受け取ったものをお召しになりますか?それを見て、皆さまのご判断を仰ぐのはどうでしょう?」

 意味が分からず僕はフェンナと寝室に入ります。

「チュニックをお脱ぎください」

 フェンナに言われてチュニックを脱ぐと上から別の服を着せられました。そして、左右の髪を少しだけ取り下の方で髪紐で結ばれます。動くと二つの結び目がゆらゆらして、タイタン国の小さい女の子達が結ぶ髪型になっていました。

「皆さまに認めて頂ければ良いのです。下履きはこちらに、あとお靴はこれで。唇に少し紅を」

 僕とフェンナが寝室を出ると、みんなが僕に視線を集めます。

「それは……」

「初めに来た礼服ですわ」

 赤のドレスチュニックにインナーワンピースがふりふりしています。

「主様はどうやら国王様の姫君だと勘違いされたようで、初めにこの礼服が来ました。わたくしがご説明して今日の礼服が急遽しつらえて頂きました」

 フェンナの言葉に僕はくるりと一周してひらひらフリルをひらめかせました。耳下で一房まとめた髪がふわとなびきます。

「成人前の女の子に見えますか?」

 ガリウスが目をまん丸にしています。セフェムがにやにやして、

「生足だな。下は履いているのか?」

 なんて言いますから、僕はスカートをめくりました。

「ちゃんとドロワーズを履いていますよ」

 するとセフェムが鼻血を垂らします。ガリウスがにやりと笑い、

「愛いな。更に幼く見える。今度その格好で抱きたい」

と言い出します。

「おかーさん、可愛いね!」

 息子のイベールに言われるのはどうかと思いますが、背に腹は変えられません。

「これなら、タイタン国預かりの成人前の小人女子として行けます!神降しの後は必ず国の警戒は緩むでしょう。まずは内情を探り上手く行けば、ガリウスの大移動陣、僕が複写した転移陣で奴隷をタイタンに戻せます」

 バンさんがイベールの頭を撫でながら、

「では、近衛兵の大規模訓練をユミル国境にて展開し鋭気を培うとしよう」

と言い出しました。

「ありがとうございます、バンさん」

「おかーさん、僕も行きたい」

 イベールが真っ赤な瞳を輝かせていますが、これは断らなくてはなりません。

「イベール様は兄上様としてベクル様のお世話をなさないと。ベクル様の夜のおトイレのお付き添いはイベール様のお仕事ですわ」

 フェンナが真面目な顔で、イベールに伝えます。イベールはフェンナの顔を見上げて、

「あー!そうだった。フェンナ、ありがとう。僕の仕事は僕しかできないもん。ごめんね、おかーさん。おとーさんとちちうえと三人で行ってね」

と僕にぺこりと頭を下げました。フェンナは満足そうに頷いていますが、このチョロさ……明らかにセフェム似です。狼族のおおらかさが全面的に出ています。

「そーか、イベール様は大変だのう」

 なんてバンさんがじいじの顔をしてやにさがっています。少し怖いです。

 とりあえず僕は女装でユミル国に行けるようになりましたが、バンさんとアリスさんが出て行った後、

「礼服がシワになると困りますので、着衣での交合はユミル国から帰国後にお願いします」

とフェンナがスカートを広げ腰を屈めて礼を取ると、ガリウスが片眉を上げて肩を竦め、セフェムが

「そんなあ。今から先っぽだけでも」

とフェンナに食い下がります。フェンナがイベールを抱き上げて、

「セフェム様、イベール様の獣化のお遊びを」

とセフェムに渡しにっこり笑い阻止してくれて、僕はベクルのベビーベッドの横にいるティンと笑ってしまいました。




 荷馬車一台分にワイン樽を積めるだけ積んで、タイタン王国の馬車にガリウスとセフェムが立ち襟の軍服を着て乗り込みます。僕はガリウスの左腕に乗せられています。早朝出発なので、イベールとベクルとは昨晩一緒に寝てお別れの挨拶をしました。

