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2章

30 ガルド神の石礫

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 第三、第四小隊はさらに二十四名程沢へ落としました。一番最後にいる巨躯がこの進軍の隊長のようです。

「セフェム、遠見はまだ大丈夫ですか?」

「ああ」

 僕は王様に下ろしてもらい、座っている負傷獣人さんたちに話しました。

「では、セフェム、続けてください。はーい、負傷兵さんたち、聞いてください。皆さんは今からタイタンの王様大移動陣に入ってもらいます。上空から投石をしてもらいます」

 一人の獣人さんがおずおず声を上げます。

「上空からですと、我々が丸見えです」

「ええ。ですが、幻影魔法陣を僕が展開します。セフェム閣下のみ空中に浮かぶ形となります。言うなればガルド神の怒りの石礫(せきれき)です。戦力を削いだところでセフェム閣下が将軍と一騎討ちなんかはどうですか?」

 セフェムが物凄く喜んで尻尾をぶんぶん振っています。成人をとっくに越えたはずですけど、今回の戦い方でストレスを溜めていたのでしょう。でもね、後方から魔法陣戦線が王族の戦い方ですよ?

「王様、お願い出来ますか?」

「余はそなたを前線に出したくないのだが」

「お願いします、王様」

 僕も負傷獣人さん達と一緒になりました。セフェムが遠見をやめます。目視でギガス兵が見えてきました。

「伝令、背後からの攻撃をやめて城へ戻せ。城の守りを堅めろ。俺が出陣する」

「はっ!」

 セフェムを中心に獣人さんを配置し、僕は一番後ろに立っています。王様は渋々頷いてマナを指先から出して魔法陣を描きます。その光の魔法陣を僕らに移動させ光に包まれました。僕も空中魔法陣を展開させました。

「魔法陣展開、大移動」

「魔法陣展開、幻影」

 王様と僕の声が重なりました。王様の見えない手で包まれているような安心感の中で、傍目から見えない僕らはギガス兵さんの頭の上に浮かんでいます。セフェムが空中で叫びました。

「これ以上の進軍をやめろ、ギガス兵よ。俺はセリアン国第三皇子セフェム。ギガスはギガスに!セリアンはセリアンに。ガルド神の怒りを受けたくなければ、ギガスに帰るがいい!」

 ギガス兵さんはセフェムに石斧を投げつけました。もちろん当たりはしませんが、ギガス兵さんはそのまま歩いて行きます。

「投石用意……」

 セフェムの右手が挙がれば投石開始です。

「ギガスよ!ガルド神の怒りの石礫を受けるがいい!」

 セフェムの手が挙がりました。なかなかの演技派です。獣人さんが一斉に投石をします。ひゅっ、ひゅうっ……とギガス兵さんの頭上から火山礫の如く石が落ちます。まだ、インパクトが足りないです。僕は空中魔法陣を展開させ、小さな声で呟きます。

「身体強化」

 僕は投石紐を手にしてひゅひゅっと振りました。石はまず一個。ひゅぅっ……っと音がして宙を風を切り飛ぶ石に次なる石を投石して石に石をぶち当てます。

 キ……ンッと高い音が耳をつんざき、ギガス兵さんの目に当たり頭蓋骨を突き抜けました。時間差で脳漿が散ります。ごめんなさいです。僕は続いて、二打、三打、四打と打ち込みます。その間も石礫は降り注ぎ、さすがのギガス兵さんは後退し始めました。

 セフェムが手を下ろします。僕らは投石をやめました。僅か数分でギガス兵さんはかなり減りました。

「俺はガルド神に寵愛されている!侵攻をやめろ!」

 するとギガス兵さんの中で輿に乗っていた男の人が低い声で叫びました。

「我はギガス軍大将ゴリアテである。第三皇子と一騎討ちをしたい」

 ゴリアテ……こんなところにも、僕のいた世界がある。すごく不思議です。見も知らない異世界なのに。ああ、僕らはどこかで繋がっているのですね。僕は強く思いました。

「セフェム、身体強化を。あと、これも」

 僕は投石紐といくつかの石をセフェムに渡しました。セフェムは頷いて手にすると、

「ガルド神の祝福をくれ」

と言われました。僕は迷ってからセフェムに屈むように告げのマズルの左側に唇をつけました。

「ガルド神の祝福を」

「ガルド神と俺の番いのタクに勝利を捧げる。お前たちは勝利を信じて先に戻れ」

 ざわりと声が漏れます。僕は確かに番いなんですけど……。ここで公開しなくてもいいではありませんか。恥ずかしいです。

 セフェムがニヤリと笑い魔法陣から飛び降ります。僕は魔法陣を三回叩きました。魔法陣がゆっくりと城まで戻り広場に降りました。王様が軽い嘆息を着きましたが、僕は王様に走り寄ります。

