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3章

56 隷属陣の代わりに

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 僕は本当に驚くばかりです。僕が言おうとしたことをアリスさんが言い、ガリウスはバンさんに考えをしっかり述べています。僕は出番無しでしたが、すごくすごく嬉しかったのですよ。

 バンさんとフィニさんがセレキさんに見送らせて行ってしまうと、ガリウスのお父上がアリスさんに掴まって震えていました。

「内政省長官に肩を叩かれたぞ。なに、俺は明日から無職か?」

「父上……別にそのような」

 アリスさんが肩を竦めましたが、ぎこちない様子でガリウスを見ます。

「ガ、ガ、ガリウスお前何かしでかしたか?」

「父上、俺は何も。多分どんな人物が俺を育てたか見たかったんだろう。それより、父上。俺の妃だ。小人妃ターク」

 僕はガリウスの膝から飛び降りて、お父上様の足元に行きました。

「僕は小人族のタークです。あの、僕がティンを連れて来た時に声を掛けてくれた衛士さんですよね」

 ぺこりとお辞儀をしますと、

「あの時の……じゃあ、ガリウスの……妃?息子のムスコは入るのか?親の俺から見ても凶器なんだが……本当に大丈夫か?痛くないか?」

と言われてしまいました。えっと……どうしましょう。

「父上っ!すみません、小人妃様っ!」

 アリスさんがお父上様を引っ張って止めます。びっくりしましたが、楽しい家族ですね。

「俺の父は平民で、母上が下級貴族なのだ。兄の生真面目さは母譲りだと俺は思う」

 では、ガリウスはお父上に似ているのですか?ガリウスをちらりと見ましたが、ガリウスはくっ……と笑っているだけです。僕は

「お父上様、大丈夫ですよ。問題はありません。ガリウスとの実もなりました。実を捥いだらお父上様にも子をお見せ致します」

と言いますと、お父上様はへたへたと座り込み、目頭を押さえました。何度も頷き、アリスさんに立たせてもらい無言で部屋を出て行きました。僕は何か悪いことを言ってしまったんでしょうか。

 すると神殿の外で大きな泣き声がして、アリスさんが宥めている声が聞こえて来ました。泣き上戸なのはお父上様譲りですね、ガリウス。

 僕らはフィニさんに別れを告げてアリスさんと王宮に帰ります。ふと、アリスさんに聞きました。

「アリスさん、お父上様はお母上様に何か婚姻の贈り物をしましたか?」

「また、小人妃様の『贈り物作戦』ですか?そうですね、母は腕輪を貰いました。平民では流行っているそうですよ」

 二の腕につけるものだそうですが、ソニン様には合いませんね。

「ターク、父に倣い、ソニンの隷属陣の代わりに腕輪はどうだろう」

 ガリウスが言いましたが、僕は首を縦に振りました。

「そうですね。でも手首のバングルにしましょう」





 王宮に戻るとガリウスの政務の書類分けを少し手伝いました。

 アリスさんが言うには全ての書類をガリウスに出すのは難しく、御璽や王決済など必要なものは今まで通りで、それに加えて朝の内政省伝達をアリスさんが聞き書き留めてガリウスに報告し、ガリウスが気になるものの洗い出しをして午後の政務にするとなりました。

「内政省伝達の報告は小人妃様もご一緒ください。我々ではまだ力不足です」

「では、寝室の僕用の扉を使います」

「いえ、公式業務ですので正門からお願いします。他妃様方にはご同席も可能と伝えておきますが、必ず小人妃様にはご同席を」

「はい」

 アリスさんがテキパキと話していきます。すごいです。僕はただただ感心してしまいました。

 執務用の机の上を見ていますと、ガリウスの決済分の書類には、貴族の廃嫡や土地の返却が多いのです。高級貴族の移動……どこへ行ったかですね。ソニン様が調べたいと言った場所も含まれています。

「ガリウス、少し気になります」

 ガリウスに羊皮紙を見せると、

「文字が読めるようになってから、余も気になっている。だから御璽を押していないものもある」

と数枚の羊皮紙を見せてくれました。

「アリスさん、チェナム内務長さんに面会を取り付けてください。内容は貴族の国内移動についてです」

「かしこまりました。そろそろ、夕食のお時間ですから、王も小人妃様も根を詰めないでください」

 もう、そんな時間でしたか。

 食事と湯浴みを済ませると、金塊を少し用立てて貰いました。いつもは金貨で作るのですが、金貨も全金ではありません。

 うーん、女性的なバングルですか……。寝室の机の上で考え込んでいると、内政法の問題に書き込んでいたガリウスが顔を上げました。

 初めは透かし系を考えていましたが、違うような気がします。悩んでいますと、

「母の腕輪はドワフのものだった。銀であったがざらつきのあるいぶし銀で子供心に素晴らしいと思った」

と話してくれました。いぶし銀ですか……ソニン様には少し渋いかもです。

 悩んで悩んで、金に吹き付けくすみ金にユリの花の模様を散りばめた手首のバングルを錬成して作りました。シンプルですが、ソニン様の長い腕には似合うと思います。

「ガリウス、マナで名前を」

 バングルの裏にマナでガリウスが名前を記載します。僕は錬成し定着させました。これでロキ同様ソニン様は守られます。

「では、僕は宮に戻りますね」

 軽く疲れた僕はガリウスに抱き留められます。そのまま抱き上げられて、深いキスをしました。大きな舌が僕の上顎を撫でるように入り、喉奥を愛撫するように舐めて僕は糸を引いた唾液をちゅ……と吸い込みました。なんだか甘くて切なくなります。

「……途中まで一緒に行こう」

 抱き上げられてそのまま宮まで行き、扉の前で降ろされました。僕はガリウスの後ろ姿を見送ります。今からガリウスは隷属陣を解除し、バングルを手首につけてあげて睦まじく一夜を共にするのです。実が着くといいですね、ソニン様。

 僕が誰もいない宮に入ろうとすると、月明かりに煌く獣が、後宮のなだらかな丘を軽い足取りで上がって来ます。銀色の毛並みは……

「セフェム……」

 獣化したセフェムが長い舌を垂らしながら走って来ました。

「どうしてここに……」

「水……っ川があるな」

 小川の水を長い舌を巻き上げるように飲むと、僕に身体を擦り寄せました。

「寂しいって番いのお前が感じていたから、城壁城から加速陣を使って来た」

 僕はセフェムの銀狼姿の首に抱きつきました。

「今晩、ガリウスはソニン様のところです。寂しくて堪りませんでした」

 セフェムを宮に入れて、僕はセフェムと寝室に入りました。得意顔のセフェムは

「明日、ガリィが来るまで着いててやるよ」

なんて肉球で僕の頭を撫でます。獣化したまま寝台で丸くなりその円の中に僕を入れて、ふわふわの尻尾で僕のお腹を温めています。

「タク、何があった?」

「え?」

 セフェムが長い獣舌で僕の頬を舐めました。

「タクがギガスに行ってから、気配が感じられなくなった。ガリィとギガスに一緒に行きたかったのだが、俺自身も王位問題で国を離れられない状態で、昨晩辺りからやっと分かるようになったのだ」

「番いの気配って、どんな感じですか?」

 セフェムは尻尾をぱさぱささせると、

「気持ちの揺れだけだ。嬉しい、悲しい、寂しい、怒りなんかも感じるだろうけど、タクはあまり怒らないな」

と言います。番いっていうのはそんなことまで分かるのですね。
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