巨人族の1/3の花嫁〜王様を一妃様と二妃様と転生小人族の僕の三妃で幸せにします〜〈完結〉

クリム

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2章

36 礼節を重んじます

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 パンとチーズと豆スープを食べてから、僕はティンが溜めてくれた浴槽の湯に浸かりました。今日は特別にサボンを使います。

 三番目の人生でいうところの石鹸です。草を燃やしてから煮出した灰汁と蜜柑の皮と油と精油で作りました。蜜柑の皮はスクラブです。柔らかなサボンですので、少しお湯に溶かしてシャンプー代わりにします。綺麗に流すと薔薇の香りがしました。

 服は礼装になります。ティンに手伝ってもらいました。白いチュニックに金の縫取りのある小人族皇子だけが着られる服に、肩口にはドワフ国の皇子の勲章の付いたリボンを垂らしました。

 緩い毛先カールの髪の毛を丁寧にとかし、小人族特有の少しだけ尖る小さな耳を出してサイドの髪を後ろ留めにします。王族の宝飾耳飾りをつけると、ティンが目を輝かせています。

「主様、なんて……」

 その後の言葉を飲み込んだティンの言葉は、

「お可愛らしい……」

でした。

 そうです。僕は耳を出すと、さらに幼く見えるのです。しかし、小人族の正装は女性が長い髪を頭の上でアップしたポニーテール、男性も髪は長いのでハーフアップにします。僕は背中までしか髪がないので少し子供っぽく見えるのかもしれませんね。

「ティンが成人した時には室内まで同行をお願いします。今日は王宮までお供をお願いしますね」

「はい、主様」

 フェンナは王宮煮炊き場でお手伝いですし、残念ながらティンは三の宮でお留守番です。本来ですと、王族の側仕え騎士と側付きは同席して、警護並びに主の御用を言いつかります。

 僕がティンを先触れに宮を出るとロキに会いました。

「お、ターク!めちゃくちゃ可愛いじゃん」

「似合っていますか?…………なんです、その肌面積の広さは」

 ロキはいつもの緩いズボンにサンダル、しかも裸の上半身にベストです。

「俺の一張羅だよ」

「ロキ、全くだめです!」

 マナー違反も甚だしいです。全くダメです。王様の沽券に関わります。着替えさせましょう。

「クラリさん、ロキの宮を開けてください!その服では品性と礼節を損ないます!」

 クラリさんが頷くと慌てて宮の扉を開けて、王宮に行こうとするロキを捕まえてくれました。スパイクチェーンとドッグタグは首にあってもいいと思いますが、布面積を増やさないと。

 僕はロキの寝室に飛び込みました。クローゼットを覗き込みますと、布面積が狭い服が多いのですが、一番奥にある服は……爵位家が着るチーフブラウスがあります。ネックチーフを留めるカフスは爵紋が刻まれていました。

「えっ!」

 明らかに王族由来のカフスです。セリアン国には沢山の種族がいて、それぞれの王がいます。例えばセフェムは狼族の王族です。獅子顔の隊長さんは獅子族でしょう。族王が力量と話し合いでセリアン国の王をやるのだとセフェムは話してくれました。

「それ、やだな。首がぎゅっと締まるんだぜ」

「ロキ、王族由来の爵位持ちだったのですか?」

「あん?知らねえ。ガリウスのとこに来る時、お袋に着せられた」

 あー、はい……知らないのですか。ロキは自分の発情期すら分かっていなかったから、獣人のお母様はロキに何も告げていないのでしょう。

「首回りを楽に着せますよ」

「うう……」

 ロキがシャツを着てくれ、開襟スタイルにリボンタイを肩からストール風に緩く斜めに掛けて肩のところでタイカフスによって留めることにしました。細身のスラックスと白の光沢糸での細かな刺繍が入っている白ベストは爵位持ちの白礼装です。ロキは褐色の肌をしているから白がとてもかっこいいです。

「首のスパイクチェーンとタグも見えますよ」

「これならいい?俺、色っぽい?」

 色っぽい?いや、どうでしょうか。僕にはスーパーモデルのお兄さんのように見えますよ。鏡を見たロキが満足してやっと宮を出ます。

 外ではティンがクラリさんに何か話して笑っていました。ティンも随分大きくなりましたね。巨人族は成人に近づくと背が一気に伸びると聞きました。そろそろ半ズボンではダメですね。成人に向けて長いズボンを履いた方がいいかもしれません。

「お待たせしました。王宮に参りましょう」

 王宮にはソニン様とばあやさんがいました。ソニン様は背中の大きく開いたイブニングドレスのような裾広がりの丈の長いお召し物を着ていて、両肩から金の留め具で透け織りのマントで背を覆われています。長い髪を軽く結っているので後れ毛がとても魅惑的です。

「ソニン様、本当にお綺麗です」

「ターク様、なんてお可愛ゆらしいのでしょう。ロキ様は涼やかでとてもよくお似合いです」

 いつもの薄着ではないので、ソニン様も安心されてお話しですね。ロキをきちんと視野に入れています。さすが第一妃だけあります。王様が城壁城に僕を迎えに行き、王様不在時に王宮を守るよう頼まれたソニン様は、その経験から成長したのでしょう。

 ロキもソニン様に助けてもらった経緯もあり、ソニン様をいじめる悪い子では無くなって、ソニン様に一目置いている様子です。

「ターク様、何やら良い香りがしますねえ。良い香油をお使いになりましたか?」

 ばあやさんが僕を見下ろしました。ばあやさんも綺麗なドレープのドレスを着ています。ソニン様にお付き添いするのでしょう。

「サボンと言う泡立ち汚れを落とすものを使っています。香油も混ぜています」

「まあ、泡立ち……汚れを?三妃様は物知りでいらっしゃいますねえ」

 これはおねだりですか。柔らかなサボンをケースに入れれば渡せますかね?塩を混ぜて固くする方法もありました。今度試してみて差し上げましょう。岩塩が何処にあるといいのですが。

「まだ、試作品でして。岩塩があれば……」

 僕は言葉を濁しました。

「姫様の郷里には良き桃色岩塩が取れるの山がありますのよ。少しお分けしましょう」

 まさかのピンク岩塩ですか!

「ありがとうございます」

 僕がばあやさんに頭を下げていると、王様が現れて僕はひょいと抱き上げられました。王様はソニン様とロキを見て目を細めます。

「我が妃たちは本当に美しいな」

 僕もそう思います。セリアン国の皆さまが目を伏せて困ってしまいそうですね。

「タークはいつにも増して可愛い」

 耳を出しているからですね。小さい子に見せる眼差しはやめてください、王様。

 キレンさんが僕らの先触れとして歩き、アリスさんはセフェムたちを広間で対応をしているそうで、僕はティンに宮で待つように声を掛けました。どうやらクラリさんも行かないようです。

「では、参るとしよう」

 王様はソニン様とロキに左右の腕を少し開きます。ソニン様は右腕に手を添え、ロキは僕の座っている左腕に手を掛けました。
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