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3章

46 あなたは誰ですか?

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 目が覚めると僕は寝台にいました。横には書物を読んでいる王様がいます。

「王様……」

「目が覚めたか」

「はい。僕は虚弱ですので、日に何度か倒れて……。あの、僕の荷物があれば薬湯を……」

 王様は少し困った顔をしました。どうしたのでしょう。心配事ですか。

「あなたの荷物はまだ到着していない。長患いの父が死に、私が王になる際ドワフ国よりあなたを一妃に招いた」

 虚弱な僕が一妃ですか。大丈夫でしょうか。でも、でも!一妃なんて光栄です。

「王宮医師によると体調不良の原因は過労とのこと。ゆっくり寝ていなさい。父の葬儀の後、婚儀を執り行なう。その頃には荷も届くだろう」

「ありがとうございます」

 相当急がれたようですね。僕は虚弱の上に見た目も残念なのですから、しっかりしないといけません。

「あの、王様。王妃様が死に殉じられる前にお会いして、色々と教えていただきたいのです」

 王様は今度は五つの目を見開きました。それから顔を伏せて、

「母は殉死せぬ。葬儀の後にでも寄越そう」

と言ってくれました。巨人族では死に殉ずることがなくなったのですね。でも、僕は王様がお隠れになったら一緒の棺に入りますよ。一妃として当たり前ですから。

「ふう……」

 王様が行ってしまったあと僕は寝台で眠っていました。手足が冷たくて身体が重い感じがします。こんなに辛いのは久しぶりですね。うとうとしていると王様が侍女さんと入って来ました。

「体調はどうだ?食事をしなさい」

 寝台に起き上がるとめまいが酷いのです。

「ありがとうございます。あの、王様は」

「済ませてきた」

 室内で僕はトレイに乗せられた食事を少し取りました。僕も早く起きられれば一緒に食事を取れるのに、少し寂しく感じます。

 食事の後は石造りの広い浴室で、侍女さんにお湯につけられました。僕が侍女さんに洗ってもらうのを、王様は五つの目で見ています。少し恥ずかしいです。

「可愛らしいな、あなたは」

「あ、ありがとうございます」

 ああ……僕は思います。今日は初夜です。お嫁入りした夜は……。

「ターク、顔が赤い」

「な、なんでもありません」

 王様が湯から上がり侍女さん達が身体を洗います。股の間のモノを見て、僕は身が竦みました。王様のモノは大きいのです。そんな大きなモノは入りません。無理です。

「どうした?」

「い、いえ……」

 王様は黒髪を掻き上げました。

「ターク」

 どきっとしました。

「は、はい」

「口付けをしてもいいか」

「は、はい」

 お湯に浸かりながら王様は僕の唇に唇で触れました。薄い唇が僕の唇を塞ぎます。そして唇に舌が入って来て僕は熱さに驚いて身を引きます。

「す、すみません。僕、初めてで」

「そうか」

 王様はその後は何もせず、僕は侍女さんに身体を拭かれて、王様の小さい兄弟の子供の合わせ羽織着を着せてもらいました。夜には全く歩けなくなっていたので、王様に抱かれて寝台に入りました。

「体調が良くなったら……その……妃のお勤めを……」

「ああ」

 王様は僕の額にキスをしてくれます。僕は優しい王様の横で幸せに満ちた眠りにつきました。




 朝になるとさらに身体は動きませんでした。手足に感覚がないのです。侍女さんに少し身体を起こしてもらい食事は木匙で運んでもらいましたが、巨人族の匙は大きいですから、直してもらいましょう。

 午前中は王様が魔法陣を見せてくれました。特に興味はありませんでしたが、見事な魔法陣のいくつかに思わず声が出ました。

「ターク、その手先の動きはなんだ」

「動き?ですか?」

 首から下は動かないし、自分が動かしたとも思えず、

「なんでしょうか。わかりません」

と答えました。王様は眉を潜めます。言葉に失敗したと感じました。こんなに醜い行き遅れの小人族を娶り、第一妃なのに動けない僕には価値がなく捨てられてしまうと恐怖しました。

「お、王様。僕は……」

「封じるとこれほどまで凡庸に……。今のあなたは実につまらない」

 王様は深くため息をつかれます。僕は悲しくなりました。僕はあなたの一妃です。今はまだ妃としての行動は出来ませんが、僕はお役にたてます。

「王様……見捨てないでください……」

 涙が溢れてきました。王様が返事をする前に、女の人が先触れもノックもせず、入って来ました。

「クロム。どうして小人様が王の私室にいるのです。小人様に何をしたのです!」

 王様を呼び捨てです。

「母上。もがりの宮ではなかったのですか」

 前王妃様です。喪に服した黒いドレスを着ていらして、ああ、本当に殉死されないのですね。

「あなたが小人様をお帰しせずギガスに留め置く理由をお聞かせなさい」

 前妃様が激昂している理由が分かりませんが、

「はじめまして、前妃様。この度はお悔やみ申し上げます。また、婚礼のご挨拶が遅れまして申し訳ありません」

 僕は胸に手を当てたくて身動ぎしました。でもどうにもうまくいきません。

「何ということを……魔法陣?解除なさい!クロム!」

「出来ません。忘却には制約を掛けませんでした」

 王様が本を閉じて立ち上がります。そして軽く両手を広げました。

「制約のない陣は術者が死ぬまで続くのです。母上、私を殺しますか?」

 前妃様が懐刀を出します。

「先程先触れがきました。もうじきセリアンからの迎えが来ます。露呈すれば、ギガスの恥です」

 前妃様が王様に剣を向けるなんて……だめです!

「前妃様!王様を刺してはなりません。子殺しはガルド神への大罪です!」

「子の罪を親のわたくしが被ります」

 僕は必死で寝台からずり落ちました。這いずり落ちた場所は前妃様の懐刀の前です。刃の一部が肩に刺さり刀と共に床に落ちました。

「だめです!王様を殺させはしません!王様はギガスにとっても、僕にとっても大切なのです!」

 僕は床に崩れながら叫びました。床に血の染みが出来ます。前妃様が悲鳴を上げました。

「小人様ーー!!わたくし、わたくし……」

「誰か、医師を!私を庇って……これが、改変か……母上が私を……刺して……私が……ああ……」

 王様は頭を抱えました。何か混乱しているようです。大丈夫でしょうか。

「うっ……」

 僕は寝台に寝かされて、お医者様に肩の刺し傷を押さえられました。血はなんとか止まりましたので、痛み止めの薬湯を飲みました。包帯を巻かれています。

「……そうだ……私は、小人の見届け人から……宿り木の管理について口煩く言われて……見届け人を殺した……だから、母上に……殺された……改変が再び……」

 王様が床に座り込みました。

「前妃様、小人様のお迎えの方は……そのタイタン国国王陛下です」

 侍女さんがものすごく大きな男の人を連れて入って来ました。金の短髪と青い目が印象的です。褐色の肌は王様と同じです。身体の大きな男の人は僕の三人分くらいの背がありそうです。赤い軍服がすごく似合っていて、でも、背が大きすぎて少し怖い感じがします。

 僕を見下ろして息を一瞬留めました。王様がびくりと身体を震わせます。

「一体……どうしたのだ。ターク、怪我を……」

「王様と前妃様の諍いを僕が止めました。怪我は深くはないのです。あの……あなたは誰ですか?」

 こんなに大きな人は見覚えがありません。すごく怖くて王様に縋り付きたくなりましたが、身体が動きませんでした。
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