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4章

75 レーダー伯の最後

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 夕方、ロキとセフェム、そしてソニン様の馬車が帰ってきました。ソニン様はレーダー伯を助け出して連れてきてくれたのです。

「僕の宮の寝室へ」

 フェンナの伴侶であるレーダー伯はかなりのご高齢で、しかも体調を崩して痩せています。ソニン様が神癒を掛け続けて運んでくれましたが、酷く生気が少ないそうでもってひと日と王宮医師は話していました。

「妖精妃様、ありがとう存じます」

「いいえ……お助けしたレーダー伯はわたしを王領主と認め、周囲にもお口添えしてくださいました。……良い方に出会いました」

とソニン様は答えました。

「本当にありがとう存じます」

「フェンナ……無事か……ティン……」

 フェンナは涙を流しながらレーダー伯に縋ります。ティンも泣きながらレーダー伯のそばにいました。

「ゆっくりしてください。フェンナ、ティンは横にいてあげて下さい」

 明日はガリウスも来るとのことで、フェンナとティンはレーダー伯に付き添わせることにし、僕はセフェムと二人でベクルとイベールの世話をして、フェンナが作り置きしてくれた食事を取ると、ロキがクラリさんと訪ねて来て、宮に泊まるようにと話します。

「じーさん、あんま長くないだろ?三人だけにしてやろうぜ。俺の宮に子どもと一緒に泊まれよ。湯浴みも手伝うからさ」

 セフェムは深夜の警備に行くので、僕は子供の羽織着と僕の服を用意してから、子供ごとクラリさんに壊れ物のように抱っこされてしまいました。

 セフェムがお風呂に入り子供たちを次々に洗ってもらい、僕はクラリさんと二人がかりで拭いておむつを付け、子供用の合わせ羽織着を着せます。ロキが出た後に、湯を浅めにしてもらい僕も入りました。出てから寝室に案内されると、ロキが獣化してベクルとイベールを尻尾で包んで丸くなっています。ロキの寝室はすごくシンプルで広いのです。

「タークもほらほら。存分にもふれ。確か毛皮を触るのをもふるって言うんだったな」

 僕はもふるよりぷにぷに肉球派ですが、まあもふりも好きですよ。

 子供たちと一緒にロキのお腹にはまり込んで尻尾に掴まります。ベクルは成長が早くて僕より体重がありそうでがっしりしていますが、さすがは赤子です。うとうとしている顔は可愛いです。イベールはいつものように綺麗で可愛い顔をして、ぷうぷう寝息を立てて寝ていました。

 クラリさんは片付けをしているようで煮炊き場から音がしてします。

「ターク、俺ちゃんと役に立った!」

 赤子もいるのにと思いましたが、僕、快楽拷問の話をしなければなりませんでしたよね。

「新しい扉を開きたいですか?」

 僕がクスクス笑いながらロキの尻尾を握ると、

「金玉引っ張られながらってのはヤバいね。他にあんの?」

 と聞かれて、僕は尿道に電極棒の話をしましたが、この世界電気がありませんので、勃起した陰茎への尿道責めとしてぼかしながら話しました。

 あとは絶頂を止められる寸止めの辛さと絶頂させられっぱなしの辛さです。二回目の時代には綺麗なお姉さんに報酬を渡し、ハニートラップの後『射精寸止め拷問』や『射精しっぱなし拷問』なんてのをお願いしました。男性は意外とすぐに堕ちます。割となんでも話してくれました。

「ちんこの中に棒かあ、入れながらケツの孔を突かれると気持ちいいのか?ソニンちゃんが受けたお仕置きと似てるけど」

「尿道括約筋を広げたり、前立腺辺りを圧迫しますから気持ちいいようですよ。ちゃんと気持ちよくすればですが。テクニックの問題です」

 僕は致したことはありませんからなんとも……。

 ぷすんとくしゃみをしたイベールの顔を舐めてから、ロキがキューンと鼻を鳴らしました。

「今日、獣化して走りながらセフェムと話してたんだけど、セフェムは責任を持ってこの王宮で仕事をしている。でも、俺、王宮でやれることないじゃん。俺さ、王宮がいやで退屈で逃げるように村に帰るの辞めたい」