 ロキは小麦の粉挽きと試作品作りでコットンフィールド王領地へ、ソニン様は薔薇岩塩の掘削に入りました。サンプルで持って来てくれました薔薇岩塩にパウダー状の粉が付いていて、ソニン様に調べてもらったら近くにセリサイトの層があることに気づきました。

 セリサイトは絹雲母とも呼ばれ、三回目の僕が住んでいた地域で取れた素肌系ファンデーションの原料です。酸化鉄を入れて着色し顔に塗るわけですが、この世界では化粧といえば紅だけです。そこで色白粉の試作品を僕が作りますと、ソニン様が積み木以上に食いつきました。

 貴族のお嬢様・お母様方に太い繋がりを持つのはばあやさんで、売り込みにソニン様が高級貴族のサロンに行くのだとかで、サボンにファンデに紅にとなんだかコスメと美容に特化していきそうです。

 ギリアもファビも各王領に連れて行ってしまいましたし、少し寂しですね。

「では、参ります」

 アリスさんとキレンさんを御者として馬車は走り出しました。貴族門から出て北へ北へ走ります。僕らの乗る馬車は白馬のトキと茶馬のケンが、ワイン樽が乗る重い荷馬車を黒馬のラオウがひいています。

「ユミル国には不可思議な門扉があり、巨大な門扉が開くと王都に出るらしい」

 僕は靴を脱いでガリウスの太腿を踏み台に立ち上がり窓の外を見ていました。

 タイタン国の東北は小麦が終わり、豆畑になっています。本当に豊作のようですね。タイタン国最北の貴族領地が終わり森を抜けると、一旦休憩になります。夜の森に幕屋を二張りし、アリスさんとキレンさん、僕とガリウスとセフェムが入りました。

「結界用の魔法石を置きましたので、魔獣は来ません」

 アリスさんが挨拶をして幕屋から離れます。あ、悪い人は来るのですね。

「ターク、寝ろ。俺が索敵したが何もいない」

 セフェムに転がされました。ガリウスとセフェムの間に入り、僕はガリウスの二の腕の端を枕にしています。

「指輪を外して来たのか」

「ポケットにあります」

 ガリウスが僕の左手の薬指に指を這わせました。ガリウスとセフェムは結婚指輪をつけていて、僕だけがつけていないわけです。

「だって僕、成人前の女の子の変装ですよ」

 僕は靴を脱いでいて、足をパタパタと動かします。

「ポケットか。舞う時に落とすかも知れん。預かろう」

とガリウスは僕のワンピースのポケットを探り指輪を手にすると、ハンカチの中に包み、礼服の内胸ポケットにしまいました。

「それにしても似合いすぎていて怖いな」

 ガリウスの指がスカートをめくり、ドロワーズのフリルをつつきます。細い太腿が丸見えになって僕は両手でスカートを押さえました。

「もう、スカートめくりなんてやめてください」

 ガリウスはやんちゃな子供ですか。

「いいな、これ。手も入れやすいし」

 スカートの裾からセフェムが手を差し入れて、シルクワンピースの下から僕の乳首を弾きます。

「ひゃぅっ!」

 かぎ爪が意外と強く当たり乳首がじんじんして、僕はセフェムのマズルをばしばし叩きました。

「二人ともいたずらするなら、僕はアリスさん達の幕屋に行きます」

 それには二人は手を広げて、もうやりませんのジェスチャーをします。

 幕屋の小窓からいつもまん丸の月が見えます。明日、明日は初めてみるユミル国です。僕は少し興奮しています。

「タク、眠れなくても眠るんだぞ」

 ガリウスは寝息を立てています。獣人族の中でも獣面人は眠りが浅く短いそうで、セフェムの尻尾が僕のお腹に置きました。僕は尻尾をもふもふしながら、セフェムのやや高めの体温に引きづられて眠りに落ちます。

 森は本当に静かでした。
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