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2章

37 セフェムの謝罪※

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 王宮から広間に続く扉を抜けると、ブュッフェスタイルを満喫するセリアン国の文官さんとタイタン国の内政省の文官さんたちが一斉に僕らを見上げました。王様が段を降りてみなさんと同じ地に立ちます。

「今宵は良き友として楽しく過ごしてほしい」

 王様が簡単に声を掛けました。さすが王様です。せっかくの和みの場で、無粋な演説などしてはなりません。

 ソニン様とロキの美しさにセリアン国だけではなく、タイタン国のみなさんからも感嘆の声が上がりました。さすがです。皆さんお目が高いです。王様とソニン様とロキは本当に素晴らしく凄いのですよ。

「セフェム。余の一妃ソニン、二妃ロキ、三妃タークだ」

 ソニン様は美姫の如く腰を軽く折る仕草をします。ロキは軽く手を振り、僕は頭を下げました。

「私はセリアン国第三皇子セフェムだ。ガリィウスには助けられた。礼を言う」

 僕らに胸に手を当て礼を取ります。粗野なイメージが変わりましたね。なんとか名前をきちんと呼ぼうとしているのが伝わります。

 初め椅子に座っていたソニン様は初めてのビュッフェにばあやさんと連れ立ちました。無礼講ですがソニン様がテーブルに近づくと、皆さんが微笑みながら場所を開けています。

「ターク、自分で持ってくるのか?お前のも持ってきてやるよ。背、届かないだろ?」

「はい、ロキ。自由に取ってもいいですが、少しずつ色々な物をお皿に盛ります。お肉ばかりじゃダメですよ」

「ほーい」

 ロキがブュッフェに行こうとすると、セフェムがやってきてロキの前に片膝をつきました。ロキは不思議そうな顔をしています。

「二妃様、先日は大変申し訳ございません。私の発情期の為に二妃様の命に危機に晒しました」

 そのまま胸に片手を当てて頭を下げたのです。

「なに?あんた……」

「ロキ、彼はセリアン国第三皇子セフェムだ」

 王様がロキに説明をしましたが、それでは足りませんね。僕は王様の腕から飛び降りました。そしてロキとセフェムの間の空間に滑り込みます。

「ロキ、湖で戦った銀狼さんです」

 襲われたと言わないところが成人の対応です。ロキが考え込んで、ハッとした表情をしました。

「あん時の強い奴か!俺は……どうしてか、あの時のことほとんど覚えてないんだよ」

 組み伏せられてスズランの花や根を口に入れてしまい、朦朧としていたからでしょう。

「もういいですよ、セフェム」

 皇子であるセフェムがまるで臣下のようにロキに膝をつく姿は、セリアン国の文官に申し訳ないです。

「しかし、タク」

 セフェムは立ち上がりましたが、まだ謝り足りないようです。困りましたね。

「セフェム、セリアン国に行く前に、ロキのご両親に謝罪してはどうですか?湖の端の村だそうですよ」

 僕はセフェムに進言しました。この善き時間を謝罪だけで終わらせたくないですし。

「あ、ああ、タクがそう言うなら」

 セフェムが膝を上げました。セリアン国の皆さまは目線を逸らし、何事もなかったように振る舞ってくれます。皆さまありがとうございます。

「なあ、タークとセリアン国の第三皇子は仲良いんだな」

 ロキの何気ない一言で、セフェムがバッサバッサと銀色の尻尾を振ります。

「それは、タクと俺は番いだからな」

 あーー、余計なことを言わないで下さい。ロキに負い目を負わせたくないのに。でもロキは気づかず、

「じゃあ、俺と同じだな。俺もガリウスと番いなんだ」

とドッグタグをカチンと鳴らしました。形が珍しいのかセフェムがドッグタグに触れようとすると、他人が宿り木に触って弾かれるように、バチッと静電気のような音がしてセフェムは手を引きます。

「すごいマナの力だ。ガリィ、お前は素晴らしい。さすがは我が友だ」

 セフェムは明るく正直でいいですね。

「んーんん?あれ?タークはガリウスの三妃で、セリアン国の第三皇子の番いってどう言うことだ?え、じゃあ、噛んだのあんたか!タークはガリウスとあんたと二人の夫持ちかあ。ターク困らない?俺心配だよ」

 ロキ……混乱するから、のちのち話します。はい、どうぞ、ブュッフェに行ってください。

「王様も自分で取りに行くのですよ」

 僕が振り向きながら話すと、王様は肩を竦めて笑いながら、セフェムと行きました。




 ブュッフェの最中の話し合いと協議の上、四日後の木の日の昼過ぎにセリアン国へ行くことになり、僕は宮に戻りました。

 羽織着に着替えて、ティンと王様とアリスさんの宿題を見ています。もう大丈夫ですね。王様は実践で学びましょう。政務室で文書を読みながら、僕が指導することになりました。アリスさんとティンは長文作成まで来ました。

「主様、セリアン国の方のご訪問です。お会いになりますか?」

 ティンが居間にいる僕を呼びました。誰ですかね。僕が見上げると玄関にセフェムがいます。

「ティン、彼はセリアン国第三皇子セフェム。僕はセフェムの番いです」

『番い』と言う言葉はティンには理解出来たみたいです。

「大変失礼致しました。どうぞ」

 羽織着を着たセフェムが入ってきて、僕をふわりと抱き上げました。

「ガリィから聞いた。今日は一妃だな。見に行こう!」

 はい?




