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2章

35 セリアン国の親書

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 セフェムの腕から下ろしてもらい王城から逃げようとしました。話のわかりそうな人にだけ話したいのですが、僕は内政省の四人に囲まれてしまいました。セフェム一行さんは広間に待たされています。王様の支度に少し時間がかかるからです。

 広間の隅で四対一です。分が悪いです。見下ろさないで欲しいのです。

「三妃様、一体どういうことですか?」

 そういえばバンさんの声、前々王様に似ていますね。あまり嬉しくないです。

「王様から話しがなかったですか?王様が話されたことが真実ですよ」

 みなさん背が高すぎて、首が痛いです。フィニさんが僕の様子に気付いて、僕の前に膝をついて僕と目線を合わせました。フィニさんは優しいお顔立ちをしていますね。青銀の髪の毛が長くて横で緩く三つ編みをしています。

「三妃様、王から伺ったのは、三妃様を迎えに行くので、近衛を出して欲しいとのことでした。近衛を出すには少し時間がかかるので、先に行かれてしまわれました」

 だから王様は一人だったのですね。せめてキレンさんだけでも連れて行く方が良かったですよ。だって王様は戦って傷を作りました。

「僕が保護されていたのは、セリアン国城壁要塞城です。保護してくれた第三皇子が発情期になりうっかり噛まれてしまい、番いとなりましたけれど。その後すぐにギガス侵攻があり、僕と王様が協力しました」

 真実はちょっと違いますがオブラートに包むのが、大人ですよね。フィニさんは真っ青な顔をして、バンさんを見上げます。

「父上!」

 バンさんが腕を組み唸ります。

「親書は本当だったか……」

 王様、絶賛不信用でした。そんな呻きの中、王宮から広間に続く扉が開いて、緋色に包まれる王様がアリスさんとキレンさんを従えて入って来ます。

 王様が三段ほどの階段を大股で跨ぎ、セフェムのところに来て握手のために手を差し出しました。

「おお、ガリィ、我が友!我が妃のもう一人の夫よ!」

 セフェムが握手をしながら、大袈裟に王様の肩を抱きしめました。もう、セフェム、本当にやめてください。内政省のみなさんも僕を見ないでください。

「ターク、ここにいたのか。探していたのだ」

 王様に手招きされたので、内政省のみなさんに頭を下げて王様のところに行きました。王様は僕を抱っこして左腕の定位置に座らせてくれます。

「親書がガリィの元に遅々として届かぬ故、俺が直々に持って来たのだ」

 お連れの文官さんが巻いてある羊用紙を取り出してセフェムに渡しました。

「タイタン国ガリウス王の助力により、セリアン国とギガス国の戦いは終わり、このたび停戦及び終戦の運びになった。我が国からは友好国としての文書を、ギガス国からはタイタン国とも正式に終戦の文書を交わしたい旨、国王陛下並びに三妃である六月の小人様の同席を願いでるものである」

 セフェムは噛まずにしっかりと文言を告げました。きっとちゃんとじいやさんが仕込んでくれたのですね。その親書を獣人族の文官さんがもらい受け、文官服のフィニさんに渡しました。

「タークよ、六月の小人と言うが、六月生まれの小人は他にもいるだろう?」

 僕は首を横に振りました。

「年配者と成人前の子どもならいますが、成人の年の頃の六の月の小人……実は僕だけなのです」

 六の月の新月どころか、六の月は僕しか捥がれていないのです。城内がどよめきに包まれます。獣人族も巨人族もです。御信託に小人族がまつわっているのは、ギガスもですね。

 巨人族のタイタン国では小人の嫁取り。
 ギガス国では小人は災い。
 獣人族のセリアン国では小人は戦いを終わらせる。

ときました。僕に何かさせたいのですか、ガルド神様。僕はマナもわずかで無力な小人ですよ。

「親書は無事に受け取った。あとは内政省とセリアン国の文官とのやり取りの上でこの身と妃が動こう。第三皇子はしばしゆるりとなさるがよい」

 二階の貴賓室に皆さんが上がっていき、僕は王様とセフェムと別れました。僕が獣人族の文官さんに

「皆さんもお食事は菜食なんですか?」

と聞きましたところ、獣人族はベジタリアンだと言うのです。

「半獣人はそうでもありませんよ」

と話してくれたので、僕は煮炊き場に行きました。

 案の定、煮炊き場は大混乱になっていました。今回は内政省の担当する人々とセリアン国の文官さん、セフェムと僕らの食事です。セリアン国のメニューは野菜や果物ですし、僕らは肉類をはじめ様々なものを食べます。

「情報はありがたいが、三妃さん。俺はどうしたらいいやら。ここ二十年ほど会食などやってないし、人種違いのテーブルメニューなんて考えたことはない」

 フェンナさんとクラリさん、ソニン様の宮の給仕さんのブクと王宮料理長さんが頭を悩ませていました。そういえばソニン様もベジタリアンです。

「王様たちと文官さんが一緒に食事を共にするならブュッフェはどうでしょうか?自分で食べたいものを取るスタイルです。スープやお肉は広間で簡易煮炊きをすればいいのです」

「ぶっへ?なんだそりゃ」

 僕は腰鞄から紙を出して、広間の間取りを書きました。そこにテーブルを書いて、食べ物の名前を簡単に書きます。

「文字か、読めねえよ」

 ああ、そうでしたね。では、絵的な感じで。

「自由に食べ物を自分でお皿に取るスタイルです。王様も自由に取れます。食事は基本立食になります」

「自由にってのはいいねえ。俺らも気を使わなくていい」

 僕が椅子に立って話していますと、

「主様、せめて王族と三妃様にはお席を作りませんと。立食は不敬に当たります」

 フェンナが言葉を添えてくれました。

「そうですか?王様も立ったままの方が話しやすいですよ」

 そこにアリスさんがキレンさんとやって来て、

「では、空テーブルと椅子をいくつか出しましょう」

と話します。キレンさんとクラリさんが頷きます。

「あれ、お二人ともこちらに。王様は?」

「第三皇子に付き合わされている」

 キレンさんが肩を竦めます。セフェム、王様を困らせていないですよね?すごく心配ですが、僕には僕の準備があります。

「三妃さんの『ぶっへ』とやらで行くとするか」

「ブュッフェですよ。フェンナ、料理長のお手伝いをお願いしますね」

「はい、主様。お昼は軽くご用意してありますので、お召し上がりを。お着替えはティンが」

 フェンナが軽く膝を曲げて礼を取ります。

「ありがとうございます」

 アリスさんとキレンさんは広間に行き、フェンナさんとクラリさんとブクさんは煮炊き場へ僕は三の宮に戻りました。
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