巨人族の1/3の花嫁〜王様を一妃様と二妃様と転生小人族の僕の三妃で幸せにします〜〈完結〉

クリム

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4章

64 従属国

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 クロム様が陣を返され中庭で倒れた瞬間、空には虹色の天蓋がかかり地が揺れたそうです。地揺れはガルド神の怒りだ。小人に何かしたのではないかと風評が立ち、地震で崩れた王城にギガスの民は雪崩れ込み、ラフミ将軍さんが怒鳴り散らして解散させたそうですが……。

「小さな子たちは大丈夫でしたか?」

「無事でございます。ありがとうございます、小人様」

 エウレリーダ様は小人様と呼ばれましたが、ここではどうやら僕はクロム様の妃のようです。

「神殿に連れて行ってもらえませんか」

 僕が言うとエウレリーダ様が先に進み、侍女さんが押すクロム様の車椅子がギイギイと軋みながら動いて行きます。

 神殿も崩れ掛けている中で見た銀杯の外側に、神託の内容が書かれていて、確かにクロム様の一妃とマナ文字での刻印があり、僕はガリウスをチラリと見上げました。

「心配するな、ターク」

 連れて行ってくれた神殿の隅の庭に新しい宿り木があります。宿り木は僕が触れると桃色に光り、クロム様の手をエウレリーダ様が添えて触れてもらいました。やはり光ります。僕の背丈にも満たない細い小さな宿り木はらクロム様の宿り木です。

「やはり小人様は我が国の妃。お助けください」

「エウレリーダ様、その前に僕の話を聞いてください」

 僕とガリウスは神官長室に案内されました。

「クロム様はいえ、前王様によりクロム様はガルド神の怒りに触れました」

 ガルド神の怒りに触れたクロム様の父王の捕食魔導陣の話と、クロム様の死に戻りのことを話しました。

 一つ目のギガス国では異形である目の多さについても話しました。そして僕という特異点により突破したことを告げます。エウレリーダ様は理解出来なかったようですが、ただ一つ我が子を手に掛け続けたことに震えていました。

「わたくしが……何度もクロムを、さ、刺し殺した…のですか?」

 僕は残念ながらと付け加えました。

「しなくてはならない何かがあったのです。その理由は分かりません」

「もしかすると……ガルド神への供物だったのやもしれん。過去の書物には人身御供の事例もあった。初めて死に戻る前の前妃殿は一番高貴な者の心臓をガルド神への聖杯に捧げて怒りを鎮める儀式を執り行ったやも知れぬ」

 ガリウスの慧眼に僕は驚きました。思わず服にしがみ付いてしまいました。

「ターク、何だその顔は。余に書物を読むように話したのはそなたどはないか。余は物語や伝説の方を好む。ふむ。ここいらの知識はタークにはないようだな」

 むう……悔しいです。もう少し読む分類を広げないと。

 そこへ首を横に振りながら、ラフミ将軍さんがやってきます。

「地割れで崩れた地域はもうダメだ。王都周囲しか人はいない。生存者は千人程度だ。もはや国とは言えん。いつの間にこんなに減ったのだ。おお、タイタン王、小人様も」

 あり得ないほどの人数減少……元々閉鎖的な国で石斧など石器文化がまだ根付くギガス国です。タイタンが神聖ローマならば、ギガスは古代ローマくらいの文化のイメージなのです。

 そのギガス国がガルド神を怒らせたのです。クロム様が死に戻る度に全てがゼロリセットになるわけではなかったのでしょう。戦い疲弊した世界にクロム様が死に戻る、死に戻りやり直しをするたびに国庫も人材も飢えていく。しかし、周りは気づかない。クロム様だけが知る真綿で締められていく疲弊の恐怖……苦しかったと思います。僕の前世の知恵知識を頼みの綱にしたいと思うくらいに。