 逃げるように……ロキにとってはそうだったのですね。だから僕はあえて言いました。

「ロキ、ロキはコットンフィールド王領主様ですよ。民を守り土地を広げ、害獣を駆除するのは王領主の仕事です。王宮に燻っていてはなりません」

 ロキは獣目でも分かるくらい目をまん丸にして、

「そ、そ、そーだよなあ!やっぱ王領を任されちまうんだからなあら、ちゃんとしないとだめだよな。お袋にも逃げてきたんじゃなくて仕事だって言えばいいんだよな。俺、ちゃんと仕事する」

と尻尾をぱさんぱさんと揺らして喜びます。

「そうですよ。動物堆肥と植物堆肥についても学んでもらわないといけませんし」

「俺、すげえ真面目に学ぶわ!それで王領の麦や綿がたくさん取れれば俺は嬉しい。大豊作を報告に来るからな」

「そうですね。でも、毎日帰って来るでしょう?近いのですし。それはそうと、小麦もいいですが、大麦なんてどうですか?」

 僕が聞くとロキは首を横に振ります。

「そこらに生えてるけど、パン作れないじゃん」

「大麦はリゾットやスープに使えますが、やっぱりビールですよ。ビール。僕はワインよりビール派なんですよね」

 実は三回目の僕はビールを作ったことがあります。というか、趣味でした。今生の母上がノームで良かったと思ったのは、抗菌薬としてホップを薬草として使用していたことです。ロキの村にも野生のホップが生えています。これは作らない訳にはいかないでしょう。ビールと唐揚げとフライドポテトいう欲望は果てしなく広がります。

「ビール?ワインの代わりに飲むのか?」

「そうです。ビールよりビアの方が言いやすいですか?下級貴族さんや農民さんも飲むことができる価格帯にして広めるのはどうです?僕はワインが苦手で」

「いいな、ビアかあ。それもやる。美味いなら飲みたい。教えてくれ、ターク。俺は色々やる」

 ロキが張り切っているのが分かります。尻尾の先がぷるぷるしているのです。

「俺は今、やることがあって幸せだ。わくわくする。ソニンちゃんも同じだろうなあ。なあ、ターク、あいつを頼むよ」

 ……あいつ?ですか?ロキはそう言ってから眠ってしまいました。

 僕もうとうとしていると誰かに揺り動かされます。クラリさんでした。クラリさんは静かにする様に口を片手で軽く塞いで来ます。僕は頷き寝台を出てサンダルを履き、クラリさんが抱き上げるのに任せて寝室を出ます。ガリウスがいました。

