巨人族の1/3の花嫁〜王様を一妃様と二妃様と転生小人族の僕の三妃で幸せにします〜〈完結〉

クリム

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2章

32 ロキの発情期

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 先ぶれも出さず僕と王様は後宮に一番近い通用門から中に入りました。衛士さんには驚かれましたけれど。ラオウは衛士さんが馬小屋に連れて行き、僕は王様に抱っこされてロキの二の宮に連れて行ってもらいました。

 扉の前にはクラリさんがパクさんと何やら暗い面持ちでいます。つまりソニン様がロキの側にいるのですね。

「クラリさん、開けてください」

 クラリさんが僕を見て本当に驚いて頷き、宮の扉を開けてくれました。居間にはソニン様のばあやさんが椅子に座っています。ばあやさんは僕に気づき立ち上がると寝室を指差してくれました。

「姫様が神癒を繰り返していますが……」

 神癒?ロキはどうしたのですか?僕の毒消しは間違っていなかったはずです。

 王様が寝室の扉を開きました。寝室は金に輝く魔法陣が展開され、魔法陣の中心にはロキが……完全獣化のまま、つまり黒狼さんの状態のロキが伏せていました。

「ロキ、どうしたのですか!」

「まあ、ターク様!」

 神癒の魔法陣を解除したソニン様に抱きしめられました。ソニン様はとってもいい匂いがします。僕は戦い帰りで、埃だらけですのにぎゅーっと抱きしめられたのです。嬉しいです、ソニン様。

「ターク……」

 ソニン様の腕が解かれて僕は靴を脱いで寝台に上がりました。口の中の臭いを嗅いでも正常ですし、目も耳も触りましたが大丈夫です。身体の中で毒が残ってしまったのでしょうか。

「ターク、どうしよう……俺、俺、人型に戻れない……」

 はい……?

「ロキ。ロキはセリアン国の獣人ですよね?」

「ロキはセリアン国に属しているが、母親がセリアン国の獣人で父親は巨人、つまり半獣人だ。王領の村々を束ねる村長むらおさの子なのだ」

 王様が教えてくれました。僕が初めて会ったときも村からの帰りだったと話してくれました。ロキは半獣人だから人型のときは耳も尾もないのですね。ある意味完璧な分かれ方ですよね、人型のときは完全に人、変幻して獣化のときは完全に黒狼さんですから。それはそれとして、ロキが人型に戻れない理由は多分……。

「ロキ、大丈夫。僕がついていますよ」

 獣人は一年に一度発情期が来るとセフェムが話していました。大抵が春か秋。セフェムは不定期ですが、セフェムも発情期は人型に戻るために狼のときの精を出し尽くす必要があると言っていました。ちょっとソニン様には話しにくいですね。僕はソニン様の両手を取りました。

「ソニン様、神癒のお陰でロキの毒は消えています。ありがとうございました」

 ソニン様は本当に嬉しそうに微笑みました。出来ることを一生懸命に行う子は本当に素晴らしいです。

「ソニン、そなたに留守を任せることは正解だった。助かった」

 ソニン様は王様を見上げました。長い髪をゆるくまとめている姿は前々王様が生きていたときにはしませんでした。身体に線がつくのが嫌だとかで髪も流し髪のままでした。

「いいえ。ガリウス様がターク様を必ず連れて戻るとおっしゃってくださいましたから、わたくしはわたくしの出来ることをしたまでです。そして見事に連れて戻られました。さすがわたくしたちの愛すると誇りに思います」

 ソニン様は腰を少し屈める優美な女性王族の礼を取ります。王様の実が女の子だったらソニン様が育てるのが一番ですね。とても素敵なレディになれると思います。

 ソニン様には一の宮に帰っていただき、僕は寝台で丸くなるロキの頭を撫でました。

「ロキ、良く聞いてください」

「うん」

「ロキは獣人の発情期が来ました。発情期は獣状態の精を出し尽くす必要があります」

「俺が……発情期?」

「はい、そうです」

 セフェムは大抵小部屋で過ごしていましたが、今回は昂りが酷く城から逃げ出して同族を見つけたと話していましたが、半獣人でセリアン国に属していながら、住まいはタイタン国王領では同族処理は無理な話ですよ。黒狼のロキが急にのし掛かった銀狼のセフェムを拒否したのは当たり前ですね。それにロキは王様にメロメロです。あ、死語ですね、この言葉は。ロキは王様のことが大好きなのです。

