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2章

38 甘えたがり※

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 僕の宮の裏で魔法陣をいくつか展開してもらいました。セフェムの使える魔法陣は、身体強化、遠見、遠耳、加速でした。全て見せていただきました。ありがとうございます。

「複数の陣を使うにはより多くのマナの力が必要になる。戦闘時には一つずつの方が体力的にもいい。あとは陣を使用しない獣の口寄せや調教があるが、これは個人の資質による。二妃殿のカフスを見ると、そちらが得意な伯のはずだ」

 そうなんですね。また、ロキに見せてもらいましょう。

「ありがとうございました」

「タク、お礼は?」

「今、言いましたよ?」

 セフェムは自身の獣面のマズル先をちょんちょんと触れました。え、外ですよ。僕はタイタン国の三妃ですよ。

「では屈んで……ひゃあ!」

 ひょいと抱っこされました。僕はもふもふの首毛を掴みながら、セフェムのマズル先に唇をつけました。髭がくすぐったいですね。するとべろりと大きな舌が僕の唇を舐めてきます。

「セフェ……ぅん……」

 やめてくださいと言おうとして開いた口の中に舌が入って来ました。平たくて熱い舌が僕の口の中を舐めまわします。その舌が官能的に甘いのに驚きました。唾液が甘い……これは、好きな味かも……です。

 僕はもふもふの首毛をわしゃわしゃと撫でました。これ以上はまずいです。なんでしょうね、昼間から流されてしまいそうになります。

「俺の味はどうだ?俺はお前に見合うよう努力をしたつもりだ。礼節を重んじ、学び直した」

 セフェムは獣面でも分かる笑顔でした。真っ赤になった僕の耳に息を吹きかけてきます。

「礼節を重んじるなら、昼中の外でこんなキスをしないで下さい。宮には子供のティンがいるのです」

 セフェムがしてやったりという顔をしています。すごく悔しいです。僕はもふもふの首に顔を埋めていました。

 昼はセフェムに合わせて果物や野菜の昼食でした。フェンナのスパイススープを気に入り、何杯もおかわりするのでフェンナが思わずって感じで微笑んでいました。残りがなくなってしまい、フェンナとティンには申し訳無いと思います。

 セフェムに注意をすると、

「もっとたくさん作ればいい」

 なんて悪びれもせず言いましたので、僕は言い返しました。

「僕とフェンナ、ティンだけならば、当然二人に下げ渡せる量でした。本来こちらにいるはずのないセフェムがおかわりを何杯もするからです。大体、王族はおかわりをしないものですよ。与えられた量が少なければ、こちらは気に入ったと告げ、少しばかり足してもらいます。好きなものばかり食べるのもだめです」

 セフェムの獣耳が頭にぺたりと伏せます。

「ダメだったか……くそ。悪かった」

 セフェムがフェンナに少し頭を下げて謝ります。セフェムは皇子らしくなろうとしているのですね。

「素直に非を認め、謝る姿勢は素晴らしいですよ」

 僕がそう告げますと、

「ガリィに負けたくないからな」

 なんて微笑ましい言葉を吐き出しました。なんと、王様にライバル発言するとは!

 午後からは約束通り王都へ行きました。僕もセフェムも気楽に出かけていき、ティンが慌てていました。僕がセフェムに抱っこされているのは、歩幅の違いからですよ。

「タイタン国には職業ギルドが多いな。タクの国はどうだ?」

「小人族は三つの小国がありますので職業ギルドが発達していますよ。基本的にはタイタン国とセリアン国と取引をしています」

「知らなかった。俺はずっと城壁城にいたから……」

 僕はセフェムの首をわしわしと撫でました。

「皇子にはそれぞれ役割があります。それは気にしないでください」

 ティンが買い物をする間、セフェムはあちらこちらを眺めては考え事をしています。物見雄山という感じではないようです。セフェムも色々考えているのですね。素晴らしいですよ。




 夜、この日王様はロキの宮です。セフェムに抱っこされて僕は幻影魔法陣を展開して、ロキの宮の外にいます。

 ロキと王様の交合の覗き見です。ロキは背後から王様の陰茎で貫かれて背を反らしています。

「ガリウス、首輪、首輪掴んで!」

 王様はロキのスパイクチェーンを掴むと、引っ張りながら腰を進めます。褐色の肌なのに赤が刺し入れるようなロキの肌に、王様は何度も背にキスを繰り返します。ロキは後背位が好きなようですね。

