巨人族の1/3の花嫁〜王様を一妃様と二妃様と転生小人族の僕の三妃で幸せにします〜〈完結〉

クリム

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4章

66 セフェム王の廃位

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「体温が安定するまでは湯に入れない方が宜しいですね。僭越ながらこのじいが赤子様のお支度をさせてもらいます。一妃様は包水を浴びられておりますので、湯に入り着替えて下さい」

 僕は侍女さんに連れていかれ、花の散る湯船に浸けられました。湯から出るとタオルで拭かれて香油を全身に塗られました。今日は肛門の中には塗られずに済みました。

「お髪を整えます」

 僕は左右の髪を上げられさらに後ろの髪も上げられます。

「ぼ、僕は女の子ではありません」

「六月の小人様は妃様ですので、王妃としてのお姿にお仕度をさせていただきます」

「お、王妃?うひゃ!首、くすぐった……」

 僕は婚儀の時の服を再び着ることになりましたが、

「肌面積が広すぎです。羽織着をください。これでは部屋から外に出たくありません」

と駄々を捏ねてみましたら、なんとか羽織ることが出来て、僕はセフェムのところに戻りました。

 セフェムも人型に戻り婚儀の時の服を着ていて、赤子を抱いています。

「タク、可愛い、すごく可愛い」

 高い所でポニーテールをした僕は、耳飾りを揺らしていて女の子みたいな姿なのです。

「羽織着を脱いだ方が可愛い」

「嫌です。いーやーだー」

「だめだ。儀式に向かう。俺の妃を見せつけたい。上半身裸でもいいくらいなのに」

 強引に脱がされてしまいました。またもやアラビアンナイトです。僕は赤子を抱くとセフェムに抱っこされて、今度は神殿に向かいました。

 神殿には今いるであろう一族全て、そしてガリウスがいます。

「セリアン王様ならびに一妃様、この度良き実をお捥ぎになり、ガルド神もお喜びになったことでしょう」

 え、え!セフェムがセリアン王ですか!

 僕が声を上げようとすると、無言でいるようにセフェムに小さな声で言われ、その後に神官長が声を出します。

「セフェム王が無事実を捥がれました。よって王位を廃し、これを以て前セリアン王を王に移譲します。ガルド神よ、道をお示し下さい」

 銀杯に水がたたえられています。ガルド神が否であれば水は溢れ、是であれば変化しません。

「ガルド神がお認めになりました。これよりセリアン王移譲と復位の儀式をとり行います」

 なんなのですか、この茶番は……。

 僕は戸惑っていますと、横に来た見届け人扱いになっていたガリウスに抱き上げられました。じいやさんに案内されてセフェムの部屋に戻る道を歩きます。

「タークそっくりだ。可愛い子だな。求婚者の選別が大変だろう。ターク、その姿もなかなか唆られる。今宵はその姿のお前を抱きたい。今、マナが足りぬだろう?」

 なんてガリウスが僕の耳飾りを揺らしながら、低い腰に響く声で囁いてきます。

「ふふん。可愛いだろう。俺とタークの子だ」

 セフェムが尻尾をパタパタと振りながら、横で赤子の頬を突きます。

「わあ、なんですか?」

 部屋に入ると大量の物に驚いて僕は口を開けてしまいました。乳の実は寝台の分かりやすい場所に置いてありますが、肌着、おむつ、お祝いの贈り物などすごい量です。

「セフェム獣化」

「おう」

 セフェムに獣化してもらい、僕は赤子をセフェムのお腹のところに置きました。

「一体何が起こっているのですか?」

「我々がセリアン王国を出た後、ガルド神の神託通りセフェムは王として即位した。国が混乱するから、王として実を捥ぐまでの短期王だそうだ。ガルド神も了承したらしい。ターク、お前はひと月ばかりセリアン王国の一妃だったのだ。実を捥いだ瞬間はセリアンの国母だったわけだが、赤子を神殿に連れて行き、神託は終わった。セフェムは廃位した……とセリアン王に聞いた。廃位でやっとセリアン王国が動く。食糧をギガス王国に送る算段がついたぞ」

 ガリウスが教えてくれましたが、

「それって……」

 つまり、今までひと月くらい、セフェムは王様をしていたってことです。

「タクはセリアン王国セフェム王の唯一無二の一妃だったのだ。嬉しいだろう。俺は、ガリィを超えたのだ。で、王位を少しばかり譲って貰えるかわりに、廃位したらこの国から出てくって約束した」

 じいやさんが僕とガリウスに、誰から何を貰ったのか分かるようにリストを板書きしてくれながら、

「さすがに王族を放免出来ません。そこで元王をタイタン国預かり王族として、小人妃様の側仕え騎士にとお願いしました」

とじいやさんが言います。

「これで俺もタイタン国の獣人だ」

 セフェムはマズルを痛そうに歪めています。ああ、まだ治癒してませんでしたね。大馬鹿な父親ですよ、僕の赤ちゃんさん。

「セフェムはどうしてそんなに王になりたかったのですか?」

 セフェムはふにゃふにゃ泣き出した赤子に、器用に肉球を使いながら乳の実の吸口を赤子の口に付けました。初乳を飲んだ赤子は満足そうにぷうぷうと鼻を膨らませながら、乳の実に吸い付いています。

「タクの子はセリアン王の子だ。タクはセリアン王の一妃だった。その箔と事実が欲しかった。あともう一つ、セリアン王でなければ出来ないことがあったからだ」

 全てを捨てて、僕の側仕え騎士に……。

「六月の小人様、閣下をよろしくお願いします。少々考え無しなところはありますが、実を加速成長させた後遺症ではありませんので、多分。さて、この赤子様のお名前は?」

 その多分が怖いのです!