「すまない。子供たちを頼む」

 小声で話すガリウスにクラリさんは頷き、僕はガリウスに抱っこされ宮の外に出ます。

「何かあったのですか?」

 ガリウスが歩いて行く方向は僕の宮でした。宮にはレーダー伯を看病するフェンナとティンがいます。

「ティンが俺を呼びに来た。お前も一緒の方がいいと思うから連れに来たのだ」

 ティンが王を呼びに行く……アリスさんがいないからですね。多分レーダー伯に何か……。

 ガリウスが宮の扉を開けると、寝室の扉が開いていて微かな臭いがします。

「主様、すみません。父が王を呼ぶように申し……」

 ティンが頭を下げて詫びますが、僕はガリウスの腕の中からティンの頭を撫でました。

「あなたの判断は正しいですよ」

 レーダー伯からは死の臭いがします。レーダー伯はガリウスが寝室へ入ると目を開けました。

「……マリアナ様によく似ておられる……初めまして今王。もう起き上がれぬ故、失礼する」

 フェンナが脂汗を拭いています。僕の気力切れとは全く違う症状でした。命の根幹に宿る芯からの気力が失われていく感じがします。

「フェンナとティンの保護、礼を……ユミルでは神降しの神殿を……奴隷はそのため……」

 ヒュッ……と息を吸い込み咳をして、肩で息をつきます。

「奴隷……狩りは……わしも協力……して……いた。二人を……見逃して……くれた……カインは……知らず……売ろうと……済まな……」

 再びヒュッヒュッと息を吸い込み、三度目はありませんでした。

 なんてことです。カインが来る前から、奴隷狩りが行われていたなんて……しかも、レーダー伯自らが。僕は混乱してガリウスを見上げました。

 息が止まり目を見開いたまま絶命したレーダー伯の横で呆然としていたフェンナが、慌てて両膝をつき平伏をします。ティンも泣きながらフェンナの横で平伏をしました。

「……我が夫の罪、いかようにもわたくしが受けます。申し訳ございませんでした」

 ガリウスはしばらく無言でいましたが、

「……顔を上げよ。小人妃の側付きと給仕」

とティンとフェンナをそう呼びました。

「客人の末期まつごの看病大儀であった」

 ガリウスはそう言ってレーダー伯の罪を不問にするつもりです。しかしフェンナが食い下がりました。

「しかし、それではっ……」

「レーダー伯領は既に存在せぬ。そしてそのご老体はレーダー伯にあらず。これが王の言葉である!」

 全ての罪をカインとユミル王族に被せ、フェンナとティンをタイタンとユミル双方から守る、それがガリウスの取った方法です。正しい……すごく正しいのです。

「ガリウス様、僕からもお礼申し上げます。僕の側付きと給仕をお守り下さり感謝いたします。二人が辞めてしまうと小人族の僕は巨人族の中で暮らしにくいのです」

 左腕に抱かれながら僕はガリウスに、幼児のようにぴたりとくっつきました。少し恥ずかしいですが、フェンナが納得するまで我慢です。

「そうであろう、そうであろう。余の一妃もそう申しておる。ソルトフィールド王領地にて行き倒れていたご老体は離れの裏に埋葬すると良い。なあ、一妃よ」

 まるでいちゃつく馬鹿ップルのように二人で演じています。ああ、恥ずかしい。顔から火を噴きそうです。

「はい、ガリウス様。流石僕の見込んだお方です」

 フェンナが意思を理解してくれるまでこんなやり取りを繰り返し、

「……ありがとう存じます」

とフェンナは一粒涙を零して頭を下げましたので、僕らは宮を出ました。

 宮の前にはバンさんがセフェムの肩に手を置き立っています。セフェムの

「解除」

の声と明らかに耳を伏せた表情に僕は、

「と、遠耳……ですか」

とセフェムを見ます。セフェムがマズルを渋々縦に動かしました。

「わしが命じた。これも王族のやり方だ。ついて来い」

 あ、あ、あれを聞かれたのですか!!

「タク、可愛かったぞ」

「忘れて下さい!」

 セフェムに真っ赤になって言い返しましたが、無理でしょうね。忘れて下さい、演技です!演技!

 僕たちは王城の煮炊き場に連れて行かれ、煮炊き場の下男下女さんたちが食事をするテーブルに集まり、椅子へ腰掛けました。僕はガリウスの膝の上でしたが。

 バンさんが話し始めます。

「カインが口を割ったが同じ内容だった。まさかとは思ったがレーダーだったとは……。甥のカインはレーダーのことを知り、あちこちの貴族に声を掛けて、人を金と引き換えにした奴隷商を始めた」

 レーダー伯さんはフェンナとティンを黙認してもらう代わりに、領地の人々を奴隷として差し出しました。カインさんはユミル国の奴隷売買を知って奴隷商を始め、そうとは知らずフェンナとティンも売り飛ばそうとしたわけです。

「かなり前からレーダー伯領の人頭税は減っていた。フェンナ殿が逃れた直後あたりだろう。どちらにしても、カイン及び奴隷商は全て捕らえ首を刎ねるようして、レーダー伯の罪も被って貰ったてもいいかのう」

 バンさんがそう言ったあとガリウスが頷きなから言います。

「すぐに王命と御璽を出そう」

「ああ、頼む。しかし、ユミル国が大量の奴隷を必要としたのは、まさかの神降しだったとは……」

 そう言いながらバンさんが唸ります。分かります、神降しが成功すればその国は繁栄を約束されるのです。堆く山積みの魔法石を用意し、成人前の小人族の女の子たちが神降しの舞を舞う中光の柱が現れて、神が降りて来て清らかな少女一人に憑依し、王に知恵を授ける儀式を行うのです。ユミル国は巨人の祖として、神降ろしを行い繁栄していました。

「そのための奴隷」

 僕は思います。人の犠牲の上に成り立つ繁栄なんて許せない、と。レーダー伯さんのしたことは間違っていますが、二人を助けるための行為に僕は唇を噛みました。奴隷さんになった人達を助けましょう。
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