 どうして……僕はここにいるのでしょう。幻影まで使用して。それは僕が欲に負けたからです。僕はセフェムが持つ全ての魔法陣を見せてもらう代わりに、セフェムに付き合っているのです。セフェムの魔法陣は明日明後日見せてもらいます。

 僕らはソニン様の宮の寝室の窓から、ソニン様と王様の交合を見ています。名詞では交合、動詞では交合こうごうとも言い、肉体関係を持つ意味合いです。ソニン様と王様は夫婦として……男性同士ですから夫夫ふうふでしょう。まさに和合ですね。和合は結ば合うこと、つまり互いに仲良く親しみ合う関係であるのです。あ、豆知識ですよ。

 ソニン様は立ち膝で背後から王様に貫かれ、王様の首に両手を掛けてしなやかな肢体を惜しみもなく晒していました。ソニン様の桃色の陰茎は緩く勃起し、突かれるたびに精液をぽとぽとと寝台に落とします。体内で極めはじめると、陰茎の勃起による排出の快楽より深い快楽に、ただ支配されてしまうのです。恥ずかしながら僕も同じです。

 王様はソニン様の両乳首を摘んで、引っ張り捏ねていました。

「ガリウス様っ……胸は……」

 ソニン様が息悶えて腰を揺らします。

「よく感じている。中が締まる」

 ソニン様が背中を撫でられ背を反らしました。背中の隷属陣が輝いています。

「あああっ……ガリウス様っ」

 王様はソニン様の陰茎に手を伸ばし、ソニン様は腰をくねらせて精液を溢して達しています。

「一妃は男だったのか……」

 セフェムが呟きました。獣族は鼻が良いはずですが、ブュッフェで気付かなかったのですか?まだまだ未熟ですね。でも、僕も初めて会った時はソニン様、女性だと思いました。

 セフェムに抱っこされての覗き見が終わりますと、セフェムは僕の宮で眠りにつきました。僕の寝台で僕と眠っているのです。初めはセフェムが何かするのではと考えていましたが、寝息を立てる獣面に僕は安心して眠りました。

 次の朝、セフェムが宮にいて驚いたのは、ティンとフェンナです。

 王城の二階の貴賓室に戻りたくないと駄々を捏ねるセフェムに、ティンは王城のセリアン国の文官さんに渡りを付けに行き、フェンナは僕とセフェムの朝食を作り始めます。

「フェンナ、貴女が考えたあれを僕も食べます」

 フェンナが腰を屈めました。ティンが文官さんを連れて戻ると、文官さんの手にはセフェムの普段の服があります。居間で着替えているセフェムに

「閣下、我々はタイタン内政省と日程調整を致しますので、しばらくこちらに滞在し、王都で御見物を広められてはいかがでしょうか」

 なんて厄介払いみたいに聞こえる提案をしています。僕はチュニックに着替えながら聞くともなく聞いていました。

「ではそうしよう。ターク、付き合ってくれ」

「ちょっと待ってください!ここは後宮ですよ。王様はご存知なのですか!」

 僕が寝室から出て叫びますと、セリアン国の文官さんは頷きます。

「タイタン王はガルド神の神託ある三妃様も閣下妃でもある、と、ご了承いただいております」

 お、う、さ、ま!

 この世界のガルド神絶対!には僕は馴染めません!妃である僕はガルド神の駒ですか?僕は久々に書庫にこもって本を読もうと思っていたのですよ。がっくりです。

 実を捥いだら真剣に考えなくてはりません。僕の精神が持ちません。

 僕が肩を落としていると、煮炊き場からフェンナが朝食を乗せたワゴンを引いて入って来ました。

「主様」

 僕とセフェムは同じメニューのお皿です。

「タク、俺は肉は……」

「お肉ではありませんよ。大豆と小麦のグリルパテです。試作品ですけれど」

 目の前には塩胡椒をして焼いた大豆ハンバーグに、トマトソースが添えられています。じゃがいもにんじんのソテーもいい色取りになっていますね。

 僕がナイフとフォークで食べ始めますと、恐る恐るセフェムが口に入れます。大豆パテは三回目の人生の中ではハンバーガーのパティになることがありました。それ以外では、精進料理としてでしょうか。

「うまい……見た目が肉なのに違う。これはなんだ」

「豆ですよ。豆スープにも入っていますよね。同じものを食べられないのは寂しく感じますから。フェンナ、大成功です。料理長に話してください」

 フェンナさんが嬉しそうに腰を屈めました。ティンが焼きたてのパンをお皿に置いてくれます。

「主様、午後から買い出しに参りますので、ご一緒ください。セリアン国へのお土産を見繕います」

 ティン……セフェムが目を輝かせています。素晴らしい提案ですが、僕は……本を……諦めましょう。

「セフェム、食事が終わりましたら、知る限りの魔法陣を展開してください!」

 僕はパンをちぎりながらセフェムに言いました。
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