「こ、小人様。第二王子のジュストです。兄上は小人様に酷いことをしました。こんなことは言ってはなりません。分かっています。しかし……国を助けてください!」

 隣の控え室から出てきたのは、成人前の一つ目の子供でした。黒髪のしっかりした男の子ですが、握りしめた手はぶるぶる震えています。

「そなたは余のタークがそなたの兄から忘却と洗脳の魔法陣を身に受けてどれだけ辛い思いをしたか、余も含めタークの周りがどれだけ苦しんだか理解出来まい」

 ジュスト王子は震えながら小さく頷きました。

「王族直系はガルド神から頂いたマナを用いることが出来る。逆にそのマナを使う責任も負うのだ」

 いわば術返しに合い自身すら忘却してしまったクロム様のように破滅することすらあるのです。

「……国を失いたくありません。ぼ……私が国を背負うまで、小人妃様助けてください。あなた様は兄上の妃でもあります!」

 ジュスト王子、逆手にとってきましたか。僕は確かにギガス国の一妃なんですよ……ああ、あの小さなキスで成立したなんて……そんな国もあるんですね。

「なんじゃ、クロムの妃になっておったか。では、クロムを治してやってくれ。小人は得意じゃろう」

「残念ながらクロム様はもう戻りません。このまま生涯静かに過ごされるでしょう」

 僕はガリウスを見上げました。多分ガリウスが考えるより僕は上を行くはずです。

「僕はギガス国一妃として、タイタン国への従属を願い入れます」

 ガリウスは沈黙しました。エウレリーダ様とジュスト王子、ラフミ将軍さんも無言でした。

「資材、人材、食料ともに不足したギガス国をタイタン国の従属国として迎え入れて支援してください」

「友好国ではなく、従属国か」

 タイタンを親、ギガスを子とすれば支援を受けられます。ギガスがいつかタイタンと肩を並べられるまで、植民地とも支配地とも違う従属国となり、支えてもらいたいと思うのです。

「……良かろう。ギガス国王一妃の意見は聞いた。今のうちに申し立てがあれば、そなたらが申すが良い」

 ラフミ将軍さんもエウレリーダ様も何もいいませんでした。従属国には副王が必要ですが、今はクロム様になります。忘却の世界で意識を漂わせるクロム様が。

「では、文官による文書の取り交わしが必要だ。文官で生き残りはいるだろうか」

 ガリウスが言うとエウレリーダ様が首を横に振りました。

「ギガス国は王が一人で回す国です。王が静養中の今、誰も……」

 なんとまあ、小さなドワフでも四人くらいはいます。

「では、前妃エウレリーダ・ギガス様、あなたを文官長代理、ラフミ・ギガス様を内政長代理とします。僕はターク・タイタン・ギガスとして内政省長官となり国を支えましょう。エウレリーダ様は御璽をお預かりください」

 僕が告げると、

「かしこまりました」

とエウレリーダ様は優雅に礼をしましたが、ラフミ将軍さんは唸りました。

「内政ってもなあ、俺は戦うことしか知らねえよ」

「瞬移なんて魔法陣が使える王族直系が何を言っていますか。ラフミ将軍さんにはまずは死体を葬ることからお願いします。野に伏すように転がしてはなりません。帰宅次第食料と文官を送りますから、部下の兵士さんを使い国民が浮民にならないよう穏便に抑えて下さい」

「頭を使わねえ仕事なら大丈夫だ」

 それから僕は修復魔法陣で後宮のみを直しました。居住区になるためです。まだ小さいお子さんもいるのにこれでは大変ですからね。

「ガリウス、ちょっといいですか?」

 ガリウスが左腕を上げてくれて、僕はガリウスの耳元で小さく提案を話します。

「うむ……致し方ないな。良いのではないか?」

 僕は腰鞄から金貨を一枚出すと、掌の中で錬成していきます。僕のドワフ印のイヤーカフが出来ました。そしてガリウスに降ろしてもらうと、木の車椅子に座るクロム様の左耳につけました。

「クロム様は僕の『夫』です。あの時の僕はとても嬉しかったのですよ。小人族一醜く虚弱な僕が、第一妃に選ばれたのだと、ガルド神に祈りを捧げてしまうくらいに。その小さな思いの証です。ジュスト王子が成人するまで、僕はこの国を守りましょう」

 クロム様はなんの反応もありません。僕はガリウスに抱き上げられてラオウに跨り、ギガス国を後にしました。
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