 僕はセフェムと赤子を見てから、

「イベールとつけたいと思います」

 セフェムが乳を飲み終わった赤子イベールの顔を舐め回しました。僕はおむつを替えて軽くげっぷをさせます。もう半分くらい眠っているイベールを、セフェムの真ん中に置いて寝かせました。

「イベルかいいな。なんか意味があるのか」

 僕が殴ったマズルがまだ痛むのか、ふがふがしながら、セフェムが話します。

「イベールは『冬』と言う言葉です。冬は雪に埋もれ生き物が生きるには厳しいのです。子供が多く亡くなるのも、冬。だから、親によって死にそうになった子と言う意味と反省を込めています。いいですね、セフェム!」

「ふ、ふぁい」

 僕はセフェムのマズルを治癒しながら、鋭く睨みました。




 タイタン国へは既に早馬が出ていて、僕たちはすぐに三台分のお祝い馬車とセフェムを獣化してイベールを温める馬車を一台借りてラオウが横に寄り添ってタイタン国へ向かいました。セフェムの私物や服は少なくて城壁城に寄って少し足し、そこでじいやさんとは別れました。

 じいやさんは今後城壁城を出て神官の教育に努めるそうで、最後にイベールを抱っこしてからくしゃくしゃの笑顔になり、おじいちゃんみたいな顔をしていました。

 加速成長で生まれた子は赤子期は成長は緩く未熟ですが、次第に変わらなくなると聞き僕は心底安心しています。

 イベールはとにかくよく寝てくれて、僕はただ体温維持だけを考えるだけでした。合わせの羽織着にガリウスのマントをお包みにしたイベールを愛おしむようにセフェムはよく舐めています。

 しばらくはセフェムに獣化して温めて貰い、あとはフェンナに聞きましょう。この子の服も必要ですし。

 不意にイベールが目を開きました。真っ赤な瞳はセフェムと同じです。セフェムも嬉しそうにしています。

「ガリウス、イベールの目は赤い瞳ですよ」

 馬車の横をラオウで伴走するガリウスに伸び上がって話すと、ガリウスが破顔して頷きました。


 夕方の夕日に照らされて赤く輝く貴族門から入り王城へ戻ると、馬車留めには文官がざあっと並んでいます。

 バン長官が苦笑いをして、

「国王陛下、小人妃様。まさかギガス国を召し取るとは、驚きでござる。我々内政省の仕事が増えましたわい」

とガリウスとがっちりと握手を交わしました。

「ギガス国は名目上小人妃の夫の国だ。無下には出来ぬだろう?食糧とギルドへの依頼は?」

「わははは、全く小人妃様が絡むと事が大きく動きますなあ。ちゃんと整えておりますわい。従属国文書も支度した。ギガス国への当面の支援計画は外務長のユナシンを送り動かす」

 バンさんとガリウスはまるで昔から二人で国を動かしていたように話をどんどん進めています。僕は嬉しくなってしまいました。

「セフェム、人型になって服を着てください」

 僕もセフェムも婚儀の時の服装のままで、王城に入りました。僕の腕の中にはイベールがいて文官さんたちが、

「おめでとうございます、小人妃様」

と声を掛けられます。

「小人妃様、セフェム王子」

 文官長のフィニさんが僕とセフェムの前に片膝をつきました。

「この度はおめでとうございます。セフェム王子にはわが国の至宝小人妃様の側仕え騎士になっていただけるとのこと。ありがたく存じます」

 セフェムはフィニさんに

「こちらでは客分扱いにして欲しいとは思わない。俺はタクの夫で側仕え騎士セフェムとしての扱いを望む。だが、子供は違う。セリアン国の元国王と一妃の子だ。タイタンの王子ではないが、礼をもって慈しんでくれ」

と握手をする手を差し出して、フィニさんを立たせました。

 アリスさんとキレンさんもやってきて、キレンさんが

「小人妃さん、へそ丸見え」

と笑い、アリスさんが僕を見下ろして真っ赤になります。

「アリスさん、どうしました?」

 アリスさんは

「小人妃様の肌面積が……そのお可愛らしい幼女のようなお姿は周りを惑わします」

ときょろきょろと視線を泳がせます。

「まさか、僕は男です……し……あ、髪を上げているからです!女装!女装だからですよ!」

 視線……感じませんよ?文官さんたちなんだか顔が赤い……息が荒い……ですね?

「ほら、僕は子持ちです!」

 赤いマントに包んだイベールが

「ふみゃあ、ふみゃあ」

と泣き始めました。ナイスタイミングです、イベール。僕はアリスさんにお願いして、急いで宮に連れて行ってもらいました。
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