 セフェムには今度会ったらその辺りをきちんと話して叱らなくてはなりません。

「ロキは半獣人ですから、日数も掛からないでしょうし、幸いロキには王様がいます。獣化したまま王様と交合してください」

 王様もロキも目をまん丸にしています。

「王様は食事と湯浴びをしてください」

 ロキが僕の服をマズルの先で噛みました。

「タークも一緒にいてくれよ。獣人の交合なんて俺初めてで、なんか怖い」

 はい、分かりました。僕の塗り薬もお渡しします。僕はロキの獣頭を抱きしめてから寝台を飛び降りようとして、王様に抱っこされて靴を手に持たせられると、僕の宮に連れて行かれました。

「余を温泉に入れてくれ。さすがに疲れた」

 そうですね。失念していました。王様は夜明け前からずっと動きっぱなしで、しかもこの後夜にロキの発情期に付き合わなくてはなりません。

 三の宮ではクラリさんが連絡してくれたみたいで、ティンとフェンナさんが待っていてくれました。

「主様、ご無事だと信じていました」

 ティンが礼を取りますが、僕は王様の手から飛び降り、ティンの手を取り抱きしめました。

「ティン。あなたは本当に良い教え子です。自分で考えてよく行動をしてくれました。僕はあなたの師であることを誇りに思いますよ」

 ティンは半泣きで何度も頷きました。

「フェンナさんもありがとうございました」

 フェンナさんは軽く膝を曲げて礼を取り、

「フェンナとお呼び捨てください、主様。ティン共々聡明な主様にお使え出来て幸せに存じます」

 と返してくれました。やっぱり、フェンナさんは……いいえ、今はロキですね。

「タオルとお着替えを用意しました。僭越ながら国王様の衣類もアリス様からお預かりしております」

 ティンが鼻を啜りながら王様に礼を取ります。

「うむ。ターク、湯に入るぞ」

 王様と僕は温泉に浸かりました。ふーっとため息が出てしまうのは、もう、仕方ありませんね。三回目の僕は、日本人でしたから。そんな僕の様子を王様は笑いながら見ていました。

 王様は一旦王宮に戻り、僕はフェンナさん……フェンナの肉料理をたくさん食べました。セリアン国では野菜と果物ばかりでしたので身に染みました。

 それからティンの宿題を見て長文問題を作り、妃に与えられている銀貨を数枚と金貨を手にして寝室に入りました。

 すでに寝室の窓の下の僕専用のどこでもドアは光っていて、王様のお呼び出しです。

「錬成!」

 銀に少し金を混ぜたのは硬度を上げるためです。金属プレートをつけたチェーンが出来あがりました。僕はそれを手にして塗り薬も持ち、どこでもドアを開けました。

「わあっ!」

 王様が全裸で立っていました。

「すまぬ」

 よく見ると左脇腹に傷があります。王様はそこに薬を塗っていました。え、温泉でも分かりませんでした。隠していたのですね。あれだけの戦闘で傷一つないわけないです。僕は未熟です。

「魔法陣展開、神癒」

 僕は手早く空中魔法陣を展開し、小さな円陣を作り王様を足元から包み脇腹の傷に集まりました。金の光が傷を癒して消していきます。

「タークは本当に様々な魔法陣が使えるのだな」

 うっ……どうしましょう。ついやってしまいました。

「見事だ。身体が軽い」

 羽織着を着た王様は深く追求されず、僕は胸を撫で下ろします。

「王様、これにマナで王様の名前を入れてください」

 王様に差し出したのはドックタグです。本来は軍隊において兵士の個人識別用に使用される認識票のメタルプレートのスラングです。

「王様の名前で所有を縛るお守りのような物になります。獣人同士なら噛み傷が番いの証になりますが、ロキは半獣人で王様は巨人ですからこちらの方がよろしいかと。他の獣人が触れれば王様の名前が光り拒絶するはずです」

 これはソニン様への隷属陣とは違い、王様が所有している証になります。王様は人差し指先からマナを放出してプレートに触れて名前を書いていきます。光が全て載った瞬間僕は空中魔法陣を展開させました。

「錬成、刻印」

 王様の名前がプレートに刻まれます。王様にドックタグを渡します。すると王様は首筋に触れました。セフェムが噛んだ番いの証です。

「そなたの肌に傷が残ってしまった」

「ソニン様のような真っ白な肌ではないですし、大丈夫ですよ」

「そうではない」

 王様にぎゅうっと抱きしめられました。包み込まれて少し痛いです。

「王様?」

「いや……セフェムへの悋気りんきだ。ロキの元へ参ろう」
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