「いいなあ……」

 え!セフェムもMですか?ちょっと引きます。

 スパイクチェーンが跡になるくらい引かれながら精液を敷布に散らすロキを見つめて、セフェムが僕の肩にマズルを置きました。

「ロキは愛されている」

 ロキの背後の王様がロキの肛門内に精液を出すのが分かります。腰から臀部に掛けて何度も刻むように震えるからです。ロキは王様の腕にキスをして、横倒しになり愛を確かめ合うように抽送が繰り返されます。セフェムはそれを見終わると僕の宮に戻りました。

 幻影を解くと寝台に入りますが、今日は抱っこされてセフェムに膝に入れられました。

「どうしたのですか?」

 僕を背後から抱っこしたセフェムはあぐらをゆらゆらと揺らします。僕までゆらゆらと揺れます。

「獣人族の番いは噛み合うことで互いの所有を示す。ロキとガリィは番いの証に四角のプレートがある」

 ドッグタグですね。はい、王様の所有の証です。

「俺も欲しい。タクと番いの証が。俺たちは番いだが、国が違うから離れ離れだ」

『いいなあ』発言はそちらでしたか。

「セフェムは僕のことがそんなに好きなんですか?」

「当たり前だ。狼族は番いになれば一生大事にする。愛されたいし、愛したい。タクは違うのか?」

「仲間の獣人を襲って発情期を済まそうとして、阻止された腹いせに誘拐し性の掃け口にした挙句、同意も得ず噛んで番いにしてしまった獣人の口から愛していると事後報告されても愛情は湧きません」

 きゅーん……と鼻を鳴らすセフェムには悪いのですが、僕は王位を用意され廃嫡されても、神官長という地位へ向かうはずの皇子でした。感情のまま動くほど子供ではないのです。しかし……セフェムより年上ですから、甘やかしてあげましょう。

 僕はセフェムの方に向き直り、立って頭を撫でました。寝台の横の引き出しから金貨を出すと、いくつかの魔法石を手にしました。

 空中魔法陣を展開され、金貨に向かい

「錬成」

と金貨を錬成し、形を作り替えました。

「セフェム、これはイヤーカフです。小人族の王族には守護する動物がいて、僕は小鹿です。僕の紋章には小鹿と若芽蔦唐草です。僕の夫の証です。左耳につけてあげましょう」

 紋章は夫から妻に贈るものです。父は母に腕輪を渡していました。

 セフェムの耳の下の方に付けました。外れないように少し調整します。そして頭を撫でてあげました。

「鏡を見ますか?」

 セフェムが尾をブンブン振って鏡を見ます。鏡を見てから首の毛が逆立つ程興奮して、僕をぎゅうぎゅう抱きしめました。

「タク、俺は嬉しいぞ。俺はタクを番いに選んで良かった。ガルド神はタクと出会う為に、俺の発情期を酷くしたのかもしれない。いつもはあの小部屋で凌げたのだ」

 寝台で僕を抱っこして抱き抱えて息を吐きました。

「あの日は酩酊状態で城を抜け出た。あのままいたら城壁城の誰かを犯していたかもしれない。本国へ戻ろうとしていたのに、湖に出たのだ」

「それでロキに?」

「いや、先にお前の匂いを感じた。甘い匂いに釣られてタイタン国の王都に来てお前を見た」

 公共事業の時ですね。あの時は自身の無力さを感じて萎れていました。

「てっきり同族の香りかと思ったが小人だったから、諦めて湖に引き返した。その時はもう酩酊状態が酷く意識が飛び飛びで、二妃殿に出会ってしまった」

 二匹の完全獣化の獣人が戦い、ロキは負けて組み付されていたわけですね。

「タクが来なければ二妃で処理をしていただろう。いや、タクが俺のしたことを了承してくれなければ同じことだった。俺のせいで、タイタン国と再び戦い状態になり、セリアン国は東のタイタンと南のギガスに挟まれ巨人族に敗北していたかもしれない」

 僕はセフェムの言葉に頷きました。ギガス国との長い長い戦いに終止符を打つことが出来るのです。

「平和が一番ですよ、セフェム。戦いは戦いを生むだけです」

「ああ。だから、なんとしても今回の和平を掴んでみせる」

 セフェムの呟きに僕は頷きました。

「平和の中でセフェムの実が捥がれ、平和の中で子供が暮らしていければそれだけで充分な幸せです」

 平和の中で過ごした三回目の人生。平和ボケしているなんて揶揄している人々もいましたが、平和ボケが出来るなんてなんて幸せだろうと思います。

 飛び交う銃弾もなく、前後左右を心配せず背を伸ばして歩ける幸せ。さまざまなことを学ぶ自由。生きていることが普通に感じた人生で、母を看取り再雇用非常勤の中、明日の授業のプリントを刷りながら職員室で倒れた記憶が最後でした。

「一緒に実を捥ごう」

 セフェムが尾を丸めて僕を小脇に抱えて眠りにつきました。
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