「王様、ラオウでセフェムのところに連れて行って下さい」

「ラ、ラオウ?余の黒馬のことか?」

「はい!名前はラオウです!早く!」

 僕と王様を乗せたラオウは、セフェムの戦っている開けた森にすぐに到着しました。幻影の魔法陣を展開して、僕と王様は様子を見ていました。王様は剣に手を掛けています。

 セフェムはゴリアテ将軍さんと剣を交えていて、ゴリアテ将軍さんは王様より少し小さいくらいですが、素早い太刀捌きでセフェムを圧倒していました。

「うおおおっ!」

「があああっ!」

 ギィーーンッと鍔競りの音がしますが、セフェムが吹っ飛ばされました。

「死ねーー!小僧っ!」

 王様も僕も動こうとした瞬間、セフェムが投石紐を振りました。石がゴリアテ将軍さんの眉間に当たり、ゴリアテ将軍さんは真後ろに倒れ、地面にあった石に後頭部を打ちつけ昏倒しました。セフェムはゴリアテ将軍さんの首を素早く切り落とし叫びます。

「ゴリアテ将軍の首を落とした!俺は和平を要求する!本国に首から下を持ち帰り、協議をするがいい!」

 ギガス兵さんの侵攻は止まりました。将軍さんを失った軍隊は十人足らずになり、セフェムを取り囲みます。

「敗北など認めん。ここでお前を殺せばいい」

 セフェムはゴリアテ将軍さんの首を置き、剣を構えました。

「ターク、余も出る。黒馬……いや、ラオウ、タークを守れ」

 僕は王様の幻影を解除しました。王様の巨躯が突然現れたことに驚くセフェムとギガス軍に、王様は剣を抜きました。

「顔も知らぬ兄だが、ギガス軍は余の兄タイタン国前王を半年前に殺した。現在休戦状態ではあるが、今日をもって停戦、和平を要求する」

「タイタン国王……ふはは、わしはギガス軍副将軍ラフミ。タイタン王を殺したのはわしだ」

 太めで丸いラフミ副将軍さんが笑いました。どう見ても俊敏に動くタイプには見えません。ラフミ副将軍さんが指先を小さく動かします。あ、ラフミ副将軍さんは王族です。

「王様!セフェム!気をつけて下さいっ!副将軍さんは王族です」

 ラフミ副将軍さんが魔法陣を描き終わる瞬間、僕も指先を動かし右手を横に滑らせます。ラフミ副将軍は魔法陣を自分の喉元に押し込みました。

「魔法陣展開、瞬移」

 ラフミ副将軍さんの身体が王様とセフェムの前から突然消えました。そしてギガス兵さんが王様とセフェムに石斧で襲いかかります。王様がギガス兵さんを斬り捨て、セフェムも石斧をかわし剣を突き入れます。一瞬で三人くらいになった時、ラフミ副将軍さんがセフェムの背後に現れました。瞬間移動です。

「セフェムッ!」

 セフェムが王様の声で振り返り、ラフミ副将軍さんの剣を鍔で止めました。しかし力負けをして地面に膝を着きます。

 僕は幻影を解除して思わず走り出し、地に放り出されていた石と投石紐を掬い上げて振り回しました。身体強化はまだ続いています。

「セフェムから離れてくださいっ!」

 投石紐を離しました。キーーッンと高い音がして、石はラフミ副将軍さんの剣を折り飛ばし、王様の背後からやってきていたギガス兵さんのお腹を抜けて木を薙ぎ倒しました。

「こ……小人……」

 ラフミ副将軍さんが僕を見下ろします。

「まさか……ガルド神の神託の小人……」

 ギガス国にも小人の神託があるのですか。

「我々はガルド神の神託どおり、小人の国には……侵攻をしていない。なのに、なぜ、小人がここにいる!」

 うーん、どうしましょう。また、ご信託ですか。

「小人がタイタン王第三妃だからだ」

 王様が言いました。

「小人は俺の番いだからな」

 セフェムが言いました。

「だから、そろそろ降伏してください。次は頭を狙いますよ」

 僕は後ろから僕を守りに来たラオウが、鼻息荒く蹄で地を掘りながら威嚇する中で、投石紐を手に言います。

「こ……降伏する。和平に応じるよう王に進言しよう。小人がそちらにいる以上、我々に勝ち目はない」

 セフェムが両手を上げて遠吠えをしました。呼応するように遠吠えが聞こえます。狼だけではない鳴き声です。僕は身体強化を解きました。

「すぐに使者を送る」

 ラフミ副将軍さんが怪我人のギガス兵さんを連れて歩いていきます。治癒を掛けようとしましたが、王様に止められまして、ラオウに乗せられました。

「そなたは優しい。だが、今はその優しさをギガス兵に与えてはならない」

 そうでしたね。多分、侮辱と感じられてしまいます。僕は二回目の僕の記憶でもそうだったと思い出します。でも、あまいですねえ。二回目の僕なら、多分絶対、殲滅していましたよ。

「タク、ガリィ。助かった」

 セフェムが王様に握手を申し出ました。

「俺が言える立場ではないが、セリアン国は引き続き友好国としてタイタン国の良き友でありたい」

 王様がセフェムの手を取ります。

「余の三妃に掛けて、良き友であろう。セリアンにてガルド国との和平を」

 そう告げました。
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