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2章

22 公共事業をします

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「今夜は寝台を使ってください。私は床でも椅子でも構わないので」

「そ、それは身体に悪いだろう」

「殿下を寝台以外で寝させることの方が問題です」


 ミアは最もらしく言い募り、風邪を引くと困るので掛けるものは借りたいですと告げる。
 そんなミアを前にして、皇子は青かった顔を一変させ赤くなりながら宣言した。


「い、一緒に寝台を使えばいいじゃないか」


 ミアは驚きのあまり目を瞬かせ、本気なのか問うように首を傾げた。


「……私は構いませんが、殿下は大丈夫なのですか?」


 私は今日会ったばかりの人ですよ、と当たり前のことをミアが丁寧に告げると、頬を赤らめながらも皇子は頷いた。


「だって、何もしないと約束してくれただろう?」


 ミアを見る皇子の目は純粋そのものだった。この人はこんなに無垢なのによくぞ今まで頭から喰われてしまわなかったものだと、ミアは感心していた。
 一度言い出した手前引けないのか、皇子が積極的に寝台に上がるように勧めてくるのでミアは皇子に気を遣いながら控えめに寝台に腰を下ろした。


「それで寝れるんですか?」


 ミアが寝台に上がった途端、皇子は出来るだけ距離を取ろうとしてか寝台の端に身を寄せてしまう。
 それだと眠れないのではないかと思ったミアが声を掛けると、皇子はようやくそろそろと足を伸ばし始めたが、依然として体も顔も強張っている。


「……すぐには、眠れないかもしれない」

「そうですか。私も特に疲れていないので、まだ眠くないです」


 遠くから今日来たばかりなのに、と驚いて目を瞬かせる皇子にミアは曖昧に微笑んだ。


「あ、そうだ。何か本とかないか?眠くなるまで、読みたいんだが」

「すみません。本は勉学の為なら読むのですが、趣味では読まないので、ここには持ち込んでいません」


 あまり後宮に長居するつもりはないので、という言葉は流石に無礼過ぎるだろうと飲み込んだ。


「殿下は本がお好きなのですか?」

「……本は、読むと自由になれるから、好きだ」


 遠くを見るように目を細めて寝台に寝転ぶ皇子から距離を保ったまま、ミアはそっと寝台の端に寝転んだ。


「では、眠くなるまで殿下の好きな本のお話を話してくれたら嬉しいです」


 それなら暇潰しになるだろうとミアが提案すると、皇子は安心したような笑顔で頷いた。


「ああ、いいぞ」


 何の話がいいか、と視線を巡らせる皇子は同じ年回りだというのにやはり庇護欲を煽るほど幼く見えるのだ。
 ミアは小さく笑みを零しながら皇子の話に耳を傾けた。
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